偉人と時かけ(リメイク)
高校での煩わしい授業も終わり、自宅でくつろいでいた時「偉人になりてぇ」とルームメイトかつ友人の時人がため息を付くようにボソリと呟いた。
「悩むのはいいが、とりあえずそこ僕のベッドだからどいてくれないか?」
ベッドに座りながら頬杖をついている時人に若干イラつきながら言う。こいつのせいで自分の部屋だというのに僕はクッションが死んでる勉強机の椅子だ。
「まあいいじゃん。気にすんなよ遷移。それより『どうしてそんなこといったんですか?』ぐらい言えないのかよ」偉そうに腕組をしながら言ってくる。
なんて厚かましいやつだ。悩ましい。だが僕も大人だ。心を広くもってこいつと会話をしてあげようじゃないか。
ただ、普通に言うのはなんだか悔しかったのでカタコト気味に「ドウシテソンナコトイッタンデスカ?」と言ってみた。
「よくぞ聞いてくれました!」と身を乗り出して嬉しそうに言ってくる。俺のカタコトにはノータッチですか。そうですか。
「今日歴史の授業があったじゃん。それで織田信長が凄くかっこ良く感じてさ、俺もそうなりたいと思ったわけよ」
「昔からお前はすぐ影響されるな。」
僕らがまだ小さかった頃もよく戦隊ヒーローものを見ると「俺もひーろーになりたい!」とか騒いでたものだ。歳をとって外見は変わっても内面はそんなに変わらないものだな。
「だって俺らもう十六の男の子だぜ。世が世なら勇者として魔王退治に出かけていてもおかしくないじゃないか」
何を言っているんだろうこいつは。
「というか偉人になりたいって言ったて、ここは戦国時代じゃない。しかも大体の自然現象は解明されているし、技術だって頭打ちなのが現状だ」
「そ、それはそうだけどさ」
「だろう? 今から十年前ぐらいならまだ可能性があったかもしれないけどさ」
そう今は泣く子も科学的に黙らせる天下の2020年。あの頃の科学のレベルではない。あらゆるものが自動だし、ロボットだって自分の意志を持って活動している。まあそのおかげでつまらない世の中になったように思うが。
「……そうか! わかったぞ!」時人はベッドからバッと立ち上がり、子供のように純粋な瞳で僕を指差す。「タイムマシンがあるじゃないか! これができたら教科書に載るどころの騒ぎじゃない!」
小学生からの付き合いだがこいつ、勉強に限っては人よりもできるのに根の部分はアホだと心から思う。
「……それはそうだろうけど」
「なんだよ、文句あるのか」そう言って不満そうに腰掛ける。文句ならありまくりだ。
「タイムマシンは絶対実現不可能だっていろんな科学者たちが挑戦してはそういう結論にたどり着いてんだろ。無理だって」
「いやいや、俺とお前が組めば絶対いけるって! な! やろうぜ!」
今度は俺の肩を掴んで豪快に揺すってくる。相当うざい。だけど頼ってくれているのはちょっとだけ嬉しかった。
「……わかったから離せよ。鬱陶しい」時人の手を虫を払うような仕草をしてどけさせる。
「いやー。お前ならきっと協力してくれるって信じてたぜ」
時人は嬉しそうに話す。僕は血の涙が出そうだ。……それにしてもこいつにタイムマシンを実現させる策があるとは思えないし、どうしたものか。……自分で言うのもなんだが、こんなくだらないことまで一緒になって考えてやる程度にはこいつのことが好きらしい。LIKE的な意味で。
「というか、タイムマシンに関する知識とかあるのか?」
とりあえず疑問に思っていたことを口にする。
「当然。出なきゃこんなこと口にしないって」
そう言うと聞いてもいないのに、アインシュタインの相対性理論やらその他タイムマシンに関することをべらべらと語りはじめた。こうなるとこいつはもう止まらない。アホなのに凄い博識なのだ。アホなのに。
……一時間くらいたっただろうか、ようやく友人の話が終了した。
「分かったかい遷移くん」
そう言いながらメガネを上げるような仕草をする。……メガネかけてないのに。
「すごくわかりやすい説明ありがとう。時人」
皮肉交じりに言う。にも関わらず時人はニコニコと嬉しそうだ。
「ということで遷移くんこと、助手よ後は頼んだ。もう十時だし俺は寝るから、タイムマシン作ること考えといて」
「はぁ! 何が『ということ』だ! ふざけんな!」
僕の言葉が聞こえないふりをして遷移はベッドに潜り込み、すぐさま寝息を立て始めた。……というか寝るの早すぎだろ。某メガネをかけた年中黄色がイメージカラーの小学生もびっくりだよ!
