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家の掃除機が異世界に繋がっていた。第14話 村長の頼みを聞くか、聞かないか……

「あれま!スーロじゃないか!随分久しぶりだねえ!元気そうでなによりだよ」

「ああ、久し振りだ。女将さんこそ元気そうでなによりだ」


 スーロと天が宿屋に入ると、女将はいそいそとスーロの方へ歩み寄る。

久しぶりの顔馴染みにスーロと女将は思い出話に花を咲かせ始めた。


「おや、お兄ちゃん勇者のもう一人の連れはスーロだったのかい!仲間が出来て良かったね、スーロ」

「ああ、テンは頭が良くて凄いんだ!私が迷惑掛けてもケロッとしているんだぞ!……お兄ちゃん勇者とは?」

「……ああ、それは誤解で……俺、この花の事知らなくて」

「何だ、そうだったのかい?てっきり勇者を目指してんのかと思ったよ。……それじゃ、その花は趣味で?」

「……いやいやいや。……古代魔術をちょっと間違えたらしくて事故でパブレスが変化しちゃったんですよ……」


 嘘を吐くのは心苦しいが趣味にされるのも堪らず天は慌てて女将に言い訳をする。


「そんな事もあるんだねえ!そりゃ困ったね、早く直せると良いねえ」


 素直に同情してくれる女将に、天の罪悪感は更に増していった。


「取り敢えず飲み物を部屋に持っていっていいですか?ティ……妹にも果物のジュースを持って行ってやりたいんで」

「……妹?……ああ、ティーか。ティーはテンの妹ではなく姫……ん!!」

「メニューお願いします!!!」


 天はスーロの足元を軽く蹴り、スーロの言葉を己の声で掻き消しながら女将に向き直す。

女将は仲良さそうな二人のやり取りを微笑ましそうに眺めつつメニューを天に手渡した。


「仲良いのはいいけど、妹さんに妬かれないようにね」

「……気を付けます」


 からかうような女将の物言いに天は否定する力も出ず、大人しくメニューを受け取り、希望の品を模索した。




 部屋に戻り、三人はテーブルセットの椅子に腰掛け、得た情報を話し合う。

天の得た情報にスーロは首を傾げ眉を顰めた。


「……なるほど。……つまり?」

「……つまり……まずはティーの記憶を戻す方法を考えようって事かな……」


 情報量が多すぎて飽和状態になっているスーロに、天は今後の行動予定を語る。

スーロは部屋に持ち込んだ、カフィンというコーヒーに似た苦い汁の入ったカップを口元へ運び、頷く。

ティーはスーロの向かいに座る天の横で果物のジュースを飲みながら眉を顰めた。


「……ティー、記憶いらない。テンといる……」

「そうは言ってもな、心細くないのか?」

「ない」


 ティーが天の言葉に間髪入れずに切れよく返事する。

初めての出来事だった。

日々飛躍的に成長するティーに若干の感動を覚えつつ、天は苦笑しながらココアに似た甘い飲み物、チョクラを飲み込んだ。


「しかしな、ティー。テンと一緒にいるにしても記憶がある方が何かと便利だと思うぞ。確か姫は水と風の攻撃魔術の担い手だった。テンの助けになるやもしれん」

「……確かに、これから魔族との戦いの場が近くなるから攻撃魔術があるのは助かるな」


 大分戦地に近付いてはいるが、エルクの村は争いの激しい北西を山に囲われている為、争いに巻き込まれることなく穏やかに過ごせる村だった。

しかし、北東の隅にあるというはぐれの森へは戦地に近い北西のフォードの町を経由していかねばならず、危険な戦いが増える事は必至だ。

個人個人の力はあるものの、天のパーティーは前衛戦士のみ。

魔獣が倒せたからといって魔族の襲撃に耐えられる保証もなく、連戦に備えるならば攻撃魔術師が欲しいところだ。

 天の言葉にティーは驚愕し、不安げに天を見つめる。


「……魔術の使えないティーは……いらない……?」

「いや、そんな訳ないだろ」


 天の否定の言葉を聞き、ティーは不安げに天の腕に縋り付く。

そんなティーの様子に疑問が浮かべつつ、ティーが縋り付く逆の手でティーの頭を撫でた。


(……何でティーはそんなに記憶を戻す事を嫌がるんだ?)


