家の掃除機が異世界に繋がっていた。第17話 ムラ様の力を備えしハリェセン!!
「ハリェセンにしてどーするッッッ!!!しかもデカ過ぎるだろぉぉぉ!!!」
天の手には山と山を繋ぐ橋のような物体があるが、大きさの割には重さはない。
動かす事も容易だが、微かに手を動かすとハリェセンに触れた木々が抵抗もなく倒され、向こうの山では大惨事が起こっている。
木々を倒す毎にハリェセンは己の体から大量の雨を降らせていた。
「魔力に応じて大きさを変化出来るから自分で調整してね」
「……せめて、見た目はムラ様にしといてくれよ……」
「……何でさ?格好イイじゃないか、ハリェセン!」
最早ネタ武器としか思えなかったハリェセンを主力武器とするのは大分抵抗がある。
ドヤ顔をするリモは何の不満があるのか全く分からないと言わんばかりに、天の懇願に眉を顰めた。
取り敢えず惨事をこれ以上引き起こさないよう天は手元の武器に集中する。
漸く元のハリセンサイズに戻ったハリェセンからは未だ水がチョロチョロと垂れていた。
「……見た目をムラ様に変更出来ないか?」
「えー?無理」
申し訳なさそうにリモを見て懇請する天の言葉をリモは呆気なく両断する。
あまりの即答ぶりに天は怒りを露わにし、リモを睨み付けた。
「……お前がハリェセンを格好良いと思うのは勝手だが、それを俺に押し付けんな!!!」
「えええ?!!ボクは良かれと思って……も、もう直せないから!!」
リモは武器と武器を掛け合わせる時にしか力を発揮出来ないようだ。
良かれと思った結果が裏目に出、リモは潤んだ瞳を上目遣いで天を睨み返す。
「……せっかくお水の温度も変更出来るようにしてあげたのに……」
「シャワー機能付き武器って最早何だよ?!!」
リモの言い分に折角の意味が分からなくなった天は混乱する頭を抱え、蹲った。
二人のやり取りを呆気にとられて眺めていたスーロが徐に天へと近付き、その肩を叩く。
「……いいじゃないか、テン。これが有れば野宿も万全だな」
「そりゃ助かるけど……武器のやる事じゃねーよな?!」
「……冷たいお飲み物から、温かいお飲み物まで、至れり、尽くせり……」
「……ティーまで……しかしお前、語彙力増えたな……」
天はティーの過剰に増えた語彙力に意味もなく感嘆し、再び顔を伏せる。
しかし、スーロとティーは天を慰めているつもりのようだ。
その様子を察した天は暫し項垂れたまま沈黙し、その場に立ち上がった。
「……いや、うん!ありがとーな!!スゲー助かる!!」
「でしょ?!いやー、我ながら良い仕事したなって思ってたんだよね!温度機能は完全オリジナルだから大分力使ったし……いや、お礼なんていらないよ?大分力枯渇しちゃったけど、お礼の気持ちを込めたまでだしね!」
天はヤケクソ気味に笑みを引き攣らせ、リモに手を差し伸べる。
そのヤケクソな雰囲気に気付く事もなくリモは素直にその賞賛を受け入れ、天の差し伸べた指先に己の手を載せ照れ笑いを浮かべた。
その対応にやや複雑な気持ちになりつつ、天はスーロとティーを仰ぎ見る。
「さて!使える武器も手に入ったし!このままフォードの町まで行っちまおうぜ!!」
「……それは構わんのだが、村長に報告はいいのか?」
「リモはエルクの村に行くんだよな?ついでに報告頼むよ。村長に、『封印は全部解かれてました』という事で」
「えー?もう行っちゃうの?せっかくだしゆっくり村でお話ししようよー!」
「悪いが、先を急ぎたいんだ。色々片さねーとなんねー事あるし。んじゃな!」
