わたしの、好きなひと
中学生のマヒロと丼くん。淡い恋のはじまりの予感。
とある田舎で、中学生にケータイが普及したころ。持たせてもらえなかった作者のもやもやを青春仕立てで昇華してみました。※ジャンル:恋愛としていますが、恋愛要素は限りなく薄いです
いつもの仲間と結城ちゃんの家に集まった。
結城ちゃんと丼くんは中2で同じクラスになってからの仲良し。みきにもっさん、それから雄大とは、幼稚園の頃からの長~い付き合いだ。
週末のお昼時からおやつ持参で集合。金欠の時はネタ持参が鉄則。誰かの家だったり近場の公園だったり、晩御飯の時間までくっちゃべってるのがお決まりだ。
受験生の身分になった中3の夏。集まる機会は減ったけど、最近、それ以上に事情が変わってきたのです。
チャラララ~ラ~♪
「可愛い!ねぇこれどうやってやるの??」
「あー、まずこっちのサイトから入ってぇ……」
カシカシカシ、カシ
「「ぶっ!!なにそれウケるんだけど」」
「マネの先輩から回ってきてさ~……」
あっちでジャカジャカこっちでピロリン。そう、みんなの手には携帯電話。手のひらサイズの文明の利器に夢中なのだ。
現在、絶賛取り残され中であります!仲間に入りたいであります!と、心の中でHELP!を叫んでもお母さんからのお許しは得られない。わたしもほしいなぁケータイ。
仲良しにかわりはないけど、この瞬間だけちょっと寂しい。
「あ、見て見てマヒロちゃん!これ好きだよね」
「ととまろーっ!!!!可愛いなぁ」
私の大好きなキャラクター海の妖精ととまろが、結城ちゃんのピンクの携帯の中でぷかぷか海を漂ってている。
「あのね、これ待ち受けで育てられるんだって。明日からマヒロちゃんの係ね」
「やーん嬉しい、任せて!立派に育て上げてみせるから!!!」
結城ちゃん優しいなぁ。私のためにダンディな口ひげラッコを飼ってくれるなんて。さっきまでちょっと下降してた気分がすっかり天国気分だ。我ながら現金だな。
「結城ちゃんが天使に見える~」
「え~??そんなことないこともないけど」
まんざらでもなく小首をかしげた結城ちゃんがそのまま私の耳元に手をあてて寄ってきた。
『でもね、これ見つけたの…』
「マーヒーロー!買い出し行くよ」
ヒソヒソ話を聞きとろうと耳をダンボにした途端に邪魔が入ってしまった。
「え、ちょっと待ってよみき様」
「だめ。すぐ行ってすぐ戻ってくるよ!」
それからもうひと勝負!と、幼馴染ボーイズとの勝負に負けたらしいみきはご立腹だ。負けず嫌いだからね。
結城ちゃんも内緒話をあきらめてしまった。と、思ったら、突然勢いよく立ちあがった。
「はいはーいっ結城が行くよ。みきちゃんは勝つまで勝負!」
「え、まじ?!サンキュー帰ってくるまでに絶対こいつらぶっ倒しとくから」
途端に機嫌を良くしたみきと、ノリノリな結城ちゃん。
どうするのかとふたりを見ていると結城ちゃんと目が合った。その悪戯っぽい表情から、さっきの続きかな?と予想してわたしも立ち上がった。
***
まだまだ勢いの衰えない太陽の下、木漏れ日をえらんで歩く。街路樹のざわめきとともに楽しそうな鳥の鳴き声が聞こえてきた。
今日は風が涼しいから過ごしやすい。せっかくだから外で遊べば良かったかも。
「そうそう、出掛けの続き、聞きたい?」
「もっちろん、待ってました!あのととまろのこと?」
「そう。ふふふ」
さっきのように何か企んだような顔で互いの距離を縮めた。右手に提げたコンビニの袋がガサガサ揺れる。
周りに誰もいないけど気分はやっぱり内緒話なのだ。
「実はあの育成ゲームを見つけたのってわたしじゃないの」
そう打ち明ける結城ちゃんは、申し訳なさそうというよりすごく楽しそう。もっと秘密があるんだな、きっと。
「ある人が、これマヒロちゃんが好きなキャラだよね?って、結城に訊いてきたの」
「ふむふむ。ある人がねぇ」
「そう、ある人が」
語尾に音符がついていそうな位盛り上がっている結城ちゃん。
彼女によるとそのある人物は、わたしが皆を羨ましそうにしていることに気づいていたそうだ。それでわたしの好きそうなものを見つけて勧めようとしてくれていたらしい。
「まぁ、結城が良いところ持ってっちゃったんだけど」
「なるほど。じゃぁその人にもお礼言わなくちゃね」
「うんうん、そうしてあげてください!だけどさ~恥ずかしがって自分から声かけらんない向こうがいけないんだよ。結城はお手伝いしてあげたの」
ほめてほめて~!とすり寄ってきた結城ちゃんの頭を撫でる。
だけど、その人物って誰だろう。恥ずかしくて話しかけられないって…そんな人いたっけ?
