3 ミズガルズの探し物
3 ミズガルズの探し物
「なんだ〜なんで追って来ない!」
黒髪の少女がイライラしながら足踏みをしている。
――それもそのはず、逃げる途中で警備員が巡回していたので、あとから来る大男のことを、適当なことを言ってお願いしといた。あの大男は、かなりガラが悪いので、間違いなく足止めできたとおもう。
「そ、そうだね〜いや〜〜残念だな〜〜」
「なんか、君……したろ?」
黒髪の少女が鋭い目で見てきた。
(勘が鋭いなコイツ……)
「し、してないです」
「本当か? してたら、君を代わりにやるからね……いいよな?」
「は、はい」
(どうかどうかバレませんように……)
「ところでさ、なんでわざとぶつかったりしたの?」
その言葉に少女が顔をしかめた。
「暇だったからって言ったろ?」
「暇だからって、そんな……そうやって人に迷惑をかけちゃいけないよ」
「そんなの知るか! 君が! そう、君が遅いからムカついてやったんだよ!」
「俺のせいかよ……あのな、悪いことしたんだぞ! ちゃんと謝れよ」
「し、知るかよ! オレは絶対謝らないからな! バァカ!」
黒髪の少女が走って行ってしまった。
「おい、待て! 話は終わって……ん?」
銀髪の少女が、服の袖を引っ張ってきた。
そして、左右に首を振った。
「彼女は悪くないわ」
「どうしてだ? 他人にぶつかって、謝らなかったんだぞ?」
「あの男が……女の子にわざとぶつかって、その子に絡んでた」
「女の子は、とても困ってた、嫌がってた」
「それを彼女が助けたの、だから悪くない……悪くないの」
「そうだったのか」
(ちゃんと理由を聞くべきだったな……)
「じゃあ、ちょっと待っててくれるかい? 俺、あの子追いかけるから」
「うん、わかった」
少女は微笑んでうなづいた。
俺は黒髪の少女を追って走り出した――
――少し奥へ行くと、黒髪の少女が古いメリーゴーランドの前に立っていた。
俺は少女に近づき後ろで立った。
「……ごめんな」
「なんだ……来たのか。で、何のことだ? 悪いことしたら、そうやって謝るんだろ? 君は、悪いことを何もしてないじゃないか! したのはオレだろ?」
少女がこちらを向かずに言った。
「聞いたよ、あの子から」
「うぅ……あの、おしゃべり銀髪め! まあ、暇でやったのには、変わりないけどな!」
「そうか?」
「そうだよ! でも……あのな!」
もじもじとしながら少女がこちらを向いた。
少女は小さく頭を下げた。
「ごめんな……さい」
「なんで謝るんだ?」
「君には、あいつに頭下げたりとか……迷惑かけて……悪いなっておもった」
「でも、でも! 君がいれば、オレが暇することも、あんなことする必要もなかったんだし、やっぱり悪くない!」
「素直じゃないな」
「なんだと?!」
少女が殴ってきた。だが力は強くなかった。
「しかし、無口なクセにおしゃべりって……アイツはよくわからんないな」
「そうだね」
本当によくわからない、不思議な子だ。
「まあ、いいヤツだ! 好きだぞオレは」
少女はそう言って大きく笑った。
「俺もかな」
「君も……なのか?」
少女から笑顔が消えて、少し悲しそうな表情になる。
「冗談だ」
そう笑った俺を黒髪の少女が殴ってきた。今度はすごく痛かった。
――黒髪の少女は、メリーゴーランドをみつめていた。
「なあ……この馬たちは、同じ場所をずっと回っていて楽しいのか?」
「考えたことなかったな。キミはどうおもう?」
「オレだったら……ごめんだな。同じ場所で同じことしているのは、すごく退屈だ。もう飽きた」
振りかえった少女は、曇った表情を浮かべている。
「だから、色々な場所に行きたい……こんな面白い場所に、いっぱい連れていってくれるヤツをずっと探してた」
少女は真っ直ぐと俺の顔をみつめてきた。
「その人は見つかりそう?」
「ああ、みつかっ……いや、見つかりそうだ!」
「そうか、よかったね」
俺がそう言って微笑むと、少女は切なそうに「うん」と小さくうなづいた。
「じゃあ、戻ろうか。銀髪の子を置いてきたままだ」
「ああ、そうか……じゃあ、いくぞ! きっとアイツも寂しがってるぞ!」
「はいはい」
走っていく黒髪の少女を続いて俺も走り出した。
――元の場所に戻ると、銀髪の少女とさっきの大男がいた。
「ちょっとさ〜なんかしゃべれよ〜〜なあ〜〜……ったく、反応がまったくないから、つまんねーこのガキ」
大男が銀髪の少女に執拗に絡んでいた。思いのほか早く警備員から解放されたようだ。
(まずいな)最悪の状況だ。
銀髪の少女を助けないと……
それには――銀髪の少女から気をそらせないといけない。
「すいません! さっきは、大丈夫でしたか?」
「お、さっきの野郎か!」大男が俺に気づいた。
――俺は両手をあげた。
「もう俺は、抵抗しませんので……好きにしてください」
大男が警戒しながら、ゆっくりと近づいてきた。