創作考(一) ~ダメ人間の私が創作の「How?」について考えてみるようです~
創作考。
文字通り「創作」に関する私の考えです。つらつら考えて得た気づきなどを気ままに綴ります。
中には「そんなことはないんじゃない?」というようなものもあるかもしれませんが、まあそこはそれ、そういうこともあるよねと、ご容赦いただけますと幸いです。
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それでは本編です。
今回は「キャッチーさ」というものについて考えてみました。
通じるのかな。「キャッチーさ」。どう表現すればいいのか分からなくて、こう書いたんですが。
いわゆる「アイキャッチ」とか「キャッチコピー」とかの「キャッチ」のつもりです。「人の関心を惹くための」くらいの意味でしょうか。
「なろう」で活動されてる方は、みなさん感じていることかと思いますが、この「キャッチーさ」がないと、読んでもらいにくいですよね。私はラノベ系は読まないのですが、あれだけの量が出ていると、ひと目で「何それ?! どんな話?!!」という感情を喚起できないと、うまく見てもらえないんじゃないかと思うんです。
だから、タイトルで分かりやすく表現して内容を想起させてみたり、異質感を盛り込んで惹きつけてみたり、あらすじで丁寧に解説してみたり、あえてあらすじを短くまとめて続きが気になるようにしてみたり、まあいろいろされてる方もいるんじゃないかなぁと想像しています。
ここで語ろうとしているのは、そういうキャッチーさについてです。
ただし、ここは「創作考」なので、宣伝方法ではなく、創作内容の「キャッチーさ」についてのお話です。
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ちょっと想像してみてください。
最近、近所に新しいショッピングセンターができたとします。
「ようやく近くにできるらしい!」
「どんな店が入るんだ?」
「おいしいご飯屋はできるのか?」
……などなど、地元はその話題でもちきりです。もちきりでしょう、きっと。そういうことにしておいてください。
ではなぜ、そんなにトピックになるのでしょうか。たかだかショッピングセンターです。どこにでもあります。
私は、きっとみんな「どんなところになるんだ?」というのが気になるんだと、そう考えました。
私が今回言いたいのは、この「どんな?」、つまり「How?」のお話なんです。
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どんなものなのか分からない。
まったくの未知。
どうやらそういう謎めいたものに、ヒトという生物は深い興味を持つようです。
最もシンプルで分かりやすい例が「ブラックホール」でしょう。ご存知ですよね、ブラックホール。宇宙に空いた黒い穴。なんでもかんでも、光でさえも飲み込んでしまうという、アレです。
理系の話題は、一般的には世間に浸透しにくいものですが、ブラックホールの知名度は、おそらくダントツです。
それはたぶん、「中はどうなっているのか」という、ヒトの純粋な好奇心が喚起されるからだと思うんですよ。
中はどうなっているのか。飲み込まれた物体はどれだけ粉々になるのか。あるいは案外、形状を保てていたりするのか。光が飲み込まれると、その中で光はどうなるのか……etc。
「わたし、すごく気になります!」というやつですね。エルさんは純粋な好奇心の権化です。
ショッピングセンターの話も、たぶんそういうことです。「どんな店が入るんだろう」「どんなサービスがあるんだろう」「どんなイベントが行われるんだろう」「どんな」「どんな」「どんな」。
こういった「How?」は、創作においてもよく見られ、また重要であるように思います。
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そうですね。そろそろ、具体例で考えてみましょうか。
まずは、「穴」です。ブラックホールもその一つですが、もっと広い概念としての「穴」です。
すっごく深い穴があったとします。それを見つけたとき、あなたはどうしますか?
