86、帝国の未来は………
ベリアルが、出た後のバタク宮殿応接室には、ソファーに深く腰掛けた老人と出入り口の前に立つ3人の男女が取り残された。3人の男女の構図は、鈍い輝きを放つ物を突き付けられた30代ぐらいの男と鋭利な刃物を持つ男女である。
「父上‼‼ なぜ、止めたのですか‼‼ あ奴をここで……… 」
「お兄様。その口を開くのをやめて頂けませんか。間違って刺してしまうかもしれません」
「皇太子殿下。隣国を刺激するのはいただけませんな。ベリアル陛下が非常に寛容だったので、この程度で済みましたが………」
「ベアトリーチェ、フラウロス。早くナイフを下ろさぬか‼‼ 」
「カール。なんてことをしでかしてくれたんじゃ‼‼ ベリアル陛下からの信用がガタ落ちではないか‼‼ 仮想敵国でそこまで信頼関係があるわけでもないのに、我が帝国まで少ない護衛で出向いて下さったというのに‼‼ 信頼を裏切る形となってしまったではないか‼‼ この木偶の坊が‼‼ 」
バラン老は、カールにまくし立てた。大概の行動が裏目に出る皇太子に行き場のない怒りが溜まっていったのが、爆発したのであろう。
バラン老も今後の帝国の未来に不安しかなく、オスリス王国との同盟があれば、何とか成るのではないだろうかとの打算もあった。いや、王国との同盟さえ締結することが出来れば、フラウロスが帝国に残り、舵取りを任せようかとも考えていた。しかし、今回の一件で皇太子の無能さを晒してしまった。心証は最悪といったところだろう。そして、国内に作らないでもいい敵を作った。
ベアトリーチェとフラウロスだ。
ベアトリーチェが、局面を動かすとは思ってはいなかった。だが、ベアトリーチェはベリアルを好きになってしまった。反対はしないが、ベアトリーチェがベリアルに嫁ぐと、ベリアルがサタル帝国皇室に影響力を持つようになるだろう。まぁ、そこにさしたる影響はない。なぜなら、フラウロスが貴族を統率しているからに他ならない。よって、フラウロスは皇室にも影響力を有している。
暴論であるが、カール皇太子を廃して、ベアトリーチェを皇太子に据えることさえ出来るだろう。
これらのことから、ある意味、敵に回してはいけない者たちを敵に回したのだ。
今では大陸最高の軍事力を有している王国であるが、数年前まで弱小国と呼ばれていた王国のイメージが抜けず、発言した皇太子………。帝国の未来が心配でならない。
さて、どの様にして、二人に刃物を下ろしてもらおうかな………。
誤字脱字がございましたらご報告宜しくお願い致します。




