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悪役令嬢はアクマでテンシだけどタイヨウにもなれる  作者: みやっこ
私が悪事を働くためには

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回想その11

 顔を上げた先に居たのは、黒髪短髪で色白、一瞬女の子かと思うほど可愛らしい顔立ちをした男の子だった。

 私を覗き込む金色の瞳はキラキラと美しく、このまま見られていたら浄化されて消えてしまいそうな気になった。


 私は、よろめきながらなんとか起き上がって。


「だ……」


 大丈夫と言おうとした。

 ひっかかって出てこないのは、息が切れているせいってだけじゃない。


 彼は…………。


 浮かんだが最期。もうハムスターの情報を無視することはできなかった。


 


『彼はヘイツと同じ運命を辿る王子……ウラガだ』


 ハムスターが、妙にしっかりとした口調で説明を始めた。きっとこれが大事な情報だから……なら毎度そうでもいいが。

 ふざけた様子はいっさいなく、真剣だ。


『エイラスが即位したのは、ゲームが始まる二年前、15歳の時だった。

 突如、妖精王が病に倒れ、長らく兆候が見られなかったため、譲位されることとなった』




 え? あれ? ヘイツとウラガの情報じゃないの?



 

 ハムスターは、大丈夫繋がるからぁというリアクションをしている。


『先代王は、妖精保護という名目で、祭事への一族派遣を中止することが多かった。

 各地で行われる妖精の祭事は、時の流れによって散りはじめた妖精の流れを、人々の暮らしに合わせる大事なものであるというのに。


 祭事に支払う金銭や、妖精一族敬金に関する新たな交渉を申し出た国もあったが、先代王はそれが目的で人をないがしろにしているわけではなかった。


 少しづつ少しづつ。

 各地で妖精が滞って溢れ、散り散りになっていった。そのせいで土は痩せ、井戸の水は枯れ、火は荒れた。


 貧困から各地で戦が起き、妖魔が増えはじめると、先代王は、ようやく動いた。

 地を揺らし、炎を巻き起こし、ここぞとばかりに力を使って戦を鎮め……というのは妖精的な言い分で、歴史上初めてセリエンディが人間の戦に介入し、その絶対的な力を持って人々を圧倒した』




 それ……誰も止められなかったの? オルレシアンって人の態度だと、結構王様にも意見とか言えるのかなって思ったんだけど。




『先代王の力は強く、先代王と同じ思想を持つ一族も実は多く居て、当時は彼らが周りを固めていた。


 このままではこの世界に人間どころか妖精以外の生き物すべてがいなくなってしまうと危惧したエイラスは、とうとう苦渋の選択……。


 微量の毒を盛り続けて死なぬ程度に王を弱らせ、その力を削り取るという手段に出た』




 だいたいのあらすじは知ってるつもりだったけど、改めて聞くと何とも……エイラスの決断は正しかったのかな。




『王となったエイラスは、適切な場所、適切な順番に、適切な人員を送り、二年たらずで妖精たちの流れを元に……いや、元よりも良いものへと変えた。


 エイラスの采配と、それを支えた王子たち、各家の若者の働きは素晴らしかった。

 セリエンディは見事、人間寄りな改革を遂げたのである。


 んだけども。


 絶対である妖精王に害を成したことは、エイラスを精神的に苦しめ続け。その罪はエイラスの中にある妖精の血を、その力を、己自身すら気付かないほど少しづつ、蝕んでいた。


 妖魔王の復活は、エイラスが持つ強い流れが滞り濁ったことが一番の要因と思われる』




 えっと、流れが滞ったってのはエイラスが妖魔王になっちゃったってことだよね? それで旧妖魔王も復活したんだよね? 




『……だったね』




 だったね? っていうかやっぱり話逸れてない?



 

 ハムスターは私を無視して更に更に話をつづけた。前のこともあるし、そろそろ本題を忘れているに一票投じたい。


『妖魔王は、ゲームが始まる前から暗躍していた。


 その一つが、先代王妃たちの争いだ。


 先代王には、妃が三人と炎妃が一人居た。

 炎妃は、人の戦に巻き込まれて亡くなったので、今は妃三人しかいないが、恐らくこれが原因で先代王は人を憎んでいたのだろうと思われる。

 これはサブエピソードなので置いておこう』


 ハムスターが、己の頬袋をもふもふと叩いた。口が凝ってきたのかもしれないが、まだ話は終わりそうにない。


『事が起こる十年前、第二王妃と第三王妃は同じ日に子を産んだ』




 事って何?




