三つの塔
朝食を済ませると、早速その塔とやらに行ってみることにした。パーティは四人。ぞろぞろと歩くと目立ち警戒されるので二組に分かれようかという話になったが、
「大丈夫、こんな早起きの悪党はいないから」
とシュンマが言うので全員で向かうことにした。タジキ爺さんの言葉を思い出す。
町は人通りが少なく閑散としていた。歩いているのは意外にも女性が多く。早めに買い物をすまそうとしているようだ。これも「早起きの悪党はいない」からだろう。
「見学の前にちょっと俺の倉庫に寄っていいかな」
シュンマを先頭にパーティは進む。
倉庫は木造の平屋だった。造りは荒いがやたらと広い。この街の建物は全てコンクリート製かと思ったが、町の中を歩くと木造の建物が多い。
「ちょっと待ってて」
シュンマはそう言って倉庫に入っていった。扉を開く時室内がチラリと見えた。がらくたが山積みされているようだ。
しばらく待つとシュンマは武器や防具らしいものを持ってきた。
「まずはテツオ君だ。君の武器は驚異的だけど、防具が何も無いのは余りに危険だ。必ずしも先制攻撃できるわけじゃない。敵に先を取られたらお終いでしょ。だからこのシールドをあげる。左腕につける盾だ」
シュンマの鎧と同じような金属の細長い板を受け取った。
「板の先がグローブ状になってるでしょ。これを左手に、特に中指はしっかりはめて。で手首を固定し、反対側を肘に固定する。うん、サイズもいいね。左前腕の盾だ。腕を胸元に構えると丁度防具になるでしょ。結構便利だよ」
大きさは前腕をすっぽり覆うコンパクトサイズ、だが軽くて頑丈そうだ。確かに左腕で胸元を守るようにすると丁度よく身体を守ってくれる。
「ただのシールドじゃないんだ。えっと、姉さん。テツオ君のシールドを剣の棒芯で叩いてみて」
マミヤは返事もせずいきなり振りかぶった。僕はヒッと身体を守る。シールドにマミヤの剣が当たる衝撃と共にシールドが円形に開き、本物さながらの丸い盾になった。
「ね、便利でしょ」
「攻撃を受けてから開いたんじゃいみないわよ」
マミヤが指摘するシュンマは得意満面になる。
「もちろんそうさ。もう一つの仕掛けがある。まずは盾を畳もう」
肘側に付いている紐を引っ張ると盾は折り紙のように元の細長い盾に戻った。
「今度は左手首を思い切り内側に捻ってみて。中指を意識しながら」
言われた通り捻ると、やはり板がパタンと開いて円形の盾になった。
「すごい」
僕は素直に驚いた。
「なかなかアイディア賞もんでしょ。バタフライシールドと名付けようか。しかもその盾は俺の鎧同様、特殊な合金で出来ている。薄いけど強度もなかなかのものだよ」
「特殊な合金って?」
「ああ、簡単に言ってしまえば鉄に色々な金属を混ぜて作ったものだ。レシピは内緒。めんどくさいから単に合金って呼んでいる。俺の鎧も合金で出来ている。ちょろい剣や弓矢なんかはじき返してくれるよ」
シュンマは意味深にマミヤを振り返り、
「姉さんの棒芯もただの鉄じゃないでしょ」
「……そうよ」
マミヤは見透かされたような不快な顔をする。なるほど。だから大振りの太刀すら受け止められるのか。ただの鉄なら曲がるか折れるのかも知れない。
「もう一つはウラヌスさん用だ」
さっきから気になっていた大型の斧を手にした。
「木こりの鉄斧じゃ攻撃も破壊力も不安だからね。このバトルアックスを使えばいいよ。かなり重いけどウラヌスさんなら扱えるでしょ」
それは巨大な斧だった。両面の刃で先端は槍状になっている。
「こりゃいいな! ありがとよ!」
「柄の部分は二段式に伸びるようになっていて、両手持ちも可能なんだ。ただその分柄の強度は低くなるので気をつけて」
ウラヌスが柄を引っ張ると長さが二倍になった。両手持ちで振ると風切り音が凄まじい。小さな馬車なら一撃で小破できそうなくらいだ。柄が長いから槍のように付くことも可能だ。
「気が利くな。これもそのゴウキンってやつか」
「刃の部分はね。柄の部分は普通の鉄だから気をつけて」
「普通逆じゃない」
「全部合金にしちゃうと軽すぎるんだ。刃の強度は維持したかったから柄の部分を重い鉄にしたのさ」
「いいねえ、鬼に金棒だ」
ウラヌスはご満悦だ。
マミヤに目を向けると、
「あたしは今の得物で十分だわ」
シュンマの言葉も待たずに断じた。
「それと。これを全員に渡しておくね」
シュンマは小型ナイフの柄のようなものを皆に渡した。
「柄にあるスイッチを押してみて」
柄からシュンマのライトソードと同じ光の刃が現れた。
