6、そして転生へ……その3
「さて、それでは次の準備じゃ。
儂の方はまだする事が残ってはおるが、お主がお主でいられるうちにする準備は、これが最後になる。
転生先の候補の一覧が出来上がっておるで、お主が転生したい世界と、転生したい種族を選ぶが良い。」
先ほどまで映像を映していた光の板に、文字が浮かびあがる。
世界名:「ウェルナス」
評価
・魔法技術 中(一種族のみ高)
・科学技術 低
・治安衛生 中
・残留資源 高
備考
まだまだ発展途上ではあるが、比較的安全な世界じゃ。
資源も殆ど手付かずじゃし、意思を持った武器や道具といったものも存在するから、お主の夢も叶えられる可能性も高いじゃろう
獰猛な生き物も多いが、自然災害も少なく、食料も豊富じゃから、恐らくある程度自立出来るようになるまでは周囲の者が守ってくれるじゃろう。
科学技術は殆ど発展しておらぬゆえ、機械や特殊な機構を用いたトンファーの改造は出来んじゃろうが、儂としては、この世界をおすすめする。
最初の世界に目が留まった。
グルニカさんのおすすめか。
他の世界もあるみたいだが、色々考えてくれた上で、この世界がいいと、薦めてくれたんだろう。
なら、この世界にしておくか。
機械や特殊な機構が出来ないのは残念だが、魔法があるくらいだから、代用とかもできるだろう、きっと。
「転生先の世界はウェルナスにします。」
「まだ他の候補を見ておらんようじゃが、よいのか?
あくまで儂のおすすめというだけで、夢を叶える可能性だけで見れば、もっとよい世界もあるのじゃぞ?
科学技術が発展している世界もあるし、魂を移す技術が一般にまで広まっている世界もある。
それを見てからでも遅くないと思うぞ。」
「いえ、グルニカさんはそれを見た上で、この世界を薦めてくれたんですよね。
どの道、俺は魔法の事は分からないし、それならグルニカさんの薦めてくれた世界を選びます。」
「ふむ、思考を放棄して人の言いなりになるのは、あまり感心せんぞ。
儂が騙そうとしている可能性は考えなかったのか?」
騙そうとしている可能性か。
…………その可能性を指摘してくるような人はそもそも騙そうとしないだろう。
本当に人を騙そうとするなら、思考を放棄させるのが定石だろうし。
「仮にグルニカさんが本気で騙そうとすれば、きっと、俺には見抜く術は無いです。
もし見抜けたとしても、見抜いた上で世界を選んだとしても、違う所に送る事だってグルニカさんはできるのではないですか?
それに、騙そうとしてたら、恐らくそんな事は言わないでしょう。」
「そうか、もし儂が指摘する前からそれを考え、その上で選択したのならよい。
じゃが、もしそうでないのであれば、どんな相手じゃろうと、考える事をやめてはならん。
どんなに信頼できる相手でも、間違う事はあるし、嘘をつくこともある。
何も考えず受け入れてしまえば、問題があっても気付けない。
そのまま問題に誰も気付かずに進んでしまえば、自分にとっても相手にとっても取り返しの付かない事になりかねんのじゃからな。
お主の記憶は封印するが、それでもしかと覚えておいて欲しい。
……と、説教臭くなってしもうたの。
さ、世界が決まったのなら次は種族じゃ。
ウェルナスに生きる種族で、お主が転生できて知性と魔力がある種族を候補に選んでおいたでな。
儂の備考は外しておいたで、今度はしっかり考えて選ぶが良い。」
再び光の板を見ると、新しく文字と絵が浮かび上がっていた。
絵には丁寧に参考画像と注釈が付いている。
さて、見てみるか。
種族:「ヒューマ」
評価
・魔力 :中
・肉体 :低
・知能 :中
・成長性:高
・寿命 :70年程度
・特性 :無し
評価の所にある参考画像を見た……ものすごく見覚えがあるな。
というか、人間だこれ。
魔法が使える以外に人間と何が違うんだろうか。
「グルニカさん、このヒューマって、すごく人間っぽいですね。」
「うむ、身体の構造は殆ど人間と変わらぬ進化を遂げておるな。
違いがあるとすれば、魔力のある世界じゃから、魔法が使えるという事くらいかの。
トンファーを扱うという所から、候補は全て二足歩行で二本腕で道具がそれなりに扱える種族に絞ったのじゃが、まずかったかの?」
「いえ、むしろありがたいです。」
やっぱり色々気を使ってくれたようだ。
とりあえず人間なら今までみたいな感じで生活できるんだろう。
余程いいのが無ければこれに決まりだろうな。
さて、次の種族は……と。
種族:「エルフィ」
評価
・魔力 :高
・肉体 :低
・知能 :高
・成長性:低
・寿命 :400年程度
・特性 :動物性たんぱく質への拒絶反応
長い寿命、高い知能、豊富な魔力と。
評価の所にある参考画像は……案の定長耳だ。
今度はすごくエルフっぽい。
名前までそれっぽいし。
「グルニカさん、このエルフィの動物性たんぱく質への拒絶反応って、どんなものですか?
