天使が死ぬとき
息の絶えた虫共の、死骸を踏み潰して、残暑の残った秋の紅葉に目を細める。
そうして潰れた亡骸を、じっと見ていて思うのだ。
私もこれだけ熱く命を燃やせられたら、あっさりぽっくり死ぬことが出来たなら、もっとマシな生き方を望んだだろう。
生き意地汚く生きていこうなんて、微塵も思わなかったに違いない。
それもこれも、アイツのせいだ。
私に生きろと言ったアイツのせいだ。
どうせ生きていてもどうしようもないような生き方をしてきた。
だのに、アイツは笑顔でこういったのだ。
「生きてくれ」
丸禿の頭に笑顔でそう言った相手に、「どうして」と聞くのは当たり前だろう。
君は今まさにそれを問われている立場であるはずなのに、どうしてのんびり構えていられるんだ?
そう質問した私の力のない目を見つめて、少し照れたように禿げた頭をなでた。
しかし答えは返ってこなかった。聞けるだけの時間がなかった。
まるで棺桶の底のようなベッドに横たわり、精一杯の笑顔を向けて、ゆっくりと目を閉じた後、息を引き取った。
どんな死に方よりも美しいと思った。
まるで白魚のような肌と、坊主のような禿頭はなんだか統一性がないようにも感じられたけれど、ここまで静かに死ぬ人間を初めて見た。
私の想像する死に方というのは、辛く苦しいものだと思っていたからだ。
まるで寿命まできっちり生きたように、病に犯された様子など微塵も見せない死に方を、私は見てしまった。
だから、彼女のように死ぬために、今を必死に生きている。
あがいてもがいて、みっともなくも恥ずかしい生き方でも、あの子のように息を引き取ることを夢見て、今日を終えた。
重い瞼は、まるで死に向かっているような心地よさを覚える。
そして、また夢の中で彼女がこちらを向いて、白い歯を見せているのを見るのだ。
いつかそこで、彼女に言って欲しいのだ。
「お疲れ様」
その透き通るような声を聞いて昇天するのなら本望だと、今でも、今だからこそ強く感じるのだ。