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Val†Hell  作者: 章-aquila-
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4 ミズガルズの涙

4 ミズガルズの涙



 ――黒髪の少女が駆け寄ってきた。


「なんでくるんだ! 向こういってろよ」

 俺は少女に怒鳴った。


「なんで降参するんだ? さっきみたいに、やっちゃえばいいだろが!」


「いや……正直、俺、喧嘩は強くない。それに、あんな大男なんか、まともにやったら無理だよ……」


「それより、俺があいつの気を引くから、あの子の所まで行って、二人で逃げてくれないか?」

 少女だけに聞こえるような小声で言った。


「君を置いて、オレだけで逃げるのか? そんなの、いやだね!」


「頼むよ……お願いだ、お前にしか頼めない」


 その言葉に少女はためらいつつも顔を縦にふった。

「……わかった、特別に君に従ってやるよ」


「でも、君はどうなるんだ?」


「一回、突き飛ばしちゃったし……無事では済まないだろうな」


「ごめん……オレのせいで」


「いいよ……こいつのことは、俺も気に食わなかったし」

「それに銀髪の子が、こいつに絡まれてた時……お前が、わざとぶつかった気持ちがわかったしな」


「違う! オ、オレは……暇でやったんだよ!」

 少女が顔を真っ赤にして抗議してきた。


「はいはい、わかったよ……お前は素直じゃないな」

 少女は「うるさい」と小声で言いうつむいた。


「おいおい、なにコソコソ話してんの?」

 大男がこちらへ歩いてくる。


 (いよいよマズイな)

「時間切れみたいだ……なんとか隙を作るから、あの子を頼む」


「ああ、任せておけ!」

 少女が力強くうなづいた。


「すいません〜俺は抵抗しないので……この子達だけ逃がしてもらえないですか?」


「はい、そうですかと、無事に済むとおもってんのか? それって、考え甘くね?」

 不機嫌そうに大男が答えた。


 近付く大男に向かって睨みつけた。

「この子達に何かしたら……許さない」


 それを聞いた大男は嫌味ったらしく笑う。

「は? なにいっちゃってんの? どう許さないわけ? 喧嘩売ってきたのは、お前らだろ? 謝っただけで済まないっしょ」

「人にぶつかっておいて、謝りもせず逃げてさ〜まずは、お前じゃなくソイツが謝れよ!」

 大男が黒髪の少女を指差した。

「さあ、お前が頭下げろよ!」

 大男が黒髪の少女へと手をのばした。


「さわるな!」

 俺は黒髪の少女の前に出た。

「ちがう! この子はお前が女に絡んでたからやったんだよ! 助けるためにやったんだよ!」


 ヘラヘラと大男が笑う。

「ああ、そう〜〜で? 声かけちゃ何か悪いわけ?」

「男なら誰でもするでしょ? ほらお前だって二人も女を連れてんじゃない〜まあ〜〜ガキだけどな!」

 大男が下品に笑った。そしてさらに続けた――

「あ、もしかして……その黒髪の子、自分に声かけてくれないから、怒っちゃったのかな? ごめんよ〜言ってくれれば、かまってあげたのに〜ついでにアイスくらいお兄ちゃんが買ってあげたのにな〜」

「でもガキは無理だから〜……でもまあ、そんなにいうなら遊んでやるよ〜こっちにおいで〜〜」

 再び俺の背後にいる、黒髪の少女に手をのばしてきた。


 ――俺はその手を左手で掴んだ。


「おいおい、抵抗しないって言ったのよ? あれは嘘だったのかよ!」

 手を掴まれた大男が怒鳴ってきた。


「ああ、言ったよ。だが、俺も……」

 大男の腕を左手で抑えて、右手で拳を作り相手の腹へと打ち付けた。


「この子たちに何かしたら、許さないと言った!」


 大男は腹を抱えながら、崩れ落ちた。それを確認して、背後の黒髪の少女の方を向いた。


「大丈夫か? さあ、今のうちに走って逃げてくれ!」


「わ、わかった! ……あ、おい! 後ろ!後ろ!」


 後ろに振り返ろうと立つと、誰かの腕で首を絞められた。


「くそっなめやがって! でも、捕まえたぞ!」

 大男の声が耳元で聞こえた。

「俺さ柔道やってっから、すぐ君をおとせるよ〜〜〜」

 腕が首に完全に入り、絞める強さを強めていった。首の骨がミシミシという低い音を立てた――


 しかし、この状況は最悪であっても、絶望的ではない。こうやって男に首を絞められてる限り

少女たちの安全な逃走の条件が整ったことになる。


 ――大きく息を吸い込んだ。

「いまだ逃げろ!!」


 ――黒髪の少女が走りだした。

 黒髪の少女は、大男の横を素早く抜け銀髪の少女の手をとると、遊園地の奥へ走って行った。

「おい! ガキが逃げんな! まて! おい!」首を絞めている大男が叫ぶ。

「まあ……いいや、お前だけでも、絞め殺せれば……ふふ……ははは! こりゃ楽しいね〜!」


 (笑ってる……人の首絞めながら――ほんとクズだな……痛い、痛いけどよかった)

 もう十分、時間は稼げたはずだ。

 (なんで俺……こんなにがんばってんだろ)

 別にあの少女たちは、恩も義理も何もない赤の他人だ。

 (無視したり……相手しなかったり……逃げたりできたはずなのに)

 でも、放っておけなかった。

 (まあ、こんな日があってもいい……かな)

 意識が遠のいていてきた。

 (合流は無理そうだな……無事……逃げ……て)


「もう少しで終わり……だよ!」大男の腕にさらに力がこもった。


「待ちなさい」

 ――力強い声が耳に聞こえた。

 そして大男は、少し力を弱めている。

 (……だれ……だ?)


 声がした方向を見ると、銀髪の少女が立っていた。

 ――少女は紅く光り輝いていた。

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