私は覗きます。「奥はどうなってるんだろう」って。
パッと思いつくお話は、星新一の『おーい でてこーい』ですね。有名だと思います。あれは、謎の穴という魅力的な要素をメインテーマにして、その穴の謎を最後まで明かさないように展開して、ラストで正体を一気に明かして読者を絶望の底に叩き落とす。そういう流れのお話でした。
「穴」という謎めいた魅力を持つ、「How?」の塊のような存在で、読者を惹きつけたわけです。
次は「箱」。
すみません、具体例はあんまり思い浮かばないんですが、きっといろんな人が題材にしていると思います。
科学者のシュレーディンガーは「猫が入った箱」「中の猫は生きているのか死んでいるのか」というたとえを出していますが、これも人が「中はどうなっているのか」という好奇心を持つ生き物だから、そういうたとえ話をしたのでしょう。
そういえば、阿刀田高だったかな? 『黒い箱』みたいなタイトルの本があったような気がするんですが、あんまり思い出せません。
他にも、「ふたを開けてみれば」という表現があるように、人間は昔から、箱というものに強い魅力を感じていたようですね。
続いて「卵」。これも「中に何が入っているんだ」という「How?」を喚起するものだと思います。正確には「What?」ですね。「割れたら何が出てくるんだ?」という。
ドラクエやらの各種ゲームでは卵からモンスターが生まれますし、最近のスマホガチャなんかも「卵」で大儲けしています。きっと、「卵」にはそういう性質があるのでしょう。
具体例としては、小説じゃなくて漫画なんですが、吾妻ひでおの何かで登場しています。タイトルは忘れてしまったんですが、科学者みたいな女の子がいろいろやって、卵から神様のようなバケモノを生みだす……というような話だったと思います。
もちろん他にもたくさんあるでしょう。星新一でもあった気がするし、ゲームではたくさん出てきます。他にもまず間違いなくあるはずです。卵の中身で読者をキャッチするお話。
これらには少し劣るかもしれませんが、「密閉空間」という概念も魅力的です。小松左京の『ゴルディアスの結び目』で登場します。かなりヤバい感じの女の子の狂気的な精神世界に入り込んでいくというSFです。謎の魅力が、読者としての私を惹きつけてやみませんでした。
以上が、「中には何が入っているんだ」という「How?」です。
どうでしょう。うんうん、と思ってもらえるのかな。そうだったらいいな。
思うに、近ごろ、惑星探査で土星の衛星たちが話題ですが、ああいうのもきっと「衛星の中はどうなっているの?」という「How?」に、多くの人が魅力を感じているんでしょう。
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続きまして、以上のものほどには魅力的ではないですが、それでもけっこうな「How?」を喚起するテーマです。
まずは「ボタン」。「押したらどうなるの?」という「How?」です。
学校の非常ベルのボタン。あれを押しちゃう人が、どうして出てくるんでしょう?
あるいは、よその家のインターフォン。あれを押しちゃう人も、結構いますよね。
ボタンというものには、「もし押したらどうなるの?」という好奇心としての魅力と、「押してはいけないからこそ押したくなる」という背徳的な魅力が混在しているんじゃないかと思うんです。
先日、『公募ガイド』という雑誌の「TO-BE小説工房」というところに応募しましたが、その課題が「ボタン」でした。実は今回のエッセイでは、この課題のアイデアを練っているときに考えていたことを綴っています。
ボタンは、「押したら何かが起こる」ということが分かっているだけ、魅力の強さでは「箱」などには劣ると思います。しかしその一方で、「何かが起こることは分かっている」からこそ「じゃあ何が起こるのか?」という「How?」を喚起しやすいのだと思います。
続いて「風」や「道」や「虹」です。「どこから来たの?」「どこへ続いているの?」「根元はどこにあるの?」という「How?」です。いや、これは「How?」ではなく「Where?」なんでしょうが、まあ似たようなものでしょう。
「どこから」「どこへ」「どこに」という要素は、似たような好奇心を喚起します。「人はどこへ向かっていくのか」とか、「風の吹くまま」とか、そういう表現にも表れていますね。
