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家の掃除機が異世界に繋がっていた。第8話 二人目の出会いはまさか……幽霊?

「……え、と……」


 天は現状を把握しきれずその場に立ち尽くす。

年の頃は13~14くらいだろうか。

少女は丈のやや短い白いローブという格好で、すやすやと寝息を立てている。

紫のリボンが所々に付いており、清楚な雰囲気を醸し出していた。


「……ちょっと、君……」


 天は少女の側にしゃがみ込み、そっと肩を叩く。

あまり強く叩くと壊れてしまいそうな、儚い雰囲気の少女は微動だにせず深い眠りに就いている。

そこで天は己の手元を凝視する。

彼女の首に、何か文字が書いてあるようだった。


「……何だ、これ?……『ティエレンヌ』?」


 天がその文字を読み上げると、その言葉に呼応するように彼女は大きな瞳を開かせ、その金色の眼で天を凝視する。

疚しい所はないのだが、こういう場合どうして良いのか分からず、天は脂汗を流しながらオタオタと手足を動かしている。

その行動は彼女の言葉によって即座にツッコミへと変化した。


「……神様」

「いや、お前死んでねーし」


……思わずツッコミを入れてはみたが、自分が神様に見えるとはこの子は大丈夫なのか?


 どの角度から見ても神々しいとは思えない天は少女の頭を心配する。

もしかしたら何処かで頭を強く打ち、気を失ってそのまま眠りに移行してしまったのではないだろうか。

天は彼女の頭に手を翳し、ヒーリングを試みる。


「……や!」


しかし彼女は怯えるように天の手を払う。

ほんのりピンクがかった顔色は真っ青になり、両手を口元に当て、小刻みに体が震えだしている。


「わ、悪い!治癒しようとしただけだけど……ごめん、もうしない!」


 恐らく何らかの恐怖を思い出させてしまったのだろうと天は少女に頭を下げる。

天の気持ちが通じたのか、彼女の顔色は桜色の頬を取り戻し、にっこりと微笑んだ。

その愛らしさに天は思わず顔を赤くする。

白く滑らかな肌に頼りなげな大きな瞳、小さな唇のこの美少女は微笑む事で更にその愛らしさを増していた。


「……えー、で、君、家どこ?送ろうか?」


 天は動揺を隠しつつ少女に尋ねる。

この少女をこのままこの人気のない場所に居させるのはかなり危険なのではないだろうか。

そう考えて聞いた天だったが、少女はキョトンとした表情で小首を傾げている。

天は少女が首を傾げている意味が分からず、もう一度尋ねた。


「え、ティエレンヌ?でいいのか?……え、と。家はどこかな?」


 自分の名前を首に書くとかよく分からなかったが、もしやと考え自問しながら先程より優しくゆっくり聞いてみる。

少女は小首を傾げたままゆっくりと口を開き、言葉を紡いだ。


「……ティエレンヌ……神様と一緒……」


 少女は天の袖を掴み、天をじっと見つめていた。

天は深く息を吸い、少女との交信を試みた。



「……俺は、天と書いてタカシだ。ほれ、言ってみろ」

「……テン」

「……ま、いーか。んで、お前の名前はティエレンヌ?」

「……ティエレンヌ?」

「いや、俺に聞いてどーする」

「……ティエレンヌ」

「よし、ティエレンヌ。家は、何処だ?」

「家……テンと一緒」

「いや、絶対違うだろ。もしかして、この町じゃないのか?」

「……この町、じゃない……のか?」

「だから、俺に聞いてどーする」


 ザックリと話したところで天が判断した事は、少女の名前はティエレンヌ、どうやらこの町に住んでいた訳ではないようだ。


 恐らく誘拐されて何らかの事情でこの町に捨てられたがその時頭を強く打っておかしくなったんだろう。

勝手な天の憶測だったが、普通の子にしては言葉に抑揚が無さ過ぎる上に物を知らな過ぎた。


「城下町にでも行けば、尋ね人とかで出てるかもな」


 ティエレンヌと相談する必要も感じ、天はティエレンヌを連れ、精霊銀行へと戻っていった。




 天が精霊銀行に着く頃、丁度スーロも入金をし終えたらしく、扉から出てくる所だった。


「ああ、テン。無事終わったぞ」

「スーロ、丁度良かった。この子迷子か何かみたいなんだが、どうすりゃいい?」

「……この子?どの子だ?」

「いや、だから、この子……」


 天のパーカーの裾を掴んでいるティエレンヌの肩に手を置いて視線をティエレンヌへと動かすが、スーロはその存在を確認出来ないようにあちらこちらへと視線を移動させている。

