表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/33

▼4▲

「――で、スカウトに失敗したわけね」

「申し訳ございません、断られました。僕の力不足です」


 ベイスは学校からの帰宅後に、同じく帰宅していたローズの自室で紅茶を淹れて勧誘失敗の報告を行った。

 主人として「期待してない」と電話で言ったが、ローズは少し考え、助言した。


「ふうん、でも悪くない断り方をされたわね。折りを見てレース観戦にでも誘ってみなさい」

「と、仰りますと?」

「単純な話よ。ベイスの見込みは正しいってこと。その子は母親の意図を汲んで、自分なりの夢や好きなことを探そうとしてる。つまりは新しい環境への適応に対して前向きなの。だけどその大きく広がった視野はまだ、単に与えられたものでしかないって気付いてる」

「では彼女の母の気遣いは、現状は裏目だと?」

「違う違う、立派に機能してるわよ。少なくとも平民になったことに対し、その子はちっとも浮かれてない。私のもっとも嫌いな凡俗の愚鈍さが全くない、優れた感受性の持ち主よ」


 ローズは言って、ではそう断じる己はどうなのかと一瞬だけ自問する。

 結論はひとつ、それを疑い考え続けなければ、明日に進むことはできはしない。

 己を完全だと盲信することは、昨日の自分に今の己が喰われることと同義だからだ。


「――ま、とにかくベイスも言われたように、今は駄目でも諦める必要ないわ。しつこいって言われない程度に交流してみること。だってもう友人なんでしょう、ソラムって子とは?」

「はい、そうありたいと思います」

「……ふふん。ところでその子は可愛いわけ?」

「ごく一般的な見方からしても、十分に。明日は写真を撮ってきましょうか」

「そうね、話題を提供してみせなさい。で、ベイスの価値観としては?」

「好ましくなければ話しません。お嬢様のチームに誘う以上は当然その点も加味しています。しかしおそらくバストサイズはCでしょう、貧乳ではありません」

「ははっ、そこまで気を回すことないわよ! でもいいわ、ベイスには良い刺激になりそう。ことその子の勧誘に関わる事案なら私より優先順位を高くして構わない、命令を除いてね」

「かしこまりました。緊急時にはメールで連絡を」

「事後報告でいいわよ。私に嘘はつけないでしょ」


 ローズはくすりと笑って、紅茶を飲む。

 現在は午後四時。今日これからの予定は決まっている。

 先月から研究中の技である、直線で勝負をかけるための――

 と、スポンサーから携帯に連絡が入ってきた。受け取るとすぐに軽快な挨拶がくる。


『やっほーローズちゃん、久しぶり~』

「……ハーイ、グっちゃん。今日は何の用かしら」


 思わず気のない返事をしたが、グラスは声のトーンを一気に下げて告げてきた。


『ごめん、機密情報を漏らしたバカがいた』

「……は?」

『で、漏れた先がちょっとかなり厄介でね』

「待って。それって私が八洲GPを勝ったあとの――」

『そういうこと。プランタンのCMキャラクター採用と、ワークス設立プロジェクト』

「それを私に知らせたからって、どうなるものでもないでしょう。本題は?」


 ローズは静かに尋ね返す。

 グラスもまた冷静に、冷徹に。


『八洲GPでトップを取ったらスポンサーになるって条件は変わらない。そこに別なとこから横やりが入ったの。端的には競合ライバルが出現した。ローズちゃんがトップを取れなくてもその魔女がトップを取れば、現在あるレースへの参戦計画を潰さず進捗できるって――対案をねじ込まれたの』

「理解したわ。その相手は誰なわけ? リリィじゃないはずよ」

『グっちゃんの口からは、守秘義務があってちょっと言えない』

「今さらな企業倫理ね、漏らしたのはそっちの責任でしょ。見えない敵に怯えろって?」

『代わりにプランタン本社での面会を申し出てる。あっちはローズちゃんの都合でいいみたいだけど、希望は週末。そっちの都合がつく日時はある?』 

「今夜にして。同じ学生なら夕方からの時間は空いてるはず。グッドな度胸したその魔女に、こちらに決定権を与えることの迂闊さを教えてやるわ」

『OK、すぐにガリア行きの便を手配させる。身内の恥が原因だけど、会社として悪い話じゃないからね。そういう大人の都合で振り回すことは謝っておくよ、ローズちゃん』

「構わないわ。明確な敵の出現はむしろ僥倖、条件は何も変わってない。――勝つだけよ」


 ローズは不敵な表情を浮かべつつ、ベイスに即座の支度を命令した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