神獣の執刀医 Case1 眼科医クローディア・リドリー「キュクロープスに対する水晶体再建術」1
コバルトブルーに輝く瞳に私の姿がうっすらと映る。
そこから横に視線をずらす。
そうすると瞳の中の私もつられて同じ方向を向く。
一歩一歩、今からやるべきことを考えながら眼球の横に回り込む。
肩に担いだ金属製の「槍」が歩調に合わせてゆっくりと揺れる。
回り込むと同時、わずかについた弾みを利用して、その槍を中段に構える。
「執刀クローディア・リドリー。K282 水晶体再建術を開始します。」
ルーチンの終了を告げる言葉をそっとつぶやき、同時に「槍」を繰り出した。
作画 ショウリ@Syouri1023
「槍」の正体は「極超大型クレセントナイフ」。
1000tを越える巨大生物の眼球手術のために開発された特殊なメスだ。
青い布に覆われた眼球。距離をおいて見れば、それはよくある眼の手術風景。
でも、近づけばその認識は変わる。
術者(私)に比べて眼球や器具が巨大すぎる。
眼球の直径は私の3倍。器械類もそれに比例して大きい。
気分は不思議の国のアリス。幼いころ暗唱できるほどに読みこんだその世界に私は今いる。
これほどの大きさともなれば屋内での手術は不可能。
手術室は屋外。暗室代わりに手術時間は日没後。
巨大生物の前方には闇夜に落ちた砂浜と森林、そのさらに向こうには丘陵地帯が広がっている。
「角膜切開終了」
一つ一つの手技を丁寧に、慎重に、大切にこなしていく。
角膜に1mほどの切開線を入れ、役目を終えた「クレセントナイフ」を背後の機械台に置く。
……と同時に眼球から光が放たれる。
いや、光なんて生易しいものじゃなかった。
それは接触したものを破壊し蒸発させるのに十分な熱量を帯びていた。
丁度器具の交換のために背を向けていた矢先、その光の奔流は私の真後ろで熱と破壊をまき散らしながら通過していった。
空気が一瞬で熱せられ、振り向かずとも背後でとんでもないことが起こったことが分かる。
不幸にも直撃を受けた木々は燃え盛るのではなく蒸発した。
森林を分割するだけに飽き足らず直進した光は背後の丘に着弾し、その中腹にクレーターを形成し、ようやく止まった。
聖書に出てくる黙示録を可視化すればこのようになるかもしれない。
「お前はアホかぁ!? 今手術中でしょうが!! 私に恨みがあんのかこのスカポンタン!!」
「XXXXXXXXXX」
私の悲鳴にも近い絶叫に反応してくぐもった音が周囲に響く。
小山ほどはあろうかという単眼の生物の咆哮だ。
その外見を一言で表すなら空を飛ぶ巨大なクジラ。
左右の瞳がない代わりに、家ほどのサイズの眼球が額に配置されている。
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【患者基礎情報】
全長253m 推定体重2460000kg
極超大型幻獣 個体名「キュクロープス」
【既往】 白内障 【内服薬】 特記なし
【患者特有の問題点】
単眼
(この個体は単眼で、その眼球は通常よりも巨大である)
レーザー発振器官付属眼球
(この個体の眼球には100GW級超高出力大陸間弾道レーザーが付随している)
【術式名】
水晶体再建術
(水晶体の混濁により視力低下をきたしているため、それを人工物に置換する)
【予定手術時間】 2時間
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人間とは比較にならないほどの巨大生物。
執刀は私、クローディア・リドリー。
深く深くため息をつき、ゾーンに入るべく大きく息を吸う。
「次、CCC(前嚢切開)。カプシュロレクシス鑷子用意。」
少々命を落としかけたが、手術は未だ始まったばかり。
気を取り直して次の手技(CCC(前嚢切開))を開始した。
1枚目の画像は友人である、ショウリ@Syouri1023様による物です。
初めまして、初投稿になります。気になる点が多々あると思いますがお許しください。
この作品はモンスターをハントするものではなく、割と現実的な手段でモンスターをヒールするものです。
尚、この作品で出てきたものが100%現実の医療と同じではありません。
専門家の方々に土下座する用意は整っております。
さて、初回はまず白内障手術です。
眼科領域では最も基本的な手術の一つであり、最も多く施行されている手術です。
バチスタ手術のような派手さはありませんが、実は病院ではその何十倍もの小規模な手術が日夜行われています。
そういった内情を面白おかしく知るにはどうすればいいだろう?
手術に派手さが足りないなら患者を派手にすればいいじゃないってことで、
当院の患者は100mサイズになりました些細なことです。気にしないように。