具体例としては、作者は誰だったかな、『いらかの波』の人だったかな? 少女漫画でたしか『千夜一夜物語』というタイトルだったと思うんですが、虹の根元を追いかけ続ける話です。その過程で妖精に遭遇したりいろいろあるんですが、まあ基本的には虹の話です。「虹はどこにあるのか」というテーマを主軸に据えて、読者をゲットするわけですね。
なお、「穴」は「どこへ」の要素を含んでいますが、それ以上に「どうなって」の方が強く、そのため「道」などよりも好奇心の喚起力は上だろうなと思っています。
他にも「脳の働き」や「未来の世界」などは、人の興味を喚起してやまないテーマとして、これらと同列に挙げられるんじゃないでしょうか。
ただ、先にも書いたとおり、やや具体性が増している分だけ、魅力としてはランクが落ちます。それでも、人が不思議に感じて、魅力を感じるテーマでしょう。魅力を補うストーリーを設定してやれば、十分に張り合えそうです。
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まとめに入ります。
創作をする際に、どんなネタにしようかと考えることがあります。
そのときに、ボタンだとか箱だとか、風だとか道だとか未来だとか、そういうものを結構考えつきます。
しかし、これらをテーマにすると、実に難しい。
安易になりがちだからです。ありがちなんです。
誰でも思いつくからこそ、難しい。
「箱」の中身を、何にするのか。「ボタン」を押して起きるできごとを、何にするのか。
すごくかぶりやすい。
今回、先に書いた課題「ボタン」で苦しんでいたとき、いろいろとアイデアを考えていました。
そして、ほとんどに魅力を感じませんでした。
というのは、安易だなあと思ったネタが多かったこともそうですが、「それ、ボタンじゃなくてもよくね?」というようなアイデアが多かったんです。
たとえば、「ボタンを押すと、○○という物が××になる」というアイデアがあるとします。
これ、「箱に○○を入れてふたを閉じ、また開けると××になっている」と言い換えても、問題ありませんよね。
どっちでも成立しちゃうんです。
じゃあ、ボタンの魅力とは、その本質とは、いったい何なのか。
そんなことを考え続けて、私は「押したくなる衝動」だと結論づけました。
そして「箱」は、「中を見てみたくなる衝動」です。
これらが、それぞれの本質的な魅力ではないかと、そう思ったのです。
たぶん、これらの本質的な魅力を存分に引き出すことができれば、そういう創作活動ができれば、すっごく面白いお話になる。
『おーい でてこーい』は、その意味で「穴」というものの魅力を最大限に引き出しているようにも感じます。
以上のような思考過程から、創作活動における「キャッチーさ」とは、「読者の好奇心を強くくすぐるようなテーマを設定すること」だと私は思いました。
そしてこの「キャッチーさ」を満足するためには、上記のような魅力あふれるテーマを設定したうえで、その魅力の本質に迫ったストーリーを読者に想起させればいいんじゃないでしょうか。
これを最大限に実行し、そしてその好奇心を最大限に満たしてやるようなストーリーを作ることができれば、すごく面白い、人気の出るお話になるかもしれません。
創作におけるキャッチーさ=読者の「How?」という好奇心を強く喚起するテーマ
キャッチーさの満足条件=「How?」の本質を研究し、それを十分に引き出すストーリー
ごく当たり前のことかもしれませんが、真理なんて得てして当たり前のものだったりしますしね。
考えてみると、小説そのものが「箱」みたいなものです。
「どんなお話なんだろう」という「キャッチ」があるわけですから。
特にショートショートなどは、まさに「箱」そのものかもしれません。短いうえに、オチがあるものが多い(はず)なので。
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以上で、今回の私の駄文は終わりです。
この気づきを、今後のお話作りに活かしていければいいなと思います。
それではそれでは。
ここまで、私の駄文に長々とお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
いつものように、最後は私の好きなこの言葉で、締めくくらせていただきます。私の好きな作家さんが、あとがきで毎回使っているフレーズです。
もし。
もし、このお話を、あなたに「確かにそうだね」と、そう思っていただけたとして。
もしもご縁がありましたなら、いつの日か、また、お目にかかりましょう―――――。
平成二十九年五月一日
笹石穂西