▼1▲ ‐七月‐
『既にお気づきと思いますが、そちらはダミー会社です』
ローズは電話を受け取ると、単刀直入にそう言われた。二日前、スポンサーを打診してきた企業から「話を受ける」と返信した後に指定された面談時間に掛かってきたのだ。
「……。騙されたってわけじゃないようね?」
『お手数おかけ致します。サー・ケンザンの工房まで来て下さい、なにぶんスケジュール通り進行できるかわからなかったものでして』
「信用するわ。最初のメールに添付されていた証明魔法と、この私のプライベートアドレスを調査できた二点でね」
そう言うとローズは電話を切った。
ソファから立ち上がり、行動を決めた。
「ベイス、車の支度を。ケンザンの工房へ行くわ」
「かしこまりました」
傍に控えていたベイスは主人の飲み終えた紅茶のカップを下げて指示に従った。
面談時間寸前になってもローズは自宅から動かずに、指定された企業――ダミー会社のある住所に向かおうとしなかった。事前に調べ上げていたからだ。
「まったく……手が込んでいるというか、慎重が過ぎるというか」
「お嬢様、証明魔法とは?」
「あら、高校入学前の予習を始めたらそんなものにも興味を覚えてきた? 証明魔法ってのは信用会社が発行する魔法印のことよ。送ってきた文面の内容を、必ず履行するって誓約なの。違反したら信用会社に罰金を請求される――いわば第三者を介した真意魔法ね」
「それだけでしたら、魔法は必要無いのでは?」
「相手に信用してもらうためよ、メールアドレスだけだと不正アクセスかもしれないでしょ。書面だって偽造できる。でもこの魔法を介して違反すると逃げられなくなるの。だから送った本人がこの証明のために安くない金銭を支払った点も併せて、虚偽でないって意味なのよ」
「ではお嬢様は、送ってきた方の素性をご存じで?」
「載ってたのはダミー会社の名前だけよ。それに信用会社を通してる、匿名性は侵せない」
ローズは言って、嘆息する。
これはつまり、
「今のところ私と会うことは秘密にしたい――そういう相手よ、このスポンサー様はね」




