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家の掃除機が異世界に繋がっていた。第13話 G退治、精霊王も困ってる

 精霊……それは炎や水、土、風などを操る力を持ち、その力を用途別に魔術という技術として貸し出し、毎月そのレンタル代金を請求する不思議な生命体。

それが天の、精霊に対する現在の認識だった。

それの王様といえば、それらを統括する元締め、という事だろう。

魔法が使えるのは不思議ではない。

何故そんな存在が人間の村にいるのか不思議だが、それ以上に何故、自分の魔法でGを退治しないのか、天にとってはそれが一番の問題だった。


「……私の力は生物には直接影響を及ぼせなくて……死体は大丈夫なんですが……Gにも間接的に今まで対応してきたんですが、Gの対峙能力が付いてしまってどうにも出来なくなってしまいました……」

「……え、と。Gの対峙能力ってなんですか?」

「Gは対峙する度、呪いに似た能力を相手に付与します。対応速度の低下や一度使った退治手段の使用禁止、恐怖の増加など……この家に引っ越しして、私は一気に攻撃手段を失いました……」


 こちらの世界のGは元の世界のGよりかなり厄介な相手になっているようだ。

一度使った殺し方は二度と通用せず、殺せば殺すほどGのスピードに追い付けなくなり、恐怖も増す。

その力は人などに留まらず精霊にすら影響を与えるとか、既に最強の称号を得てもいいぐらい厄介だ。

溜息を吐いて項垂れる精霊王の言葉に、天も顔色を青く染めながら冷や汗を流した。


「……随分、厄介な生き物ですね……」

「……はい、かなり危険な生物です……」


 精霊王の表情にはこの世の終わりを憂う表情が表れていた。


「……結界とか、有ると良かったですね。……Gのみ進入禁止とか条件付けて」

「……え?」


 伝説級の重要武具などに結界が張ってあり、選ばれし者のみがそれを破れるという冒険活劇を父から聞かせられた事を思い出し、その逆の発想をしてみる。

そう都合のいい話がある訳がないと天は自嘲気味に話を告げていたが、精霊王は驚愕の眼差しで天を見入っていた。


「それです!!何て素晴らしいアイディアでしょう!!!これで私はあの恐怖から逃れられるんですね!!有り難うございます!!早速結界を施します!!」

「出来んのかよ??!!!」


 歓喜に打ち震えながら結界を展開する精霊王に、天は思わずツッコミを入れた。




「これはつまらない物ですが、お礼の品です。本当に有り難うございました。あ、申し遅れました、私、精霊王をさせて頂いておりますエスリュプールと申します」

「い、いえ、お気になさらず……自分は、日下天と申します」


 精霊王エスリュプールは結界を施した後天を客間に招き入れ、お茶と茶菓子、お礼の品を差し出しながら恭しく頭を下げる。

その丁寧な対応に天も思わず頭を下げ、恭しく挨拶を返した。

魔法で浄化された筈のハリェセンでも気分が悪いだろうとエスリュプールは水でよく洗い、魔法で瞬時に乾燥して渡してくれる。

そこまでされて捨てる訳にもいかず、天はハリェセンをポケットへとねじ込んだ。


「これは無限袋と申しまして、無制限に物が入れられる便利グッズです。冒険者をなさっているようなので重宝されると思いますよ」

「ああ!それは確かに便利ですね!!」


 無限袋は時間の流れがほとんど無く、生ものなどの保存にも役立つらしい。

取り出す際も欲しい物が勝手に手に触れ、探す手間も無い、便利すぎる一品だった。


「これは、精霊しか持っていない特殊アイテムです。あまり知られると奪い合いの種になりかねませんので注意して下さいね」

「……あ、じゃ、やっぱ返します……」


 さらりと恐ろしい事を言われ、天は怯えながら袋をエスリュプールの方へと差し出す。

確かに便利グッズではあるが、さほどこの世界にいる予定のない天には無用の長物だ。

争いの種になるなら持たない方が無難である。

そう思ってお礼を辞退するのだが、エスリュプールはその態度を予測していなかったらしく、驚愕して天を見つめた。


