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家の掃除機が異世界に繋がっていた。第4話 冒険者、地球でいうとフリーター?

「おう!スーロ、ちゃんと依頼完遂出来たか?」

「当たり前だ!私を見くびるな!」

「悪い、悪い!お前、剣の腕はあるが頭空っぽだからなー」


 門番はスーロを見るなり軽口を叩く。

ぼっちを叫んでいた割に町の人間と仲良さそうなスーロの様子を少々意外に感じた天は二人のやり取りを見つめていた。

その視線に気付いたのか、門番が天へと視線を動かし、にやけた表情でスーロに尋ねる。


「で?そっちの兄ちゃんは?お前のコレか?」

「テンは頭が良くて凄い奴なんだ!」

「……は?」


 門番が親指を立てるがスーロはその斜め上の反応を返す。

恐らく町内に入れても良い人物かも兼ねての質問だと考えた天は自ら質問に答えた。


「……いや、あの、スーロの冒険仲間です。事情があって身分証とかはないんですが……やっぱりまずいですか?」

「え?!!こ、こいつの?!!……兄ちゃん、だ、大丈夫か?!」

「どういう意味だ?!」


 スーロの冒険仲間になった事で天の身を案じる門番にスーロは眉を吊り上げて抗議する。

ただでさえ命懸けの冒険、その冒険に暗雲をもたらす事態は出来るだけ避けたいものだ。

元魔王でちょっとおつむの弱いスーロを仲間にするというのはいくらスーロの腕に覚えが有ろうと人柄が良かろうとリスクがデカ過ぎると判断されるのだろう。

中には一度仲間になったが懲りたという者もいるのではないだろうか。

友達ならいいが冒険仲間には向かないというスーロに対する立ち位置が理解出来た天は無言のまま苦笑いを浮かべた。


「兄ちゃん、頑張れよ!負けんなよ!!」


 門番の声援が天の背中に掛けられる。

軽く振り返り頭を下げる天とは対照的に、スーロは怒りのあまり足を踏みならしながら町内へ入っていった。


 石畳と門と同じような石が積み重なった町並みが目の前に広がる。

入ってきた門とは反対側の町の突き当たりには同じような門が見え、住宅を中心とした町の中央には宿屋や武器屋などの建物も見受けられた。

さほど大きな町ではないようだが、外を出歩く冒険者達の必需品もそれなりに扱っているようだった。


「そういえば、スーロは冒険者の剣士って言ってたよな。冒険者の組合とか、そういうシステムは有んのか?」


 父の与太話では冒険者ギルドという組織があり、そこに登録して仕事などを請け負っていたらしい。

父の妄想を信用するのも危険だが、この世界でもそういうシステムがあればこの世界の金銭を稼ぐにも助かるし、世界や自分の実力を知る為にも有り難い。

期待の意味も込めて天はスーロを振り返り、この世界のシステムを尋ねてみた。


「ああ、私が所属している斡旋所がそうだな。野菜の収穫依頼や庭の手入れ、訪問販売や通行人の人数数え、店の宣伝用看板持ちなど色々あるぞ!」

「何だそれ?!」


 自信満々に語るスーロに思わずツッコミを入れる天だが、どうやらこの世界の冒険者の為の組織は、日雇いメインのバイト斡旋所のようなものが主流らしい。

あの暴れ狂う野菜達の収穫は確かに冒険者が相応しいが、それ以外を冒険者に頼む意味が分からない。

それともこの世界ではフリーターの事を冒険者というのだろうか。

ともかく当面の生活費を稼ぐには、フリーター……もとい、冒険者組織の仕事を請け負う以外に道は無さそうだ。


「それじゃ、悪いけどその組織に案内してくれ。金を稼がねえと」


 1円も持っていない天の本日の目標は今夜の宿と食事代である。

どんな敵がいるか分からないこの世界、重装備も揃えて先に進みたい所ではあるが、それは追々考えるとして、まずは今日、生き延びねばならない。

野菜達と戦った事もあり、貯蓄エネルギーの少なくなった天の腹は本日どこまで保つのかも分からない状態だ。

しかし、もう夕方であろうこの時間からどのくらい働けば本日必要な金銭を稼ぎ出せるのだろうか。

最悪寝床はその辺で済ますとしても出来れば夕飯代くらいは稼ぎたいところだ。


「それは構わんが……テンは召喚師を探すのだろう?必要ないのではないか?」

「けど、それがいつまで掛かるか分かんねえし、その間の生活費稼がねえと」

「案ずるな!それくらい私が出してやろう!」

「?!!……い、いや、マジ結構です」


 突然のスーロの『わたくしのヒモにおなりなさい(意訳)』発言を丁重に断り、何故か項垂れるスーロを先導させバイト斡旋所……もとい、冒険者組織のある場所へと向かわせる。


