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家の掃除機が異世界に繋がっていた。第5話 大輪の花咲き乱れる……男の手。

「……酷いぞ、テン!私を置いていくとは何事だ!」

「……変な事言うからだろう」

「変とは何だ?!仲間になった記念の何がおかしい!」

「……いや、変だろう?」


 異世界だからその習慣は分からないが、仲間というのは対等なものじゃないのだろうか。

どちらかがお礼をするとか、そんなレベルで冒険はするものではないと天は考える。


(……第一、どっちかというと俺の方がスーロに色々教えてもらってる訳だし、そういう習慣があるとしたら俺が奢らないとなんだろうな……)


 散々拒否をしておいてなんだが、一人で一から調べなければならない天にとって世界の事を教えてくれるスーロの存在は有り難かった。

今の所レアであるらしいブロクーに結構襲われた事以外は被害はないと言えるだろう。


(……まあ、ブロクーも金になるし、助かってるから、いつか、金銭的に余裕が出来てから、だな。……てか、そんなに儲かるなら何でみんな黒い格好しないんだ?)


 先程から通り過ぎる冒険者達は様々な彩色に富んでいるが、黒を多く含む格好はあまり見掛けない。


「……なあ、何でみんな黒い服着てブロクーを迎え撃とうとしないんだ?あんなにぼれえのに」

「黒は魔族の象徴色だからな。あまり黒い格好をすると顰蹙を買うそうだ。……まあ、私は気にせんがな」

「……いや、ちょっとはした方が良いんじゃないか?」

「何故だ?」

「何故って……元魔王だろ?……人間側に付いた事を主張するなら黒じゃない方が良いんじゃねーの?」

「?!!……いや、しかし、みんな親切にしてくれるぞ?」

「……へ、へえ……」


 流石に元魔王の存在は町中の噂になり、例外として受け入れられているようだ。

あまり知恵の回らない魔王は親しみを覚え、現在一剣士並の力しかない事も、スーロを受け入れやすくしているのかもしれない。

抗争を繰り広げている割に寛大な周囲の状況に、天は複雑な気分で曖昧な返事を返した。



 道具屋の中は様々な道具で溢れていた。

スーロに店の物を説明してもらいながら天は何が必要か思案する。

地図はこの大陸の地図が一つ有るだけで、選ぶ余地がなかった。


「傷薬はこの店は3種類だ。初級傷薬Aはかすり傷に、初級傷薬Xはちょっとした止血に、初級傷薬ZはXよりはもうちょっと深い傷の止血に使える。しかしテンは治癒魔……」

「わあああああああっっっっっと!非常食とかあんのかな?!!」

「?……!!あ、ああ!この干し肉なんか良いぞ!水で戻すと通常の肉とはまた違った味と食感が楽しめる」

「そりゃお得そうだな!よーし、買っちゃうか!」


 うっかり天の治癒魔術の事を口にしようとするスーロの言葉を天は必死で遮り、それに気付いたスーロも妙なテンションになりながら話を反らす。

店主はそのテンションに一度こちらを振り向くが直ぐに興味を無くし、視線を反らした。

その店主の様子に二人は安堵の息を漏らす。

天はアリバイ工作と保険用に初級傷薬Zを数個、手に持った。


「ん?コレ、何だ?」


 天は棚の中に置いてある透明な丸い玉に目を向ける。

1円玉くらいの直径の、ビー玉のような球は光を受けてキラキラと輝いていた。


「ああ、それは水玉だ。それ一つで200cc分の水分が補える」

「水玉???……飲み水か、便利だな。……どうやって飲むんだ?」


 天はドット柄を思い浮かべながらビー玉のような球を目の前でくるくると回してみる。

開け口のような箇所は何処にも見当たらず、感触もビー玉のように硬い。


「口の中に入れると少しずつ溶け出してくる」

「飴みたいなもんか。コレもいるよな、何日分くらいいるかな」


 天が購入しようと水玉を幾つか手に持つと、スーロは驚きで目を見開きながら天の方へ手を伸ばした。


「テン!……この周辺は川が通っている。飲み水をわざわざ買うのは無駄だぞ」

「……川の水って煮沸出来ないと腹下さないか?」

「川の水を直接飲んで腹を下す、というのは聞いた事がないな。……テンの世界では精霊が川の水を浄化しないのか?」

「ねえよ!便利な世界だな、おい!!」


 この世界の水の精霊は水辺で遊ぶ事が好きで遊んでいる内に水が勝手に浄化され、煮沸消毒された水より遙かに綺麗だそうだ。


「汚物を流す側から浄化されていく様は圧巻だそうだ。一度見てみたいものだな」

「……うん、やっぱちょっと買っとくか」


 スーロの言葉を思わず想像してしまった天は水玉を数個、手に取った。



「……取り敢えずこんな所かな」


 会計を済ませた後布製のリュックに他の物を積み、それを背負う。


「……やっぱ、崩れると重いし邪魔だよな……」


 手にした1Gは100Sになり、1Sは100Bになる。

1Gで1Bの物を買うと、198枚のコインを持たねばならない。

