第2話『買い出しをする事になったのだが』
午前五時三十分。俺はスイッチが入ったかのごとくパチっと目が覚めた。だが、今日は今までと比べて何だか体が重く、気分もイマイチ晴れない。
それでも、何とか机から体を起こし、椅子から立つと、台所の近くに置いたプランターに行き、水やりと成長の様子の確認をしに行く。
そして、朝食を作り、机に朝食のカレー、コップ、スプーンをそれぞれ二つずつ用意する。一見、なんてことのない時間だが、昨日までと比べて気苦労が伴っているせいで、まだ朝なのに、どうにも疲れてしまった。
「昨日までは、俺一人だけで良かったんだけどな……」
テーブルの上に並べられた料理を目の前にして、俺は深くため息を吐いた。
くっそー、高校に入ったら誰にも邪魔されない、自由気ままで楽しい一人暮らし生活を送るって決めていたのに、まさかこんな目に遭うなんて!
そして、午前六時。俺は今からその自由気ままな生活をぶち壊した元凶である同居人を起こしに行く。
その同居人は現在俺の布団で、すやすや眠っている。さすがに、地べたで寝かせる訳にもいかなかったので、俺の布団に寝かせ、俺自身は昨日机に伏せて寝ることにした。
「おい、麗華。朝だぞ、起きろ」
「う~ん、あともうちょっと……」
長い金髪をした同居人は、むにゃむにゃと寝言を言っている。普段は一応気高く振る舞っているけど……コイツ、結構寝相が悪いんだな。布団まで蹴飛ばしちゃっているし。でも、近くで見ると、意外と寝顔は可愛いんだな……って、そんなことを思っている場合じゃない!
「何、グースカ寝てるんだ。もうご飯も出来ているぞ」
体を揺さぶるが、彼女の寝起きも非常に悪く、なかなか起きてくれない。一体、どうすれば良いのやら……。
「あ、そうだ」
我ながら名案を思いついた。スマホを取り出して、少し操作する。
ドカーン!!
「何が起きましたの?! 事故?!」
大成功。パッと飛び起きてくれた。
「お、やっと起きたか」
「ちょっと、あなた!! 今、凄い爆発の音がしましたけど、一体何が起きましたの?!」
麗華は辺りをキョロキョロと見渡して大慌てだった。
「あんまりお前の寝起きが悪いから、コレを使って起こしてやった」
そう言って、俺はスマホを見せた。彼女の耳元で爆発音の効果音を流して起こしたのだ。本当は音量をMAXにすると、効果絶大なのだが、朝っぱらから使うのは近所迷惑となるだろう。
「何ですって?! 従僕の癖に、この私を騙すなんて!」
「だったら、まず寝起きを…」
そう言い終える前に、麗華の右手が飛んできた。ビンタって、こんなに強烈なものだったんだ。そう思いながら、俺は再び眠り…もとい、意識を失った。
「阿見、これは一体何ですの?」
麗華が朝食を見て、左の頬をさする俺に尋ねてきた。
「あぁ、これ? べんり菜のカレー。今日の朝食だ」
「べんり菜なんて、あまり聞いたことが無い名前ですわね。貧乏人が食べる野菜ではなくて?」
「失礼な! お前は食べたことないだろうけど、栄養豊富で美味しいんだぞ!」
そんな会話をした後、
「いただきます」
二人で、手を合わせて挨拶をした後、麗華はカレーを口にした。
「んっ! これはなかなかの美味ですわね!」
麗華は、目を輝かせながら言った。そして、そのままカレーをもう一杯お代わりして完食した。
「そうか、それは良かった」
「やっぱり、私が見込んだだけの男ですわね」
麗華はそんな事を言っているけど、大げさだと思った。料理なんて、一人暮らしを始めてからずっとやってるし。
「そういえば、今朝台所の近くにプランターに植えられた野菜を見掛けましたけど、あなた、自宅で野菜を育てているのですか?」
「あぁ、あれか。あれは家庭菜園と言ってな、高校に入ってしばらくしてから、始めたんだ。今は、苺とアスパラガス、あとリーフレタスを育てているよ」
「あと、プランターの隣に置いてある瓶から何やら植物が生えていましたけど」
「あれは、苺だな。ペットボトル栽培と言ってだな。ペットボトルを使って、育てる水耕栽培だ。ちなみに、俺は専用の栽培セットを使っているよ」
「そんな物があるのですわね。でも、どうして家庭菜園なんて始めましたの?」
「料理している時に、ふと野菜も自分で作ってみたいなと、思ってさ」
「つまりは自給自足ということですわね。でも、野菜を育てるならプランターより畑で育てた方がよろしいのではありませんこと?」
「生憎、家の都合で畑を作るだけの土地が無くってな。それにプランターの方が手軽なんだよ」
「ふぅん、庶民は野菜を作る事にも苦労しているのですわね」
「失礼だな」
そういえば、コイツは昨夜、自分が家を復興させると言い張っていたよな。具体的に、どんなことをするのか気になった。ちょっと、質問してみよう。
「ところで、お前は家を復興させたいんだよな。その為に、まず何をするのか聴かせてくれよ」
「そうですわね、せっかくこの家で暮らす事になったのですから、色々と物を買う必要がありますわね。今まで、路上で生活していましたし」
やっぱりそうなるか。生活の為に色々と必要なのは分かるけど、あんまり高いブランド品を要求されると困るしな。万一に備えて、この前、もらった給料(三万円)とポイントカードとクーポン券を持って行った方が良いかな?
