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第8話 ソロハントの準備をしよう!

「お~っす、リュート。今日は早いな」


 

 まだルミアもベルも寝ているような、朝の早い時間帯。 

 待ち合わせ場所に、遅れてガノーの奴がやってくる。

 

 軽薄そうな顔は相変わらずだが、以前よりあごひげが若干伸びていた。

 ……威厳でも出したいのだろうか?



「おう。そりゃ今日が報告の日だからな」


「ま、そりゃそうか」



 特に突っかかってくることもなく、ガノーは簡単に納得している。

 見た目ほど、コミュニケーションに難がある奴ではない。

 むしろ相手の雰囲気や周囲の空気を読んで、強弱をつけられる男だった。



「――お待たせしました、奴隷テイマーのお二方」


  

 待ち人の到着で、世間話を打ち切った。

 

 用心深そうにフードを被っている。

 口元まで布で覆っており、暗そうな目元だけが唯一わかる外見の情報だった。


 声から辛うじて女性だと分かる相手は、俺たちが金を出し合って雇った情報屋である。


 

 さらに人気ひとけのない場所へと移動して、まずはガノーの方から報告を受けた。


 

「――ここより東をずっと行った、この深い森の中に。エルフの逃亡者が数名、隠れ住んでいることを確認しています」



 情報屋独自の地図上に記された赤いバッテン。

 この町から指を長く滑らせ、そのバッテン上をトントンと叩いて場所を示す。



「かぁ~っ! 一番近いのが、よりにもよってAランクダンジョンの森ん中かよ~!」



 ガノーは、まるでギャンブルに大負けした浪費家みたいなリアクションをする。

 頭をガシガシと乱雑にかき、自分の判断ミスを認められないかのように首を振っていた。



「……ばかっ。だから“エルフ”はやめとけって言っただろうに。そんな、今のお前レベルで捕まえられるエルフが、ポンポンそこら中にいて堪るか」


「うぅ~でもよ~エルフだぜ! 捕まえられれば、人生が一発逆転できる、あのエルフなんだぜ!? 誰だって欲しいに決まってるだろう!」


     

 確かに美男美女揃いのエルフは、誰もが喉から手が出るほど欲しい。


 若い女奴隷を所有しているように。

 エルフはテイムに成功したことがあるだけで、奴隷テイマーの一種のステータスとなる。  

“所有が”、ではない。

“テイムの成功経験が”、である。



 しかしそれだけ価値が高いと、その分テイムの難易度もグッと上がる。

 魔法に長けた彼らは純粋に強い。

 

 それに今回の場合のように。

 犯罪者エルフが隠れる場所そのものも、危険度が高いことが圧倒的に多いのだ。 

 


「一足飛び二足飛びに行こうとするな、今回は諦めろ。地道にやって、地力をつけてった方がいいぞ」


「ああ~そうするよ~」



 ガノーはフラフラとしたおぼつかない足取りで、もうこの場を去り始める。



「おい、いいのか? 俺の方の情報、聞いてもいいんだぞ?」


「遠慮しておくよ、お前だけで楽しんでくれ。……俺は帰って二度ふて寝する」



 振り返らず、手を上げるだけで『あばよっ!』とする仕草は、まるで渋い玄人テイマーのそれだ。

 だが実態を知っていると、凄くダサい。


 ……博打ばくちみたいな情報を求めるからだろうに。


  

「――では続きの情報をお話ししましょう。『禁教指定されている宗教のシスター』について、でしたね」    

 


 情報屋はさっきと変わらない、平たんな調子で話し始めた。



◇ ◇ ◇ ◇



「えっ、犯罪者狩ハント、ですか?」  



 家に戻って、既に起きていたルミア達へ伝える。

 


「ああ。今回は【奴隷テイマーギルド】で受注するような、集団ハントじゃない。ソロで行く」


 

 二人に、軽い旅の準備支度をするよう指示した。

 


「わかりました。では私は市場で食料を買ってきますね」



 買い出し係のルミアに、お金を持たせて見送った。

 残ったベルには、数日分の水を準備しておくよう頼む。

 

  

「はい、わかりました。……えっ、マスターさんはどちらに?」


「ひとっ走りして、【奴隷テイマーギルド】に行ってくる。馬車借りてくるわ」



 軽く驚いたベルを後目に、急いで【奴隷テイマーギルド】へと向かった。



「――えっ、保証金とか、担保たんぽ金みたいなもんは、いらないんすか?」


「はい、リュートさんの場合は不要ですね。【奴隷テイマー】の講習会で、1番に【奴隷魔法】を習得された方への優遇措置となっています。……あっ、もちろん馬や荷車を失くされたり、壊された場合は弁償べんしょうしていただきますが」


 

 担当の受付嬢はあっけらかんと言った。


 お~ラッキー。

 オッサンの話を真面目に聞いててよかったぜ!