布袋に入れてリュックに詰め込んだ物の、腕輪をしていない天の所持金はリュックの中だと直ぐにばれ、狙われる可能性は高かった。


「……今後の為だ。やっぱパブレスも装備と一緒に買っとくか」

「この腕輪は外れないからな、その方が安全だ」


 スーロも賛同し、二人は武防具屋へと向かった。


「へい、らっしゃい!」


 発達した筋肉を持つ浅黒い男が天とスーロを向かえる。

武防具屋のオヤジは白のランニングに紺色のガテン風サルエルパンツ、毛のない頭には幾つかの傷と金具の付いた額当てが巻かれ、口髭を携えた無骨そうな人物だった。


「テン、武防具の系統はどんなものがいいんだ?」

「系統って?」

「おう、どういう戦い方するか言って見ろ、選んでやるよ」


 天に同意を示すスーロの言葉に聞き慣れない単語が現れ、天はスーロへと聞き返す。

その言葉に天が戦闘慣れしていない事を把握した店のオヤジは、天の戦い方を聞いてきた。

オヤジの話によると、特にパーティーを組んでいる場合の役割分担によっても武防具は変更されるそうだ。

盾役は攻撃や素早さよりも防御力重視でフルアーマー系、アタック役はそこそこの防御力で良いが攻撃力に長けた得意武器、後方支援は主に魔術師系なので鎧系は重すぎて着られず、魔法防御や魔力向上に特化したローブ系や法衣などを身に着け、魔力を向上させる武器を持つらしい。


「ま、取り敢えず靴じゃねえか?今履いてるのは何だ、何か特殊効果でも有んのか?」


 オヤジが天の足元を指差しながら苦笑する。

戦闘で飛んでいく度に回収していたスリッパはすっかりボロボロになり、足を引っかけているのも苦労しそうなほど擦り切れていた。


「テンが大事に回収していたほどの品だ!きっと履いていると凄い力が溢れて……」

「……いや、単に裸足よりはマシかな、と」

「裸足のがマシだろ。ほれ、これなんかどうだ?」


 オヤジが薦めてくれたのは、脹ら脛中央辺りの長さのレザーブーツだった。

黒い革に僅かに模様が施され、足の甲などの所々に金属の板が填め込まれているその一品は天の足によく馴染み、今まで履いていたスリッパの動きにくさを如実に表していた。

金属が埋め込まれている為、蹴りによる攻撃力も増しそうだ。


「んじゃ、靴はこれで。後、どうするかな……」

「動きやすさを重視するなら胸当てか軽鎧だろうな。軽いから防御は低いが素早さにはさして影響がないだろう」

「なるほど」


 胸当ても軽鎧も様々な素材の物が並んでいる。

大きな違いは前身頃だけが胸当て、前も後ろも有るのが軽鎧のようだ。


「走って逃げるのなら軽鎧が良いだろーけど……スーロがいるし、逃げるほどの事もないかな?」


 スーロは数年前から剣士を始め、城下町周辺の町々を一人で旅しているという。

命懸けの仕事を熟したのであろうスーロは武道や剣道を囓っている天より強かった。


(……ま、俺は平和な世界で学校や勉強の合間にやってる程度だし、そんな強くなくて当たり前っちゃ当たり前だけどな……)


 頭では分かっていてもちょっと悔しい天だった。



 オヤジの説明やお薦めを吟味し、天の装備は鋼鉄製の胸当てをパーカーの下に着け、ナックルダスターという拳用打撃武器の付いたグローブを填め、動きにくいスリッパはレザーブーツに変更された。

自分の拳に何かあった時の為、短剣も追加した。

装備を調えた天は腕輪コーナーへと視線を移動させる。

その武防具屋の片隅にある棚には色々な形状の腕輪が男性向け女性向けが一緒くたになって並べられていた。

天はその中にある銀色の、僅かに模様の刻まれた腕輪に目を向ける。

少し幅広のその腕輪は男が着けていても違和感が無さそうなシックな物だった。


「よし、これにしよう」

「おし、それを付けてこっちを向いてくれ」


 オヤジに言われるまま腕輪を装着し、オヤジと向かい合う。

オヤジは懐から取り出した手帳のような物を眺めながら天の填めた腕輪に左手を翳した。


「我は金銭の結晶化の契約魔術を唱えし者なり……」

「……うむ、やはり古代言語は何を言っているか分からん。思わずオヤジ殿に嫉妬してしまうな」

「……え?」


 オヤジの手から放たれる光が腕輪に吸収され、腕輪自体も光を放ち始める。

オヤジの言葉を聞きながらスーロは感心したように腕を組んで頷く。

天はオヤジの話している言葉が他の言語と変わりなく理解出来てしまっているようだ。

これは異世界の言葉や文字が分かる能力の付与効果であろうか。

古代言語が分かるというのにどれほどの付加価値が有るのかは分からないが、若干違和感のあるオヤジの言葉を天は何とはなしに耳を傾けた。


「……花よ咲け!!」

「は、花?!!」


 オヤジの咆哮に天は驚いて目を見開く。

天は脳内で華やかな花々が咲き乱れる景色を思い浮かべ、思わずツッコミを入れた。

腕輪に花なんか咲かされたら堪ったものではない。

しかし天の気持ちに反し腕輪は光を放ちながらその形状を変化させ、大輪の花腕輪となった。

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