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家の掃除機が異世界に繋がっていた。第11話 アナタヌカン……短足タヌキに奉仕され

「……という訳で、どうしようか?」


 噂話に花を咲かせる門番に気付かれることなく森へと戻ってきた三人は円を描いて地面に座り込み、作戦会議に入る。

スーロの記憶によると、ティーはウェルゼウト王国……この国王の第一王女で、その王女が誘拐されたと城下町でも噂になっているらしい。

つまり、ティーを連れて城下町に入れば何らかの疑いを掛けられ、事情聴取の上、真犯人が現れるまで監禁される事は間違いないだろう。

不幸中の幸いは、スーロが城に着く前に思い出してくれた事だ。

しかし、旅慣れたスーロはともかく姫であるティーに野宿は流石に辛いのではないだろうか?

かといってまた町に戻るとなると確実に夜明けになる。

 天は押し黙ったまま地図を広げ、思案に暮れていた。


「もうすぐ夜になるし、ここで野宿にするか?幸い食料は恵んでくれるようだ」


 天達の回りには取れたての川魚に木の実や果実、食べられそうなキノコや草などが山積みにされている。

魔獣を退治してくれたお礼だと言わんばかりにアナタヌカンが入れ替わり立ち替わりせっせと運んでくれていた。


「……んーそれだとティーがきつくないかな、と。城下町を西に進むとエルクの村がある。多分地図の距離を見ると今夜中に着けそうな気もするんだよな」

「エルクの村なら、私が追放された時世話になった村だ。長閑でいい村だぞ。確かにシダの町に戻るより近かった気がするな」


 天の言葉にスーロは懐かしそうにエルクの村を語り出した。

 シダの町で姫誘拐の噂を聞かなかった事を考えると、まだ城下町から噂が出ていない可能性がある。

もし噂が広がっていても、城下町でパーカーの帽子で顔を隠している少女より村という規模でパーカーの帽子で顔を隠している少女の方が、その少女=姫という疑いが掛かる可能性が低い気もした。

