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家の掃除機が異世界に繋がっていた。第16話 封印の最後の岩にいた精霊

「……テン、ティーこれがいい……」


 小柄なティーが武器屋で所望した武器は、武器屋に羅列する武器で一番大きいと思われる、柄頭に巨大な金槌が付いた打撃系武器だった。

巨大な鎚は鎧を着けた敵も叩き潰し、柄頭の、鎚の反対側は鎌のような刃物が付いており、急所を刈るように斬る事も可能だ。

ティーは全長より長いのではないかと思われるウォーハンマーを軽々と持ち上げ、前方に構える。


「おお!凄いな、ティー!私も力はある方だと思うが、それでは戦いきれんな」

「……そ、それはちょっと重くないか?もっと軽くて持ちやすいのに……」

「……大丈夫、重くない……」


 ティーの様子にスーロは素直に感心し、腕を組む。

心配する天に返されたティーの言葉に、天は恐る恐るティーからウォーハンマーを借り、己の手に持ってみる。

ずっしりとした鎚がかなりの重量を感じさせ、身構えるのだけで手は震え、とても振り回せそうにもない。


「……ま、じで、すか……?」

「……まじ。大丈夫……」


 思わず敬語になる天は重いウォーハンマーを震える手でティーに戻すと、ティーは片手で軽く振り回し、激しい揺れを伴いながらそれを床に立てる。


(……もしかして、この面子で一番弱いの、俺?!!)