「え?!!……で、でも……便利ですよ??」

「便利でも争いの種は持ちたくないんですよ。早く家に帰りたいんで」

「……家に帰る?……迷子ですか?」

「……実は俺、違う世界から召喚されたみたいで」


 精霊王なら魔力とやらに詳しく、自分がこの世界の異端であると分かったのではないか。

そう考えた天は、己の事情をエスリュプールに話し始める。

話を聞いたエスリュプールは驚きの表情を出しながら手元のカップを口に運んだ。


「……座標のズレは感じますが、確かに召喚魔術ですね。数千年前、魔族との抗戦が圧倒的不利になった際、救世主を呼び出した者がいたそうですが……現状で喚ぶ者がいると思いませんでした。それにしても異世界人も地人族……こっちの人と魔力の雰囲気とか変わらないんですね、吃驚しました」

「まあ、見た目も同じみたいですし、そうなんですかね」


 現在、魔族との抗戦は拮抗状態で、それは精霊視点で平和な状態だそうだ。

精霊の力により、抗争は平民には殆ど被害を及ぼさず、基本的に戦地のみで繰り広げられるのが暗黙のルールらしい。

ある程度の命の奪い合いをさせる事で魔族や人の鬱積を緩和させたり、職のない者に稼ぐ場所を提供する、というのが精霊の考え方のようだ。

精霊王の部下精霊達が生命体別に魔術使用を監視し、禁忌を犯した者には魔術使用停止処分を施し、争いに使用した魔術代は多めに生活で使用した場合は少なめに代金を請求し、その代金で他の生物にも使える新たな魔術開発や魔術改良などを行うという循環システムで世界のバランスを保っているそうだ。

この世界で精霊は、神様に近い存在なのではないだろうか。


 そして不思議な力(魔法、魔術)のある異世界の人も不思議な力のない別世界の自分も魔力の雰囲気が変わらないというのはなかなか不思議な話だった。

魔力はそれ自体の強さと傾向、そして量で使える魔法や魔術が異なるらしい。

という事は、元の世界の人々も精霊が居て魔術が存在すれば元の世界の人々も不思議な力が使えるという事なのだろうか。


「タカシさんは時間魔法……過去に戻す魔法が使えそうですね。現在、精霊以外にこの魔法が使える者はいないのでかなり希有ですよ。異世界の人ってみんなそんなに凄いんでしょうか?……そちらの方みんなが移民してきたら精霊の面子丸潰れしそうです……」

「……いや、だったら召喚魔術無くせばいいんじゃないかと……」

「考えちゃいますね~!今更取り上げると面倒にもなりそうですが……」


 エスリュプールは頭を抱えて考え込む。

数千年与えていた、使える人間の限られる稀少な魔術を取り上げるという行為がどれほど人間の心証を損ねるか、それに伴う危険なども考慮するとなかなかそう簡単には取り上げられないのだろう。

神様的な存在もなかなか大変なようだ。


「それで、この力って最初回復だと思ってたんですが、それ以外にも使えるんですか?」

「はい、勿論。対象物の、戻したい過去の状態を詳しく頭の中で想像すると発動しやすいですよ。範囲や時間の長さで難易度は異なりますが、訓練次第で自分を過去に転送するとかも出来ちゃうかもですよ、精霊王という立場から言えば、なるべくやめて欲しいですが」

「……元の世界に戻りたいだけなんで訓練する気もないです」


 落ち込んだエスリュプールを引き戻す為、天は自分の能力について尋ねてみる。

思惑通り復活したエスリュプールは力の発動の仕方を教えてくれた。

ティーの記憶を戻すには、記憶のある状態を知っており、それを想像しながらでないと難しいようだ。

とはいえ、試す事さえ拒絶される以上、他の方法を考えねばならないだろう。

エスリュプールは生物に対して魔法が行使出来ない為、ティーの記憶を戻す事は出来ないだろう。

天がティーの記憶への対策を思案していたその時、天の言葉に何かを思い出すようにエスリュプールは言葉を紡いだ。


「そういえば、召喚師は別大陸の王都におりますが、喚んだ人間と対象者がそれほど離れるとも思えませんのでこの大陸内に喚んだ者がいると思われます。そうすると喚び出したのは恐らく『封印を守る者』ですね」