なるべく人目を避け、素早く宿屋の部屋に移動させ、誘拐事件の情報を収集し、今後の動き方やティーをどうするかも考えたい所だ。

天の時間を遡る能力はどうしても試させてくれない為、記憶を戻してやれる方法も見つけたい。

それは天に懐きまくっているティーの為にも、天が帰る前にしてやらなければならない事だろう。


「……野宿、平気……ふわふわ……」


 いつの間にかティーの回りにはアナタヌカンが集まり、柔らかく温かい布団と化していた。


「そっか……んじゃ、今夜はここで休んで、朝になったら俺かスーロが城下町の貴族の所へ行って、後の二人はそのままエルクの村に行き、そこで合流するってのは……」


 天の提案にティーが天に縋り付く。

天を凝視する目は『離れない』と主張していた。

そんなティーの態度に天とスーロは顔を見合わせて苦笑する。


「では、貴族の所へは私が行こう。その方が話も早いだろう」

「……そうだな、見知らぬ人間が行っても会えるまでに何日か待たされるかもしれないしな」


 その点スーロなら本人がいなくても以前依頼を請け負った事での信用があり伝言を頼めそうだ。


「……けど、村に着いたらティーは宿屋で待機、俺は村で情報収集とかするから、そこは我慢しろよ」

「……分かった……でも、直ぐ戻って……」

「三食届けに行くから。またシダの町みたいな宿だと部屋に食堂のメシを持ち込むのは無理そうか……?」

「エルクの村の宿屋は数人泊まれる部屋しかない。忘れずに三人部屋を取っておいてくれ。宿屋の女将は優しい人だ、頼めば持ち込めるだろう」

「了解。それなら俺も部屋で食うか」


 天の提案にティーはアナタヌカンの持ってきた果実を頬張りながら笑みを浮かべた。


 天とスーロが交代で見張りをし、無事に一夜を過ごす。

森の中といっても出口にごく近い場所で、危ない魔物や攻撃的な動物は森の奥から出てくる気配もない。

おまけにアナタヌカンの群れが天達を包囲し守ってくれていたらしく、他の生物に会う事はなかった。

しかし人生初の野宿を全うした天は緊張のあまりほぼ完徹だった。

心配そうなスーロを城下町へ向かわせ、天とティーはアナタヌカンと別れを告げ、エルクの村へと足を進ませる。

森を抜けたからなのかスーロがいないからなのかブロクーは全く現れなかった。

睡眠不足による八つ当たりで攻撃してくる敵を返り討ちにし、天は倒したニキャロやピマーを布袋に詰めてからリュックに放り込む。

金になればラッキー、ならなければ飢えた時に食べるか捨てよう。

幸いアナタヌカンの差し入れも結構な量があった。

魔物や動物は売れるか分からない為放置した。


「あれがそうかな?」


 大きな山々を背に、若干低めの壁から家の屋根が覗いている。

あまり大きくない壁と川の間には田畑らしき整えられた地面が幾つか設けられていた。

天はティーに着せたパーカーの帽子の紐を引っ張り、ティーの顔を隙間から覗ける程度まで隠す。

緊張する手を押さえながら天は門番に近付き、頭を下げた。


「おはようございます。冒険者ですが中に入れて頂けますか?」

「お疲れさまです、どうぞ」


 ティーは帽子で顔を隠し、天の左腕のバンダナからはハイソラカスの花がチラ見えしているというのに何事もなかったように呆気なく門が開かれる。

元魔王も出入りするくらいだから大したことがないのかもしれない。

天は少しセキュリティの甘さに門番の意味を考えつつ中へと入っていった。


 壁には田畑に出やすいようにか西側の中央部にも扉が設置されており、冒険者用の店は天がいる方の門付近に集まっている。

土の露出する地面に木製の建物が数戸、四角い石を積み重ねた建物が数戸建っている。

町と比べて住宅も施設も少なく、長閑な空間が広がっていた。

この辺は田畑以外にも林業が盛んらしく、あちこちに木材が積み並べられ、倉庫のような大きめの建物も幾つか建っていた。


「門を入ると直ぐ宿屋か。便利だな」


 向かって右側に、シダの町より小さめな、石を積み重ねて作られた建物。

その壁に看板を引っ掛ける金具が飛び出しており、宿屋という文字が書かれた看板が掛けられていた。

木製の扉に手を掛け、中へと進む。

中はいきなり飲み屋のようなテーブルと椅子、樽などがそこかしこに置かれている。

まだ昼だからか、飲んでいる客は数人、隅の方で何かを話ながら飲んでいる。

一番奥のカウンターは飲み屋用なのか、宿屋用なのか。

天が考え込んで足を止めると、客に混ざっていた恰幅の良い初老の女性が手元を布巾で拭きながら天の方へとやってきた。



「いらっしゃい。お泊まり?それともお食事?」

「後からもう一人来るので、三人用の部屋を。あと、部屋で食事もしたいんですが」

「ああ、いいよ。若い子がここで食事するのは少々居づらいだろうしね……そっちの子は、どうしたんだい?」

「あ、ちょっと風邪っぽくて寒いらしくて……」

「そりゃ良くないね!早く部屋で休みな!あとで消化のいいもん持ってったげるよ」

