災厄の足音
どうも、どこぞやのチョコレートマカロンです!
お待たせいたしました!
ようやく物語のスタートでございます(笑)
それでは、どうぞ!
海岸沿い
江戸戦闘指定地区―――参〇八砲台
そこから約八町ほど前方。
潮風とその冷気を感じられる程度の高台に一つ、陽光に映し出された影があった。
じじ、、、と通信機独特の乱れが入り込む中、彼は空間画面を展開する。
少し待ち、機動音とともに半透明な画面が眼前に浮かび上がる。
通信先――部隊3名
称号名[犬][猿][雉]
通信先を選択し、回線へ繋ぐ。
一時的に乱れが途切れ、再び微弱に流れ始める。
{部隊全員へ、桃太郎より指令。
まず犬へ告ぐ。
そこから約参丁先に5匹確認。
早々に対処を頼む。}
すると、威勢の良い気張った男の声が通信機越しに返ってくる。
{了解ィ!
任せとけ!久々に暴れてやるぜぇ!}
返事を返した兵士は目下、ごつごつとした岩の突き出る荒地を疾風と化して駆け抜ける。
そうして敵の眼前まで迫ると、紅い刀身が閃くのが遠目から分かった。
彼は淡々と続ける。
{雉、前方十壱時の方向にて、敵の応援部隊が迫っている。
よって、[空鳴]の機動および狙撃を許可。
――――奴らを吹き飛ばせ}
{了解!
どーんっと重いの叩きこんであげますとも!
桃太郎!}
{猿、お前は雉の[空鳴]の護衛と射程範囲外にいる鬼の始末を頼む。
――指令は以上}
{了解}
この戦場を楽しむかのような元気の良い返答と、冷静さの中に甘美な魅力を秘める声音を聞いた。
桃太郎と呼ばれた彼は、作戦の記された空間画面を開き、指令漏れがないことを確認する。
と、付け足すような[猿]の通信が入り、彼はあわてて回線を繋いだ。
{――どうした? 何か問題でもあったか?}
{―――いや、違う。あなたはどう動くのか、聞いておきたい}
そういわれて、あぁ。と返事をした。
彼は前方へと視線を移す。
先ほどと変わらず、冷気を伴った潮風は荒涼とした戦場を流れている。
状況の違いといえば、先刻より[災厄の足音]と異形な隊を組む鬼が目視できるようになったことだろうか?
そんなことを考えつつ、彼は硬化刀を鞘から抜きさる。
世ではすでに「時代遅れ」などと言われる、強化金属製の刀身を持つ刀。
鋼は、静寂に包まれた夜の闇を閉じ込めたような漆黒。
どのような光も全て呑んでしまいそうな深い暗闇だ。
しかし、暗闇を照らす月光のように、刀身は下界の光を乱反射させている。
{―――俺は前方の七匹……だな}
すると、遠方で紅い刀身をきらめかせていた[犬]が割り込むように通信を入れてくる。
{――お! 大きく出たなぁ、桃太郎! ――っと!}
ジリンッという剣戟音が聞こえてくる中で暢気に、はやし立てるように[犬]は言う。
すると、不機嫌そうに[猿]は[犬]を刺す。
{うるさい、目障り。[犬]は黙ってて}
チッと舌打ちでも噛ましそうな罵倒は、完全な啖呵となった。
{あぁ? 手前こそ梨乃の支援だけやってろよ}
{突っ込むことしか能のない[犬]は黙ってなさい}
{男なら突っ込んでなんぼだろうがっ!}
{男? オスの間違いでしょ?}
{なんだとっ!}
{―――ち、ちょっと二人ともやめましょうよ、こんなときに!
それと[犬]さん!任務中に名前は禁句ですっ!}
{……す、すまねぇ……}
{……[雉]が言うなら仕方ない……}
[雉]は一生懸命と言ったように、二人の間に入り込む。
彼女はどちらとも仲がいいために、割り込まれるとしぶしぶ喧嘩をやめざるえない。
{[雉]の言うとおりだ……任務中の私語は慎め!
総員、目の前の任務に集中せよ。 以上}
{{{了解}}}
返事だけは上等だと思いながら、彼は通信をきる。
通信機本体に内蔵された、音声再生機を機動。
不明番号 参 =====
一定の音調を繰り替えす旋律が、彼の聴覚を支配しはじめる。
そして彼もまた、戦場へと駆け出した。
音とともに戦い、舞うように刀を振るう。
――――機械仕掛けのその腕で。
江戸城 将軍御前
「―――――と、以上です」
「そうか。
ご苦労であった。
防衛府への食料、および水の供給。
そのほか、何か必要な物はあるか?」
「はっ。
部隊全員の衣類を一着ずつ。
[猿][犬]の[陽炎][雪氷]の替え刃
[雉]の23匁超硬化合金弾丸と[空鳴]の重油の補給。
そして、黒曜の砥石をいただければと」
「分かった。
しかし、よいのか?
そなた達、まったくといっていいほど
娯楽などに手を伸ばさんが?
真面目なのは結構だが、休養も怠るなよ?」
「御心づかい感謝いたします。
ですが、私めらは、既に充分満足のゆく生活を営んでおります。
これ以上、いただくわけには御座いません」
将軍 徳川家綱公
桃太郎はそんな会話を将軍としつつ、ここに来るのは何度目になるかと考えた。
初めこそ緊張した将軍の御前も、今となっては物怖じすることなく対話ができるようになっていた。
今から随分昔。
この江戸という近未来都市が都市として世界に認識され始めた頃。
[災厄]と呼ばれた[鬼]は、江戸への侵略を始めた。
世界では[ghost]や、[monster]とも称され、
正式な名称を[人界殺戮機械人形]という。
圧倒的な力をもって、非道な殺戮を繰り返す存在。
日本の遥か東に位置する[鬼ヶ島]を跋扈していると言われ、
当然、人間では太刀打ち出来ない。
――――そう、人間では。
[対鬼人殲滅機械化兵士]
異常な力を持つ[鬼]を、それを上回る力でねじ伏せる機械化兵士。
[技術結晶]から複製された[機械義手]を用い、人智では測り知れない力を駆使して戦う。
[鬼]の侵略は、段々と過激さを増しており、幕府は対策として、江戸戦闘指定地区と防衛府を設立。
兵士達は、防衛府に派遣され、江戸戦闘指定区画内にて[鬼]の殲滅を主な任務としている。
その機械化兵士内では、4~5人程の部隊編成がなされる。
[桃太郎一団]は、その中でもエリートを集めた精鋭部隊。
よってこのように謁見が許され、最も侵略が激しい[参〇八地区]の防衛を任されている。
「そうか。
まあ、今後もよろしく頼むぞ」
「はい、お任せ下さい。
では、私はこれで」
将軍の言葉に身を引き締め、彼は将軍の間を後にしようとした。
「あ、ちょっと待て」
「はい?
いかがなさいましたか?」
戸に掛けた手を離し、将軍の方へ振り返る。
「今回は、大好物。
いらないのか?」
「……お願いします」
いたずらっ子のような笑みを浮かべる将軍に、桃太郎は赤面を見られまいと、早々に将軍の間を後にしたのだった。
江戸時代の勉強。
しないとなぁ、、、、orz