  

 レンタル料自体も、後払いで良いらしい。

 しかもハントで奴隷をゲットした場合、その奴隷の売却金から払う形でも構わないと言われた。 


 ありがたく、そうさせてもらうことにする。

 小型の安い馬車を借りて、急いで家へと戻っていった。

 


◇ ◇ ◇ ◇


「わ~凄いっ!」


「お~! マスターさん、本当に馬車を借りて来たんですね!」



 家には既にルミアも戻ってきていた。

 外に、食べ物や水が準備されている。

 

 馬とほろのついた荷車を見て、二人は表情をキラキラと輝かせていた。

 これだけでも借りて来た甲斐があったと思える。



「おう。――じゃあ、荷物は“入れちゃう”から」


「あっ、はい!」


「おっとと、離れないと……」

 

   

 ルミアもベルも慌てたように、準備した荷物から距離を取る。 

 明らかに食料や水を、荷車に積み込もうとする動きではない。


 だが、それでよかった。



「――【闇次元ダークディメンション】」



 まとめて荷物が置いてある地面。

 そこに、突如として黒い闇の穴がポッカリと出現する。


 食料や水は、闇へと飲み込まれるように落下していった。

 闇が食事を終えて満足したみたいに、地面にできた穴は口を閉じていく。


 そして次の瞬間には。

 さっきまで何もなかったかのように、地面は元通りとなっていたのだった。



「――よしっ、収納できたぞ~」



 これも【闇魔法】の一種だった。

 物資を、闇の次元の中に仕舞うことができる能力である。

 そして好きな時に取り出せるのだ。


 攻撃技だけでなく、こうして優秀な支援系の技にもなる。

【闇魔法】って本当に便利な魔法だ。


 きっと他の奴隷テイマーも同業者には言わないだけで、皆ちゃんと【闇魔法】を使えるんだろうなぁ。


 

◇ ◇ ◇ ◇



『ルシャド教という、半世紀以上も前に衰退した小さな宗教があります。そのルシャド教を信仰しているシスターが今、ここを拠点として隠れ住んでおります』



 情報屋の話を思い出す。

 馬の手綱を握りながら、後ろの荷車に乗る二人へ話して聞かせた。


  

「……つまり、今回のターゲットはそのシスター、ということですね?」 



 ルミアの確認に頷いて返す。 


     

「ああ。どんな弱小宗教だろうが、どんな泡沫ほうまつ宗教だろうが、大体シスターはいる。そしてシスターはどんな教義をしてようが、普通は【ヒール】を使えるもんだ」


 

 だから、奴隷テイマーの間でもシスターは人気が高い。

 癒しの力はどんな時でも需要があるからだ。

 しかもシスターは“女”だから、余計に欲しがる男が多いだろう。 


 俺もその一人だ。


 放っておいても、誰かが確実に捕まえようとする。

 そしていずれは捕まるだろう。

   

 だから、そうなる前に俺が捕まえるのだ。



 つまり他の奴隷テイマーに先んじたい時。

 こうして自力で情報を得て、準備して、ソロハントへとおもむくのである。


 ……俺もソロは今回が初めてだけどね。

  


「……マスターさんが向かうってことは、やっぱりそのルシャド教、ですか? それも“禁教”指定を?」


 

 ベルはゴロンと寝転がっていたところから、フッと起き上がってくる。

『小難しい話だろうけれど、自分も少しは理解しておこう』という前向きさ・向上心がうかがえた。 

 

 要するにベルは“そのシスターも犯罪者ってことで良いんですよね?”と聞いているのである。 

  


「ああ。俺たちみんなが生まれる前の話らしいけどな。調べたら、確かに禁教指定されていた」


 

 時の皇帝に対してやらかしたことが影響している。

 なので今も実害が続いているというよりは、単に現状維持が継続して今に至る感じだ。


 現皇帝も、領地内にあるいくつもの弱小宗教を。

 過去まですべてさかのぼって、一つ一つ精査しようと思うほどには関心がないのである。

  

 

『今では廃墟はいきょ同然ですが、当時は隠れ教会だった場所を、転々として生活しているようです』


 

 情報屋の話を思い出して、少しばかり気がいてくる。 

 家に戻るや否や、二人に準備を急がせたのもそのためだった。 



『拠点を移動すると、次にここへ戻ってくるのがいつになるかはわかりません。狙うのであれば、お早めに出発されることをお勧めします』



 だが目的地は、馬車で2日かかる村の近くにある。

 今焦っても仕方がない。

 

 

「あの、えっと……ご主人様」


「ん、どうした?」



 ハントの話が一段落すると、ルミアがおずおずと顔を覗かせた。

 


御者ぎょしゃ、ですか? そのやり方を、教えてもらってもいいですか? 私もそれができれば、ご主人様と交代交代(ごうたい)で休めるかと思ったので」  


 

 恥ずかしそうにはしているが、本心から俺のことを気遣ってくれたのだとわかった。

 ルミアの気持ちが素直に嬉しい。


 横の空いてるスペースをポンポンと叩く。

 ルミアはパッと花が咲いたような笑顔になって、その隣へと移動してきた。



「よろしくお願いします、ご主人様!」


「ふぁ~……頑張ってください、ルミアさん。……マスターさん、私は寝てますね」


 

 ベルは自分に不向きなことだと即判断し、邪魔にならないよう寝ることを選んでいた。 

 それもそれで可愛らしい。


 ハントへ向かう移動の間も。

 こうして彼女たちのおかげで退屈せず、楽しい時間となったのだった。    


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