そのスーロの動作に、天はとある恐ろしい可能性を思い付く。

始めはティエレンヌを知っている人がいないだけかとも思ったが、これだけの美少女にも拘わらず、振り向く者が一人もいなかった。

まさかと思いつつも、天は正確にスーロにその存在を尋ねた。


「……スーロ……俺の右後ろに13~14才くらいの青っぽい長い髪の女の子……いる、よな……?」

「……いや、いないが?」

「!!!!!」


 恐ろしい考えが現実になる。

まさかと思ったがついに天も異世界で幽霊初体験である。

天は声にならない叫びを上げ、スーロの背後へと回るが、ティエレンヌもそれに素早く付き従う。

それから素早く逃げようと今度はスーロの前に飛び出すが、ティエレンヌはまたしても天の側に走り寄っていた。

世間にはスーロを中心にグルグル回り出す異様な男にしか見えない事を忘れ、天は暫くの間ひたすら逃げ回り続けていた。


* * *



「テン!そっち行ったぞ!」

「了解!」


 強い脚力で跳び回る20センチほどの茶色い毛玉を追い掛ける。

ハムスーン……ハムスターよりやや大きいと思われる魔物であった。

本来夜行性なのだが何故か遭遇してしまった天とスーロは跳び回るハムスーンを必死で退治する。

見た目は可愛いがこの魔物、非常に大食らいな雑食で、辺りの植物は勿論、様々な物を溜め込む習性があった。

その溜め込み場は本人(?)も把握しておらず次から次へと様々な場所に溜め込む為、ありとあらゆる場所で腐敗させ、凄まじい悪臭を放つ。

その被害は甚大で、その為に流行った病で町が幾つか全滅させられた事もあるという。

各町では『見つけ次第殲滅にご協力を』の張り紙が張られている、指名手配魔物であった。


「……これは極悪魔物、これは極悪魔物、これは非情な極悪魔物!!」


 ハムスーンを倒す度、スーロは苦痛の表情で何かを唱えている。

この円らな瞳で見つめられたら、大抵の心優しい冒険者は見逃してしまうのだろう。

だが人間に対する庇護心の強い元魔王、スーロは己の煩悩に打ち勝つ為、自己暗示の呪文を唱えながら必死で剣を振り下ろしていた。


(確かにニキャロとかピマーのが倒しやすいな……)


 天が追い詰めたハムスーンが身を震わせながら円らな瞳を潤ませ、天を見つめる。

流石に拳を打ち付ける気持ちにはなれず、やむなく短剣で斬り付ける。

ハムスーンは切られた箇所から赤い血を噴き出させ、その場に倒れ込んだ。


「……罪悪感、半端ねえな……」


 天は左腕に巻かれたバンダナで額の汗を拭った。

現代でも小動物を攻撃して憂さ晴らし、などという事件が勃発しているが、大半の人間はそれを非難している。

自分も非難する側だったはずが、現状は狂気と罵られる加害者側だ。

与えられた状況が違うと自分に言い訳してみるが、ハムスーンを斬り付ける度に人としての大事な何かを奪われていく気がする。

 精神的苦戦の上ハムスーンを粗方倒し終わった二人は肩で息を吐いた。


「……は、ハムスーン……何で魔物なんだ……」

「……まあ、言いたい事は分かるけど……」


 鼻声で目を擦っているスーロを横目に、天はティエレンヌの方へ視線を動かす。

虫も殺さないような見た目に反し、ティエレンヌは己の持っていた短剣で淡々と生き残りのハムスーンにとどめを刺していた。

実は今回の最功労者はティエレンヌだった。

素早さも攻撃力も申し分ない彼女はパーティーの立派なアタッカーとなっていた。


「……何だか……勝手に血を流して死んでいくハムスーンがいるが……もしかしてティエ……ヌとかいう子なのか?」

「ティエレンヌだ。……ああ、かなり淡々と戦ってて凄いぞ……見えないで殺されるとか怖いにも程があるな……」


 昔何かで見たホラー映画を思い出し、天は青くなった顔を違う要素で更に青くさせる。

見えない敵に切り刻まれていく恐怖は半端無さそうだ。


「ティ……ヌか。本当に幽霊なんだろうか?……ん?」

「ティエレンヌだ。……ん?」


 ティエレンヌがいるらしい場所に当たりを付け、スーロが手を伸ばす。

丁度ティエレンヌの肩に手が当たったスーロの表情が変わる。


「……幽霊って、感触有ったのか」

「……いや、無い……んじゃないのか?」


 妙な関心をするスーロだったが、詳しい事は分からない天もツッコミか分からない曖昧な返答になった。

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