天はリモの申し出を拒絶し、リモに手を振って登ってきた道とは逆の山道を下り始めた。
「テン、片さねばならない事、とは何だ?何か重要な用事があったのか?」
「ん?色々あるだろ?それに、あまりあの村にいて魔族が来ても困るだろ?」
天の元に駆け寄ってきたスーロが訝しげに天に尋ねる。
魔族がスーロを狙っているという事は、あまり同じ場所に居続けるとそこに魔族が襲ってくる可能性が考えられる。
スーロにとって親しい者の多いあの村を魔族が襲撃する事態になるのは好ましくないだろう。
そんな天の答えを聞き、スーロは驚きの顔で天を見入った。
「そうか!成る程。確かにあまり長い事同じ場所にいると狙ってきていたな……村や町までは入り込んでこなかったが」
「変な所で律儀な魔族だな……」
迫り来る獣を斬り倒しながらスーロの言葉に天は苦笑する。
魔族と人は敵対していながらもある程度の領域までは踏み込んでこないようだ。
その事が戦争というよりはお互いの政治的策略のように感じられ、この世界の不気味さを感じさせた。
上層部ではひっそりと不可侵条約でも結んでるのではないだろうか。
「……後は、ティーの事だな」
天はこの世界の政治状況を思考しつつティーの立場を思案する。
現在は異世界の人間である天と、元魔王であるスーロがティーの側にいる。
それが人に知れればどういう問題に発展するか……
この大陸の第一王女であるティーが攫われたとなれば、王家と敵対する意志有りと見なされる事は当然だ。
問題は、元魔王という肩書きを持つスーロであろう。
人間同士の問題でも大事だが、その誘拐事件をもし、魔族がしたと判断されると――
魔族との戦争に拍車が掛かる事は必至だ。
不可侵など当然無くなるであろうこの地は全て戦場となり、村町の中は安全、など言ってられる訳もない。
(だが、これ以前に疑問がある、んだよな……)
思案に暮れる天の様子をティーは不安げに見つめ、天の袖を強く握り締める。
引き攣る袖の気配を感じ、天はティーへ視線を落とす。
その心許無いティーの様子に天は軽く笑みを浮かべ、頭を撫でた。
「悪い、気にすんな」
「……テン……ずっと、一緒……」
「……ずっと、か……」
自分を唯一無二の存在のように慕ってくれるティーを置いて元の世界に帰るのはさぞ気分が悪いだろう。
ティーが納得する形で元の世界に帰る方法があるだろうか。
自分に対する執着を他人に向けた時だろうか……
「……元の世界も……一緒……」
「いや、それはどーよ?!」
旅の途中ティーにも天の事情を話しており、何時までも一緒にいられない事を天はティーに諭すが、その時にも出た提案、『元の世界にも一緒について行く』という、ティーの中では恐らく決定事項を出され、天は未だにそれを説得しきれていない。
その案を再び提示され、天は苦笑した。
その刹那、異様な気配が辺りを漂い始める。
三人はその方角へ身構えながら視線を移動させた。
「……印で弱っていたとはいえ魔獣を倒すとは、腐っても元魔王、という事か」
獣道の下り前方に、蝙蝠のような羽を広げた禍々しい気を放つ者が浮遊する。
黒ずんだ金髪を風に靡かせ、獰猛な赤い瞳を輝かせる魔族、デリスだった。
「お!お前はッッ……!!」
「……弱っていた?」
やや上空に浮かぶデリスを指差しながらスーロは頭を抱え唸り始める。
恐らくまた名前を忘れたのだろう。
それを気にも留めず天はデリスへと睨み付けながら気になる言葉を反芻する。
「……そうだ。支配の刻印も万能ではない。従わせた者の力を半減させると聞いたな。それでも魔獣を倒せるとは思わなかったのだが……次は、そうはいかんぞ……!!」