「あと、ナイフも買わなくてはいけませんわね」
「……まだ、ナイフの事、気にしていたのかよ」
「他にも、私の布団も買う必要がありますわね」
「へぇ、このまま俺の寝床を占領しないんだ」
「何を言っていますの? あんな布団じゃ、なかなか眠れなかったからに決まっているでしょう」
何を言うか、俺が起こしに行った時は、随分と気持ち良さそうに寝ていた癖に。
それにしても、女物の着替え、それと布団までいるとなると、やはり行くのはデパートか。自宅からは自転車で十五分程の距離である。だが、
「ではまず、どうやって行くんですの?」
「そりゃあ、自転車で行く予定だけど、後ろに乗るか?」
「えっ?!」
麗華は目を丸くして驚いた。
「あなた、主人であるこの私をこんな所に乗せて、万が一のことが起きたら、どうするおつもりですの?」
「ん? だって、そっちの方が早いだろ。それに、歩いてたら倍近く掛かるし、バスも無いし」
すると、麗華は目を丸くして、
「そ、そんなに掛かるというのですの?! 庶民は買い物にも苦労しているのですわね」
「いや、そんなに苦労はしていないけど」
大抵、近くのスーパーやコンビニで済ませているし。
「それに、自転車って結構危ないですし、もし倒れたら……」
そうかな? 自転車に乗る練習をしていた時はともかく、慣れたら結構楽だし、そんなに怯える程のものでもないと思うけどな……って、まさか?
「……お前、もしかして自転車に乗った事が無いのか?」
すると、麗華が顔を青ざめながら、無言でコクリと頷いた。
さすがに、(一応)ご主人様に怪我をさせる訳にはいかないので、結局、デパートまで三十分掛けて、歩く事にした。
デパートの中はとても広く、一階だけでも、スーパーはもちろん、百円ショップ、生活用品、食品などのコーナーなどがある。ちなみに、二階には衣類コーナー、三階にはレストラン店が立ち並んでいる。
事前に、釘は刺したけど、コイツの事だから、かなりの出費になるかもしれない。念の為に、この前のバイト代(三万円)とポイントカードとクーポン券を用意したけど、大丈夫かな?
