2、浄化施設への案内(物理)
しばらく真っ白な世界を歩いていると、いつからいたのか、角の生えた女性が目の前に立っていた。
地獄と聞いていたけど、えらく洋風……鬼というか、女悪魔っぽいな。
露出度の高めなボンデージに、ちょっとだらしないお腹周りが実にけしからん。
「こんにちはー、浄化施設管理者の「オドシー」と申しますー。
浄化施設行きの「世界」さんでしょうかー?」
どうやらこのおっとりした口調の女悪魔さんは、オドシーさんというらしい。
さて、それはさておき「世界」は聞き捨てならない。
ちゃんと訂正してもらおう。
「その名前は捨てたので、出来れば俺の事は「棍」、もしくは、「トンファー」と呼んでもらえないでしょうか。」
「はいー、いいですよー。
改めまして、浄化施設行きの「コンモシクワトンファー」さんでしょうかー?
よろしければ、浄化施設でのお名前として登録させていただいちゃいますけどー。」
謎の人と違ってあっさり改名を受け入れてくれるオドシーさん。
しかし、名前がすごい事になってるので、訂正しよう。
「いや、「棍」か「トンファー」のどちらか片方という意味で……いや、まてよ!?」
それを聞いた瞬間、俺の脳裏に電流が走った。
(まさか、名字まで併せて改名出来るというのか……!?)
驚愕に震えながら俺は目の前の悪魔さん(仮名)に質問を投げかける。
「つかぬことをお聞きしますが、地獄では名前と併せて名字も自分で決められたりするんでしょうか?」
「はいー。ファーストネーム、セカンドネーム、サードネーム……どんなお名前でも自由に決めていただいていいですよー。
どうせ後で全部削り取っちゃいますしー。」
自由に決めていい……だと。
マジか、本気と書いてマジでか。
これは、俺みたいなDQNネームや、名前由来のからかいで、散々酷い目に遭って来た、または、現在進行形で酷い目に遭っている、全国1000万(推定)の人たちにとってかなりの朗報と言えるだろう。
削り取るというのが微妙に気にはなるが、こんな最高の機会を逃す手は無い。
「なら、「トンファー・オブ・トンファー」でお願いします。ファーストが「トンファー」で、セカンドが「オブ」で、サードが「トンファー」です。」
トンファーは全であり、個でもある。
「トンファー・オブ・トンファー」。
すなわち、「一の全、全の一」となる。
これはトンファーの定義を変えることで様々な意味を持ち、どんな変化にも対応できるということだ。
例えば、俺自身をトンファーとして定義する事により、「トンファーとしての俺自身」という意味を持たせる事もできる。
我ながら、変幻自在に扱えるトンファーにふさわしい、いい名前を考えたものだと思う。
「では改めてー、浄化施設行きの「トンファー・オブ・トンファー」さんですねー?
浄化施設でのお名前として登録させていただいちゃいますー。」
「はい!お願いします!」
「そしてこれから浄化施設にご案内させていただきますー。
あ、こちらの布を口に巻いてついてきていただけますかー?」
言われるがままに渡された布を口元に当て、そのまま布の端を後ろで結……ぼうとしたところでかすかな刺激臭を感じて、俺の意識は途切れた。
「あらあらー、寝ちゃうなんて仕方のない方ですねー。
布をしっかり結んでー、手綱をつないでー、よいしょーっと。
気を取り直してー、「トンファー・オブ・トンファー」さんー、浄化施設にご案内ー。」
そして、「トンファー・オブ・トンファー」はスポーツカーも真っ青な速度で引き摺られていった。
遅筆で申し訳ないです。
とりあえず、数話分ストックできたので、連日投稿させていただきます。
6/7 字下げ忘れてたので修正