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ここから始まるトンファーの物語

トンファーとはなんなのか、そんな人類の命題に挑戦します。

生温かく見守ってくれるとありがたいです。

 バトルロワイヤル。


 それは、コロシアムにおける勝負方式の一つで、多人数で行われ、最後まで脱落せずに残っていた者が勝者となる。

 そのルール上、強者が袋叩きにあって敗北する、逃げ回っていた弱者が勝利する等、大番狂わせが起きやすい上、試合開始直後から複数人入り乱れての乱戦となるため、派手・素人でも楽しめる・余った選手を放り込む事ができて調整がしやすい・参加して目立てば一躍人気選手になる事も可能と、様々な利点があるため、観客はもちろん、事故による怪我の発生率の高さを除けば開催者にも選手にも人気の、コロシアムの花形とも言える試合である。



 さて、そんなバトルロワイヤルだが、現在、我が参加しているこれは特別な試合だ。

 なんたって、この我、カーマッセ=ハウンド様の記念すべき初試合なのだからな!

 ハウンド家の次期当主として、あっさり蹴散らして格の違いというものを見せ付けてやろう。


 さて、手頃な獲物は……とコロシアムを見回していると、一人の少年が目に映った。


 魔力を帯びているわけでもなく、体格に恵まれているわけでもない。

 短い棍棒に横向きの取っ手をつけただけに見える武器を両手に持ってはいたが、現在の試合参加者の中で、最も弱そうに見えた。


 華々しい我の活躍のスタートには少し情けないが、あんなひ弱そうなやつがウロチョロしているのも盛り上がりに欠けるだろう。

 よし、我の記念すべき初の獲物は……あいつにするか。


「そこの少年!俺の華々しい未来の為の踏み台になってもらうぞ!」



 ・

 ・

 ・



 バトルロワイヤル。


 バトルロワイヤルには様々な戦術がある。

 周りの選手と団結して弱い選手を先に沈める、人数が減るまで逃げ回る、強い選手を挑発して強い選手の所に誘導して潰し合わせるといったものだ。


 しかし、それらの戦術は、卑怯者として観客の顰蹙を買う。

 卑怯者の烙印を押された選手には、基本的にファンがつかないし、他選手からも嫌われる。

 一流の戦士であれば、感心するような合理的な戦術も、素人からすればただ不快なだけに映るのである。


 時に、我輩ことヒットホースは、効率的な戦術を好む。

 無論それは、ファンや他選手の好感度を稼ぐという点においても、効率的に進めなければいけないのである。


 そう、我輩はこのバトルロワイヤルにおいて、弱者として狙われる選手を手助けする振りをして、効率的に相打ちをさせている。


 今回であれば、そう、例えばあそこにいるひ弱そうな少年辺りがベストであろう。

 ちょうど偉そうな大男から狙われているようだし、この構図なら少年を手助けしようとする優しいお兄さんとして女子のハートを鷲掴むことは想像に難くない。

 少年を先に落とした後、怒りの表情を作ればなお効果的だろう。


「少年よ!今そちらに向かうぞ!」



 ・

 ・

 ・



 コロシアム。

 ……それは漢の世界。


 バトルロワイヤル。

 ……それは漢の浪漫。


 熱い闘い。

 ……それは漢の美学。


 この俺、ピラーツィンは熱い漢として日々を生きている。


 当然、このコロシアム、このバトルロワイヤルは俺のためのステージだ。

 だというのに、目の前にひ弱そうなガキと、それに一直線に向かっていく大男二人が見えた。