「……タイムマシンか」
もし完成したならこの世界はどうなるのだろうか。みんながみんな思うがままの時代に行き、そして歴史を改変したとしたらきっと良くないことが起こるんだろうな。……よくわからないけど。
「さてと」
僕は椅子の向きを勉強机へと変える。実のところ僕も教科書に載りたいと本気で考えた時期もあった。すぐに挫折したが。だからこそだろうか時人の夢を叶えてあげたいとそう感じた。こうして僕は毎夜毎夜タイムマシンについて考察することになったのだ。
あれから一年の歳月を流れたある日、僕達はある法則を発見した。と言っても時人の力が大きかったのだが。ともかくそれはどんな有能な科学者も発見することができなかったものだ。その日は二人で手放しに喜んだ。この法則が真実であれば悲願のタイムマシン作成が可能となるからだ。
更に一週間がたち、ついに椅子型タイムマシンの制作に僕達は成功した。ちなみにこの椅子、僕の勉強机の椅子である。そのため座り心地は最悪だ。もっと良い椅子にしようとしたのだが時人が「この椅子にしよう!」とうるさかったためこれになった。まあ兎にも角にも、どんな科学者もお手上げだったタイムマシンをこの手で作り上げたのだ。
実験には木からちぎった葉を用意し、座標軸を俺の部屋の勉強机に指定、一週間前に転送した。結果から言うと大成功。そこに行ってみると葉が茶色く枯れた状態で存在していた。その時の気分は喩えようもないほどの高揚感でいっぱいだった。
それから僕たちは日本の政府へと向かい、このことをテレビで公表してもらった。このおかげで僕たちは日本が生んだ鬼才と呼ばれるようになり時人のそして僕の夢を達成することができた。
……そう本気で思っていた。時人が自殺をするまでは。
葬儀は遺族と友人だけで密かに行われた。世界中の人間は鬼才の突然の自殺に驚きを隠せなかった。だが僕は知っている。あいつが自ら命をたった背景を。
僕の手元には、時人の遺書がある。そこにはこう記されていた。
「俺がなりたいのはあくまで偉人なんだ。有名人なんかじゃない。そんで考えたんだ。俺が偉人となる方法を」
続けてこう書いてある。
「偉人はすべからく死んでいる。だから俺も死ぬしかないんだ。ごめん、分かってくれ最愛の友よ」
文章はたったの二文。これだけがメモ書きのように書いてあった。
読んだ当初は泣きに泣いた。今だって読むたびに涙がこぼれそうになる。これは現実なのかと散々否定した。だからこそ現実を否定するため俺は今日行動を起こす。
草木も眠る丑三つ時。俺は椅子型タイムマシンが保管されているある場所に潜入した。
「この機械決して使うべからず」
そう張り紙がしてある。当然であるがタイムマシンは悪用すれば世界を手中に収めることも簡単だ。だからこそ一部の人間しか近寄ることが許されていない。
しかし、俺は製作者だ。点検のためとでも言えば簡単に近寄れる。
「……やるか」
そうつぶやき、準備に取り掛かった。
手始めに座標軸の選択。そして年数。最後に時間だ。
椅子に座りスイッチを入れる。
タイムマシンはフォンフォンと音を鳴らす。その音は徐々に加速し、僕の意識を薄くしていく。そして加速が最高潮に達した時、僕の意識はフッと消えた。
……目を覚ますと、まず初めに月夜が目に入った。
「いつつ、体中が筋肉痛みたいだ。」
きっとかなりの時間を一気に移動するため肉体に負荷がかかったのだろう。身体を起こすのに幾分時間がかかった。……それにしても今だから思うが被験者の人たちには悪いことをしたな。
心のなかで謝りながら辺りを見渡す。どうやら指定通り河川敷にこれたらしい。……僕とあいつが暮らしていた家の近くの。
「行くか」
僕の心のなかの決心を鈍らせないためにも一言つぶやき、目的地へと歩を進めた。
「偉人になりてぇ」
冗談交じりに遷移に言う。
「悩むのはいいが、とりあえずそこ僕のベッドだからどいてくれないか?」
なんだかご機嫌ななめのようだ。
「まあいいじゃん。気にすんなよ遷移。それより『どうしてそんなこといったんですか?』ぐらい言えないのかよ」
だが俺は機嫌など気にしない。
「ドウシテソンナコトイッタンデスカ?」
なんでカタコト? まあいいか。そんな疑問より聞いてくれた嬉しさのほうがでかい。
「よくぞ聞いてくれました!」身を乗り出しながら言う。
