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第7話『幼馴染を助けるべくショーに出る事になりました』

 詳しい話を聴く為に、とりあえず芽衣子を椅子に座らせて落ち着くのを待った。芽衣子は、落ち着いた後、えっと……と考えながら、口を開いた。


「あのね、このアパートに川上さんって人がいるでしょ」

「あぁ、一〇三号室に住んでいるファッションデザイナー志望の人か。それがどうした?」

「その人が出店する、ショーに私がモデルとして出る事になったの」

「えっ、マジで?」

 俺は思わず驚いたが、確かにコイツは可愛い顔だし、スタイルも良いから、モデルのスカウトが掛かるのも無理はないだろう。芽衣子は更に話を続けた。

「でも、帰る途中で横断歩道を渡る時に、モデルさん達が車に、はねられて交通事故に遭っちゃって……」

「えっ……?」

 俺は思わず、声に出してしまった。

「それで、そのモデルさん達は無事でしたの?」

 麗華が尋ねると、芽衣子は複雑な表情を浮かべながら言った。

「うん……すぐ救急車に運ばれて皆、一命は取り留めたけど、皆大きな怪我をしちゃって……」

「……」

 それを聴いて、俺は胸の痛みを感じた。

「だから、今すぐ代わりの人を探しているんだけど、大丈夫?」

 芽衣子が尋ねると麗華は、

「分かったわ」

「ホントに?」

 芽衣子は笑顔で尋ねた。

「本当ですわ。そのモデルの仕事、この私が務めてさしあげますわ!」

「ヤッター!」

 芽衣子は両手を上げながら喜んだ。

「それで、そのショーはいつ行われるの?」

「明日だよ」

「……」

 頭上に、とんでもない爆弾を落とされた気分だった。俺は返す言葉が無かった。それを見て、芽衣子の顔は途端に真っ青になった。

「ごめんね! でも、こんなバカな私にも、せっかくお仕事がもらえたと思って、頑張ったんだけど、あんな事になっちゃうなんて……う、うわあああああん!」

 麗華は手を目に当てながら泣き出してしまった。それを見ると、俺はどうすれば良いか分からなくなってしまい、うろたえてしまった。しかし、

「問題ないわ!」

 麗華が椅子を立ち、腰に手を当てて言った。

「良いのかよ、そんな急な仕事にお前が出来るのか?」

「何を言っているの? せっかく初めての仕事が入ったというのに、断る訳にはいかないでしょう」

「そりゃ、そうだけど」

「それに、モデルくらいなら私も何度か経験がありますわ。明日、会場に行って主催者と会いに行きますわよ」


 そして翌日。俺と麗華、芽衣子はショーの会場に訪れて、楽屋で川上さんという女性に会った。中に入ると、茶色いショートヘアの女性と黒いスーツに眼鏡を掛けた中年くらいの女性がいた。前者は川上さん。もう一人は、恐らくショーの主宰者だろうけど。

「川上さん、代わりのモデル連れて来ました」

「ありがとう」

 川上さんは芽衣子にお礼を言った。一方、主催者と思われる女性は、麗華に視線を向けた。

「やっと、ちょうど良いモデルが見つかったわね」

 と、安堵した様子を浮かべた。

「ところで、あなたお名前は?」

「私、花ノ宮麗華と申しますわ、この度、貴方のショーにモデルのトリを立派に務めさせて頂きますわ」

「へぇ、頼もしいわね」

 主宰者は、麗華の自信に満ちた表情に感心していた。

「それじゃあ私は他のモデル達の様子を見て来るから、あなた達は早速、衣装を試着してくれる? 川上さん、もし、花ノ宮さんの服の寸法が合わなかったら、出来る限り直して」