 気にいらねぇ……

 男の世界に背伸びして入り込んできてるひ弱なガキも、それを寄ってたかって潰そうとする、図体だけの情けねぇヘタレ共も気にいらねぇ……


「そこのクソ共!俺が全員ぶちのめしてやるよ……!」



 ・

 ・

 ・



 バトルロワイヤル。


 よくわからねぇずらが、みんなぶちのめせばいいらしいずら。


 おで、デックボウはあたまがよくねぇけんど、どんりあえず、ひとのいっぱいいるところにいけばいっぱいぶちのめせるはずずら。

 ちょうどめのまえに、いち、に、さん、いっぱいひとがいるずら。


「おらもまぜてくんろー!」



 ・

 ・

 ・



 バトルロワイヤル。


 トンファーを持つ少年が迎える、コロシアムでの初試合である。


 開幕してすぐさま、少年はやたらと狙われ、少年は現在、襲い掛かる巨躯の青年4人を同時に立ち回っていた。

 しかも、少年に襲い掛かっている者達は、その中でもとりわけ巨大な部類に入る。


 それを見た誰しもが、少年を哀れんだ。

 それを見た誰しもが、少年が負ける未来を幻視した。


 ただ一人、少年を除いては。


 そう、少年は諦めてなどいない。

 そう、少年は諦める必要などないから。



 少年は現在、自分より遥かに巨大な体躯を持つ男達を前に、冷静に状況を分析していた。

 勝利を得る為の道筋を立てるために。


(初試合で相手は4人か……まずは数を減らしたい所だが、どいつもこいつも簡単には落ちそうに無いな。)


 一人は、高笑いをしながら細剣を振るうかなり鬱陶しい金髪の男。

 恐らくは貴族なのだろう、細剣で確実に相手を追い詰めていく剣術は、実に堂に入っている。

 というか、俺を執拗に狙いすぎだろこいつ。


 一人は、俺を助けると言いながら、その素振りすら見せずに槍を振るうゲス顔の男。

 俺以外の相手に攻撃を仕掛けているように見えるが、全く当てる気はなさそうで、それどころか俺の逃げ道に先回りして、他の相手から逃げられないようにしてくる。

 これは他の選手に俺をぶつけて消耗させるつもりだな……全く、実に鬱陶しい。


 こいつらはとっとと片付けないと不味いな……

 乱戦の中で、俺を狙ってくるようなやつを残していれば、長期戦になればなるほど不利になってくる。



 一人は、大剣を振り回しながら怒りの形相を浮かべる男。

 なんで怒っているのか良く分からないが、とにかく力任せに振るわれるように見える大剣は、見た目とは裏腹に的確な軌道を描いており、剣の大きさと男の技量も合わさって、どんどん逃げ場が無くなっていく。

 今は何とか避けられているが、恐らく俺の小さな体やこの即席トンファーでは、一撃受ければ即リタイヤになるだろう。


 一人は、棍棒をとにかくあちこちに叩きつけている男。

 何発打撃を当ててもへらへらと楽しそうに笑っており、とにかく滅茶苦茶に振るわれる棍棒は、予測しづらい。

 時折、大人数を一気に巻き込むような軌道で振るわれる一撃は背筋に冷たいものが走る。

 相手にはこっちの攻撃が攻撃が殆ど効かないのに、こっちはかすりでもすれば一気にリタイヤだろう。

 急所にデカイのを一撃、それくらいしかこいつは倒れそうに無いな。


 厄介ではあるが、こいつらは後回しにしたほうがいいだろうな。

 今、他の奴への牽制がなくなれば、一気に状況が悪い方に傾きかねない。



(となると、俺が今狙うのは金髪かゲス顔のどちらか……か。)


 ゲス顔は俺を助けると言ったのだ。

 状況が片付くまで直接手は出してこないだろう。


(……金髪をとっとと片付ける。)


