第8話『ご主人様が会社を立ち上げました』
「よし、これで完成ですわ!」
『Office HANANOMIYA』と書かれたプレートを俺の玄関のドアに掛けた。と言っても、俺が雑貨屋で買った小さなプレートに、麗華が社名を書いた簡素なものだけど。
「とりあえず、看板は出来たな。会社の場所、俺の自宅だけど」
「他に良い場所が無かったから、仕方ないでしょ。でも、これで花ノ宮家の復興への記念すべき第一歩を踏み出す事が出来ましたわね」
そうなのである。これまでの経験を受けて、麗華は自ら会社を立ち上げたのである。まさに、陽斗に啖呵を切った時の発言を有言実行したのである。俺が、その年で会社を始めて大丈夫なの? 資金はどうするの? 等と麗華に尋ねたけど、いつまでも失敗に怯えていたって仕方ありませんし! と言ってのけた。大した自信である。
「うわー、これで麗華ちゃんも、社長になったね!」
当初は、俺と麗華でやる予定だったが、芽衣子もショーで自信を付けたからか、仕事をしたいと言い出したのだ。とはいえ、彼女の事だから、またドジをやらかしそうだから、なるべく俺が見張っておこう。
「おっ、遂に本格的に会社を始めたのか」
後ろから声が聞こえたので振り返ると、そこにいたのは阪井陽斗だった。
「出川、何でこんな所に?! また、この私をからかいに来ましたの?」
麗華が阪井さんを睨みつけながら言った。
「酷いよなー、せっかく君がファッションショーのトリを見事務めきった話を新聞で見たから、褒めに来てあげたのに」
「えぇっ!?」
「あの時の麗華は、凄かったよ。とても自身に満ち溢れて本当に綺麗だったよ。あんなんだったら、僕の彼女にしても良いくらいだよ」
「えぇっ?」
阪井さんの言葉に、麗華は顔を真っ赤にした。
「なーんてな」
と言って、阪井さんは指で麗華の額をチョンと突いた。
「~~~っ!! あなたって人は!!」
元従僕にからかわれて、プンスカ怒る麗華に阪井さんは、あはは……と笑っていた。
「ところで、どんな事業にしたんだい? もしかして、これを機に芸能界デビューを狙うのかい?」
「芸能界デビューはともかく、誰かに喜んでもらえる仕事をする事にしたんです。今までの経験を通して、誰かに喜んでもらう事の喜びが分かりましたから。そして、そんな人達をもっと増やしたいんです」
「へぇ……随分と成長したんだな。見直したよ。でも、それは達也君、君のおかげだよ」
「へ、俺ですか?」
「僕が知っている麗華は、天上天下、唯我独尊、傲岸不遜。人をこき使う事しか能がない女だったからね。誰かの為に動く様なタイプじゃなかったんだよ。あの頃は、いつもいつも、地獄に落ちろと心の中で呪ったものだよ」
阪井さん、それ、マジで笑えないデス……。
「ちょっと、あなた! 本人がいる前で、そんな無礼な事を言うとは、どういう事ですの!?」
麗華が怒りを見せた。
「でも、そんな彼女を変えてくれた事については、元従僕としてお礼を言いたい」
阪井さんはそう言って、お辞儀をした。やっぱり、元使用人、現在お坊ちゃまなだけあって、様になっている。
「じゃ、頑張れよ」
そう言うと、阪井さんは手を振りながら、その場を去った。
「全く……どうせなら私に対する無礼な仕打ちを詫びる言葉も一緒に付け加えてほしかったですわ!」
麗華は腰に手を当てて膨れっ面だった。
「でも、私達の事を応援してくれたのは嬉しかったな~」
芽衣子は笑顔で言った。確かに、麗華に対するからかいつつも、会社の立ち上げには応援してくれたし、そこは素直に喜ぶべきだろう。
「ところで、麗華さん。さっき阪井さんに褒められた時、顔が赤くなっていましたけど、もしかして阪井さんの事が好きなんですか?」
麗華のあの反応を見て気になったので試しに尋ねてみた。すると、麗華は、
「きゅ、急に何を言い出しますの?! そ、そんな事は無いでしょ! 誰があんな慇懃無礼な男の事を!」
と、顔を真っ赤にして、怒った。
「それにしたって、あの時は少し嬉しかったんじゃないですか」
「あなたまで、私の事を馬鹿にする気ですの?! それ以上言うと、おしおきですわよ!」
麗華がそう言って、拳を振り上げた。マズイ! 身の危険を感じた俺は急いで逃げた。
「ちょっと、待ちなさい!」
「待てるか! お前に殴られたら俺の身が持たないよ!」
俺を追いかける麗華を見て、芽衣子も
「あ~ん、二人ともちょっと待ってよ~!」
と、後を追った。
こんな調子だけど、俺達は少しだけ前進した。この先、何が起こるか分からないけど、どこまでいけるか分からないけど、それでも今は目の前の道をひたすら走り続けよう。
花ノ宮家の復興は、ここから始まるのである。
とりあえず終わりましたが、皆さんいかがでしたでしょうか?今後、改稿するかもしれませんが、よろしくお願いします。