「今日歴史の授業があったじゃん。それで織田信長が凄くかっこ良く感じてさ、俺もそうなりたいと思ったわけよ」
「昔からお前はすぐに影響されるな」
「だって俺らもう十六の男の子だぜ。世が世なら勇者として魔王退治に出かけていてもおかしくないじゃないか」
最近ハマったゲームの話をおりまぜながら話す。我ながらナイスセンスだ。うむ。
「というか偉人になりたいって言ったて、ここは戦国時代じゃない。しかも大体の自然現象は解明されているし、技術だって頭打ちなのが現状だ」
「そ、それはそうだけどさ」
「だろう? 今から十年前ぐらいならまだ可能性があったかもしれないけどさ」
たしかに今の科学レベルはすごいけど……まてよ。俺の頭脳にビリビリと電撃が走った。
「……そうか! わかったぞ!」俺はベッドからバッと立ち上がり、遷移を指差す。「タイムマシンがあるじゃないか! これができたら教科書に載るどころの騒ぎじゃない!」
そう。どんなに科学力が上がってもタイムマシンだけは未だに完成していないのだ。それを完成させたら最強じゃねーか。
「……それはそうだろうけど」なんだか不満そうだ。
「なんだよ、文句あるのか」俺も最強の案を否定されそうなので不満そうにベッドに座る。
「タイムマシンは絶対実現不可能だっていろんな科学者たちが挑戦してはそういう結論にたどり着いてんだろ。無理だって」
やっぱし否定された。しかしここで諦める俺ではない!
「いやいや、俺とお前が組めば絶対いけるって! な! やろうぜ!」
遷移の方を揺すりながら言ってみる。こういう強引さにこいつは弱い。
「……わかったから離せよ。鬱陶しい」俺の手を虫を払うような仕草をしてどけさせてくる。なんだか馬鹿にされた気分だ。
「いやー。お前ならきっと協力してくれるって信じてたぜ」
しかし俺としては目的達成できたし嬉しい。
「というか、タイムマシンに関する知識とかあるのか?」
遷移が疑問そうに聞いてくる。どうやら俺の知識が聞きたいらしいな。
「当然。出なきゃこんなこと口にしないって」
そう言って俺はドヤ顔で語りだす。
……一時間ほど経っただろうか。喋りたいことは言った気がするのでここらへんにすることにした。
「分かったかい遷移くん」
そう言いながら知的にメガネを上げるような仕草をする。メガネかけてないが。
「すごくわかりやすい説明ありがとう。時人」
なんだかんだ遷移もうれしそうだし頑張ったかいがあったってものだ。……それにしても少し疲れたな。眠い。
「ということで遷移くんこと、助手よ後は頼んだ。もう十時だし俺は寝るから、タイムマシン作ること考えといて」
眠気に負けた俺は遷移に丸投げすることにした。
「はぁ! なにが『ということ』だ! ふざけんな!」
遷移の言葉を聞こえないふりしてベッドに潜り込む。毛布の温もりにすぐさま眠りそうになった時、ガシャンと窓側れるような音がした。
何事かと思い毛布を払いのけると、さっきまでの日常の風景は一変、地獄のような光景が広がっていた。
割れた窓から現れたであろうフードを目深にかぶった男が遷移に覆いかぶさり、腹部をめった刺しにしていた。
「あ、あ……」
俺は言葉を失い、ただ唖然としてその光景を見つめることしか出来なかった。
男が不意に立ち上がった。そしてこちらを見つめ「会いたかった」そうつぶやくと男の身体が透き通っていき、そして消えてしまった。
何が起こったのか俺には理解できなかった。男の言葉の意味も、この状況も意味がわからなかった。
血だらけで床に横たわっている遷移に駆け寄る。腹部から大量に血が吹き出ていて見るからに絶命しているのがわかる。
不意に「タイムマシンを作ろう」と俺から言葉が零れた。
そうだ。タイムマシンを作って過去に戻るんだ。そうすれば遷移を助けることが出来るかもしれない。
遷移の横で俺は誓った。必ず救うと。
~ニュース速報~
本日正午日本の鬼才時人がタイムマシンの開発に成功しました。
本人曰く、友人を救うために創りだしたとコメントしています。
これに政府はタイムマシンの使用に対し……
遷移見ててくれ。必ず過去に戻り、俺が余計なことを言う前に殺してお前の命を救ってやる。きっと俺が、俺がタイムマシンを作るなんて言ったからお前は死んじまったんだろ。
「待ってろ今行く」
俺はそうつぶやき、イス型タイムマシンのスイッチを押した。