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「あー、表彰式の疲れがまだとれない」

「お体をほぐしましょうか、お嬢様」

「いらない。どいつもこいつも手のひら返しすぎ、ほぼ同時のフィニッシュだったからって」


 二位入賞。三位以下を大きく引き離した二人は、表彰台ポディウムで最大の歓声と喝采で迎えられた。パドックにはサインをせがむファン、涙ながらに握手を求める他校の女生徒や「見直した」と感動を伝える領内のチーム達が押し寄せた。

 ローズはそんな久しく味わっていなかった栄誉の時間が過ぎたあとホテルに戻ったが。


「……負けたわよ。ポールポジションを取られていたことも含めて完敗ね、立つ瀬がない」

「お嬢様」

「ほんと嫌になる。勝ちきれなかったのよ、このローズ・ランカスターが。何もかもリリィの思惑通り……最後の一手さえ計算し尽くされた、完全勝利」


 部屋を荒らしたくなる自暴をローズは抑えていた、弁償する金が手痛いからだ。髪をほどきソファで一時間ほど不貞寝して起き上がったのがつい先ほど。今は夕陽も沈んでしまった夜。


「――さて、あんまり先延ばしにしてもアレだから。ベイス?」

「はい」

「現時刻をもってあなたを職務から解任。決闘契約に従いリリィの所に向かいなさい。いまのあなたはそれ以外の命令を聞く必要のない、誰にも仕えていない一等仕人。ただのベイスよ」


 そう告げるとローズは立ち上がり、跪かせたベイスの頭に手をかざして魔法を解く。

 それはローズ専属の使用人だった資格の解除で、しかし真意魔法トゥルースはまだ残っていた。


「……では、お暇させていただきます。ローズ様」

「はいはい。ところで今のあなたは主人のいない、全ての貴族に嘘がつけない状態よね?」

「その通りです。もっとも黙りこくることは出来ますが」

「じゃあ命令でなく聞くけれど。今日のレース、私とリリィのどっちを応援した、心から?」

「……。お恥ずかしい話ですが、“どちらも”を」

「ふん、よくもあなたをそこまで惹きつけられたわね、あの魔女め。褒めてやるわ」


 ローズは小さく息をつく。そしてベイスを部屋から出て行かせた。飛び立たせた。

 もうここには戻らないかもしれないと――灯りを消して再びの暗闇に身を委ね、一人つぶやいてみせる。


「……次のことを、考えないとね。次のことを」

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