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家の掃除機が異世界に繋がっていた。第15話 面倒と不安が後から湧いてくる……

明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!

「そうじゃ!何かを斬る度に不思議と水が溢れ、その刀身を清めるという伝説の刀じゃ!斬れぬ物はないその刀の切れ味に酔いしれた人々は斬る事を止められず自らの命をも落とすという逸話もあるほどじゃ!」

「……コラボ品かよ……」


 天は元の世界の古い小説で登場した『抜けば玉散る氷の刃』と、あまりの切れ味に妖刀扱いされた刀を思い浮かべる。

確かに天は剣道を囓っていた為こちらで売られている剣の類よりは扱えるだろう。

しかし、そんな切れ味のいい刀を持つとか、危なくてしょうがない。

大体伝説の、とか宝刀などという名刀を持っていたら誰に狙われるか分からない。


「……そうだ、用心に剣でも買っておくか」

「?!!」


 魔獣のような硬い相手だと拳が利きにくかった。

魔族が他の封印も解いたならそれらをスーロにけしかける可能性は高い。

普段は使わなくとも腰に下げてる分にはいいだろうと天は考えを呟くが、それを聞いた村長は驚愕し、ガックリと肩を落とした。


「……何なら……何なら頼みを聞いてくれるんじゃ……」


 村長は膝元に光る滴を一滴、零す。


(……いや、マジで受けたくないんだけど……)