「……な、んだと?」
「……名前……ここまで、ここまでは出ているのだ……!!」
「やかましい!!元魔王!!貴様にはガッカリだ!!!」
支配の刻印は支配した相手の力を半減させるという。
それなら魔獣という全ての生物の力を凌駕すると言われている相手に勝てても不思議ではない。
己の疑問点を解決させる天だが、新たな強敵を用意しているらしいデリスの不敵な笑みに天は額に汗が浮き上がるのを感じつつデリスを睨み付ける。
そんな緊迫した雰囲気の中、本来の当事者である筈のスーロは眉間に指を当てながら必至で魔族の名前を思い出そうとしていた。
折角の雰囲気を台無しにされたデリスはスーロに視線を動かし憤慨する。
その隙に天はハリェセンを正面に構え直し、迎撃の体勢を取る。
しかし、その武器の見た目の不真面目さが災いし、デリスを更に憤らせた。
「……そこの地人族の男……まさか、それで我を倒そうというのか……?元魔王共々、巫山戯た者共めッッッ!!」
デリスが右腕を掲げると、目の前に異形の獣が現れ出す。
体躯は五メートルほど、その獣はワニのような体に鶏のような頭と足を保有し、頭部から背中に掛けて無数の角を生やしている。
その獣が出現しきるとデリスはスーロを睨み付けたままその身を上空に引き上げ、姿を消していった。
「ギュアアアアッッッッッ!!!!!!」
「あ、あれは!!まさか?!」
獣は雄叫びを上げると共に天へ向かって真っ直ぐにその嘴を向かわせる。
その獣の姿に唖然とした表情で立ち尽くすスーロは獣の動作に我に返り、標的人物となった天へと顔を動かした。
「!!テン!避けろ!その嘴は危険だッッ!!」
ハリェセンで正面から斬りかかろうとした天はスーロの声に反応し、その身を移動させ、獣の嘴をギリギリで躱す。
嘴が付かれた地面はその地をみるみる気化させ、酸に触れた物質のように臭気を発しながら溶かされていた。
「……な?!」
「蛇王、バジトリスだ……!!その嘴はあらゆる物を溶かす猛毒で出来ているという……!」
獣が地面に攻撃をした瞬間、三人はその背後へと瞬時に移動し、各々の武器を構える。
スーロの説明に天が驚愕の瞳で獣を見ているその時、ティーはウォーハンマーを振り上げ、獣の背中へと振り下ろした。
「……!!……か、たい……!」
ウォーハンマーに激しい抵抗が襲い掛かる。
あらゆる物を潰し尽くすティーのウォーハンマーでも獣の硬い皮膚を傷付ける事が適わない。
初めての出来事にティーは若干の動揺を見せた。
「嘴だけは攻撃するな!!武器を伝ってその身が溶けるぞ!!」
「ッッ?!!りょ、了解!!」
振り返る獣の頭部を避けながらスーロが注意を促しながら胴体へと剣を振り下ろす。
スーロの説明に天は驚異を覚えつつ、獣の下半身へとハリェセンを振り下ろした。
が、スーロの攻撃は高い金属音と共に剣が跳ね返る。
天がハリェセンを振り下ろすその刹那、獣の尻尾が擡げ、尻尾の先の蛇の頭が天の手元に噛みつこうと伸びてきた。
「何?!!」
ハリェセンを振り下ろしきれず、天はその身を捻らせ、蛇の攻撃を漸く避ける。
蛇の頭は舌を伸ばしながら天へ威嚇し続けていた。
「尻尾の蛇頭は嘴ほど即死効果はないが、やはり毒がある!!気を付けろ!!」
「ら、ラジャー……って、殆ど死角なしかよ……!」
上半身は鶏のような頭が、下半身は蛇のような頭がそれぞれ睨みを利かせ、三人を硬直させた。
不意に天は身構えながらジリジリとゆっくりその身を後退させる。
そして地面を強く踏みしめ、鶏頭の方へ走り寄った。




