表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

天使が死ぬとき

作者: satuki

息の絶えた虫共の、死骸を踏み潰して、残暑の残った秋の紅葉に目を細める。

そうして潰れた亡骸を、じっと見ていて思うのだ。

私もこれだけ熱く命を燃やせられたら、あっさりぽっくり死ぬことが出来たなら、もっとマシな生き方を望んだだろう。

生き意地汚く生きていこうなんて、微塵も思わなかったに違いない。

それもこれも、アイツのせいだ。

私に生きろと言ったアイツのせいだ。

どうせ生きていてもどうしようもないような生き方をしてきた。

だのに、アイツは笑顔でこういったのだ。

「生きてくれ」

丸禿の頭に笑顔でそう言った相手に、「どうして」と聞くのは当たり前だろう。

君は今まさにそれを問われている立場であるはずなのに、どうしてのんびり構えていられるんだ?

そう質問した私の力のない目を見つめて、少し照れたように禿げた頭をなでた。

しかし答えは返ってこなかった。聞けるだけの時間がなかった。

まるで棺桶の底のようなベッドに横たわり、精一杯の笑顔を向けて、ゆっくりと目を閉じた後、息を引き取った。

どんな死に方よりも美しいと思った。

まるで白魚のような肌と、坊主のような禿頭はなんだか統一性がないようにも感じられたけれど、ここまで静かに死ぬ人間を初めて見た。

私の想像する死に方というのは、辛く苦しいものだと思っていたからだ。

まるで寿命まできっちり生きたように、病に犯された様子など微塵も見せない死に方を、私は見てしまった。

だから、彼女のように死ぬために、今を必死に生きている。

あがいてもがいて、みっともなくも恥ずかしい生き方でも、あの子のように息を引き取ることを夢見て、今日を終えた。

重い瞼は、まるで死に向かっているような心地よさを覚える。

そして、また夢の中で彼女がこちらを向いて、白い歯を見せているのを見るのだ。

いつかそこで、彼女に言って欲しいのだ。


「お疲れ様」


その透き通るような声を聞いて昇天するのなら本望だと、今でも、今だからこそ強く感じるのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