後、成長性が低いって、人間と比べてどんな違いがあるんですか?」
「うむ、肉や魚等を食べると、嘔吐したり呼吸に異常が出たりするようじゃな。
成長性の低さは、身体が出来上がる年齢の遅さじゃな。
エルフィは、人間と同程度の大きさまで育つまで、だいたい100年ほどかかるし、その成長性の低さは、筋肉が付きにくいという弊害もある。
長い寿命を維持するために細胞の分裂速度が遅くなっておるのじゃろうな。」
なるほど、拒絶反応はアレルギーみたいなものか。
そして、筋肉がつきにくい……と。
武術をする上では致命的だな。
エルフィは却下……と。
さて、次。
種族:「ビステア」
・魔力 :低
・肉体 :高
・知能 :低
・成長性:高
・寿命 :30年程度
・特性 :硬質の毛皮と鋭敏な五感
今度はエルフィとは正反対で、短い寿命、強靭な肉体、少ない魔力、低い知能か。
評価の所にある参考画像は……全身が毛で覆われていて、なおかつ猫耳+猫尻尾だ。
というかこれ、獣人だ。
「グルニカさん、このビステアって、魔力が少ないみたいですが、魂を移す魔法を使うことってできるんですか?」
「それは才能というしかない。
実際、歴史上には何人か武器に魂を移したものもおるようじゃしの。
ただ、そのうちの殆どは他の種族の力を借りねば出来んかったようじゃし、短い寿命もあって、夢を叶えるのは他の種族よりも困難な道のりになるじゃろうな。」
なるほど、自力だけではほぼ無理だと思っておいたほうが良さそうだ。
「ちなみに、猫耳……じゃなかった。
ビステアの耳や尻尾は、こういうタイプだけしかないんですか?」
「いや、模様や形状も多種多様のようじゃな。
こういった長い耳のものや、色が違うものもあるぞ。」
そういってグルニカさんが見せてくれたのは、犬耳や兎耳や狐耳や見たことの無い獣耳だった。
えらくバリエーション豊富だな。
どれも見るからにもっふもふだ。
ただ、いくら可愛くて強くても、寿命が短いのと、魔力が少ないのは致命的だな。
自力だけでは恐らく無理な上、トンファーになる前に死んでしまう可能性が高い。
これも却下だな。
さて、次。
種族:「ドワブン」
・魔力 :中
・肉体 :高
・知能 :低
・成長性:高
・寿命 :60年程度
・特性 :早熟で、身長があまり高くならない。
今度は、それなりの魔力に、強靭な肉体、低い知能か。
評価の所にある参考画像は……4頭身ぐらいのちっこいおっさん&おばさんだ。
身長はきっと、1メートルちょっと位までしか高くならないんだろう。
「この、早熟って言うのは、早く老けるって認識で合ってますか?」
「うむ、12~3歳程度で参考画像のような容姿になり、筋肉もそれまでの年齢であればすぐ付くの。
後、そこからは死ぬまであまり劣化しない。」
なるほど、筋肉に関してはかなり恵まれているようだ。
「知力と魔力に関してはどうですか。」
「知力の方は、あまり物事を考えずに思ったまま突っ走る所があるようじゃの。
複数の事を同時に考えたりするのはほぼ不可能じゃろうな。
魔力の方は、魂を移す程度であれば申し分ないはずじゃ。」
なるほど、能力面は理想的だな。
トンファーの事だけ考えていればいいから、知力が低くても問題はなさそうだし。
けど、こうも小さいと、トンファーをまともに扱えなさそうだ。
少し残念だが、これも却下だな。
さて、次……はないな。
「候補はこれで全部なんですか?」
「なれる候補は他にもあるが、魔力が使えなかったり、他種族との意思疎通が出来なかったり、肉体の構造が大きく違ったりするものばかりじゃ。
もっと理想的な種族もいるにはいるが、魂が育ちきっておらんから選べんしの。」
「わかりました。
では、ヒューマに転生します。」
消去法のような形で選んだが、なんだかんだ人間を選んだのには、運命のようなものを感じる。
トンファーを作ったのも人間だしな。
「そうか、わかった。
最終確認じゃ。
「トンファー・オブ・トンファー」は、世界「ウェルナス」にて、「ヒューマ」に転生する。
間違いが無ければ、復唱せよ。」
「はい、「トンファー・オブ・トンファー」は、世界「ウェルナス」にて、「ヒューマ」に転生します。」
「これでお主のする準備は完了じゃ。
……名残惜しいが、後はお主の記憶を封印して、転生させるだけじゃ。
心残りはないかの。」
「はい、ありません。
グルニカさん、短い間でしたが、今までありがとうございました。」
泣きそうになる。
奥歯をかみ締めて我慢する。
別れたくないという願いを押し込めて、ちゃんとグルニカさんにお礼を言えた。
これで本当に心残りはなくなった。
「うむ、お主が来世で夢を叶える事を祈っておるぞ。
さあ、目を閉じてしばし眠るといい。
次に目覚める時は、お主は来世で新たな名と共に産まれている事じゃろう。」
グルニカさんが手をかざす。
温かい光が溢れてくる。
光に包まれて、俺の意識は、深い眠りの中に落ちていった。
「何度やっても慣れぬな、これは。」
落ちていく意識の中、寂しそうな声が聞こえた気がした。
すいません、投稿が遅れて日付変わってしまいました。