 主宰者はそう言うと、その場を立ち去り、麗華と芽衣子、川上さんは控室に入って行った。男の俺が入ったら、マズイことになるので、ここは大人しく入口で待っていよう。

「うわー麗華ちゃん、凄く綺麗。まるでお嬢様みたーい」

「まるでって、かつては本当にお嬢様でしたのよ」

「……うーん、でも胸の部分にちょっと隙間があるわね」

「あなた、この私に喧嘩を売っていますの?」

「あ、別にそういう訳じゃ……」

「そんなに気にすること無いよー。麗華ちゃんだってモデルさんみたいに凄くスタイルが良いよー」

「あなたに言われても、ちっとも嬉しくありませんわ!」

「じゃあ、胸パッドを入れておこうか」

 何やら不穏な台詞が聞こえたが、とりあえず服の方は大丈夫かな? 俺がドア越しから声を掛けた。

「なぁ、もう着替えは終わったか? 俺が入っても大丈夫か?」

「大丈夫よ」

 川上さんの声が聞こえたので、俺は失礼します。と言ってドアを開けた。

 その瞬間、俺は衝撃を受けた。

 真紅のバラの花をあしらった衣装だった。真っ赤なロングドレス、足からチラリと見える赤いハイヒール。そして、頭にはバラのコサージュを飾っていた。

 もし、彼女がこんな装いでパーティーに来たら、たちまち観衆の視線を独り占めしてしまうことだろう。

「どうかしら、似合っています?」

 麗華に言われ、俺は思わずゴクリと唾を飲んだ後、

「あっ、あぁ……凄く綺麗だよ……」

 そう言うと、麗華は上機嫌になり、

「あなたにそう言ってもらえると、一番嬉しいですわね」

 麗華の口からそんな言葉を掛けてくれた。その言葉は俺の胸に深く染み入った。

「それじゃあ、早速ステージに行きましょう。もう開場時間が過ぎた頃でしょうし」

 川上さんがそう言うと、俺達はステージ裏に向かった。


開演十分前。俺はステージの裏から、こっそりと観客の様子を窺った。

会場には、かなり大勢の客が来ており満員だった。マスコミまで来ていた。かなり注目を集めているイベントなんだと思った。川上さんが尋ねた。

「どう? 会場の様子は?」

「あぁ、満員だった。マスコミまで来てる」

「そっか。このショーは、業界人からの注目度が高いからね。ここから、パリコレや東京ガールズコレクションに出た人だっているんだから!」

 マジかよ! 通りで、人やマスコミが多いと思ったら、そういうことか。川上さん、こんなイベントに出席するだけの実力があったんだ……。しかも、ショーのモデルとして、麗華や芽衣子が選ばれるなんて……。今までロクでもない奴らだと思っていたけど、コイツら本当は凄い素質を秘めているんじゃないかと思った。

俺の背後には、衣装に着替え終えた芽衣子と麗華が順番待ちをしている。そして、会場のブザー音が鳴り響き、アナウンスが流れた。

「皆様、今回は当ファッションショーにご来場いただきまして、誠にありがとうございます。今回は、皆さんに最先端のファッションをご覧いただきますので、最後までよろしくお願いします」

 アナウンスが終わった後、BGMが鳴り始め、トップバッターのモデルがランウェイを歩き出した。

「凄いな……」

 順番に従って、モデル達がランウェイを歩き出し始めた。観客達はモデル達に魅了され、カメラのフラッシュも輝いていた。そんな中で、俺達は自分達の番が刻々と迫っている。俺達は

 もうすぐ芽衣子の番だ。淡いピンク色に肩紐が無い、ミディアムドレスにハート型のバッグと髪飾りを着けており、愛らしい雰囲気である。

「ど、ど、ど、どうしよう……もし、転びそうになったら達也君助けてくれる?」

「不安な気持ちは分かるけど、俺が舞台に来たらショーが台無しになるだろ」

「そんなー」

 俺が呆れながらツッコミを入れると芽衣子の目が潤み始めた、というか泣き出しそうだった。

「阿見の言う通りですわ。助けを求めたところで、かえって台無しになるのがオチですわ。それに、あなたはぶっつけ本番の私と違って練習をしているのですから、ここでの努力を無駄にしたくはないでしょ」

