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悪役令嬢はアクマでテンシだけどタイヨウにもなれる  作者: みやっこ
私が悪事を働くためには

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異世界歴九年。新しい暮らしは順調です。

異世界へ来て九年後です。ゲームクリアに三年かかるので、クリア後からは六年です。

 目を開けると、雲一つない青空が広がっていた。

 干し草の上で眠ってしまっていたようだ。


 仕事中だったことを思い出して勢いよく起き上がった瞬間、ピリっと小さく胸の辺りが痛んだ。

 

 もうとっくの昔に完治したはずなのに。


 服の上から胸元を撫でてみる。一部固くザラっとしているが、痛みはない。

 なにせこの火傷はもう六年も前のものだ。


 聖都セリエンディを出て六年、異世界へ来てから数えると九年もの月日が流れた。

 今のリリファリアの年齢は、私が死んだときと同じ二十五歳。

 

 頭の中で相変わらず呑気に暮らしているハムスターと。

 手のひらサイズになってしまったモフモフマリモはまだ一緒に居る。


 まだ……かろうじて。


 はじめのうちは気付かなかったが、モフモフマリモは、過去へ戻る力を使うたび少しづつ小さくなって。ヘイツやウラガを助けるため、イファンの恋愛イベントを進めるためにと、何度も何度も戻っていたら、文鳥ぐらいになってしまった。


 これじゃもう過去へは戻れない。


 モフモフマリモと合体して超人になるのはサイズかかわらず可能なようだが。

 今の平和な暮らしの中で使う機会はない。


 ここ数年間モフモフマリモはマスコットキャラクター扱い……って言ったら怒りそうだな。


 ブモモン~~


「わっ!」


 首筋にふわふわした何かがすり寄って来た。

 くすぐったさに首をすくめ、振り返る。


「ユニっごめんブラッシングすぐやるから!」


 ユニコーンのようなそうでないような。

 毛足の長い馬のぬいぐるみなフォルムをもつ、額ではなく項に角が一本生えている若草色の獣が真っ黒な瞳で私を見下ろしている。


 上司には名前を付けるなと言われているが。

 お前とかおいとか呼ぶのが嫌で、ユニコーンからとってユニと呼んでいたら、すっかり定着してしまった。


 ブモッフ~~


「ユニっジャンプしないでって」

 

 図体が大きいのでユニがジャンプするたび、そこらに積んである藁が崩れていく。

 追いかけたら喜んで更に跳ねまわるだろうし。今まで子供と接する機会がなかったので対処の仕方がわからない。


 



『ユニは、悪意を持っていない妖魔獣だ』


 負けじと跳ねまわるハムスター。


『ユニの母が、ユニを妊娠した状態で妖魔獣になってしまい、ユニの体も獣となりはしたが、悪意はなく、無邪気な妖魔獣となってしまった。


 初代妖精王兼妖魔王は、こういう妖魔獣たちを憂い、秘密裡にこの施設を作った。

 稀なことではあるが、妖魔獣は、燃やす以外に、膨らんだ想いを遂げることで浄化されることもある。それが悪意ならば、遂げさせるわけにはいかないが、そうでないとなれば、叶えてやることも出来る。


 この施設は、代々妖精王となったものが密かに受け継ぎ運営している秘密組織……秘密基地……秘密の牧場……。


 秘密……の』




 もういいから。秘密いいから。




 ハムスターが素直にうなずいた。


『慈善事業ではあるものの。

 

 人の気によって魔に堕ちた妖魔は、その気を発した張本人や、近しい人間に憑くことが多い。妖魔に憑かれた人や妖魔獣と心を通わせてはならないと教えられてきたこの世界の人間からしたら、悪意の有無など些細なことだ。


 ここで働きたがる人間はおらず、職員はみな訳アリばかりで、妖魔獣たちへの接し方も事務的だ』





 事務的ね。

 ここの職員は、私に対しても事務的だ。

 

 はじめはそうでもなかったけれども、胸の烙印を見られてしまって以降は、殆ど妖魔獣と同じ扱いで距離を置かれている。





 ハムスターがまた頷いた。


『リリファリアの胸に焼き付いた烙印は、妖魔に憑かれた者に、二度と妖精が近づかぬよう、妖精の加護なきようにと、妖魔から解放された稀人に焼き付ける罪の証だ。


 一見ただの火傷でしかないコレがあると、妖精の治癒を受けることが出来なくなる。


 医者の力量と己の自然治癒力を信じるのみだ。

 

 あともう一つ、この世界にある輪廻転生システムに乗るのにも妖精の加護が必要だ。妖精の炎に焼かれた者と烙印を押された者は、システムから外れてしまい、もう二度と生まれ変わることが出来ない。

 だからこそ、初代妖魔王兼妖精王……妖精王兼妖魔王は、無邪気な妖魔獣を保護したのだろう』





 うん。それもう何度か聞いたけどね。最近ハムスター同じこと何回も説明するよね。ボケたのかな?





『検索かければ出てくる。それがお仕事なので。暇なので。出番が少ないので』


 ハムスターは、上品にお辞儀して、消えていった。





 出番……そりゃ九年も居ればなくなってくるわな。


「っあ」

 

 腰辺りまで伸びた銀色の髪を、ユニがハムハムと噛んでいる。


「ちょっユニやめて~~」


 髪を奪い返したら、ユニが嬉しそうに私の後ろに回り込んだ。再び髪を噛もうとうするので、ぐるぐる回っていると。

 だんだん目が回って来た。


 景色がぐるぐる。これはもう走馬灯じゃない。


 楽しくて穏やかな毎日が、私の周りを回っているのだ。


 朝早く起きて、ユニたちを牧場へ放ち。寝床の藁と水を替える。台所は自由に使えるので、誰かが作った余りを食べることもあれば、自分で適当に作ることもある。お昼を食べて。当番制の洗濯掃除に晩御飯の支度をして。ユニたちのブラッシングをして。一緒に遊んで。


 他の人と比べるとやはり体力がなく、風邪などひきやすいが、以前よりは大分マシになった。


 話し相手は居なくとも全然苦じゃない。前世みたいに苦しい気持ちはない。だって私はもう十分なのだ。十分な経験をしたのだ。

 

「あ~~余生最高」


 足元がふらついて、妙なことを口走りながら藁の上へ倒れ込もうとしたら。


「そりゃよかったわね」


 誰かに肩を支えられた。

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