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科学と魔法がそれぞれ発展、融合し、大きな文化を成す世界
しかしそこでも、金が無ければ何も成せないことに変わりはなかった
これは魔法の箒を駆り、サーキットを飛翔するお嬢様とその従者の物語
「お嬢様、宝くじで当選してしまいました。この一億クレジットをどう使えばいいでしょう」
「はああああ?!」
召使いの少年ベイスは何の感動もなく淡々とそれを主人に報告した。午後の紅茶を部屋まで運びに行ったときに相談した。仕える令嬢ローズは驚いてカップにかけた指を離す。
「宝くじって、いつ買ったのよ?」
「新年祝賀パーティからの帰宅時に、お嬢様から運試しにやってみろと勧められたものです。そのときの所持金は、購入を促されましたので全額それに」
「ああ確かにそんなこともあったわね、って一億クレジット!?」
ローズは叫んだ。【貴族】にとって本来その当選額はそこまで大したものではないのだが。
「購入名義はあなたなのよね、ベイス?」
「はい。権利は僕にあるのですけれども、僕にはあいにくと学もなく、金の使い道がまったく分からないのです。それでお嬢様にお尋ねしようと思いまして」
「……。普通に考えれば、【仕人】の労役免除費に使うべきよ。【平民】になるためにね」
ローズは呆れて従者を半目で見る。だがベイスはその模範回答に涼やかに返事する。
「お嬢様は、そうすべきだとお考えですか?」
「ノーよ。あなたは私が顔で選んだ使用人だもの、言ってしまえば人形同然の召使い。それも私に許可されてるただ一人の仕人よ、手放す気なんてさらっさらないわ!」
「では使用人は辞めません。お嬢様なら他にどうお使いになりますか?」
「そうねえ。家を買い直すには足りないから、ドレスとオーディオ機器を新しくして……いえお父様の、ランカスター家の名誉回復のロビー活動費に――ってああもう違う、全然違う!! 一億あったらできるじゃないっ、全てを取り戻すチャンスじゃないッ!!」
「お嬢様?」
ベイスは首をかしげてローズを見る。昨年から仕える主人の激情家ぶりには慣れていたが、このような歓喜に満ちた笑顔を見るのは初めてだ。
ローズは手持ちのスマートフォンをいじり、何かしらの計算を済ませると。
「……出られるわ、舞い戻れる。もう一度あの世界に、【ブルーム・レース】の戦場に!!」
目を輝かせながらローズは告げる。
そして従者にいつものように指さして命令し、
「ベイス! その一億クレジットを寄こしなさい!! 私が使ってあげるから!」
「かしこまりました。存分にお使い下さい、ローズお嬢様」