「ううう……」

 そう言われると、麗華はすっかり落ち込んでしまった。でも、すぐさま何かを閃き、

「じゃあさ、本番前にアレやっても良い?」

「へ?」

 俺がぽかんとすると、芽衣子は俺にギュッと抱き着いてきた。

「?!!」

 それを言われて、麗華は思わず吹き出しそうになった。

「ちょ、ちょっと……何でいきなり抱き着いて来るんだよ?!」

 突然のハグに俺は思わず、芽衣子にツッコミを入れた。

「だって、達也君にギューって抱き着けば、すっごく安心するの。昔は、よくそうしてたよねー」

それを聴いた、麗華がムッとしていた。視線が凄く怖いから止めてください。そんな様子も気にせず、芽衣子は俺の身体から身を離した後、

「じゃ、行ってくるね!」

と、笑顔でステージに出た。

芽衣子は観客やカメラの前でも全く緊張せず、笑顔で手を振っていた。ショーを楽しんでいる様にも感じた。

 そして、いよいよトリを務める麗華の番だ。

「麗華、もうすぐ出番だぞ。大丈夫か?」

「任せなさい! この花ノ宮麗華が、ショーのトリを見事に務めさせて頂きますわ! でも、その前に……」

 そう言って、麗華は俺をギュッと強く抱きしめた。その力は麗華の時よりも強く感じた。

「ちょっと、麗華……?」

 強烈なハグに、俺は思わずうろたえてしまった。しかし、麗華は俺を強く抱きしめ続けた。そして、しばらくした後、

「では、行ってきますわ!」

 麗華は自信に満ちた表情を浮かべながら、ステージに出た。


 麗華がステージに出た瞬間、観客達は一斉に彼女を見た。マスコミのカメラマンも彼女を眼前にシャッターを切り、閃光が壁一面に輝いていた。それだけ皆が彼女に魅了されているのだろう。

しかし、芽衣子とすれ違おうとした瞬間だった。

「キャッ……!」

芽衣子がランウェイを歩く途中、つまづいてそのまま麗華に向かって倒れそうになった。マズイ……! そう思った瞬間だった。

麗華が倒れそうになった芽衣子をそっと抱きかかえ、見事芽衣子の転倒を防いだのである。麗華は小声で芽衣子に話しかけた。

「大丈夫ですの?」

「うん、ありがとう」

芽衣子が小さくお礼を言うと、芽衣子は姿勢を直して、歩き出した。良かった、大事故は起こらずに済んだ。

そして、モデル達がズラリと横一列に並ぶ中に、麗華が中央に立つと、観客席からは盛大な拍手と歓声が鳴り響いた。ほんの数分間だけど、とても長く充実した時間だった。


「お疲れ様、麗華、芽衣子」

 ショーの終了後、楽屋に戻った俺達は麗華と芽衣子にタオルとミネラルウォーター入りのペットボトルをあげた。

「ふぅー、この様な大舞台に立つのは、久しぶりでしたけど、舞台に立つのは良いですわね」

 麗華は、タオルで汗を拭きながら言った。

「私も、ヒールに慣れなかったから、本番で転びそうになった時はどうなるかと思ったよー」

 芽衣子も、安堵の表情を浮かべていた。

「そうですわね。美月さんがあの場で転倒して、私まで巻き込まれたら、困りますからね」

「そんな理由でフォローしたのかよ。そういう麗華だって、ランウェイを歩いている途中で、胸パッドがはみ出ていたぞ。あの場では俺も感動しちゃったから、言いそびれたけど」

「―――――っ!!」

 そう言うと、麗華は顔を真っ赤にしながら、俺の頬を目掛けて掌を振りおろしたのであった。こういうことなら、黙っていた方が良かったのかもしれない。

遂にクライマックスとなりました。次回でとりあえず一区切りです。

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