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「やーやー初めましてかなっ、ランカスター家のローズちゃん☆」
「……。あの」
「まあグっちゃんを見たことがある人はそういないから、知らないのは無理もない! だけどこう見えて三〇〇年は生きてる上に既婚者なの、でもババア呼ばわりは勘弁して☆」
「ご、合法ロリのハイエルフ……ですって?!」
ケンザンの工房に着いてすぐ、ローズの元に近付いてきた幼女がいた。
長く尖った耳、一三〇センチ程度の身長、新緑の髪。しかしその強烈な挨拶をされた直後。
「グラス・ケリングよ。【プランタン】のオーナー兼、代表取締役をしてる」
「っ、プランタン?! それはまた、ずいぶんと場違いなところが名乗り出てきたものね?」
「ワークスチームを協賛してるアパレル企業は何社かある、珍しい話ではないでしょ」
甲高かった出会い頭とは打って変わって静かな声。それは確かに電話で聞いたものだった。
そして握手からの『プランタン』、その名を出されてローズは驚愕を隠せなかった。
「お嬢様、プランタンとは?」
「服飾業界の三大巨頭の一つ――数多くの一流ブランドを傘下に置く、世界有数の大企業よ。私がいま着ているこの服も靴も、みんなそこが親会社」
「まあうちはモードファッションが中心だし、レース参戦もしていなかった。けど前年度から事業拡大の一環としてスポーツウェアに力を入れていてね」
「知ってるわ。私の好きなブランドもスポーツ系とコラボ商品を出していて、買ってるから」
「ごひいきにありがとー。じゃあ察しもついたでしょ、グっちゃんがここまで来てた理由?」
「まさか……」
ローズは奥のケンザンに目を向ける。椅子に座るドワーフは酒瓶片手の笑顔を見せた。
「おう、お嬢。この工房はついさっき買収された。うちも晴れてプランタン・グループだぜ」
「はあ?! 子会社になると好き勝手できないからって爺さんは独立工房にしてたんでしょ!?」
「いやそれがな、金欠脱出の渡りに船で……」
「今まで通り好き勝手に作ってくれてかまわないから、保護させてって条件で交渉した☆」
ケンザン・べーゼンドルファーはブルームだけを手がける技術屋ではない。
ローブの素描を起こし、場合によっては自分で縫製もする総合デザイナーでもあった。
レーサーに合わせた箒と魔法衣を作り、完璧なスタイルで送り出すマイスター。それがこのドワーフに「サー」の称号が与えられた由縁であり、契約金高騰の原因だった。
「……それでいいの? この爺さんは利潤追求とは無縁の匠、頑固職人よ」
「もっちろん。グっちゃんが欲しいのはサー・ケンザンの技術とブランド力。そのノウハウをうちの他ブランドに反映するのはこっちの仕事、マイスターの邪魔はしない」
「で、どうしてそこに私が絡む?」
「分かるでしょ。マイスターの作るブルームとローブは【高級仕立服】も同然。それを身にまとい活躍する世界最高の飛行技術を持つローズちゃん――いい広告塔だと思わない? うちのティーンズ向けコマーシャルの」
ローズを見上げてグラスは言う。ローズはこの打診の意図を推し量った。
「……。ようは私に、モデルをやれと?」
「企画はしてる。将来的にはワークスチームも設立する予定。次の役員会での決定次第ね」
「だからそれを承認させるための既成事実として、ケンザンを?」
「ローズちゃんの支援もね。まあそっちはひとまずグっちゃん個人が匿名で、だけど☆」
ローズはそう言われて押し黙る。
ベイスは傍に控えながら推移を見守っていたのだが。
(ダミー会社を経由させ、正体を隠しながらも接触してきた。だが買収は企業として行って、お嬢様のスポンサー料金は個人として負担……?)
ベイスには今ひとつ状況が掴めない。
しかし浮かんだ疑問の解答は主人がした。
「……私のスポンサードには、ランカスターの名が邪魔なのね。役員会を通すのに」
「ご明察~☆ グっちゃんは【ティレニア】出身だし、プランタンの本社は【ガリア】だし、別に【ブリタニア】貴族に睨まれても大したことないけど、影響は無視できるものでもない。この【ユーロス連合王国】で商う企業としてはね」
「――なるほど。つまりは政治的圧力ですか」
ベイスは合点がいって呟いた。
ユーロス国内は王に任命された貴族が各領地の統治を担っているのだが、広大な国土のためそれぞれの地方で派閥があった。
ローズのランカスター家やリリィのミッドランド家はブリタニア地方にある。
グラスも貴族ではあるが、先ほどの話のとおりブリタニアとは離れた土地の者だ。
しかし利潤を追求する企業として、汚名を被ったランカスター家の令嬢を看板にするのは。
「あまり良い話ではないのでしょう、プランタンとして私を起用することは」
「残念ながら社内では反対する声も多いかなあ。ただ個人的には二ヶ月前のレースでファンになったことが大きくて、是非とも受けて欲しいのね。――“サンドラ”も応援しているし」
「!! まさか、【アレキサンドラ・マックィーン】?!」
「そ、うちのデザイナー。十月のファッション・ウィークに招待したいって言ってたよ☆」
「……ッ、そういうこと! ようやく読めたっ」
ローズはグラスの魂胆を理解した。マックィーンは好んで着るブランド、そのデザイナーの来季の新デザイン発表会――コレクションへの誘いは喜ばしい、だがそれを満たす条件は。
「十月初旬に開かれるワールドカテゴリの第一戦、【八洲GP】に勝てってことね!?」
「イエス! そしてレース直後に【ルーヴル】で行われるコレクションのランウェイに最高のタイミングで登場する、プランタンの新しいCMキャラクター!! それがッ」
「この私、ローズ・ランカスター!!」
「ふふーん、企画趣旨はご理解いただけた? だから極秘裏に進めてるの、なにせ大前提が」
「二位でも三位でも駄目、表彰台のトップに立たないといけないんでしょ?」
「じゃなきゃ通してくれそうになくってね~。オーナー権限で進めても角が立つし」
「でもリリィなら問題なさそうじゃない?」
「〈白百合〉は好みじゃないの。それに彼女はもう、うちのライバル企業の息がかかってる。競合相手には負けたくないよね、何事も。ローズちゃんが世界戦で勝利したら、社内の誰にも文句は言わせない。でも勝てなかったら個人としての援助もそれで打ち切り、OKかな?」
グラスの言葉には力があった。真意魔法がなくても信じるに足る、利に聡い商人の熱量だ。
ベイスは見る、主人はにやりと笑って高揚を隠さずツインテールをかきあげた。
「はっ、協賛条件、望むところよ! 今度こそ私が飛花の女王だと証明してみせるわ!!」




