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家の掃除機が異世界に繋がっていた。第12話 食生活充実している、この異世界

 一人前しか頼まなかった為、ティーに消化のいい物を作ろうかという女将さんの申し出を天は何とか誤魔化し、ランチセットを受け取り部屋に戻る。

パンにスープ、サラダ、七色トウという川魚のムニエルのセットだった。

サラダの、柑橘系の酸味のある爽やかなドレッシングにレタスのような少し苦みのあるシャキシャキとした葉物が口の中をさっぱりとさせる。

キュウリに似た縁が濃い緑の楕円の野菜も歯応え良く歯を刺激し、薄いクリーム色の部分の甘味と酸味のあるドレッシングと相まって、爽快なハーモニーが生まれる。

赤い小さな身は甘味が強く、噛み砕くと仄かな酸味を持った果汁が溢れ出て、食欲を増進させた。

七色トウは軽い粉を眩し、恐らくギューのバターで焼かれたのだろう。

きつね色に焼かれた魚から乳製品特有の甘味と香りが鼻腔を擽り、より一層食欲を増進させた。

程良い塩気とほんの少しの胡椒のような、香ばしい辛味。

柔らかく殆ど歯を立てずに身が解れる柔らかな白身の魚は粉とバターの軽い焦げ目の塩気と相乗効果を起こし、得も言われぬ風味を引き出す。

薫製された肉で出汁を取ったスープは黄金色に輝き、肉の香ばしさと玉葱の甘味がお互いを引き立たせ、それを旨味有る塩気と稀に来るピリッとした刺激でこれ以上にないほど旨味を引き出していた。

全てを綺麗に平らげ、安堵と満足の溜息を吐く。

すると天の腕輪が輝き出し、部屋にハイビスカスに似た花を撒き散らした。


「……またかよ?!!」

「……お花、綺麗……」


 昨夜の悲劇(?)を思い出し、天は苛立ちながら花を集める。

天は集めたそれをジッと見つめているティーに手渡してみると、ティーは嬉しそうに満面の笑顔を浮かべながら花を受け取った。



天は花を抱えながら寂しげな瞳で見送るティーに後ろ髪を引かれつつ、村の中を散策し始める。

宿屋の向かいは道らしき空間を挟んで道具屋があり、その右隣には武防具屋が設置されていた。

宿屋の右隣には精霊銀行が、宿屋の裏には冒険者斡旋所が建てられ、冒険者は宿屋を中心にする事であまり移動することなく用事が済ませられるようになっていた。

その為、それ以外の領域に立ち入るのは何となく心苦しさを感じるのは天だけだろうか。


(立ち入り禁止は暗黙の了解なのか、単なる好意なのか……)


 天は手始めに冒険者斡旋所へと足を踏み入れた。

斡旋所には数人の新米冒険者らしき10代前半位くらいの三人組が立ち話をしている。

天は聞き耳を立てつつ壁に張り出された依頼を眺めた。


「……だから、城下町のが依頼多いって言っただろ?さっさと行っちゃおうぜ」

「その分競争率高いからこういうトコのが穴場なんだってさ。ほら、カワウォ討伐とか有るしさ?」


 やや体格が良いが新しめの防具に身を包んだ少年が城下町行きを主張し、薄茶色のローブに身を包んだ中性的な少年がこの村での討伐を提案する。

ローブの少年の聞き慣れない単語に天は視界に意識を向ける。


・材木運び 五時間4S40B

・畑手伝い 五時間4S25B

・コッケー捕獲 1匹15B

・ニキャロ収穫 一本10B

・カワウォ討伐 5S※本体別途買い取り


(報酬はなかなかだが、何だろ?魔物系か?)


