1、トンファーが死因の男の人って……
俺の名前は藤間 棍。
16歳という若さでありながら、世界の真理にたどり着いたと自負している。
座右の銘は「トンファー」。
俺の人生を語るには、トンファーがあればいい。
というか、俺がトンファーだ。
そんな俺の夢は、いつかトンファーが最強の武器である事を証明するために、トンファーで色んな達人と命を奪い合いたい。
平和な日本では命をかけないルールありの試合か、良くて一般人よりちょっと強い程度のチンピラとの争い程度しかないから、この夢は叶う事は無いだろうけどな。
さて、そんな俺だが、何故か今、自分の知らない所にいる。
白い部屋、大きな天蓋付のベッド。
中の人の姿は見えず、そのベッドの前に俺は立っていた。
……っていうか、どこだよここ。
そして、いきなりベッドの中の人から声がかけられた。
「いきなりですが、藤間 世界さん、あなたは死にました。
死因は転んだ際にトンファーの取っ手を頭部にぶつけた事です。
……具体的には頚椎と頭蓋骨の接合部が損壊しました。」
姿も見えず、性別も分からず、どこか機械的なその声が、本当にいきなりとんでもない事実をつげた。
しかし、今、重要なのはそんなことではない。
「俺をその名前で呼ぶなぁぁぁぁ!!」
そう、俺は元々DQNネームというやつだった。
頭の中が万年お花畑な俺の両親は、世界が平和でありますようにーなんて理由で、俺を「世界」と書いて「ピースフル」なんて読む名前を付けやがった。
それが原因で俺は小学生時代いじめを受け、それに対抗するために武術を習い、暴力を受けた事で正当防衛が成立するようになった瞬間、同級生をフルボッコにしてやった。
平和への願いが争いの火種となった瞬間である。
それを理由に何故か俺だけ怒られる事になったので、教員もフルボッコにしてやった。
あまりの理不尽に正当防衛がどうとか考える事すら出来ずにキレてしまった。
平和への願いが燃え上がって大きな争いになった瞬間である。
その後、色々あって俺は中学を卒業し、本気で頑張って、名実共に「世界」を捨て、自らがトンファーとなる事を願いながら「棍」という名前を得るに至ったわけだ。
DQNネームを改善するために裁判を起こして許可を取り付けただけあって、流石に「旋棍」には出来なかったが、十分な結果だと自負している。
海外に生まれることがあったら、絶対名前を「トンファー」にしてやるがな。
なお、これが原因で親との縁は切れたが、後悔はしていない。
平和への願いが家族のつながりを断ち切り、孤独を生んだ瞬間である。
というか、平和を願ったならこんな程度の事で勘当なんてするなよ。
まあ、そんな名前がきっかけでトンファーと出会えたから、今となっては悪い事ばかりだったとは言えないが、その名前だけはどうしても受け入れられない。
「かくかくしかじか。
というわけで、俺の事は「棍」、もしくは、「トンファー」と呼んでもらえると嬉しいのだが?「トンファー」と呼んでもらえると嬉しいのだが?」
「申し訳ありませんが、生誕時の名付けで「世界」さんとされており、真名として魂に定着してしまっているので、私どもではそれ以外の名前は認識していないし、呼ぶ事も許可されていないのです。
儀式時以外では「君」とか「あなた」という呼び方で代用できるのですが、どうしてもこれから行う儀式では「世界」さんとお呼びして、それを受け入れていただかないといけないのです。」
謎の人は融通が利かないようだ。
「というか、儀式ってなんですか?どんなことするんですか?受け入れないとどうなるんですか?」
「儀式とは、死後、魂が行くべき所を判別するためのものです。名前を呼び、質問をし、それに対して返事をしてもらうことで、魂から直接、質問の回答を教えてもらいます。受け入れないと判別が出来ないため、あなたの死後は魂を浄化するための施設……あなた達で言う所の地獄一択になります。」
なるほど、地獄行きかトンファーでなくなるか……か。
なら、悩む事などない。
この身は既にトンファーなのだ。
トンファーではない事を認めるくらいであれば地獄に落ちてやろう。
「では、地獄行きでお願いします。」
「わかりました。では、「世界」さんを浄化施設行きに決定いたします。ああ、返事はしなくても結構なので、そのまま後ろを振り返り、ひたすらまっすぐに進んでください。そのうち地獄に着きます。」
その言葉を聞き、俺は後ろを向いて歩き出す。
道しるべはないし、地獄行きだが大丈夫だろう。
この身は、ただ一振りのトンファーなのだから。
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棍が立ち去った後、天蓋付のベッドの中で、少女がつぶやく。
「自分の名前を受け入れず、即、浄化施設行きを選ぶ人、初めて見たわ……
しかも、偶然とはいえ、大好きなトンファー、しかも床に置いたトンファーが死因の人って……」
少女は、生まれた時からずっと人の死と死後を見続けてきた。
初めは一人一人に興味を持っていた彼女だったが、永い時を過ごし、多くの死者を見ているうちに、ほぼ同じやり取りしかしなくなり、感情を忘れ、事務的に全てをこなしてきた少女ですら、棍は初めての存在であった。
「面白い、もっと彼のことを見ていたい」
それは、感情を忘れて膨大な時間を過ごした少女が、久しぶりに抱いた「興味」であった。
彼が浄化施設で見たものとは?
それを、次の機会に語る事にします。