「これがデパートですの?」
「そうだよ。お前は行った事が無いのか?」
「まぁ、私の家が経営していたデパートにはよく行っていましたけど、それ以外の所に行くのは初めてですわね。それと比べると、随分、小規模ですけど」
……なるほど。確か、コイツの家もデパートを経営していたけど、やっぱりセレブ様向けか。それなら、こういう庶民向けと規模が違うんだな。
「では、参りましょう。阿見」
そう言って、麗華はデパートの中を颯爽と歩き始めた。俺は彼女について歩いた。
「スゲー、あの人凄く綺麗!」
「もしかして、芸能人? 一緒にいる男の人は、マネージャーじゃないの?」
「どこかのお嬢様かもしれないぜ」
歩いていると、周りの視線が麗華に集まっている事に気付いた。そりゃそうか。だってコイツ、スゲー美人だもんな。
お嬢様である事は間違っていないけど、それはあくまで過去の話。最近までのコイツの生活を知ったら、皆、何て言うだろうな。
それでも、当の本人は周囲の視線を気にする様子は全く無かった。
最初に訪れたのは、生活用品である。今回買うのは、ナイフだな。箸とかフォークとかスプーンなら、ありそうだけど、ナイフなんてこの店にあるのかな? と思っていたら、意外にもあった。
「なぁ、これならどうだ?」
俺がたまたま視界に入ったナイフを麗華に差し出した。だが、
「何ですの? これは?」
「何って……これ、ナイフだけど」
俺がそう言うと、麗華はナイフを見て顔を真っ赤にしながら怒鳴った。
「こんな物がナイフですって? こんな物を使う位でしたら、まだ昨晩の様にフォークを使った方がマシですわ!」
おいおい、せっかく選んでやったのに、そんなに怒鳴る事は無いだろ。
「何を寝ぼけた事を言っていますの? これは私が使っていた物とは全然違いますわ!」
確かに、俺が選んだのは、百円ショップでも売っているヤツだけど、そこまで言うのかよ? お嬢様育ちだったから、安物を使うのは不満なのだろうけど。
「でも、食器なんてどれを使っても一緒だろ?」
「そんな事はありませんわ。食器というものは、日頃の食事を華やかにしますのよ」
「えっ? そうなのか? 食器なんて、どれも食べ物を口に入れる為の道具でしかないだろ」
「あなたからすれば、そういう風にしか見えないかもしれませんけど、食器は料理を盛り上げる存在なのですわよ。少なくとも、かつて私が住んでいた家では、そうでしたわね」
「例えば?」
俺が尋ねると、麗華は黒くて丸い皿を手に取った。
「例えば、この黒い皿。これも料理が美しく見える色と言われていますのよ」
「へぇ、白だけじゃないんだ」
「そうですわね。特に黒だと、普段の料理を高級に見せる効果がありますの。これだと、白魚やホワイトソースを使った料理なら、皿の色とのコントラストが良い感じになりますわね」
そうなのか。食器の色やデザインに、そんな効果があるなんて、知らなかったな。そう言えば、さっき麗華が手に取った皿は、いかにも高級感があるデザインだよな。普段何気に使っていたけど、そんなことは、ちっとも考えたこと無かったよな。
「じゃあ、ナイフはどれが良いんだよ」
「これなら、いかがですの?」
そう言って、麗華はナイフを取り出した。それは、銀色に光り輝くナイフだった。俺が選んだ物と比べると、おしゃれなデザインである。
「私の家で使っていた物と比べると、まだ安いですけど、あなたが選んだ物よりかはマシですわね」
「悪かったな、安物でよ。それで、これ一本だけで良いんだな」
「あなたの分も買いますのよ」
「えっ?」
まさかの発言に驚いた。
「何でだ? 俺はさっきのヤツで十分だけど」
「そんなに謙遜する必要もありませんわ。あなたにも、この機会に、そうした気分を味わってもらいたいのですわ」
同じ気分を味わってもらいたい――こんな高飛車な(元)お嬢様からそんな言葉が出るなんて。それを聴いて、俺は思わず顔を赤らめてしまった。
結局、俺は麗華が選んだナイフを二本(合計:千円)購入した。これだけの金額なら、俺の財布で間に合いそうだ。
だが、問題はそこからだった。
次に訪れたのは家具屋である。
「お前はどんな物が良いんだ?」
「そうですわね、せめて羽毛を使った物が良いですわね……って、あら?」
麗華が何か良い物を見つけ、指を差した。
「私、これにしますわ」
麗華が指を差したのは、何と羽毛布団の天蓋ベッドだった。白いレースのカーテンまで付いていて、いかにも女の子が憧れそうな豪華なデザインだ。
「何やってるんだ、お前は!」
「これ、私がかつて使っていたベッド程ではありませんけど、割と寝心地が良さそうですわね」