「いえ、そこまでは。メニュー一つ借りても良いですか?こいつ、わざわざ下まで選びに来るのキツいと思うんで……」

「ああ、いいよ。ゆっくり休みなね」


 女将は番号の付いた部屋の鍵とメニューを天に手渡し、ティーの頭を撫でる。

帽子を外されるのかと警戒したティーは怯えてその手を振り払い、天にしがみ付いた。


「す、すいません、こいつ人見知り激しくて……」

「ああ、ごめんね、急に触って。もうしないから、ゆっくりお休み」


 女将は申し訳なさそうに優しく微笑み、二人を見送る。

天は罪悪感を抱きつつ奥の階段から二階へ上がり、部屋の扉を開けた。

十畳ほどの部屋に右側の壁に沿ってベッドが三つ並べられ、ベッドの足元にはテーブルと椅子のセットが置かれている。

ベッドの頭側と一番奥の壁には大きめの窓が備え付けられていた。

そして奇妙な事に入り口直ぐ左側にまた扉がある。

そこを開くと、トイレと洗面台、小さめのバスタブまで備え付けられていた。


「バストイレ付きか。こりゃいいな……さて、もう昼だしな、早速メシにしようか。」


 天はリュックをテーブルの足下に置き、テーブルの上にメニューを開く。

ここのイラストは割と綺麗で、メニューの内容をよく表していた。


「……これが、いい……」


 ティーの指差す方には果物のような絵が描かれていた。


「……今朝と昨日食べたの、美味しかった……」

「アナタヌカンがくれたヤツかよ、それならまだあるぞ、ほら」


 リュックからアナタヌカンが差し入れてくれたリンゴのような桃のような奇妙な果物を取り出し、ティーに渡す。

天のリュックには昨日アナタヌカンが差し入れてくれた木の実や果実、草などが溢れんばかりに入っている。

ティーは果物を嬉しそうに頬張りだした。


「で?主食は?」

「……これで、いい……」

「いやいや、腹減るだろ?」


 天の質問にティーは首を横に振った。

本人が嫌がる物を無理強いする訳にもいかず、天は自分の分を多めにとって分ける事にした。


「ギューのステーキ一人前と、今日の川魚の定食でいいか」

「……テン、お腹痛くなる……」

「んな事ないだろうけど、そうなりそうなら手伝ってくれ」

「……ムリ……」

「……む、無理なのか……」


 ティーのハッキリとした拒絶の言葉に天は少し落ち込んでいた。

そんな天の様子にティーはオロオロし出す。


「……ティー、果物だけしか……食べれない……」

「!!……そ、そーだったのか!!」


 相手は異世界のお姫様だ。

食文化が違ってもおかしくはないだろう。

元の世界でも菜食主義とかはいた訳だし、その手の類かもしれない。

姫=高級食=ステーキ、肉が駄目そうなら魚作戦を失敗に終えた天は心の中で大人しくランチセットにメニューを変更させた。


「分かった。メニューに載ってる果物が食べたかったら遠慮無く言えよ」


 天の言葉にティーは微笑みながらゆっくりと頷いた。




「あとすいません、この村にニキャロとピマーの買い取りが出来る所って有りますか?」


 天は二つの布袋を持って一階に下り、女性に注文をした後、野菜の売買所を尋ねる。

どうもこの村には、『八百屋』という建物が無さそうだからだ。

何でも屋のような所に売るべきかも迷ったが、宿屋が使うというのなら、お世話になる訳だし直接売った方が宿屋も安く買えて喜んでもらえるのではないかと考えた。


「ああ、丁度欲しかったところでね。良かったら売ってくれるかい?」

「勿論。こっちがピマーでこっちがニキャロです」

「まあ!分けてくれて助かるねー!冒険者さんは何でも一緒に入れる人が多くて……匂いが移ると嫌がるお客さんも多くってさ」

「確かに、ピマーは独特の匂いですよね」


 ピマーとブロクーを同じ袋に入れたら恐らくスーロはブロクーも食べられないだろう。

天の配慮は的確だったらしく、喜んだ女将は少し奮発してくれたらしい。


「10Sも貰っちゃっていいんですか?!」


 冒険者斡旋所の依頼でニキャロは収穫 一本10Bだった。

これは元々植わっている物を収穫する手間賃である為、本体価格はもっと高値だとは予想されるが、いっても3倍くらいだろうか?

ピマーの相場は分からないが同じ位と考えたとしても二袋で30個も入っていない。


「いいのさ、美味しいもん沢山食べさせて早く妹さん元気にしてあげなよ」

「有り難うございます」


 顔は見えないが腕や足は完全に女の子の物であるティーは天の妹だと思われたらしい。

天は更に女将に罪悪感を抱きつつ、報酬をそっとパブレスに入れた。


「頑張りなよ、お兄ちゃん勇者!」

「……?!は、はい……???」


 女将は穏やかな笑みを浮かべ、大きな胸と腹を揺らしながら奥へ去っていく。

妹を守る勇者だとでも思われたのだろうか?

天は意味が分からず言葉を濁した。

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