 天の疑問が解決する間もなく、不意に扉を叩く音が部屋に響き渡る。

天は優しくティーの手を剥がし、パーカーの帽子を被せ、扉へと向かう。

そこには少し慌てた様子の女将が立っていた。


「ああ、スーロも……ちょっといいかね?」

「私か?……どうしたのだ?」


 スーロが椅子から立ち上がり、天と目を合わせながら扉へ近付く。


「今、下に村長が来てさ、何か厄介事が出来て直ぐに冒険者に頼みたいらしいんだけど、スーロが仲間と帰ってるって言ったらアンタ達に頼みたいってさ」

「……村長の頼みなら聞きたいとは思うが……テン、いいか?」

「ああ」

「有り難う、頼む」


 不安げなティーを置いていくのも憚られるが、スーロの頼みを無下にも出来ず、ティーを振り返りつつ下へ向かおうと天は足を動かす。

その様子にティーはパーカーの帽子でしっかりと顔を隠し、天の元へと走り寄った。


「……ティーも、行く……!」

「……いや、けど……」

「そうだよ、お嬢ちゃんは具合悪いんだし、不安だろうけど部屋で休んで……」

「……大丈夫!行く……!」


 頑ななティーに押され、女将と三人は下の食事場へと下りていった。

食事場の奥の炊事場の隣に有る部屋へ通される。

大きめのテーブルに椅子が幾つも設置されたそこは大衆食堂の大テーブルのようだ。

どうやら従業員用休憩室のようだが、夕方を過ぎた現在、従業員達は忙しそうに炊事場で働いており、休憩室にいる者は村長らしき老人と妖艶な美女以外いなかった。

女はやや垂れ気味の青い瞳に潤いのある魅惑的な唇を持ち、重鎮の側にいるにしては大胆すぎる格好――はち切れんばかりの大きな胸元三分の二程度だけに巻き付けた白い布、同じ白い布の短すぎる巻きスカートを履いた、長いピンク掛かった茶髪のウサ耳の獣人だった。

