表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼に眼鏡  作者: つるめぐみ
6/8

弟の権限

 更に三日後。雅夫は玲奈とともに自宅の鏡の前にいた。

 念願の眼鏡ができあがり、いざ二人で確認と相なったわけなのだが、雅夫は緊張気味だ。

 眼鏡店で互いに見せ合おうと雅夫は言ったのだが、玲奈は家でと主張して聞き入れようとはしなかった。

 しかし、「玲奈に、なんと言われるかわからない」という緊張よりも、「こいつ、俺のことが本当に好きなんだろうか」という気持ちのほうが雅夫には強かった。

 ――兄貴のやつ、いらんことを話してくれたな。妙に気を遣っちまう。

 そんな思いもあって、いつも見られる玲奈の顔に視線を向けられない雅夫である。

「ウルトラ眼鏡ウーマンに変身!」

 当の玲奈は何も感知していない様子ではしゃぎ、眼鏡を真っ先に装着していた。

「ね、ね、どう? 頭良さそうに見える?」

「……ああ、似合ってるんじゃない」

 まともに顔を合わせられずに、雅夫は玲奈に答える。

「雅夫さーん! 本当に見てますかー!」

「おおわあああっ!」

 玲奈が顔を近づけて訊いてきて雅夫は思わず仰け反り、椅子ごと後方にひっくり返った。

「いきなり、顔を近づけるな。驚くだろ」

 体勢を立て直しながら叫ぶ雅夫を見ながら、玲奈は首を傾げる。

「今日の雅夫、変だよ。お酒飲んだみたいに顔が赤いもん。熱でもあるの?」

「ない、ない。俺も眼鏡をかけよう!」

 慌てた雅夫は、自分も眼鏡を取り出してかけた。

 瞬間、パッと視界が明るくなった感覚に雅夫は捉われた。

「結構、明るく見えるもんなんだなー。これ」

 眼鏡を発注して一週間近くかかったのは、雅夫も玲奈も視力に合わせてつくってもらっていたからである。

 意外にも視力0.6と検査でわかって、雅夫は眼鏡にお世話になることとなったのだが、眼鏡をかけるだけで、ここまで世界が変わるなどとは思いもしなかった。

「雅夫、こっち向いて!」

 玲奈から声がかかって雅夫が振り向くと、カメラのシャッター音が響いた。

 デジカメを手にした玲奈が、撮った画像を確認しつつ、悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「お前なー。また……」

 玲奈が自分の写真を利用して遊ぶと思って、雅夫は詰め寄った。

「あのさ、今からプリントアウトしてあげるから、この写真を履歴書に貼って、明日の面接は行きなよ。絶対、そっちのほうがいいし、採用してもらえるから」

 玲奈が言ったのは、明日、雅夫が面接すると知っていての思いやりの言葉だった。

「ほら」と言って玲奈が見せた画像には、かなり写りのいい雅夫がいる。

「うん、俺もこっちのほうがいいと思う」

「上手く加工すれば顔色も良くなるし、イメージもかなり変わると思うんだ。今からしてみるね。明日には間に合わせないといけないし――」

 デジカメ片手に、雅夫の部屋の窓を開けた玲奈は、隣の自分の部屋の窓も開け――。

「じゃあ、戻る!」

 スカートなのにも構わず、窓から窓へと大きく跨いで跳び移る。

「……下で兄貴が見てたんだけど」

 兄がいると雅夫は気づいていたのだが、玲奈の動きがはやくて忠告が間に合わなかった。

「嘘っ、遼平のエッチ」

 覗きこんでも、先程まであった兄の姿はどこにもない。

「証拠不十分で起訴は無理だなー。故意でもないし」

「もー……最低! 雅夫、後で叱って!」

「俺に兄貴を叱る力量と権限があればね」

 玲奈が窓を閉めた直後に、兄の遼平が雅夫の部屋をノックもせずに入ってきた。

「解説ほしいか? 拝聴料二百円で」

 言ってきた兄に雅夫がひくついた笑みを見せたら、二百円プラスされた。

「出てけっ! なに考えてんだ!」

 ベッドの枕を思いっ切り投げつけると、兄が足を振りあげ、華麗なダイレクトパスを返してきた。思いがけないパスに反応し切れず、雅夫は顔面で枕を受けてしまう。

 何も言えずに、倒れこんだままの雅夫を無視して、兄がドアを閉め、

「俺、スーパーマンじゃなくて、バッドマンだから」

 と扉越しで言っていた。

 ――ほらな、兄貴を叱る力量も権限も俺にはないんだって。

 そう思いつつ、去り際に兄が言ったセリフに対し、「うまい!」。けど、褒めたくねえ! と、つい突っこみ気質の雅夫は、心の中で叫んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