「ライトタガーと名付けておこうか。直接武器にはならないと思うけど、携帯していると便利だよ」
これはマミヤも素直に受け取った。光の刃をまじまじと見つめる。
「俺のライトソードもだけど、この光の刃は薄い鉄ぐらいは焼き切るから取り扱いに注意してね」
僕はバタフライシールドの手触りを確かめ、ライトダガーの青い光を見つめる。いままでナゲイシしか装備がなかったので、盾とタガーを手に入れたことによってレベルアップした気になった。
一行は新しい武器防具を得てジャバイジャの町の奥を進んだ。
「それにしても無駄に広い町だな」
ウラヌスが遠方を見てつぶやく。人気はなく建物は不規則に点在している。
「コンクリートの建物ばかりと思ってたけど、案外普通の木造家屋が多いね」
僕の言葉にシュンマは、
「コンクリートの建物は昔からあった遺跡。木造家屋は後からジャバイジャの人々が建てたものらしい」
「イセキ?」
「そう、遺跡。ジャバイジャの人間にコンクリートを生成する技術はない。既にあったものを勝手に利用しているんだ」
「それは初めて聞くわね」
とマミヤ。
「うん、考えてみれば不思議だよね。始めに遺跡あり。それを発見した人々が移り住むようになった。彼らに遺跡と同じコンクリートを生成する技術はなかった。だから取って付けたように木造家屋が不自然に並んでいるんだって」
「じゃあ大昔はコンクリートを生成出来る人々がここに住んでいたんだ」
「たぶんね。彼らは何故かいなくなり、生成技術も闇の中。遺跡だけが残ったって話さ」
「あれ? じゃあシュンマが仮説した地下室も」
「地下の空洞も大昔に作られたと思うな。いや、自然に出来た洞窟を改良したのかも知れない」
「だとしたら凄い技術ですね」
「うん。何故彼らはいなくなったのか不思議だね。滅んだって言い方も出来るけど」
町が滅ぶ。一体何があったのだろう。見当もつかない。
「ほら、最初の塔が見えてきたよ」
もはや町の中とも言えない荒野を歩いていると、正面に円形の塔が見えてきた。この塔は煉瓦造りだ。
「思ったよりでっけぇな!」
「馬車が行き来するくらいだからね」
「高さもかなりあるわ」
一行は囲むようにして円塔の様子を探る。確かに二頭引きの馬車でも余裕で出入りできそうだ。ただその出入り口が分からない。
「入り口らしきものはねえな!」
「それが不思議なんだ。俺が見張っていたらこの煉瓦の壁が観音開きになって馬車が入っていったんだ」
「ものが煉瓦だから、どこが扉の隙間なのか判別できないな」
「俺が見た時は確かこの辺が開いたはずなだけどね。扉の隙間は見当もつかない」
「煉瓦造りってことは」
「うん。遺跡ではなく後から建てたものだろうね」
「上の物見やぐらみたいなのは?」
「使われた形跡はないね」
「じゃあ待ち伏せするならこの物見台が最適ね」
「ちょっと登ってみましょうか」
階段は塔の周りを一周するように組まれている。
「足下はかなり狭くて頼りないから気をつけ。特にウラヌスさん、落ちたら痛いじゃ済まないですよ」
「わかってらい!」
一行は塔の天辺に着いた
「おお! これは」
「なかなか絶景だね」
僕はウラヌスと一緒に感嘆する。地平線がきれいに弧を描いている。ぽつりぽつりと木造住宅の密集地やコンクリート製の建物が見えた。この視界いっぱいがすべてジャバイジャらしい。想像以上に広い町だ。
「あ、あれ。あとあっちのあれ」
めざといマミヤが声を上げた。今登っている塔と同じような建物が幾つか見える。
「そう、第二、第三の塔さ」
「かなり距離があるな」
それぞれ遠く彼方に見える。この距離分洞窟があるとすれば、ジャバイジャの地底そのものが洞窟になっているはずだ。どんな洞窟なのか、僕には想像もつかない。
「この物見台は人が立った形跡がほとんどないわね」
「そうだね、俺が馬車の出入りを見たのもこの台からだったから」
なるほど。真上から見張っていれば見つかることはまずない。
それぞれが方々の景色を見ていると、
「まあ、一塔目はこんなところでしょ。次に行きましょ」
と、言ったが早いかマミヤは突然塔からヒョイと飛び降りた。全員がぎょっとして一斉に下を覗く。
「あと二つあるのよ。早く行きましょ」
マミヤは下から平然と声と投げかける。
「あの姉さん、いつもこんな感じなの?」
シュンマの問いに僕は、
「いや、今のは初めて見ました」
胸をなで下ろしながら答えた。
次回 2/20 17時投稿。
よろしければこちらの作品もどーぞ。
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