第9話 まずは障害を取り除こう!
「ふぅ~着いた着いた」
ようやく、目的の村へと到着した。
ひとまず宿を訪れ、部屋を取る。
馬車も預かってくれるらしいので、追加料金を払ってお願いした。
村の中の飯屋で食事を済ませ、いざハントへと出かける。
周辺を散策するようなフリをしつつも、事前に教えてもらっていた道へ向かった。
森の中にある、人が通らないような獣道である。
茂みや木の枝を避けて、慎重に進んでいった。
「――あった、あそこか」
かなり進むと、ようやく開けた場所へと出る。
そこには。
外壁も塗装も風化でボロボロになった、廃墟同然の建物があった。
かろうじて崩壊だけはせず、時の経過に何とか耐え忍んでいると言った風である。
「…………」
「…………」
――そして、外に見張りの男が二人いた。
統一された宗教服のような衣類を身にまとっている。
腰に剣もぶら下げているところを見るにルシャド教の信者、そしてシスターの護衛と見て間違いなかった。
だが流石にダレているというか、気が抜けているように見える。
ボーっと地面に座り込み、一人はウトウトと舟までこいでいた。
……まあしょうがない。
拠点移動の時であれば、何が起こるか分からないと気も張り詰めるだろう。
だが。
どれだけ廃れていようと、ここは言わば彼らのホームなのだ。
気も抜けようものである。
「……護衛がいるということは、間に合ったということですね」
ルミアの言葉に無言でうなずく。
その通りだ。
もうすでに移動していれば、護衛だってここに残っていないはず。
もぬけの殻ではないということは、つまりあの先にシスターがいるのだ。
「……どうします、マスターさん?」
ベルがひそめた声で、指示を求めて来た。
「……もちろん、あの二人もテイムだ」
一瞬、ルミアもベルもキョトンとした。
……えっ、なに?
俺、変なこと言った?
「……もちろんターゲットはシスターだ。だが、だからと言ってあの二人が非犯罪者になるというわけではない。結局は誰かが捕まえて売ることになるんだから、俺が先にテイムしておく。それだけだ」
「あっ、売るんですね? ビックリしました……」
「ですです」
二人はホッとしたように息を吐いていた。
……あ~捕まえた後、仲間にすると勘違いしてたのかな?
男の奴隷と一緒に住んで何が楽しいの。
しないしない、売る売る!!
「じゃ、行くぞ――」
「はい!」
「了解、です!」
◇ ◇ ◇ ◇
[ステータス:ルミア]
●スキル
【剣術Lv.1】
【筋力上昇Lv.1】
【火魔法Lv.1】
【風魔法Lv.1】New!!
[ステータス:ベル]
●スキル
【視野Lv.1】
【身体強化Lv.2】New!!
― ― ― ― ―
「――【風刃】!!」
【テイム補助】をかけたルミアの魔法で、先制攻撃を仕掛ける。
ゴブリン討伐で経験点が貯まっていたため、新たに別の属性魔法を習得していたのだ。
風でできた刃が、ビュンッと勢い良く飛んで行く。
「えっ――ぐあっ!?」
突如として魔力の刃に襲われ、眠そうにしていた護衛が悲鳴を上げる。
右肩から胸部、左横腹へとかけて、ザックリと命中していた。
しかし、そこに傷跡はない。
その代わりに。
男がしばらくのたうち回るほどの精神的・疲労ダメージに変換されたらしい。
「なっ、なんだ!? だ、大丈夫か!?」
奇襲は成功したようで、もう一人の男は何が起こったか全く把握できていない。
腰の剣に手をやることもせず、ただ風の魔法に襲われた男を心配している。
「せぃっ!!」
――そこへ、ベルが一直線に駆けて行った。
有り余る“力”の経験点をつぎ込み、獲得・成長させた【身体強化Lv.2】のスキル。
それはただでさえ身体能力が高い獣人のベルへ、さらなる加速をもたらしていた。
「なっ――」
ベルが目の前まで迫ってきて、ようやくその存在に気づいたというリアクションである。
「やぁっ、てぃっ、せぁっ!!」
そして認識していた時にはもう、ベルは護衛の男へ攻撃を繰り出していた。
殴打、蹴り、殴打、殴打、蹴りと自在に連撃を繋げる。
【テイム補助】のおかげで、外傷は全くない。
なのに一撃が入る度に、護衛の抵抗する意思が削り取られているのが分かった。
「くっ、くそっ……」
【風刃】をモロに受けた護衛が、流石に根性を見せた。
上半身を痛そうに庇いながらも。
鞘に収まった剣先を杖にして、何とか立ち上がる。
「――はい、お疲れさ~ん」
だがもちろん、それをそのまま見過ごしてやるつもりはサラサラない。
【テイム鎖】を発動して、テイムを試みる。
「なっ!? 貴様っ、さては奴隷テイマーか!?」
鎖にグルグル巻きにされて、ようやく事態を把握できたらしい。
怒りに震えるような顔になる。
「こんなっ、ものっ!!」
三度ほど収縮した鎖を、男は火事場のバカ力で何とか引き千切ったのだった。
「お~まだ抵抗する力が残ってたか~。――はい、じゃあ“追加鎖”行ってみよう~!」
「は? ――なっ!?」
もう一度【テイム鎖】に拘束されるとは思っていなかったらしい。
それはもう間抜けな顔ですよ。
何で1回破壊できたら終わりだと思うの?