 天は恐れていた事実を突き付けられ、心で落涙し今夜からの筋トレ強化を決意した。



* * *



 ティーにはウォーハンマー、己には手頃な剣を購入し、剣山へと挑む。

徐々に木々が覆い尽くす眼前に、一本角を生やした猪のような獣の団体が現れる。


「……手始めに、こっちにするか!」


 天は腰の剣ではなくミニチュア刀『ムラ様』を鞘から抜き、獣に斬り掛かった。

微かな抵抗が指に伝わる。

その微かな抵抗力に反し、獣は己の身を半分に切り裂き、臓物を撒き散らしながらその場に倒れ込んだ。


「うげっ!……す、すげ……」


 噂通りの確かな切れ味に恐れすら抱き、天は刃を次の敵へと向かわせる。

刃はいきなりシャワーのように水を流しながら獣を濡らし、更にその身を切り刻んだ。


「?!!み、水?!!」


 滴り落ちる獣の血を直ぐに洗い流すが、水は止まらない。

天の足元は見る見るうちに水浸しになり、敵を一掃する間に小さな川を作り上げた。


「……出過ぎだろ!!!」

「血で錆び付かずに便利だが、確かに出過ぎだな」

「……どろどろ……」


 スーロもティーも水浸しになったぬかるむ道に困惑し、天の刀を凝視する。

天も未だチョロチョロと水を流す刀を見つめ、溜息を吐く。

徐に刀を鞘に戻し、天は剣を握り締め、身構えた。


 ムラ様は使わずとも、山道は順調だった。

足場の悪い山道、天が慣れない手付きで剣を構え敵と相対する中、ティーがウォーハンマーで素早く敵を叩き潰し、スーロも慣れた剣捌きで敵を斬り倒す。

戦い慣れたスーロはまだしも、ティーは姫らしからぬ力とスピードで次々と敵を駆逐していく。

とても初めて使う武器とは思えない手捌きだ。

そのティーの活躍ぶりに天も次第に調子を上げ、三人は後から後から溢れる敵を瞬く間に殲滅していった。

しかし慣れない獣道を登る天は徐々に息を切らし、進む速度を緩め始める。

ふと二人に目を向けるが、スーロもティーも付かれた様子は微塵も感じさせない足取りで山を登っている。


「……テン、疲れた?……少し休む……?」

「な!何を言ってる?!俺はまだまだ元気だぜ?!」


 女である二人より体力が先に尽きるなど、男として惨めすぎる。

天の変なプライドが己の体力に火を付け、足を更に加速させ、山道を進む。


「疲れたら言うのだぞ、テン」

「わ、分かってる、お前らも直ぐ言えよ?!山は頑張りすぎると後が辛いぜ?!」


 上がる息を隠しつつ、天は己にこそ言い聞かせるべき言葉を吐いた。




「……こ、ここが、封印の……場所、か?」

「そのようだな……こんな場所があったのか」


 形振り構わず息を切らしながら天は木々の切れ間を発見し、その場に雪崩れ込んでしゃがみ込み、息を整える。

相変わらず体力に変化のないスーロは悠然と天の側に歩み寄り、辺りを見回す。

山の頂らしき場所は大きな岩二つを中心に少し開けており、周囲には山肌や木々が眼下に広がっている。

スーロが昔来た時は頂上を通らず村まで下ったらしく、封印の類には見覚えがないようだ。

ティーも山登りをした疲れは毛ほどにも感じさせず、大きな岩を物珍しそうに眺め歩いていた。


「……封印してたのが、これか……ああ、やっぱ割れてんな」


 息を整えた天が礎へと歩み寄り、その石を観察すると、大きな岩一つが中心から真っ二つに割れ、二つの岩に変形されている。

その付近には巨大な獣と人の足跡らしき物が幾つか残されている。

大きさから見て魔獣と魔族の物だろう事が伺えた。


「……ここで刻印を焼き付けたのは間違いなさそうだな。他の封印は何処にありそうだ?」

「……テン、こっちにも岩……」


 頂上を越えた木々の中、ティーの呼ぶ声に天はそちらへ足を向かわせる。

そこには先程よりはやや小さめの五組の岩が一定距離を置いて並べられていた。


「……やっぱ、封印解かれてんな……ん?」


 天が二つに割れた岩を一つずつ確認していく。

その最後の一つだけ、ヒビが入りつつもその身を割られずにすんでいる岩があった。


「これだけ、無事……なのか?」


 天がその岩のヒビに触れようと手を伸ばした瞬間、その岩のヒビから激しい光が放たれ、天の視界を遮らせる。


「……?!な、んだ?!」


 己の腕を影にし、その光の放つものを視界に映そうと天は睨み付けると、そこには掌サイズの小さな女の子が岩の上に浮かび上がっていた。


「何?!な、何だ、お前?!」


 漸く光に目が慣れ、天は浮き上がる小さな女の子を凝視する。

淡いクリーム色のフワフワと流れる髪に、菫色の大きな瞳。

青い布を体に巻いてウエスト部分を紐のような物で縛ったその小さな女の子は背中に蜻蛉のような羽を四枚広げ、宙に震わせていた。


「やあ!!『リモの武器改造店』へようこそ!どの武器を改造する?!あ、リモってボクの名前ね!ヨロシク!」


 片目を閉じながら小さな手をサムズアップするリモに、三人は言葉を失い立ち尽くしていた。




「……で、貴様は何者だ?」

「だーかーらー!リモだって!武器の特性を他の武器に合成って形で付与出来る、万能改造精霊のリモたんだよ!」

「なるほど。……つまり?」

「だーかーらー!リモだっt……」

「……いや、そこで堂々巡りすんなよ」


 スーロとリモのやり取りにあわや無限ループに突入しそうになった気配を感じ、天は咄嗟に言葉を挟む。


「つまり、これは封印し直さなきゃなんだよな?」

「ぎゃあああ!!待って待って待って!!!ボク、そんな凶悪じゃないよ、ホントは!!ただちょっとドジッ子で……」


 封印の道具をリュックの中の無限袋から取り出した天の行動にリモは慌てて己の罪状の弁明をする。

どうやら、魔族と人間のどちらかに戦争を終結させるような凄い武器を思い掛けず付与してしまったらしく、危険視されたこの精霊は封印されてしまったらしい。


「……地人族と魔族の戦争が終わっちゃうと、職業無くしちゃう人も多いし、それに支配による奴隷制度とか酷い事が起こったり、勝った側の内部分裂で争い出したり余計世界が荒れちゃうらしくて、終わらせちゃ駄目って精霊界では言ってるんだけど……それ破っちゃったから、ね……」