 天としては出来れば別の冒険者に頼んで欲しかったのだが、魔獣を倒した話をした後では折れてくれそうもない。

天は軽く溜息を吐き、己の要求を村長に突き付けた。


「……この子の記憶喪失を治してくれるなら、お受けしますよ」

「なんじゃ、そんなことかのう!それならスティミーの得意技じゃ!」

「え?!!獣人のスティミーが魔術を?!!初耳だぞ?!」


 ティーと雑談を交わしていたスーロが不意に声を上げる。

獣人は人より身体能力に優れてはいるが、魔力が極端に低く、魔術を使える者は少ないそうだ。

天も父親の与太話より獣人の話は聞きかじっていた為、獣人に魔術が使える事を地味に驚きつつ、父の妄想との違いに安堵する。


「いや、魔術ではないのう。技……魔法みたいなものかの?本人の素質に基づく特殊な能力じゃ」

「はあ……そんなのが有るんですね……」


 魔術ではなく技で記憶喪失を直せるという不思議な方法に、天は元の世界の記憶の取り戻し方を考え、顔色を青ざめさせる。


「頭殴るとか!階段から落とすとかは無しで!!」

「……そんな乱暴な治し方せんわい!!」


 理不尽な言いがかりに憤慨する村長を余所に天は安堵の溜息を吐いた。


「それじゃ、明日山に行ってきます。封印強化の道具とかは何処で受け取ればいいんですか?」

「では明日出発前に儂の家まで取りに来てもらえるかの?スティミーにも用件の方、伝えておく故」

「お願いします」

「こちらこそ、よろしく頼むぞい」


 天が頭を下げると村長も椅子から立ち上がり、天へ手を差し出す。

村長は天と握手を交わした後、そのまま部屋を後にする。

三人は村長を見送り、部屋へと戻っていった。


「……剣山か、懐かしいな。魔族から追放され近くのフォードの町に行こうとしたが道に迷い、あの山を越えてこの村に辿り着いたのだ」

「……なんだ、あの山経験済みかよ。道理で村長がしつこいと思ったよ……」


 魔力の大半を奪われたスーロがまだ剣士でもなかった時に既にクリアしているなら、山に登った事があるかどうかの他の冒険者に頼まずこちらに頼むのも納得がいく。

天は椅子に深く腰掛け背もたれに身を預けながら息を吐いた。


「ああ、大分やられ捲ったがな。私が人間なら何度事切れたか分からん程度には……いい修行になったぞ」

「……大分怖い事をさらっと言うな、お前は」


 結局元魔王であるスーロは体力が無尽蔵にある為助かって村まで辿り着けたが、山に出る魔物が弱い訳では無さそうだ。

聞き捨てならない言葉に天は椅子から身を乗り出し、スーロへ詰め寄る。


「……ちなみに、山に出る敵の強さは?」

「一匹一匹はブロクー並の硬さと体力だ。攻撃力はブロクーを凌ぎ、それが団体で詰め寄ってくるが……まあ、大丈夫だろう!」

「全然大丈夫じゃねーよ!!お前基準で言うな!!」


 ブロクー並の硬さと体力ではなかなか一撃では倒せない。

それが群れを成してくる状態で致命傷を負わずに戦う術が思い付かない。

天はガックリと項垂れ、自分の人生の儚さを憂えた。


「……取り敢えず、切れ味のいい剣でも買うか……」

「なら村長に先払いしてもらってはどうだ?何様とかが切れ味が良いと言っていただろう?」

「いや、ティーの記憶を戻してもらうんだし、それは無しになったんじゃねーか?」

「両方貰えばいいだろう?テンは謙虚だな!」

「……そこも、テンのいい所……」

「だな!」

「……いや、謙虚とかじゃなく話の流れで……ああ、いいや……」


 重すぎる評価に耐えかねて言い訳をしようと天は口を開くが明日の事を考えるとそれも億劫になり、天は深い溜息を吐いた。



* * *



 朝食もそこそこに、村長宅へと向かう。

昨夜も朝も相変わらずの美味しい食事だというのに天の腕輪から花が出なかった事は、天の心の落ち込み具合を如実に表していたのだろう。

剣山という山の難易度を思うと、まだ異世界四日目の天には荷が勝ち過ぎている。

足取り重く村長宅へと向かった天を心配してか、スーロが村長にムラ様の先払いを要求した。


「という訳で、先に何様を頂戴したい」

「何様じゃなくムラ様な?!ってかスーロ、いきなり何要求してんだよ?!!」

「うぬ?ムラ様の先払いとな?そうじゃな、その方が道中楽であろう」

「くれちゃうんかよ……ッて?!」


 村長は呆気なくそれを了承し、ウサ耳獣人のスティミーから天へと手渡される。

しかし、それは想像していた刀よりもあまりに小さい、長さ20センチほどの刀だった。


「……これが……?!!」


 短刀や脇差し、という種類の短さではない。

元の世界、お城の土産物屋などで目にする刀のミニチュアレプリカ、ペーパーナイフサイズの刀を、天は己の掌に乗せたまま言葉を失っている。


「……まさか模造……」

「本物じゃよ、失礼じゃな!形は小さいが切れ味は抜群じゃぞ!」

「……ああ、そうですか……」


 天が対団体戦で欲するのは一体との対峙時間の短縮を可能にする武器だ。

敵対するものの間合いに入る前に一体と片を付け、次の敵が間合いを詰める前に相対したいのが理想だ。

剣で叩き潰すタイプの物だと剣を振り下ろすなどの所作に時間が掛かり、1体との対峙時間が長引く為その間合いを詰められる懸念があり、拳や蹴りより殺傷力のある切れ味も重視したい所である。

