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家の掃除機が異世界に繋がっていた。第1話 異世界に放り出された。文字通り。

初連載始めました。

楽しんで頂けると幸いです。

 日下天(くさか たかし)の父は厨二病を拗らせた中年だった。


「父さんは若い頃異世界に召喚された勇者だったんだぜ?(ドヤ)」


が口癖で、脳内設定の異世界を子供の頃から聞かせてきた。

その話は、自分が居る場所にいなかったはずの人が居る事になっていたり、構えていたはずの槍が剣になっていたりと設定の甘さが際立っていた為、子供であった天も親の妄想である事は容易に感じ取れており、父の話を鵜呑みにし友人に誤って自慢するという事態には至らずにすんでいたのは幸いだろう。


「母さんとは異世界で知り合ったんだ。綺麗な白金髪に青緑の瞳でな」

「……何処の母さんだよ?」


 天の母親は名を風子という純日本人だった。

 こんな妄想家の父親に育てられ、天が父を反面教師に現実主義を目指すようになるのは仕方ない事だろう。

天は高校1年でありながら既に将来を愁い、学業や資格取得に励んでいた。

日本が他国の支配下になる事やどの国の人間が企業のメイン、もしくは顧客にいても対応出来るよう、様々な国の語学習得、万が一の体術訓練などに意欲的なのは、父譲りの想像力がマイナス方面に働いているのだろう。

現実主義を目指してはいるがかなりの妄想家である自分自身に天は気付いていなかった。


「ほら天!異世界でサーベルタイガーに不意打ちを食らった時の対処法をしてみろ」

「……サーベルタイガーは地球で数万年前に全滅してるだろーが!」

「ああ!間違えた!サーベルライオン……サーベルチーターだったかな?」

「脳内設定錬り直して来やがれ!!」


今日も今日とて休日昼間、昼食を終えて勉学に勤しむ天の部屋に勝手に入り込み、よく分からない獣の真似と称して暴れ、部屋を滅茶苦茶にする駄目親父がここにいた。


「……人は死んだ後、どの位の割合で異世界転生するんだろうな」

「現実逃避はいいから、部屋片付けろ!!!」


 自分に都合の悪い事は耳に入らない残念な父親はそのまま何処かへ去ってしまった。

天は深い溜息を吐きながら床の物を拾い上げる。

棚が倒れた為、その中にあった陶器やプラスティックの破片がそこかしこに散らばっている。

大きめの破片を拾い終えた天は割れた破片で足を切らないよう念の為スリッパを履き、文句を呟きながら作業を続けた。

床には折れたシャーペンや壊れた諸々も落ちており、全て拾うには手では無理そうだ。

仕方なく下の階から掃除機を運び、手元のスイッチを押すと、少々不愉快な音が、部屋中に響き渡る。

ゴミが落ちている場所に、掃除機の吸い込み口を押しつけ、前後に動かす。

しかし、遠目でも分かる程度に、ゴミはその場から離れない。


「……ん?何か詰まってるのか?」


 一向に吸い上げない掃除機の様子に、本体からホースを外し、ホースの内部に異物が詰まっていない事を確認した後、掃除機本体の穴を覗く。



---そこには、掌が押し付けられていた。



「……?!」


 驚きのあまり、掃除機を放り投げる。

が、自ら見た物が信じられなかった為、もう一度、確かめる。


---確かに、掌だ。


 掃除機の穴が光を上手く受けられない場所の為、暗くて見えにくいが、確かに掌のような物が有る。

穴の上部には、4ヶ所、光の差し込む空洞のような場所が有った。

恐らく、指の隙間から、向こう側からの光が差し込んでいるのだろう。


「……いや、そんなバカな……」


 掌の様子から、掌の向こうには光のある場所である事が伺える。

しかしその掃除機は何処にでも有りそうな、ごく普通の掃除機で、人ひとり、入れそうにもない大きさだ。

そんな非現実的な状況と、掃除機の中の大きさからそんな状況が作り出せるはずがないという常識が頭の中で争い合い、天は激しい混乱に陥った。

しかし、直ぐに考えを改める。

そもそも自分はこの部屋の現状を解決する為に、掃除機を使っている訳である。

これがどういう状況とかそんな事は天にはどうでもいい話だった。

どうでもいいそれは、何であろうと、掃除の邪魔である、と。

そう思った天は、その掌と思わしき物を奥へと追いやろうと自らの指を押し付けた。


 掌を追いやろうとするが、意外な事に掌もそれに負けじと押し返してくる。

女性の物と思われる少々小さめのその掌は見た目に反し、結構な力を持っていた。

激しく押すと、その分押し返される。

天も負けじと力を強め、掌を押し返す。

暫く天と掌の攻防が続く。

 その時、掌がイラッとしたような怒気を孕んだ。


 その掌は天の方へ伸び、天の腕を掴む。


「……へ?!!」


思いがけない事態に天は思わず声を上げるが、その手は天の体ごと、掃除機へと引摺り込み、天の体を放り投げた。



* * *



「……いてて……」


 掴まれた腕と、投げ出された体の痛みに天は軽く声を上げ、横たわった体を起こす。

天の目の前には見渡す限りの草原-----

-----と、天を不思議そうに見下ろす、赤い髪を一つに纏め黒い鎧に身を包み、凛とした鋭くも大きめの鮮やかなブルーグレーの瞳に整った顔立ちの二十歳前後の女性が佇んでいる。