 依頼のジャンルは村の仕事の手伝いが多い為、その関連ではないかと推測されるが、どんな生き物かが全く想像が付かない天は再び聞き耳を立てた。


「カワウォって、あの2m級のでっかい魚だろ?噛まれたら痛そうジャン。またコッケー捕獲で地道に稼いでから行こうぜ」

「それじゃ地味だし格好付かないさ?!」


 三人の中で一番小柄で軽鎧を身に付け背中に弓矢を携えた少年が二人に抗議する。

それを拒否するローブの少年。

少年達の話からどうやら天達とは逆の方角から来たらしい事を知った天は三人に低姿勢で話し掛けてみた。


「ちょっとすいません。俺、新米冒険者なんですが、この辺の方ですか?」


 突然声を掛けてきた年上の後輩に三人は目を見合わせ、口を開いた。


「いや?オレ達フォードの町から来た『アルティメット・ビッグバン』だ!」

「フッ!」

「夜露死苦~!」

「……はあ、よ、よろしくお願いします……」


 直訳すると、『最終兵器・宇宙の始めの大爆発』だろうか?

何故か自慢げにパーティー名を告げる三人の感性は置いておき、異世界にも、親父とは種類の違う中二がいるのかと天は感心する。


「……フォードの町ですか、結構広いですよね。何か今話題のネタとか知ってますか?妹が具合悪くて寝込んでいるので色んな話を聞かせてやりたいんですよ」

「へえ、感心なにーちゃんだなー!そーだな、今のフォードの町は、何と言ってもお姫様が滞在に来てる事が町中の噂だぜ!!」

「……姫様?」


 体格の良い少年は鼻高々に町の自慢をし始める。

第一王女が誘拐された時に他の姫を城から出しているのはどうかと思うが、そこからティーの情報を仕入れられるかもしれないと天は心のメモを取る。


「凄いですね!何番目の姫様ですか?」

「は?姫は一人に決まってんジャン」

「……一、人??」


 弓を持った小柄な少年が呆れ顔で天を見る。

天は瞳を見開き、少年を凝視した。


「……それって……ティエレンヌ第一王女様ですか?」

「当ったり前だってさ!この国の姫って言えばティエレンヌ様だけじゃないさ!」


 ローブの少年も自慢げな顔で天を見つめていた。


「……それは、凄い話ですね!早速妹に教えてやります、有り難うございました」

「おう!良かったな!にーちゃんもたまにはニキャロ収穫くらいでいーから依頼やっとけよー!」

「ブッ!!ニキャロ強すぎてにーちゃんには掴まんねージャン!せめて畑手伝いとか行ってやれって!」

「ギャハハそっか!わりーわりー!!ちょっとずつ頑張れよー!!」


 大笑いする三人に天は震える拳を押さえ引きつった笑みで会釈し、その場を離れた。

 深呼吸を繰り返し、頭を整理する。


・城下町では姫が誘拐されたとの噂がある。

・フォードの町では姫が滞在に来てるとの噂がある。

・この世界に電話やネットなど即座に伝える手段は普及していないようだ。


つまり、フォードの町に姫が滞在に来ている時に三人は町を出、エルクの村まで来たようだ。

そして三人が旅している間に姫が誘拐され、フォードの町にいた護衛辺りが直ぐに城に知らせに来て、それが噂になってしまった。


「という事は、フォードの町までティーを連れて行く方が良いんだな……けど、記憶を戻す方法とか、どうすりゃ……」

「あ、あの……冒険者の方ですか?」


 天が思案に暮れ、独り言を呟いていると、優しい瞳の女性が天に声を掛ける。

その長い銀色の髪は膝まで真っ直ぐに伸び、健康的な色と思われる褐色を帯びた肌が儚げな彼女と真逆の印象を受けさせる。

落ち着いた雰囲気が20代くらいと思わせるが、実際の年齢はもっと若いと思われる、やや甘さのある顔つきに、瞳の色は赤いが、キツい印象は全くなく、大きな瞳は慈愛に満ちているようだ。