「知ってるんですか?!!何処に居るんでしょうか?!」


 不意に現れた有益な情報に天はテーブルに身を乗り出し、エスリュプールに訴え掛ける。


「この大陸の北東の端……はぐれの森の中で『封印を守る者』をやっていますよ。先祖の召喚師が過去に異世界の恐ろしい『もの』を召喚して以来、その一族は代々『もの』を封印し続ける運命になったそうです……」


 数百年前、召喚術を極めんとした稀代の召喚師が召喚を行った際、魔王を超える驚異を召喚してしまった為その場で封印し、その封印を守る者となった。

現在の召喚師はその召喚師の妹の子孫が継承し王都で輝かしい未来を約束された反面、本来の召喚師一族は封印のある人里離れた小さな小屋に居続ける事を義務づけされ、多少の確執を生んでいるようだ。


「……封印を守る者が召喚、ですか……」

「リアレスカは稀代の召喚師の生まれ変わりと称される魔力の持ち主で、召喚術を何らかの形で習得したとしても不思議ではないですね」

「……いや、それはともかく、そういう人が喚ぶって事は、その封印してる『もの』に何かあったとか……?」

「……可能性は高そうですね。でも召喚する際、条件付けで問題解決出来る者を喚ぶのが鉄則ですし、タカシさんにとっては大した事じゃないかも知れないですよ?」

「いやいやいや!!俺、力もないし魔力とかも知らないから何も出来ませんよ?!」

「そんな事はないですよ。タカシさん、強い魔力をお持ちですし。それに勇者じゃないですか」

「……は?」


 当たり前のように不思議な事を話すエスリュプールに天は訝しげに聞き返す。

そんな天の様子に逆にエスリュプールは不思議そうに首を傾げた。


「だって、その腕輪……勇者の証ですよね?パブレスなのに変わった力を感じますし」

「勇者の証???……これが???」

「はい、その花はハイソラカス……通称勇者花といい、全ての大陸の魔族を降した英雄が好んだ花、という冒険者間での伝承があります。あくまで言い伝えですので一般人は知らない方も多いですし、その話を知らない冒険者も最近増えましたが、それでも冒険者でその花を身に付けるというのは勇気がいるようです」


 つまり、知らず内に『俺、勇者なんだぜ(自称)』をやっていた痛い人間という事だろうか。

頭を抱えてテーブルに臥す天にエスリュプールは動転し、フォローに入る。


「でも、今はその花が『勇敢』を表す、という事が主流になってまして、勇者を表す、というよりは寧ろ冒険者の憧れの花、いつか身に付けたい花、という形に変動してるようなので、責める人はいないと思いますよ?」


 確かに、腕輪が勝手に花を散らばせた時も、感謝はされ、怒る者は誰一人いなかった。

恐らく、いつの間にか淡々と仕事を熟す冒険者達に、この花の出現は己を初心に返らせ、やる気を引き出したのかもしれない。


「私も、召喚より難しい時間魔法の持ち主がこの花を付けてるので、完全に勇者だと思ってしまいました」

「……いえ、勇者じゃないのにスイマセン……コレ、取れませんか?」

「すみません私、無生物にしか魔法が使えなくて……」

「これ、生物なんですか?!!」

「はい、生花ですね」

「……妙にリアルだと思ったら……何で……よりによって……」


 エスリュプールの返答に、天は椅子の上に膝を抱え丸くなった。

 この腕輪は普段、時間を止めており、この花になる事と花を散らす力は天が古代言語で『花よ』と叫んだ時付与された、持ち主が充足感を得ると腕輪の花を瞬時に成長させて周囲に散らす、という時間魔法の一種らしい。

