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序
机上の灯りは細々と部屋を照らしていた。
塗り壁は古く、それでも白く、部屋の中央に腰掛ける神官の白衣と溶け合うようだった。
ゆったりと布の多い祭衣。肩と胸を覆う帯襟は紅く、足元に敷かれた絨毯と同じ色をし、その上にある銀糸刺繍の八角星を際立たせていた。
「立派に務めを果たしなさい、イグラ」
老いた聖堂の長はゆっくりと、落ち着いた口調で言う。
イグラと呼ばれたのは、同じ白色でも神官とは違い、裾や袖が短く締まった服に藍色のマントを重ねた偉丈夫。
扉を背後に立つ彼の新芽のような柔らかな色の瞳はしかし、冬空よりも暗く翳っていた。誰もそれに気づかない。聖堂の長も、彼の仲間たちも、誰も。
「……はい――」
イグラは震える声を絞り出した。老神官が満足げに頷くのを見た。
部屋の奥では、輪郭を薄闇に溶かした石造りの女神が穏やかに微笑んでいる。