 鎧の上からも恵まれたボディラインと分かるその女性は天を不思議な物を見るかのような唖然とした表情でジッと見つめていた。


「……何だここ?!掃除機ん中か?!」


 天は辺りを見回し、誰に聞くとも無く、声を上げる。


「……ここは、マエスシーティア大陸南方の大草原だが…お前、変わった服を着ているな、何処から来た?」


 女は天の質問に答え、疑問を投げかける。

天の格好は、金のプリント柄の白いTシャツの上に黒い模様の入った赤いパーカー、ケミカルウォッシュの黒ジーンズにグレーのスリッパという、比較的よくあると思われる格好をしている。

天からすれば、この女の格好の方がよっぽど変わっていると思われたが、天はそれどころでは無かった。


「……マエスシ……???は?」


 天は聞いた事も無い国の名前に愕然とする。


 掃除機から手が伸びて、引きずり込まれた場所は、掃除機の中などでは無く、聞いた事も無い名前の場所だった。


(……そう言えば……この格好……)


 天は不意に目の前の女の服装を凝視する。

ビキニアーマーと言われる現実的でない鎧と小手や肩当てなどの防具の下は豊かな胸元以外黒い布地で覆われているその装備は、現代では有り得ない格好をしている。

いや、中にはそういう格好を趣味でする人間もいるだろうが、趣味で使うには重厚すぎる金属で作られている事が見るだけで分かった。

その姿は、父親から耳が腐るほど聞かされていた女性用アーマーの形と酷似していた。

それらの事実から導き出される答えは一つだった。


(……これ、親父の言ってた……異世界トリップか?!!)


 天は認める訳にはいかない驚愕の現状に必死で頭を振り続ける。

まだ父の言う事が事実であったと決定するのは早すぎる。

それに、どうして自分がこんな世界に来てしまったのか、それが全く分からない。

父にムリヤリ聞かされていた為、異世界トリップや異世界転生という現象については知らない訳ではないが、自分が喚ばれるという理由が分からない。


 天は腕を組み、暫し思案に暮れ、一つの結論に至った。


「呼び出す相手は多分家で寝てるんで、俺は帰してもらえませんか?」


 父と間違われて自分が来たと解釈した天の言葉に、女は小首を傾げた。


* * *


「……チキウのニッポンのガクセイ?……うん、なるほど。……つまり?」

「……俺は別世界の人間で、多分、この異世界に召喚されたような状態で……」

「なるほど!それなら昔語りで聞いた事がある気がするな!まさか実在するとは思わなかったが」


 天と女はいつの間にか草原に座り込み、お互いの事情を話し合っていた。

天は状況を説明するが、女はそれを上手く理解出来ず、天は不本意ながら父の厨二病知識から培った用語で表現すると漸く理解してもらえたようだ。


 女の名はスローフェル=シュバルツァー、冒険者の剣士だそうだ。

依頼の完遂報告でこの近くの町へ戻る途中だったらしい。

スローフェルと掃除機の掌は関係無いらしく、天が突然空から降ってきたと語る。

天が掌にちょっかいを出した事で掌に放り投げられた結果、召喚した者とは離れた場所に来てしまったようだ。


「そういやスローフェルさん、話を聞くと町の外は魔族と交戦中とかなら、俺もそうだと思わなかったんですか?」

「?!!」


 その時に自分を呆然と見ていたスローフェルの様子を思い出した天は疑問を投げ掛ける。

どうやら人間は、魔族と領地争いを繰り広げている戦争真っ直中らしい。

この草原にはそのような様子は今の所見られないが、突然空から降ってきた謎の物体?に警戒しても良さそうなものだ。

その言葉にスローフェルは驚嘆し、眉を吊り上げながら即座に立ち上がり、天に向かって剣を構えた。


「!!何?!お、お前、私を誑かしたか!!」

「……いや、違いますけど……」


 そんな事は思い付きもしなかったようなスローフェルの態度に天は困惑し、苦笑しながら両手を上げる。

そんな天の様子を見、改めて天に害がない事を確認するとスローフェルは剣を収め、その場に座り直した。


「……脅かすな。吃驚するだろう。元魔王が魔族にやられたら洒落にならん」

「……はあ?!!」


 これ以上ないほど大口を開けて驚く天の姿に、何故か照れながら頭を掻くスローフェルだった。

更新は三日毎の予定です。

よろしくお願いします。

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