 これで決まりだな。

 ついでに、ゲス顔も俺を助けると言ってくれているのだし、せいぜい利用させてもらうとするか。


 現在の状況の分析を完了し、ゲス顔との距離を一気に詰める。

 まさかこっちに直接来るとは思っていなかったのか、ゲス顔が驚愕に染まり、一瞬動きが止まる。


「少しだけ足止めをお願いします。その間に俺は金髪をやります。」


 そうすれ違いざまにゲス顔にささやき、大剣の男と棍棒の男の間にゲス顔を割り込ませる。

 すぐに偶然を装ってゲス顔はどき、大剣の男と棍棒の男に背中を狙われる事になるだろうが、それでもいい。


 一瞬でも一人に集中できれば、それでいい。


 駆け出した勢いを殺さぬまま、トンファーを後ろ手に回し、握りを持ち替える。


「少年!ハウンド家に受け継がれし華麗なる剣戟を見せてやろう!」

 手を後ろに回した事を好機と判断したか、心臓をめがけて細剣の一撃が迫る。


「……取った!」


 体をひねり、持ち替えた左手のトンファーの握り部分を利用し、細剣を挟みこんで軌道を固定する。

 腕を突き出した勢いのまま前に進む金髪の片足を払い、トンファーを握りなおしつつ、そのまま背後にすり抜ける。


「何ぃ!?」


 片足を払われた事でバランスを崩し、転倒しないようにたたらを踏み、バランスを崩しつつ振り向く金髪へ向け、万全の体勢の俺は、叫びながら片足を強く強く突き出す。


「トンファーキ~ック!」


 トンファーキック。

 それはトンファーを用いて、身体バランスを完全な黄金率へと導く事でのみ繰り出せる、最強のヤクザキックである。

 その威力は通常のヤクザキックとは比較するべくもなく、人体を軽く吹き飛ばすだけの威力と、素早い体勢の立て直しを可能とする。

 人体に対して使用するにはあまりに高い威力を誇る必殺技を腹部に受け、金髪の体はくの字に折れ曲がり、ちょうど俺に大剣の男と棍棒の男をぶつけようと、位置を移動していたゲス顔に向かって飛んで行き、そのまま金髪とゲス顔をコロシアムの壁に叩きつけてノックアウトした。


 そして、トンファーキックの真価はむしろ技を放った後にこそある。

 素早く体勢を立て直した俺は、未だ驚愕の表情をあらわにし、意識を吹っ飛んだ金髪に向けてしまっている、大剣の男と棍棒の男に肉薄し、その足首に持ち替えたトンファーの握りを引っ掛け、足を勢い良く刈って地面に叩きつけた後、トンファーを顎に叩きつけて意識を奪う。


 ただの剣であれば、金髪一人を倒した後、三人を相手に均衡状態を作り出す事になったであろう。


 しかし、俺が手に持つのは最強の武器、トンファーだ。

 意識を一瞬でも外せば、その速さにはナイフか素手でもない限り、反応など出来はしないだろう。

 トンファーを持たぬのならば、走り出したトンファーを留める事など不可能なのだ。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 観客席がトンファーに惜しみない歓声を上げている。


「トンファーの前に敵はいない!どいつでも何人でもかかってきやがれ!」



 さあ、物語トンファーを始めよう。

 そう、これは、後に「マスター・オブ・トンファー」と呼ばれる、一振りのトンファーの物語である。








 ・

 ・

 ・








 さて、ここで物語(トンファー)を語る前に、少し少年についての昔話を聞いてくれないだろうか。


 日本の某所にトンファーを惜しみない愛を注ぎ、トンファーを心の赴くままに振ったり、舐めたり、さすったり、飾ったり、改造の限りを尽くしたりしたトンファーマニアがいた。


 しかし、彼には一つだけ不満があった。


 最強の武器とまで言われたトンファー。

 しかし、平和な日本においては、トンファーを実戦で使う機会などなく、せいぜいが道場での試合で使う程度である。

 トンファーを使って命のやり取りをして、トンファーが最強である事を証明したい。


 そんな事を考えて日々を生きてきた彼は、ある日、転んだ拍子にトンファーの握りの部分に頭をぶつけて死ぬ事になる。


 自分のトンファーが命を奪った。


 その興奮冷めやらぬうちに、彼は死後の世界に行く事になる。


彼はどこに行くのか?

それを、次の機会に語る事にします。

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