金の刺繍が施された白い西洋風の法衣は格調高く優雅な雰囲気を醸し出していた。


「……あの、いきなりこんな事をお願いするのもどうかとは思ったのですが、どうしても助けて頂きたくて……」


 女は言いにくそうに余所に顔を向けたまま両手を腹部辺りで動かしている。

天は村人の依頼なら、この村に世話になる以上受けるべきだとも考え、言葉を告げる。


「俺に出来る事……あんまり時間が掛からない事ならいいですよ。妹をあんまり待たせる訳にいかないので」

「直ぐに終わります!……あ、ちょっとは手こずるのかもしれないですが、そんなには時間は掛からないと思います……」

「……え、と。内容を一応聞くだけ聞いてもいいですか?」


 遠慮がちな女の態度は厄介な依頼を想像させられてしまい、天は内容を聞いてから決めようと尋ねる。

女は申し訳なさそうに回りを見渡し、天に告げた。


「……家の……『G』を、退治して欲しいんです……」

「……G……?!!」


 元の世界で聞き慣れた隠語を天は思い出す。

黒光りし、やや大きめの体の割にすばしっこく妙にしぶとい、あの昆虫……

しかしここは異世界、恐らくヤツではあるまいと頭を振り、思考を削除しつつ、天は女にGの特徴を聞いた。


「Gって……何ですか?……魔物、とか……?」

「いえ、台所とかに勝手に入り込み、凄いスピードで逃げ回る黒い虫っぽい……」

「……ああ、Gですね……」


 口にするのも嫌そうに女はGの特徴を呟き、天は元の世界と同じ生き物である可能性を感じ、気分を下げる。

確かにヤツの退治を苦手とする女性は多い。

いや、男でも極力対峙したくない相手だ。

どの世界でも忌み嫌われるヤツはある意味凄いかもしれない。

崇めるような世界が有ったら是が非でも滅ぼしたい所ではあるが。


「……分かりました……そのぐらいなら、何とか……」

「有り難うございます!!感謝します!!」


 女は神を拝むように手を組み、潤んだ瞳で笑みを浮かべた。



 天が村に入る時に使った門を真っ直ぐ突き進むと壁の手前に大きな家がある。

その手前を西に真っ直ぐ行くと突き当たりの角に小さめの、石を積み重ねた家があった。


「ここが私の家です。最近越してきたばかりなんですが、前から居座られていたみたいで……」


 大きめの石を平らく敷き詰めた床の台所に通される。

そこには煉瓦に覆われた竈のような調理器具や水瓶、調理用の台や食器棚などが整然と並べられていた。

そこに、黒い影が不意に現れる。

一体何処から現れたのか、元の世界のアレと同じ姿をしたソレは調理器具の側で一休みしていた。


(お、同じ、か?!!)


 天は背筋に通る寒い物を感じながら武器を探す。

洗剤で動きを鈍らせて新聞で叩く。

それが天の退治知識であった。

しかしここは異世界、洗剤も、新聞紙や直ぐに捨てられる紙類も無さそうだ。

ヤツが体を揺らす。


(逃げられる?!!)


 逃げられる恐怖に怯えた天は無意識にパーカーのポケットからハリェセンを取り出し、身構える。

ハリェセンの柔らかさで倒せるとは思えないが他に武器がない。

短剣も拳も論外だ。

ハリェセンを強く握り締め、力の限り振り下ろす。

叩き付けたその場を咄嗟に踏み付ける。

嫌な感触と共に天の任務は完了した。


「す、すごい……!!」


 天の華麗なるコンボ技に女は思わず唸りを上げる。

しかし天はこの後をどうすればいいのか分からず動きを制止させていた。


「あ!今、浄化しますね!」


 女が掌を翳すと天の足元から細かい光の粒が立ち上る。

不思議な現象に天はハリェセンから足を退け、その下を覗くと、ハリェセンと床から光の粒が発生し、瞬く間に消えていった。


「?!!こ、これは?!!」

「浄化と転移の魔法です。物体を原子レベルに分解し、遠くに移動させました」

「……魔法?!……魔術でなく?!」

「はい、私、一応精霊王なので魔法は得意です」

「はい?!!」


 天は飛び出さんばかりに目を見開き、女を凝視した。

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