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未来の行方

「な、なんですって!?」


俺は鵜飼貞夫から空手を習った。


その事実を聞いた春崎須美は、口をあんぐりと開けたまま絶句してしまった。


「自分からこの話題を振っておいて、そのリアクションはおかしくないですか?」


「だ、だって……鵜飼貞夫から直接空手を習った?」


「だからそうだと言ったでしょ?」


「そ、そんなことはあり得ない。彼は第17回の全日本大会を最後に空手を一切やめてしまったはず。後進の育成だって頑なに拒んでいたと聞いていたけど」


春崎は興奮のあまりに大きな声で、またもやマニアックな話題を早口でまくし立てた。


「ほんとによく知ってますね?概ね当たってますよ。おそらく俺以外に鵜飼貞夫から空手を習った人はいないでしょうね」


「ど、どういうことよ?」


「別に難しい話じゃないよ。俺が鵜飼貞夫の孫と言うだけの話」


「え!?ま、孫?え!?じゃあ君の名は鵜飼?」


「いや、俺は神沼翔。そして母の旧姓が鵜飼。つまり鵜飼貞夫は母方の祖父ってことだね」


「そ、そうなんだ」


ようやく春崎は合点がいったようだった。それでも興奮冷めやらぬといった表情は変わらない。


いきなりセカンドバッグからスマホを取り出した。


「ライン交換しよ?」


「はあ?」


おいおい、いい大人が高校生つかまえていきなり個人情報要求していいのか?


「あ?もしかして私のこと警戒してる?」


「ええ、してます」


「ひ、酷いなあ。綺麗なお姉さんとライン交換するなら少しはメリットあるでしょ?」


「もう、その言い草が少年をたぶらかすトークでしょ?」


「また、そんないじめないでよ……どうなのよ?いいでしょ?」


「だからなんで?」


「決まってるでしょ?君のこともっと知りたいからよ」


俺がこの人を格闘技マニアと認知していなかったらこのセリフ、やばいよね。


まあ、この人の場合は、純粋に武道、格闘技のマニアであることは間違いないだろうから騙されはしないけどさ。


「はい、俺のIDこれ」


「あ、ありがとう」


春崎は興奮気味にラインの設定を始めてしまった。


そして早速俺のスマホに通知音が響いて、ついに春崎須美の名前が登録されてしまった。


「ふう、よかった。今日は収穫大だな」


「なんだよ、その収穫って?」


「だって君は伝説の空手家『鵜飼貞夫』の伝承者だよ?こんなに興奮したのは久々」


「伝承者って大袈裟だなぁ。俺はそんな大層な人間じゃないぞ?」


「フフ、そんなはずないでしょう?現に有栖天牙ですら反応出来なかったウィリス美惟奈の一撃を捌いた。違う?」


「あれは俺が十分あの技を予測していたから有栖とは条件が違うでしょ?」


「フフフ……はたしてそうかしら」


そう言ってまた春崎は魅惑的な視線を俺に投げてきたが、今度は上手くかわすことが出来た。


「で、今日のことは記事にするの?つまり未惟奈の……」


「しないわよ。月刊スポーツ空手は真面目な格闘技雑誌で未惟奈を応援するというのがコンセプトだから。だからこんな茶番劇なんか絶対記事にしない」


「へえ。そうなんだ。でも対戦した俺の前で茶番とか言うなよ?俺は俺で結構マジだったんだぜ?」


「ああ、ごめん、ごめん……そうだよね。もしかしたら君が今頃救急搬送ってこともあったかもしれないもんね」


「洒落にならない冗談やめてくれ」


「フフフ……でも」


春崎は急に真面目な顔になって声のトーンを落として続けた。


「このご時世、今日の”事件”はスマホで動画撮影した生徒が動画サイトにアップするだろうから、もう今頃世界中に拡散しているかもしれないわよ」


そうだ、俺もそれを思わないではなかった。


ウィリス未惟奈程の有名人なら悪意を持って取り上げるメディアだって出てくるだろう。


「だからあなたも少し気をつけた方がいいかもね」


「え?どういうこと?」


「それはそうでしょ?未惟奈を退けた高校生となれば冗談抜きで世界中から注目されるわよ?」


「お、脅かさないでくださいよ?」


「まあ、逆に未惟奈クラスになるとマスコミに圧力かけることもある程度できるから上手く今日のことは握りつぶす可能性もあるけどね」


「え?そ、そうなんだ。やっぱ凄いんだなあいつ。さっきは普通の女子高生って感じだったけど」


「え?もしかして未惟奈と話したの?」


「それは詫びに行くでしょ?普通」


「あらら、それは良く出来た少年だこと」


「ば、バカにすんなよ」


仕方がないとはいえ、ここまで露骨に子供扱いされると腹立たしい。人間の出来ていない俺は露骨にふて腐れてしまった。


「で、どうだった?未惟奈。綺麗だったでしょ?」


「は?」


「あれ?もしかして君、超面食いとか?」


「なんでそうなるんだよ?」


「そこで未惟奈の顔を思い出して赤くなるのを期待したんだけどなあ~」


あ~あ、もう付き合ってられないな。


ずいぶん長話をし過ぎた。


そろそろ俺も体育館に戻らないと。


「じゃあ、俺そんなに暇じゃないんでもういいですか?」


「ちぇ、つれないな……まあいいわ。ラインも交換したし。また連絡する」


そう言われて俺はあからさまに顔を歪めて”迷惑”そうにしてしまった。


それでもこの図々しい格闘マニアは俺の表情を気にすることもなく満面の笑顔で嵐のように去っていった。


はあ、なんか疲れたな。


でも春崎須美が言うように、この事件をきっかけにある程度世間からの注目を浴びてしまうリスクは想定しておいた方がいいかもな。


まあ、それでも俺はこんな普通の男子な訳だから例え騒ぎになっても所詮一過性のものだろう。


そんなに気にすることはない。


第一、未惟奈はもう空手を引退する訳だし。世間の関心はこれから未惟奈が始めるスポーツ種目に注目が集まるはずだ。


実際に未惟奈と関わることももうあまりないだろう。


だから俺は今まで通りのスタンスで空手を極めていけばそれでいい。


この時はそう思っていたのだが……


事態は思わぬ方向へ動いていくことになる。

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