「やめろ! そのベッド、十五万円もするだろ! 高校生が払える金額じゃねぇよ! 俺の財布を破産させる気か!」
「何ですって? これでも、あなたに気を遣っているというのに、ケチをつける気ですの?」
「当たり前だ! 仮に買ったところで家に入らねぇよ! 買うなら、せめて布団にしろ!」
そう言うと、麗華は膨れっ面になりつつも、ベッドを諦めてくれた。去り際に、床をダン!と踏みつけていたが、そこはスルーした方が良さそうだ。
結局、羽毛布団セット(敷布団、掛け布団、枕及びそれらのカバーの六点セット 一万二千円)を購入した。給料とクーポン券を持って来ておいて、本当に良かった。
最後に訪れたのは、二階の洋服コーナーだった。予想通りというか覚悟はしていたけど、やっぱり女性向けのファッションブランドショップだった。しかも、この店、洋服はもちろん、靴や下着まで用意してある。俺はファッションには疎いけど、きっとかなり有名なブランドに違いない。
「……あの、麗華さん?」
「どうしましたの?」
「あの、俺、朝食の時に高いブランド品は断ると言いませんでしたっけ?」
「何を言っていますの? これでも、あなたの為に、気を遣ってあげましたのに」
「気を遣うって、これのどこが気遣いなんですか?」
「今までなら、セレブ御用達の高級ブランドやオーダーメイドにしていましたけど、あなたの為にわざわざランクをかなり下げましたのよ。これくらいなら、あなたでも余裕で払えるでしょ。それとも、あなたこれでも、まだ問題があると言いますの?」
「わ、分かったよ」
そこまで言われると、俺も折れざるを得なくなった。まだ高いと言ったところで、文句を言われるのも嫌なので、ここは彼女に従った方が良さそうだ。給料(残りニ万二千円)、クーポン券、ポイントカードも間に合うのだろうか? 物凄く不安になって来た。
店の中では、大人の女性二人が服選びに迷っているけど、何だか楽しそうな様子だった。多分、二十代の女性向けブランドなのかな? 麗華は俺と同い年くらいとはいえ、結構大人びているし、こういう服も案外似合いそうだ。
麗華は自分に似合いそうな服を探しに店内をキョロキョロしながら歩くと、すぐさまハンガーを手に取った。
「これにしますわ」
麗華が選んだのは、赤いワンピースだった。この前着ていた派手な物とは違い、長袖に白い襟が付いていて、スカートのすその部分が広がったシックなデザインだ。やっぱり、見立ては良いんだな。で、気になる値段は……ゲッ! 一万二千円?! ワンピースって、そんなに値段がするのかよ! 何がランクを下げただよ!
「あ、あの……麗華さん。さすがに、その金額を払うのはちょっと……」
「何を言っていますの? これくらいの服も買えないと言いますの?」
「ま、まぁ、それだけ買うなら何とか……」
「だったら、問題ありませんわね」
そう言うと、麗華は満足げな笑みを浮かべて、再び歩き始めた。
「あっ、この服も良いですわね」
レジに行く途中、他に良い物を見つけた様だ。今度は、シックな白いブラウスだった。これも、きっと相当高いんだろうな。一応、値段を確認すると、七千八百円。さっきのワンピース程ではないけど、相当な金額だ。
「あと、このブラウスに合うアンダーも必要ですわね」
そして、例のアンダーを探すと、ブラウスと向かい合わせにあった、華やかなオレンジゴールドの細いスカートをカゴの中に入れた。
「あっ、この靴も良いですわね。あと、下着も買わなくては……」
「あ、あの麗華さん、それ以上買うと、俺の手持ちが……」
「何を言っていますの? あなたは私の従僕なのですから、これ位の服も買えなくてどうしますの?」
「高校生に、そんな高い服が何着も買える訳ないだろ。それに、あんまり大量に服を買っても、置き場所に困るし、実際に着たら似合わない事だってあるかもしれないし」
そう言うと、麗華は「仕方ありませんわね」と言って、歩き始めた。一体どこに行くんだ?ついて行って辿り着いたのは、試着室だった。ここで試着をするという訳か。
「阿見、しばらくそこで待っていなさい」
そう言うと、麗華は試着室のカーテンをサッと閉めた。
カーテンが閉まってから、数分が経過した。遅いな、大分時間が掛かっているな。一体、中でどうしているんだ? ちょっと、カーテンでも開けて確認を……って、いけねぇ、いけねぇ! そんなことをしたら、間違いなく麗華から変態のレッテルを張られて、周りの客から不審な目で見られてしまう。せめて、声でも掛けようか。そう思ったその時、
「終わりましたわ」
という声と同時に、シャッとカーテンが開く音がした。ようやく着替えが終わったか。そう思った瞬間、俺は絶句した。
