6 その手を取って
6 その手を取って
その黒い目は大きく見開かれていた。
「み、見ただけで分かったの…?一目で?」
「お、やっぱりそうだったのか」
「やっぱりって…どうして?」
「ピアス」
「え?」
「アイツピアスしてないから」
確かにこの女性…リックスは、仕事上ピアスをすることもあるため穴を開けている。普段は穴が塞がらないよう、学校の許可をもらって透明なピアスをつけているのだが、今回の計画にあたってそれも外したはずだ。このごく小さな穴を見つけたというのか。
「アイツの目印はあの髪とイヤホンだから、耳元ってよく見てるんだよな。同じように見たらちょっと違うなって思ったんだ」
「…すごいわ、貴方。すごく人を見るのが上手いのね」
「で?どうしてこんなことしてたんだよ?」
「…スロワのためよ。あの子に頼まれたの」
「アイツに?」
「貴方を試したいんだって言ってたわ」
「俺を、試したい?」
「…はっきり言うわね。あの子は貴方のことを本気で気になっているわよ」
「!!」
「でも貴方の話を聞けば聞くほど不安になったそうよ。良い人だってことも分かるけど、それ以上に葛城くんとのエピソードがあまりにも多いから。学校も一緒だったんでしょう?スロワと会ってても葛城くんから連絡があると行っちゃうっていうし。だからね、貴方の気持ちを確かめたかったんですって。『本当にウチを見てくれるのか』って」
灰花はリックスの話を聞いているうちに、隆弘に茶化されたときの心境の理由が分かった気がした。ここ数年のうちにくずはのことで頭がいっぱいになってしまっていたが、なるほど。
まだ自分にも、人を好きになる気持ちの余地が残っていたのか。
「スロワはこの先の公園で待ってるわ。…行ってあげて。貴方の気持ちを示してあげて」
灰花は無言で頷くと、リックスが指した方へ走り出した。それを見届けて、リックスは被っていた紅色の髪のウィッグを脱いだ。下の銀髪をかきわけ、イヤホンも外す。
「はぁ、ウィッグって暑いのね……さて、上手くいくといいんだけど」
*
音楽が耳に入ってこない。いつも以上に騒がしい曲で、音量も上げているのに。
自分に成りすましたリックスが灰花と一緒に来たら、そこまで。きっぱり諦めようと決めていた。逆に、灰花が1人で来たら。それは。
「スロワ!」
曲を貫くように飛び込んできた声。顔を上げると、灰花が1人で立っていた。少し息が上がっていた。ここまで走ってきたのか。その姿だけでも、涙が出そうだった。
「宮下…」
「待て、スロワ。俺が先に言う。言わせてくれ」
「…スロワ、俺はお前が好きだ」
限界だった。感情と共に目から溢れ出るのを感じる。
「……なんだし。ウチすっごい情けない奴みたいじゃん…だって…アンタ何があってもまずくずはくずはって…相手が男だからありえないってのは分かってんのに、大人気なく妬いちゃったじゃん…」
「…………くずはさんは、特別だよ…でも、彼女として好きなのは、お前だよ」
「……アンタウチと葛城どっちが大事なワケ?」
「くずはさんだな」
「ちょっとは迷いなさいよバカ!!!」
ぐすぐすと目をこするスロワを灰花はそっと抱きしめた。途端にスロワは真っ赤になったが、しばらくされるがままになっていた。
「アリガト………灰花…」




