グレイスケールの感情観測
即興小説から。お題は「灰色の太陽」で制限時間は15分。
僕はもうしばらく、青い空を見ていません。
視界に移る空はいつでも灰色で、太陽も月も同じ薄ぼんやりとした丸い輪郭です。
「あまり太陽を見つめたらだめだよ。君はただでさえ目が悪いのだから」
ぼんやりと空を見上げる僕に、先生がそう言いました。
「いつになったら治りますか?」
「物資が足りなくてね。ついこの間戦争が終わったばかりなんだ、仕方がない」
この国は長い間戦争をしていました。
先生は昔「軍」にいたそうです。だけど色々と嫌になったとかで、僕を連れてこの田舎までやってきました。
「田舎はいいね。まだ空が青いよ」
僕が生まれた都会の方は、いつもどんよりと曇っていました。僕は雲ごしに見る薄ぼんやりとした太陽の丸い輪郭しか知らなかったので、とても驚いたのを覚えています。
だけど、僕は色々と体にガタがきていて、青い空も輝く太陽も、すぐに灰色になってしまいました。目がおかしくなったのです。
「先生、何故僕を連れてきたんですか?」
「寂しかったからだよ」
「寂しいという感情は僕にはまだよくわかりません。僕みたいな失敗作じゃなくて、もっと役立つものを連れて来ればよかったのではないですか?」
「未完成だから、君が良かったんだ。大丈夫。そのうち、目は治すよ」
先生は、昔、僕と同じものをたくさん作っていました。僕と同じものは、戦場で人を殺していたそうです。だけど僕は未完成の上に失敗作で、先生はずっと手元に残していました。
先生は僕に、人間のようになってほしいようです。僕は、どうすればいいのでしょうか。
見上げる空。灰色の丸い輪郭は、太陽。
「先生、僕は青い空が見えなくてもいいんです。太陽がただの円形だっていいんです」
ただ、貴方と同じものを見られないのが……視覚情報を共有できないことが、何故か僕の思考を阻害するのです。
「先生、教えてください。これは人間でいうところの何という感情ですか?」
「それは……それはとても難しい質問だね」
先生は「嬉しい」時とも「楽しい」時とも違う顔で、僕に微笑みかけるのでした。
それは、僕を連れて田舎にやってきた時の笑顔とどこか似ているのでした。
こういうふんわりした何となくSFが好きです。