『まあ聞いてよ』




 あ。うん。ごめん。




『その日は奇しくも、妖魔王となった妖精王が生まれた日と同じ月、同じ日であった。


 世間では、二人のどちらかが妖魔王なのではないかという噂がたち。

 二人の王子はどこへ行っても奇異の目で見られるようになった。


 死後、その魂は妖精に運ばれ、再びこの世に誕生す。この世界では生まれ変わることが当たり前に信じられているからね』




 うんうん。ようやく二人の話だね。それもなんとなくは知ってるよ。




『エイラスが即位したのは、そんな不遇の王子二人が八歳のときだった。


 第三妃は、我が子は王にもなれず、生涯噂に振り回され続けるのだと嘆き悲しんだ。毎朝毎晩悲しみに暮れ、すっかり弱り切っていた。


 そこに妖魔王が現れ、第二王妃の子ヘイツヴァラツこそが妖魔王の生まれ変わりであると世間に知れ渡れば、ウラガが疑われることはなくなると第三妃をそそのかした。

 といっても、まだ人に憑いて操るほどの力を取り戻していなかったので、悪事を提案したにすぎなかったが。


 第三妃は、妖魔王の言う通り。第二妃の子を攫い、人買いに売り飛ばすという暴挙にでた』




 ん? なんで売り飛ばす?




『前も言ったとおり、妖魔王は元妖精王で、一度攫われて戻って来た際、妖魔王になっていたという経緯がある。

 一度城から消えてしまいさえすれば、今まで二分していた疑いの殆どがヘイツに向くという浅はかな考えからそうしたようだ』




 ああ……駆け落ちしてふられたって噂の……。




『第三妃に我が子を奪われた第二妃は、ヘイツを探し回ったがどうしても見つけられず、同じように第三妃の子を攫って交渉しようと考えた。

 しかしヘイツが既に死んでいるということを知り、怒り狂って第三妃の子ウラガを殺してしまう。


 そのとき二人の王子はまだ十歳だった。たったの十歳……』




 事が起こる。十歳……で死んじゃうのか……。




『事件後。

 二人の妃は、死んだように先代王の世話をして暮らすこととなる。


 現在、病床に伏す先代王の元へは、三人の妃と、妃付きの使妖精三名だけが近づくことを許されている。


 妖精一族の病は、妖精の力で治すしかないというのに、王は妖精一族が自分に近づくことを頑なに拒んでいる…………』


 ハムスターがペチンっと額を叩いた。


『本題どれだっけ』



 

 ここで!? 結構ちゃんと本題に戻ってたのに!?




『えっと。えっと。先代王の第二妃と第三妃の喧嘩は、リリファリアがやらなきゃいけない嫌がらせの、最後の方の仕込みに関係するから、いずれきちんと話さなきゃなってまとめてたの。それでヘイツとウラガの話出たし丁度いいかなって思って……あ、ヘイツとウラガの話だった』




いや。まだものすごく序盤だから。私もその話はいずれじっくりしなきゃなとは思ってたけど、今だと混乱するから。話すタイミング考えて。




『わかったー』


 ハムスターは、ウインクして消えた。だんだん友達っぽくなってきた気がする。メニュー画面と。




「おい……どうした?」


 現実から聞こえる少年の声にハっとした。

 すぐ目の前には彼……ウラガが居て。


「えっあっ早く逃げてっ」


 私はつい、そんなことを言っていた。

 すぐにしまったと気付いたが、もう遅い。


 目の前に居るウラガは、大きな瞳をパチっと瞬かせ。


「何から?」


 子供らしい無垢な瞳で私を見上げた。


「え……何って」


 妙な事を口走ったのは私だが、フットワークが軽いのか何なのか、彼の対応に驚いてしまった。


「いろいろ全部……その……あれよ。えっと……ここから……かな」


 どう誤魔化すか。もしくはどう説明するか。


「あの。おかしなヤツだと思ってるかもしれないんだけど」


 ウラガが、コクっと頷いた。

 ただの相槌か、それとも同意か、わからない。


「どうしてもここ……セリエンディから逃げて欲しくて。えっと……暫くちょっと親に内緒で旅行……はあれだし。留学する感じでどこか遠くへ行って欲しいっていうか」


「なんで?」


 ですよね。

 

 良案が出やしないかと、いろいろ口に出してみたが、どうするかじゃなくて、なぜそうしなければならないかをわかってもらわなければ意味がない。


「なんでってそりゃ……」


 生きて欲しいから? あなたの未来のため?