そりゃ俺が生成できる限界数までは、何度でもやるよ。
「ぐっ、この――」
再び壊そうと、必死に力を入れる。
だが、さっきの1回が限界だったらしい。
二度目の奇跡は起こらず、鎖は収縮しきってしまった。
男の手首に奴隷紋が浮かんだのを確認し、もう一人の方を見る。
「――マスターさん。こっちはもう終わりましたよ」
ベルが掃除後の汚れを払うように、両手をパンパンと叩き合わせていた。
その傍には、完全に伸びて意識を失った護衛がいる。
「ナイスだ、ベル。流石だな」
「えへへ。……い、いえ。こんなの、どうってことないですから、はい」
ベルは嬉しそうにニヘラッと笑った後、すぐハッとして顔を逸らす。
……何だこの子、可愛いな。
こういう子を、巷ではクーデレというらしい。
ベルのクーデレに癒されながら。
気絶したもう一人も、【テイム鎖】で奴隷化したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
廃墟の中に進んだ。
礼拝堂だった場所に、一人の美少女が立っている。
シスター服を着ているところを見ても、まず間違いなくターゲットだった。
「――あなたたちは、誰ですか? ワタシを、捕まえに、来たのですか?」
異国訛りの発音で怯えながらも、それを見せまいと気丈に振る舞っていた。
漏れ入る陽光に照らされ、透き通るような長い銀髪が輝いて見える。
ガラス細工のような碧い眼は、不安と恐怖で一杯かのように揺れていた。
未だ幼さの残る白い顔は、悪い未来を想像してか急に青ざめ始める。
「――お逃げ下さい、シスター“シルヴィー”!! この者らは奴隷テイマー、ルシャド教徒を奴隷にするために来たのです!」
「奴隷!? ひっ――」
先に奴隷化した護衛の男が、建物外から叫んだ。
それを耳にし、“シルヴィー”と呼ばれたシスターは思わず声を上げる。
「……あ~“ちょっと黙っててもらえるかな?”」
一旦俺だけ外に出て、叫んだ男を無理やり黙らせる。
命令に反応したように、奴隷紋が怪しく光った。
「むぐっ、むごごっ!?」
男は口を開けて何かを言っていた。
だが、それが声や言葉を形成せず。
ただ、無意味な音のつながりを発するだけになったのだった。
「よいしょっ――ふぃ~じゃあ話の続きをしよっか」
戻ってきても、シスターはその場に残っていた。
ルミアとベルに睨まれていたからかと思ったが、単純に脚がすくんで動けなかったらしい。
だが俺を見て、急に自棄になったように叫ぶ。
「わっ、ワタシは! 奴隷になど、なりません!」
声も震えていて、ただの強がりや空元気だと最初は思った。
「こ、ここはワタシたち“ルシャド教”の教会、です! シスター、のワタシは! ここでは負けることは、ありません!」
――だがその宣言に神が呼応したかのように、シルヴィーの身体が妙な光を帯びたのだ。
「あっ!? ご主人様っ、教会が!!」
ルミアの指摘で、周囲へ視線を走らせる。
廃教会も、シルヴィーのことを守ろうとするように。
彼女がまとった怪しい色の光に包まれていく。
――うわっ、凄い魔力!
ルミアに視線で合図し、魔法で攻撃するよう伝える。
「っ! ――【火球】!!」
ルミアはすぐに頷き、指示通り火魔法を唱えた。
火の球は勢いよく飛んでいき、的確にシルヴィーへと命中する。
「クッ……」
【テイム補助】を介して外傷も無く、だが確実に精神的・疲労ダメージが入っていた。
だが――
「――【ヒール】!!」
シルヴィーは怪しい光――膨大な魔力を用いて、すぐに気力を取り戻してしまう。
周囲に満ちる魔力は一切減ったように感じない。
このままだとずっと回復し続けられる、そんな気さえしてしまうほどだ。
……うわぁ~面倒くさいことになった。
情報屋には確かにシスター――シルヴィーの能力については問わなかった。
そこまではいいかと、無意識に金を出し惜しみしていたのかもしれない。
……まあわかっていたところで、どれほどこの特殊エリアに対処できたかは怪しいが。
それは次回以降の改善点として。
今は、この事態をどうするかだ。




