78、気弱で心優しくて小さくて人形のように可愛い子はどこへ・・・ 壱
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小国郡連合戦争の論功行賞から四ヶ月後の神創暦494年清月16の陽
オスリス王国に招かざる客が来た。そいつは、長身で男にしては長いブラウンの髪、細身の若い男。若いと言っても三・四十代の男だ。細身ではあるがガリガリと言うとこではない普通の人より少し筋肉がついている程度。その男は、ステッキを突きながら王都の商店区画をぶらぶら歩いている。自分の記憶にある店があれば店主は元気にしているか訪ねてみたり、記憶にない店は遠目に見て面白そうならば入って注文や商品を見たりしていた。そして男はポツリと呟く。
「この街もだいぶん復興してきたな。いや、前よりも賑やかになっているかな。賑わいを取り戻して何よりだね。貴方はこの数年でだいぶんかわったね。人が変わったように………」
貴方はどこに進もうとしているのですか?
貴方はどうしたいのですか?
貴方の世界はどこにあるのですか?
貴方はあの君なのですか?
私の知っている貴方はどこにいるのですか?
など様々な問いかけが出てくるが口にすることはできない。これらの問いを口にした瞬間に囚われのみとなるだろう。
あの気弱で心優しくて小さくて人形のように可愛いあの君はどこに行ってしまったのだ。一つの歯車が変わってしまった為にこのオスリス王国がガラリと変わってしまった。貴方がアルイン・ザイルの傀儡の方が良かったと言っているのではないのです。ただ、貴方があまりにも変わってしまったと言いたいだけ。貴方の中で何かが弾けてしまったのかもしれない。それならば弾ける前に私に文でもくだされば良かったではないですか。送ることもできなかったのですか。それとも私を信用できなかったのですか。私の貴方に対する認識が違ったのですか。私の敬愛している貴方はどこにおられるのですか。
この言葉に返答するものは居ない。返答者は男の目線の先。商店の先に見える大きな白堊の城の主に向けた問いなのだから。それに、護衛のものたちをまいてきているのでこの男一人で商店を見て回っているから。
男が養子に貰われた所からオスリス王国に里帰りしたときのこと。
男は上司にサタル帝国のとある貴族に養子に貰われたことや帝国の情勢などを直接報告するために王宮に来ていた。ちょうどその頃に当時国王陛下であった先王の第三子がが産まれた時であった。
第三子で継承順位が低いし会うのが容易ということで「王子に会えるぞ」と言われ上司に連れて行かれて王子に謁見することになった。きちんと国王陛下には許可を取ってからの謁見である。しかし、男は第一王子や第二王子にも謁見した経験があった。その時も上司に無理矢理連れていかれた。
第三王子を一目見たときから第一王子や第二王子とは何かが違うと感じた。その何かがわからなかったが第一王子や第二王子とは違う第三王子に着いていこうと決めた瞬間だった。それから理由を付けて里帰りをする度に第三王子に謁見した。そこから気弱で心優しくて小さくて人形のように可愛い第三王子を自分の子供のように見守ってきた。
だが、年をとるごとに帝国での役職の重要度が上がっていき数年里帰りしていなかった時に事件は起きた。王家の方々の事故死。生き残ったのが成人にはほど遠い第三王子だけだった。貴族派が勢力を強めているのは知っていたが、この様なことをするとは夢にも思わなかった。貴族派が王に推したのが第三王子のベリアルだった。
貴族派を憎々しく思ったが心の奥深くでは嬉しく思っていた。絶対に国王陛下に成ることの出来ない第三王子が国王に成れたのだ。喜ばないはずがない。しかし、我が子がアルイン・ザイルの傀儡と言うのは腹立たしかった。
後に我が子は何かがきっかけでアルイン・ザイルを討ち果たしたのは良かった。だが、我が子が次々に打つ手が気弱で心優しくて小さくて人形のように可愛い子とまったく違うのだ。どうしてここまで変わってしまったのだ。
男は事の真相を知るために自らやって来たのだ。我が子に聞くために。
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