 どれもこれもうさん臭い。


 真実を話したところで、更にうさん臭いし、下手したら私自身、青い屋根にいられなくなる可能性が出てくる。

 あなたは近々殺されるのよなんて言って。

 王子に害を成そうとしている、もしくはどこからかそういう情報を掴んでると思われたらたまったもんじゃない。


 それでも。


 死ぬとわかってる人……を目の前にして…………見なかったことにするの……は……やっぱり嫌だ。


 私は、腰に手を当て、胸をはった。


「ちょっと世間知らずすぎるんじゃないかと思って」


 さっき必死でやった悪役がまだ残っているのかもしれない。口から出たのは挑発するような言葉だった。


「は?」


 ウラガが不機嫌な声を出した。


「男は、誰にも言わず三年ぐらいは旅に出るものなのよ。十歳になったら」


 全然ストーリーが固まってないのに話し出したらこんなんでました。


 私もハムスターも内心頭を抱えたが、まだウラガが聞く態度だったので、続けるしかなかった。


「世界は広いのよ少年。大志を抱くべきよ」


 もうぐだぐだだ。

 疲れてるせいか、全然頭が回らないし、必要な情報も集まらない。当たり前かもしれないけれど、人の生死が関わるといろいろ躊躇してしまって……。


 ウラガは顎に手を当て、少し考えるような仕草をして、また私を見上げた。


「資金がないし。コネとかもないから、一人じゃ留学なんて出来ない」


 思いのほか前向きな返事だ。


 私はまた驚いた。

 と同時に、この話に少しでも魅力を感じてくれているなら、彼の気が変わらないうちに約束だけでもとりつけられないだろうか、なんて調子の良いことを考えはじめた。


 後で具体的に行き先を考えて……訳アリでも匿ってくれるところ……擁護施設とか? 安全で確かな行程……出来れば誰かについてもらって……ヤバくないけど足がつかない人を雇う……。


 私の方こそここでコネなど欠片もない。人を助けるなんてそう簡単じゃないとわかっていながらも。


「私がなんとかするわ。後ほど留学先とかちゃんとしたのを提示するから」


 前のめりに宣言してしまった。


「…………」

 

 怪訝な顔で睨まれた。


 あ。これ信用されてないな。


 私には私がどれだけ信用にたる人物か、証明するすべがない。霊爵令嬢ってことはきっとわかってるだろうけれど。霊爵家にもいろいろたくらんでる人いそうだし、肩書としては弱い。


 こんなときは……こんなとき……は。

 

 お金だ。お金の話をしよう。


「これはあなたのためでもあるし、私にもメリットがあることなのですわよ。

 なぜなら私は、いずれは妖精一族の妻になる身。未来の夫のため、小さな王子に、恩を売っておきたいんですの。いわば先行投資というやつですわ」


 突貫工事の言い訳は、ウラガの眉間の皺を更に深くした。


「それって、俺が大人になったらあんたの家を優遇しろってこと?」


「違います」


 違いませんとも。

 違わないのに違うって言ってしまったから違うことにしなければ。


「えーーあーー広い視野を持ってほしいのです。そう。私の旦那様になる方はきっと実力あるお方です。あなたが周りの意見に惑わされることなく正しい働きをすれば、きっと私の旦那様の助けにもなることでしょう」


「エイラス兄上が既にそうしてる。俺に投資しても無駄だと思うけど」


 十歳ってこんなだっけ。無駄って……無駄……ううう立ち止まるな。考えすぎず考えろ。間が空けばあくほど疑われるぞ。


「エイラス陛下が正しく振る舞えるのは、周りの王子たちの手伝いあってのことですわ。あなたもいずれは陛下の側で力をお使いになるでしょう?」


 ハムスターが長々と設定を説明してくれたことが功を奏し、なんとかそれらしい言い訳が出来た……と思う。若干……かなり意味不明な部分もあるが……。

 

「ふーーん……」


 半信半疑という感じが否めない。いや、半疑どころか全疑かも。

 見ず知らずの女にいきなり旅立てと言われ、資金援助を申し入れられても気持ち悪いだけだろう。

 そんなのこっちは百も二百も千も承知の上で……。


 承知……してるのに……何もかも知ってるのに片方だけなの? 助けたいのはウラガだけ?


 ハムスターだろうか。

 声が聞こえたような気がしたけれどその姿は脳内にない。


「あのさ……」


「とにかく今すぐ逃げっ……なるべく早くっ話しを進めましょうっ」


 私は、断られまいと、彼の言葉を邪魔した。


 失敗したら戻して貰えるようモフモフと交渉……まだ交渉出来たことないけど、でも戻れるかもしれないのは確かだ。今はとにかくウラガをその気にさせるべし。


 私が冗談を言ってるわけじゃないんだってことをわかってもらうためには……。

 うん、やっぱりお金だ。

 信用イコール前払い。先に留学資金を渡してしまおう。それで持ち逃げされても別にいいし。よし今すぐ部屋に取りに行こう。




 ハムスターが鳥の着ぐるみを着て走り回るのが見えた。




 あの鳥はまさかサギ? ……いやいやこれ全然詐欺じゃないから。詐欺になんかしませんからね。お金出すのこっちだし。


「あの、ちょっとの間ここに居てくれないかな。えっと」


 私は、豊胸のために入れていたハンカチを胸から引きずり出した。

 これは詐欺です。


「うわ!?」


「コレ。すごくすごく大切なものなの」


 私は大ウソをついて、私のぺったんこになった胸元を注視している彼の手に無理やりワインに染まったハンカチを押し込んだ。


「絶対戻ってくるから持ってて。本当に戻ってくるから。絶対待っててね」


 人質ならぬ物質を預けた私は、お金を取りに行くため……彼を助けるための一歩を踏み出した。


 刹那。


 後ろ髪ひかれるような。なんともいえない気分になったが、そのまま歩き出した。

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