塀の上でお昼寝中の猫を見上げてみても答えは出そうになかった。
肝心の謎を抱えたまま家に着いてしまった。
難しい顔をして階段を上がると、先を行く結城ちゃんが部屋の前で私を待っていた。
そしてドアを開く直前ぐっとわたしに近づくと、さっきの答えを耳打ちして素早く部屋の中に消えてしまった。
答え。つまりその“ある人物”の名前と、おまけに驚きの情報までついてきた。それを反芻しながらもう胸はどきどきで、なんだかよくわからない。
(だってその人はわたしの、…え…?)
結城ちゃんからスリーテンポ遅れて部屋に入ると皆からお帰りの声がかかった。もちろんあの人からも。
袋の中をテーブルに広げその場に座る。向かいからみきやもっさんが話しかけてくれているけど、正直耳に入らない。ごめんわたしのプリンあげるから許して。
テーブルの角をはさんだ隣にあの人が座っていた。
結城ちゃんはああ言っていたけど恥ずかしいのはわたしの方で、全然顔を上げられない。
いや、そこまで意識することじゃないよね、気遣ってくれただけだよね、優しさだよね。結城ちゃんの、勘違いだよね。
そう思ってちらりと彼女に眼をやると、思わせぶりなウィンクを送られた。さっきの囁きがよみがえる。
『ある人って丼くんのこと。マヒロちゃんのこと気になってるみたい』
「ちょっとマヒロ!変な顔して、話聞いてる?」
「いやだみきったらそんな、変な顔だなんて~」
「ほめてないから」
どすっと頭にはいった突っ込みは全然気にならない。だけどこれだけは気になる。
(変な汗が流れてるけど、どうか丼くんには気づかれませんように。神様よろしく!)
そう願って顔をあげた瞬間、ばっちり彼と目が合った。
「あのさマヒロ、今度の休みなんだけど」
「うん?」
丼くんが少しこちらに体を寄せて遠慮がちに問いかけた。肩も手も触れないけど、熱は伝わる微妙な距離。心臓の音まで伝わってしまいそうで、意味もないのに息を詰めた。
「その、そこの図書館で勉強しない?一緒に」
「……いいけど、ふたりでってこと?」
なんとなく声をひそめて聞き返しながら周りをうかがう。みきたちはまたゲームで盛り上がっていた。結城ちゃんもお菓子をつまみながら応援している。
なんだかふたりきりになったような気がして、顔がいっそう熱くなった。
「うん。やっぱだめ……かな?」
不安げに私を見つめる丼くん。緊張しているのか、心なしか頬が赤い気がする。
そして多分、それはわたしも一緒だろう。だって悲しくないのに胸が苦しい。
わたしは声が震えないように首を横に振って答えた。
「いいよ。約束ね」
心底ほっとしたとでもいうように、丼くんは長い溜息をついた。
「ありがと。絶対忘れんなよ」
力の抜けた笑顔をみせて天井を仰ぐ丼くん。その隣で丼くんを横目に見ながら必死で頬を抑えるわたし。
(ふたりで勉強って、友達なら普通のことだよね?)
だけど丼くんの緩んだ笑みも、わたしの内側を舞い上がるこの気もちも、それ以上を予感させる。
まだ心の中をふわふわ浮かんでいるだけだった淡い気もちが急速に形を成していく。
ふと、床についた右手に何かが重なった。
驚いて手を引いてから、丼くんの左手だと気づく。
(わたしより一回り大きくて、それから指先が冷たかった気がする)
テーブルの向こうで一段と大きな歓声が上がった。
ほんのさっきまで寂しかった状況。
ふたりで輪から外れたいま、もうそのことは気にならなかった。
―――――――わたしの、好きなひと
初心者の初投稿作で、読みづらい点や内容の未熟さなどつっこみどころは多々あったかと思います。最後まで読んでくださりありがとうございました。