「けど、まだ戦争続いてるだろ?どうしたんだ?」

「それは多分精霊王が封印か破壊かしたんじゃないのかな?ボクは封印されてたから知らないよ」

「そりゃそーか。そーいや、度々出てくる地人族って……やっぱこの世界の人間の事か?」

「君の種族の事でしょ。人間って言うと、獣人族も魔族もみんな人間になるからね。分けて言う時は、地人族って言うんだよ」

「へー、なるほど」


 魔族も人間というのが少々驚きだが、考えてみれば獣っぽい人も人間なのだから、蝙蝠の羽根を生やし角を携えた人も人間なのだろう。

そして、精霊王からも聞いていた戦争の必要性を思い出し、天は感嘆の声を上げながら頷く。

戦争の必要性というのは考え物な気もするが、元の世界でも文明が発達してからは何処かで必ず戦争が起きているのが現状だ。

暗い気分になる己の頭を横に振り、天は話を元に戻した。


「……で、武器の特性を他の武器に合成付与?ってのは、二つの武器を良いとこ取りにした一つに出来るって解釈でいいのか?」

「おお!正にその通り!!ま、簡単な改造なら元武器無しで出来るけどね」

「……だと。どうする?」


 リモの言葉を聞き、天はスーロとティーを振り返る。

二人は天の説明で解釈は出来たもののその能力の必要性を感じず、首を傾げている。

そんな二人を見、天も首を傾げて組み合わせられる武器を模索した。


「ティーのウォーハンマーに収縮能力付ける、とか?」

「……ティー、大丈夫……軽い……」


 天の提案にティーはウォーハンマーを背中に収めた襷掛のベルトを軽く叩き、首を横に振る。

どうやらお気に入りの重さらしいそれを無下にも出来ず、天は腕を組み、空を仰いだ。


「……!そーだ!このハリェセンの収縮能力を逆に拡大能力に変更して、ムラ様を大きく、とか出来ねーか?」

「逆効能力、だと?!!何て事思い付くんだい?!君は!!」

「やっぱ出来ねーか」

「いや、違うよ、違う!!感心してるんだよ!そのアイディア、頂き!!これでリモたんのチート能力が更にチートに!!」

「……何でお前が元世界の用語知ってんだよ……」


 

父親が嬉々として使っていた日本のコンピュータゲーム用語を異世界の精霊まで使う事に天は若干落ち込みつつ、こちらの世界で身に付いた言語通訳能力での間違った翻訳であると解釈し、己を立ち直らせる。

恐らくこのチートは狡いという意味の方ではなく、俺TUEEEE的な意味合いだと思われると心の中で天は通訳能力にツッコミを入れた。


「んじゃ、それやっちゃいますかい?あ、でも、戦争終了にはしないでね?また封印されちゃう……」

「俺は戦争に関わらねーし……って、封印解いていいのか分かんねーけど……あ、ちなみに最近ここに来た魔族には改造してやってねーだろうな?」

「……?君に会うまではずっと封印の中だったからいくら万能のリモたんでもそれは無理だね」

「そっか。……そうだ、今後の事はこの下の村にいる精霊王に聞いたらいいんじゃねー?武器屋にでも雇ってもらえるよう口利きしてもらうとかすんのもいいかもしんねーぞ」

「それってイイかもね!あれ?!何で精霊王が?!!」


 天は精霊王と会った話をザッとリモに説明する。

やはり19才の精霊王とは会った事がないリモは困惑しつつも天の話を食い入るように聞いていた。


「……精霊王の交代劇とか、一体ボクは何年封印されてたんだろ……」

「それは……他の奴に聞いてくれ。精霊って事はやっぱ、改造も金取るんだよな、金足りるかな……」

「それなら、封印解いてくれたお礼とアイディア代でチャラにしちゃうよ!若干リモたんのがお得だけど一応コレもwin-winの関係だよね!」

「封印解いてねーし!勝手に開いただけだし!!そこは主張させてもらうぞ?!」


 魔族が解いた訳ではないが何故か天の目の前で解けた封印を天が解いたと吹聴されれば色々と面倒になる。

ここは一つ魔族が封印を解きかけたがリモに戦闘力がなかった為何もせずに去った事にしようと天はリモに説得を試みた。

その話は納得がいかない様子のリモだったが、そうする事で天に対しての貸しになり、対等のwin-winであるという納得の仕方をし、お互いの話し合いが終結した。


「でわでわ!改めて!!」


 天の掌にあるハリェセンとムラ様にリモが手を翳し、眉間に皺を寄せて集中し始める。

集中力が高まるほどに翳した手から光が溢れ、ハリェセンとムラ様を包み込む。

ハリェセンとムラ様が、己の身を包む光と共に徐々にその姿を重ねていく。

その重なり合う姿は少しずつ大きくなっていき――

――天の手に、隣の山の頂上まで至る巨大なハリェセンが現れた。

次回から1週間毎の更新になります。

申し訳ありませんがよろしくお願いします。

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