↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷笑   作者: 橋本 直
PR
1/6

冷笑 1

 自転車。右足を押し込み、左足の力を抜く。その動作に手抜きをするのはこちらの勝手だ。ただそうすればそのままバランスは崩れて横転。顔面をアスファルトに打付けることになる。それだけで済めばいい。この歩道もない田舎道。車は絶え間なく制限速度を軽く超えて走り抜けている。突然の目の前の自転車の転倒に対応できるドライバーがいるとはとうてい思えない。ただ同じ動作を続ける。今度は左足を押し込み、右足の力を抜く。十月過ぎ。半袖には寒い季節だが家を出たときから予想がついていたのでTシャツとジーパンの姿でただひたすら走る。額に汗が浮く。拭う右手を見れば粘液のような汗がへばりつく。ただたとえようもなく暑い。

 道は真っ直ぐに続いている。これが江戸時代から続くというのだからばかばかしい話だ。初代将軍が鷹狩りの為に造ったとされるがそれにしては大げさな話だ。何か気になることがあったのか、それとも妄想狂の気があったのか。人の上に立つ人間には正気な人間は少ないというのは俺のそれほど長くない人生の教訓の一つだ。ともかくまともな人間の所行じゃない。

 その真っ直ぐな道。左右には耕作放棄された荒れ地が続く。ただ続く。時折見えるのは資材置き場。実際その建設会社が営業を続けているのか。前を通っただけではまるで分からない。それでも看板が立っていてその前の鉄門には人の通った形跡がある。つまり差し押さえは食らっていないのだからとりあえず営業していると思い込もう。俺はその前を自転車を漕ぐ。ただ漕ぐ。他にすることもないので漕ぐ。

 まだ道は真っ直ぐ続いている。まるで嫌がらせだ。

 アスファルトの上。無数の茶色い物体が飛んではあちこちに跳ね返って落ちる。はじめはそれがなんなのか分からなかった。しかし右手にそれがぶつかったときの乾燥した感覚。下に落ちたときの折り紙細工のような形。どうやらバッタのようだ。それに気がつくとなんだかぶつかってくるその物体を避けたくなる。虫は子供の頃は嫌いでは無かった。ただ、大人になるとなぜか触れるのが怖くなる。不思議な話だ。それは間違いない。昆虫についての知識は子供と大人では知る場所が違うのは確かだ。子供は図鑑や教科書で、大人は新聞やテレビでそれを知る。新聞やテレビの昆虫は雑菌を運ぶやら食害で野菜を駄目にするやらまるで良い印象がない。要するに嫌悪感を植え付けられただけだ。それでも一度植え付けられた嫌悪感は消せない。左足を踏み込むと右の顔に体当たりしてくるバッタが見えた。思わず目をつぶり奴の先手をとって避ける。とりあえずぶつからなかったがバランスは崩れた。幸い車は来なかった。俺はただ自転車を漕ぐ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。