「……テンはしっかりし過ぎている……もう少し私を頼ってくれても良いではないか……」

「いや、頼ってるよ。頼ってっからこれ以上頼りたくねえんだって」

「?ん?そうか?頼っているのか?そうか!」


 天の言葉にスーロは浮上し、足取り軽く歩き出した。

天がスーロにバレないよう溜息を吐いた事は内緒だ。


 町の中央に有る十字路の右側の道、手前角の道具屋の向かいに、灰色の石造りの四角い建物が立っている。

大きな入り口の上部には石で出来た大きい看板が掲げられていた。

『冒険者仕事斡旋所 シダの町支部』

この斡旋所の看板には、恐らく全国展開されているのであろう事を予想する支部の名前が付け加えられていた。

スーロが上部の開いた木製の両扉を押し広げ、中へと入っていく。

天も不安と緊張を抱きながらスーロの後に付いて行った。


 石畳の広い空間に小さめの机と椅子が所狭しと並べられ、石壁には多数のチラシのような張り紙が一面に張り巡らされている。

空間の奥にはカウンターが設置され、カウンターの向こうには紫色のローブような服を身に纏った案内人らしき女性が立っている。

カウンターの奥には沢山の棚に資料や本、見た事もないような道具などが所狭しと並べられていた。


「請け負いたい仕事を剥がして奥の受付に持っていけば詳しい内容を説明してくれるが、取り敢えず、どの仕事が良いか見ていてくれないか?私は仕事の完遂報告と八百屋へブロクーを届けてくる」

「了解」


 スーロは請け負っていた仕事を受付で済ませ、斡旋所から出て行く。


(……ってか、言葉だけでなく文字まで分かるんだな……)


 町の中に入った時から飛び込んでくる文字で自覚済みではあったが、目の前に広がる見慣れない文字も異世界言語である若干の違和感を感じつつ何故か読めてしまう現状に天は戸惑いを隠せない。

天は自分の能力がこの世界に順応させられている事を改めて感じさせられた。

やはり、召喚術という魔術が、こちらに来る人間の脳を若干変化させているのだろうか。


(だとしたら、やっぱムカつくな、召喚師……)


 天はまだ見ぬ召喚師が居丈高に笑っている姿を想像し、怒りを増大させながら張り紙の内容を確認し始めた。


・エルおばあさんの身の回りの世話 日給10S※長期歓迎

・町の清掃 時給80B

・居酒屋スタッフ 時給90B※長期歓迎

・ニキャロ収穫 一本10B


 見れば見るほど、バイト情報誌を見ている気分になってくる。

現代に近いこの感覚は天にすれば逆にラッキーな状況であったが、何となく残念な気分がするのは父親の悪影響だろうか。

天は頭を振って気分を払拭し、この世界の通貨価値を日本円で換算してみる事にした。


(……さっき通り掛かった宿屋素泊まりで2S、食事が一般人向けの場所で50B~1Sくらい……だったか?スーロの話だと1Gとかいう通貨が100Sとか言ってたっけ?)


 およそ1Bが10円、1Sが千円、1Gが10万円くらい、100Bが1S、100Sが1Gだと考えられた。

 取り敢えず今日必要なのは宿代と夕飯と明日の朝飯と考えると、5Sあれば余裕を持てるだろうか。


「ニキャロ50本か……めんどくせえなあ」


 ニキャロ50本を殴り倒す自分の姿を想像し、天はガックリと項垂れた。


「テン、良い仕事はあったか?」


 用事を済ませたスーロが斡旋所の扉から再び現れる。

スーロは左腕に填めていた腕輪から魔法のように現れる1枚の金色のコインを天へと手渡した。


「ブロクーの報酬だ。2G貰えたので折半だ」

「ブロクーぼれえ!!!ってか、今悩んでた俺の苦労は?!!」

「ブロクーは育つと逃げ出すからな。収穫のタイミングが難しいかなりレアな野菜だ。……何を悩んでたんだ、テン。私が力になるぞ!」

「……いや、うん。まあ……斡旋所もそのうち使うだろうしな、まあ、いっか……てか、その腕輪、面白えな。何?」


 天は気を取り直してスーロの腕輪に目を向ける。

スーロは腕輪に視線を落とし、胸元でそれを撫でた。


「一種の財布だ。金銭そのもの自体を持ち歩くと色々面倒だしな。腕輪に込めた魔力数値で金銭のやり取りが出来る」

「へー。便利だな、それ」


 しかもその腕輪は取り外し不可能な上本人以外には使いこなせない万全のセキュリティを誇っているらしい。

地球でいうデビットカードみたいな物だろうか。

盗難防止にも手荷物を減らす為にも役立ちそうだ。

一気に懐の暖まった天は感心してスーロの腕輪に見入っていた。


「……ちなみにその腕輪って、何処で幾らぐらいすんの?」

「武防具屋で10Sくらいだな。中には登録魔術を使えぬ主もいるが、この町の主は使えたはずだな」

「10S……残り90Sか……どうするかな……」

「何なら私が仲間になった記念にプレゼントを……」

「いえ、マジで結構です。それより、まずは地図とか買わねえと」


 まず最優先事項が食事と宿。

それを確保した次は目的地へのなるべく詳しい地図。

自分の能力がどの程度まで癒せるのかも分からない為、傷薬も有った方が良いだろうし、旅中の非常食なども欲しい所だ。

それらを入れる、背負える鞄も、冒険者風の者が背負っていたので恐らく売っているようだ。

スリッパはなるべく早く換えたい所だが、これらを揃えてからでも遅くはないだろう。


「……それなら、まず道具屋だな」


 スーロは天に拒否られた事で蹲ってのの字を書きながら天の質問に答える。


「んじゃ、道具屋だな」

「……ちょ?!ま、待ってくれ、私も行くぞ!」


 落ち込んでいるスーロを置き去りにして天は斡旋所の向かいにあった道具屋へと歩いていく。

その無情な天の様子に、スーロは慌てて後を追い掛けた。

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