現在、毎食後に花を咲かせている天はどんだけ食いしん坊だよ、と自分自身にツッコミを入れる。

続けているうちに枯れるだろうとの事だが、それまで待たねばならないのも天には辛かった。

早く城下町に行けるといいのだが、その為にはティーの問題を解決せねばならないのも先が見えず辛い所だった。

 生物に影響を及ぼせないエスリュプールには天を元の世界に戻す魔法も使えず、己の力不足で恩人に恩を返せない自責でエスリュプールも椅子の上に膝を抱え丸くなった。


「……せめて、無限袋は受け取って下さい……お礼も出来ない精霊王とか、部下に叱られます……」

「いや、色々教えて頂けたので充分ですよ」


 落ち込みながらも袋を天の前へと移動させるエスリュプールに天は丁重に断り、椅子から立ち上がる。

立ち上がる天にエスリュプールは慌てて自分も立ち上がり、天の前に立ち塞がった。


「待って!本当に怒られるの!!今だって怒られすぎてムカついてこっちの世界に来ちゃったけど……見つかった時余計怒られる事増やしたくないの!!」

「家出かよ?!」

「だって私まだ19よ?!何でこんな生まれたてに精霊王なんてやらすのよ!!数千年生きてる精霊に任せればいいじゃない!!」

「……逆ギレすんなよ……」


 母親に反抗しつつ恐怖する子供のような態度を見せる精霊王は天に憤りをぶつけ始める。

色々大変そうだとは思うが面倒に巻き込まれたくない天は渋々袋を受け取り、エスリュプールに頭を下げた。


「……それじゃ、有り難く……長々とお邪魔しました」

「いえ、こちらこそ良い知恵を授けて下さり有り難うございました。また是非遊びにいらして下さいね」


 二人は恭しく挨拶をし合い、天はエスリュプールの家を後にした。



 天は深い息を吐き、宿屋への道を戻る。

外は大分日が傾き、赤々とした光が村中を覆っていた。

召喚した者の情報が得られたのは思わぬ収穫だったが、先にティーの記憶と真犯人の捕獲、身の置き方を考えねばならない。

精霊王も記憶を取り戻す魔法は人に影響を与える為無理なようだ。

しかし、そういう魔法や魔術はあるらしい事を聞くと、何処かでその情報を得るべきか、それとも召喚した者はかなり魔術に長けているらしいのでそこまで行ってその人に頼むべきか。


(……後者は最終手段……いや、まず無理だな)


 少なくともあまり良い印象を持っていない掌の人に頼み事をするのも嫌だが、短気っぽいその人がこちらの頼みを聞いてくれるとは思えなかった。

だが、天が向こうの要望を聞く事を交換条件にすれば、或いは……


「先に真犯人を捜すか?……その前に、一回宿屋に帰るか」


 宿屋にココアっぽい物があるといいのだが。

そんな事を考えながら天は疲れた体を引きずり、宿屋へと足を動かした。



「ああ!テン!そっちの首尾はどうだ?」

「色々と聞けはしたかな。問題は多いけど。そっちはどうだ?」

「この大陸に召喚が出来そうな者がいるという話が聞けたぞ!」


 宿屋に入ろうとしたスーロを見掛け、声を掛ける。

テンを見た途端スーロは、出掛けていた飼い主を発見して尻尾を振り回す犬のような笑みを浮かべ、自分の成果を語り始めた。


「もしかして北東の端……はぐれの森の中か?」

「な、何で知ってるんだ?!!」


 自慢げな表情が一転、スーロは驚きへと変わる。

天は今日あった出来事を反芻し、深い溜息を吐いた。


「……いや、精霊王が……」

「せ、精霊王?!!何でそんな方と?!!」

「この村の端に家出してきてた」

「???」


 首を傾げて考え込むスーロを宿屋へと促し、部屋でお互いの成果を話し合う事にした天達はティーの待つ部屋へと進んだ。

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