先程のブラウスとスカートを着た麗華は、気品があり落ち着いた雰囲気だった。このまま黙っていれば、まさに深窓の令嬢という言葉が似合うだろう。俺は、言葉が出ず、ただ赤面していた。
「どうですの? 何か感想くらい言ったらどうですの?」
「あっ、あぁ……に、似合ってるよ」
そう言うと、麗華は満足した顔で言うと、再びカーテンを閉めた。
「なら、こちらはどうですの?」
今度は最初に手に取ったワンピースだった。こちらもサイズはピッタリで、いかにも彼女らしい高貴な雰囲気が漂っている。改めて、彼女がお嬢様だったことを思い知らされた。
「どうやら、気に入った模様ですね。どうです?」
「あぁ、凄く似合っているよ……」
「やはり、私が見立てた通りでしたわね」
そう言って、誇らしげになったお嬢様は、満足しながらカーテンを閉めた。
「ところで、阿見。これが終わったら、もっと服を買っても構いませんわね」
カーテンの中から麗華の声が聞こえた。
「無理だよ。これ以上、買ったら俺の手持ちの金が無くなるし、他にも荷物があるから、全部は持ちきれないよ」
「どれも似合うのだから仕方ないでしょ。あれだけ私の試着した姿に見惚れていたのに」
「それとこれとは、また別だ!」
「従僕の癖に生意気な口を利きますわね。それ以上言ったら、お仕置きですわよ!」
それを聴いて、「ふざけんな!」と怒った俺は、咄嗟に試着室のカーテンを開けてしまった。
「!?」
その瞬間、衝撃が走った。
試着室の中、まず目に入ったのは、ハンガーに吊るされた麗華の服と試着した洋服。そして、きめ細やかな白い肌。そして、ふと視線を上げると、ローズピンクのブラジャーを着て、顔を耳まで真っ赤にした麗華だった。
「……」
それを見て、俺も思わず顔を真っ赤にしてしまったのだが、直後に後悔の念に襲われ、即座に謝罪の言葉と同時にカーテンを閉めようとした。が、その瞬間、麗華の右足が俺の腹部に直撃して、そのまま突き飛ばされた俺は壁に激突してしまった。お嬢様なのに、過激な事をするもんだ。そう思いながら、俺はそのまま今日で二度目の気絶をした。
「ふーっ、やっと終わった……」
帰宅後、俺はベッドの布団に向かって、バタンと倒れ込んだ。
結局、俺達はワンピース一点を買った後、逃げる様に店を後にし、安心価格と評判の衣料品チェーンストアで、パンプス一足、下着(ブラジャー、ショーツ一組)、パジャマ、合計二万五千円を、残りの給料とポイントカード、クーポン券を使って全て払った。更に試着室を覗いてしまったお詫びに奢ったクレープと夕食用のハンバーグ、千円と、高校生にしては、かなりの出費となってしまった。クーポン券とポイントカードの割引でギリギリ足りたけど、おかげで財布の中は、スッカラカンだ。やっぱりお金は必要だなと、つくづく思った。
その後、家まで荷物を持って、一時間も歩いていたせいで、まだお昼になったばかりなのに、もうクタクタだ。一日分の体力を消耗したかもしれない。これでも、体力はそれなりにあるつもりだったんだけどな……。
「まだ、寝て良いとは言っていませんわよ」
「何言ってんだよ。せっかく、荷物を運び終えて疲れてるんだから少しは休ませてくれよ」
「全く、これくらいの事で疲れるなんて、だらしないですわね。それに、まだ布団や洋服の片づけがありますし、ランチの準備もあるでしょ」
「じゃあ、ふりかけ掛けて、お茶漬けにするか。それなら、すぐ作れるから」
「あなたね、主人に、そんな簡素な食べ物を食べさせるなんて、いい加減にも程がありますわよ!」
「じゃあ、どんな物なら良いんだよ」
「先程買ったナイフを使った料理が良いですわね。例えば、神戸牛のステーキランチとか……」
「そ、そんな物より、さっき買ったハンバーグならどうだ? あれなら、ナイフも使えるから、良いと思うぜ」
「あれは夕食に食べる予定だったのではなくて? と言いたい所ですけど、私もお腹が空きましたし、それで我慢するとしましょう」
ちょっと、不満そうな顔を見せたが、何とか聞き入れてくれた。洋服と布団の片付けは、昼飯を終えてからにしよう。
それにしても、食器で食事が華やかになるのか。今まで意識した事は無かったけど、食事を楽しむのは悪くない。食事が楽しくなれば、コイツの機嫌も少しは良くなるだろう。そう思いながら、俺は昼食の準備を始めた。
朝食は当初、ほうれん草カレーにする予定でしたが、「ほうれん草は高い」という指摘を受けて、現在の様になりました。
2018年1月14日、別サイトで「古典的過ぎる」という指摘を受けたので、内容を変えました。