刀身のみでいうとおよそ15センチ程度のこの刃物ではリーチに不安が有りすぎる。

それに、この細長く薄い刀身が硬い敵を何体倒せるのかも疑問である。

柄も指3本程度でしか持てず、安定性にも不安があった。

 訝しげに刀を見つめる天の様子に村長は依頼拒否の不安を感じたのか、更なる言葉を紡いだ。


「ついでじゃからそこのお嬢ちゃんの記憶も先に治すかのう」

「……そっちも先払いOK?!俺達が依頼果たさずに逃げたらどーすんだよ?!!」

「な、何?!!て、テン……そんな事を考えてたのか?!」

「?!!」

「そーじゃなく……気を付けろって事だろ?!!」


 あまりに呆気なく先払いする村長に不安になり、天は抗議するとスーロと村長はその考えに至らなかったらしく驚愕の瞳で天を見いる。

慌てて己の考えを付け加える天の様子に村長は穏やかな瞳になり、己の髭を撫でた。


「……確かに、ここ最近の若者は嘘を吐く者が多いようじゃ……うむ、以後気を付けるぞい。ではスティミー、頼むぞい!」

「……って、やっぱり先払いしてくれちゃうんかよ……」


 天は村の行く末を案じ、両手で顔を覆った。


「は~い!それじゃ、ちゃちゃっと治しちゃいましょ~!」


 村長の側にいたスティミーがティーの元へと歩み寄る。

若干警戒するティーの側頭部をスティミーが掴み、その顔を己の胸元へと引き寄せる。

ティーの顔はスティミーの胸と胸の間に挟まれ、獣人の手は己の胸をティーの顔に押し当てるように動かす。

柔らかいスティミーの胸部がティーの顔に押し付けられては離れ、押し付けられては離れ――


「……ポフポフッ……ほ~ら、記憶が戻った~!」

「……ティー、変わらない……」

「あらやだ~!コレで記憶が戻らないなんて、アナタ、記憶喪失じゃ~ないわね~?!」

「……いや、戻らねーだろ、普通……」


 異世界で異世界を垣間見た天は何かに怯え囁くようにツッコミを入れた。


「……いや、スティミーの技は完璧じゃ。これで治らんとは……前例がない故分からんのう?!」

「……え……?今のマジ……?!」


 真剣な表情の村長に、天は冗談で無い事を把握し、驚愕する。

技、という物は魔法以上に不思議で不可解な物であった。

正に、『考えるな、感じろ!』の世界だ。

天は瞑目し、空を仰ぎ、地を向いて眉を顰める。

暫し気持ちの整理に時間を掛け、天は村長とスティミーに頭を下げた。


「……いや、それじゃいいです。他の方法を考えるんで。有り難うございました」

「……ご免なさいね~?まさか効かないコがいるとか思わなかったから~」

「儂も吃驚じゃよ……期待させたのにすまんのう……しかし、依頼は完遂してもらうぞい?!」

「……あ、やっぱそうくるか」


 村長の鬼気迫る表情に天は依頼を拒否する道がない事を確認し、苦笑する。


「さて、昨日の件じゃが、……スティミー」

「はい。魔獣の確認を致しました所、確かに封印されていた魔獣である事が判明しました」


 天は急に変化したスティミーの秘書っぽい応対に驚きつつ、話に耳を傾ける。


「そして、その魔獣の体を調べた所、支配の刻印が魔獣の首の左側に焼き付けられていた事が認められました」

「……支配の刻印?」

「はい、魔術で作られた刻印を生物に押印する事でその生物を支配する事を可能にすると言われております」


 天の疑問にスティミーが歯切れ良く返答する。

押印された印が残っている間支配出来る魔術らしく、焼き印された場合、その箇所を取り去らねば支配から免れない物だそうだ。

しかし、剣山に封印されている者達はどれも問題児ばかりで、刻印部分を削り取れば勝ち、という訳にはいかなそうだ。天は深い溜息を吐き、村長へ視線を動かす。


「……取り敢えず、やれるだけやってみますが、駄目だったら他の人にお願いします」

「何を謙虚な事を言うのじゃ?魔獣を倒した英雄じゃろうが!」

「……いや、だからそれは……まあいいや……んじゃ、行くか」


 言い訳も面倒になり、天はスティミーから封印強化の道具を受け取り、スーロとティーに剣山に進む事を促す。

スーロとティーも大きく頷き、己の武器を手に握り直した。


「……と、その前に武器を補充しような」


 己のミニチュアレプリカ刀とティーの短剣に不安を感じ、天はひとまず武器屋へと足を運ばせた。

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