天は初めて見る獣人に驚愕しつつ失礼の無いように気遣いながら村長らしき人物へと視線を動かす。

一番奥の席に座っていた頭髪の無い、白いフサフサの眉毛と白髭を携えた老人が曲がった背中を支えながらゆっくりと立ち上がる。

その側にいたウサ耳の女は村長を気遣うように手を伸ばす。

女将は二人に頭を下げ、そのまま部屋から出て行った。


「おお!スーロ!元気そうじゃな!」

「村長も元気そうだ。……何か有ったのか?」


 村長は顎の髭をさすりながら眉を八の時に曲げる。

眉毛に隠され目の表情は伺えないが、どうやら困った表情を作っているようだ。

村長は徐にウサ耳の女を見やる。

その様子にウサ耳の女は軽く周囲を見回し、頷いた。


「……まずは、初対面の方に自己紹介させてもらおうかの。儂はこの村の村長をやっておるオブシンじゃ。こっちは儂の右腕のスティミーじゃ」

「愛人のスティミーで~す」

「やじゃな~、スティミーちゃんてばもう」

「いや~ん、オブシン、ちゃんと紹介してよ~ん」


 ウサ耳の女は小さな布で隠された豊満な胸を揺らしながら村長の頬を突く。

そのウサ耳の女の様子に村長も鼻の下を伸ばし、ウサ耳女の柔らかそうに震える胸元を突き出した。


「いや~ん、オブシンのエッチ~」

「フォホホホホ!何を言うか、好きなくせにのう」

「……あー、頼みって何でしょうか?」


 天は咳払いをしながらいちゃつき始める二人を睨み、ティーの方へ視線を動かす。

まだ年端のいかない姫には目の毒だ。

二人も天の合図に気付き、慌てて表情を取り繕う。


「……うむ、実は……この村の裏に一際大きな山が有るじゃろう?その山には魔獣が封印されておるのじゃが……」

「……魔獣?!」


 魔獣という言葉に天は昨日の戦いを思い出し、眉を顰める。

昨日もティーの防御力がもう少し低かったら、素早さが足りず喉の中に短剣がさせていなかったら、と思うとゾッとする。

ハッキリ言ってティーのファインプレーに恵まれた一戦だった。

正直もう一度戦えといわれても勝てる気がしない。

しかし、古の生物がそんなに多発するのかと溜息を吐いた所である考えが天に浮かぶ。


「……もしかして、その魔獣って……黒くてこの子が股下に入れるぐらい大きな、おおか……四つ足の獣風で、裂けた口から鋭い牙が並んで長い舌を垂らした……」

「!!知っとるのか?!!」


 天が機能の記憶を思い出しながら、元の世界の動物の名前を避けつつ獣の特徴を語ると、村長は驚きの瞳で椅子から身を乗り出し天を凝視する。


「もしそれなら、一応死体がシダの町へ行く途中の森に放置してあります。調べてみて下さい」

「なんと!……スティミー!」

「……はい!」


 即座に村長がスティミーへと視線を向けるとスティミーは強く頷き、慌てて部屋から出て行く。

村の者でも連れて確認に行くのだろう。

村長は軽く溜息を吐くと天へと向き直した。


「……魔獣を倒すなど、大した冒険者じゃな!他に、何かおったかね?」

「え?!……いや、魔族が連れてきまして……」


 天は昨日の出来事を村長に説明し始める。

スーロとティーはそんな状況を不思議そうな瞳で見つめていた。


「……何で昨日の魔獣の話になるんだ?」

「……成る程、スーロを狙ったと……それで封印を破ったというのか、愚かな奴め……」

「……分からない……話、難しい……」


 封印は数百年前に施されており、徐々に解れが出ていた為時々修繕の魔術を掛けてはいたが、封印を解くのはそれほど難しい事ではなかったそうだ。

ただ、その魔獣は人だけでなく魔族にも被害が及んだ為、封印を破る事は両者共にタブーとされていたようだ。

 話を続ける天と村長にスーロとティーは顔を見合わせて首を傾げている。


「……また何かを操って襲わせる可能性が高いですね……」

「ああ、テンの話は難しい事が多い、それに合わせられる村長もなかなかの者と……」

「そう、村長はなかなか……って!ちょっっ!!黙れ二人とも!!話が混ざるだろーが!!」



 天と村長の会話に被せてスーロとティーも難しい顔をして話をしている。

話がゴチャゴチャになった天は二人を睨み付け、思考を整理した。


 あの魔族も操る術がなければ己が魔獣の餌食となる事は確実である為、その手段が分かったからこその行動ではあるのだろうが、他魔族にも罰せられる危険を冒してまでスーロを亡き者にしたいと考えるあの魔族……デリスの今後の行動も注意しなければならないだろう。

しかし、他魔族の反感を買ってでも魔獣を操ってスーロを狙うという事は、自分自身にそれだけの力がないからではないだろうか。

何かを操らねば今のスーロにさえ勝てない、と。

もしかしたら他に何か知らぬ理由があるのかもしれない為油断は禁物だが、可能性としてはかなり高いと思われる。

とすれば操る方法を封じれば勝てる可能性が高いという訳だが、どうやって操る方法を封じるか。

色々な問題が山積し、天は額に拳を当てて思案に暮れる。

そこへ村長は新たな問題を天に提供した。


「……実は、あの山の封印は、あの魔獣だけではないんじゃ……」

「へ?!!」

「あの魔獣の封印ほど目立ちはせんが、5箇所ほど様々な問題を抱えた精霊や魔族や魔物が封印されておっての……それらも封印が弱まっとるんじゃよ……頼みとは、それらの封印を強化してもらいたい、というものなんじゃが……どれほどの封印が解かれておるかも兼ねて、頼めるかの……?」

「いや、無理ですよ」

「?!!」


 いきなりの拒絶に村長は言葉を失い、瞳を潤ませ微かに肩を震わせる。

しかし直ぐに気を取り直して天へ鋭い視線を浴びせた。


「いや、封印の強化の道具はこちらで用意してあるのじゃ。ただあの山は魔族も殆ど踏み入れんほどに強い魔物や獣が数多く生息しとっての、村の者ではとても辿り着けんのじゃよ……魔獣を倒したそなたらなら楽勝じゃろうて」

「いや、勝てたのは偶々です。そんなに強くないですから、無理ですよ」

「?!!」


 説明をした上での拒絶に村長は再び言葉を失い、更に瞳を潤ませ体を震わせる。

しかし何かを思い出したように天へ鋭い視線を浴びせた。


「報酬は、この村に代々伝わる宝刀『ムラ様』でどうじゃ?!!」

「……宝刀……ムラ様あ~?」


 胡散臭い名前の宝刀に天は訝しげに村長を見下ろす。

そんな天の言動を聞きもせず、村長は宝刀の姿を思い浮かべたのか、何故か酔いしれたようにポーズを取っていた。

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