第25話 ご飯を食べて、話し合おう!!
町へと戻る道中。
荷車の中から、シルヴィーが顔を出した。
「――主様! 3人が目覚めました」
テイムした3人は、馬車に乗ると直ぐに深い眠りについていた。
余程、逃避行で疲労が溜まっていたらしい。
「わかった。……食事にしよう」
歩く速度を緩め、御者を務めてくれているルミアへ告げる。
「わかりました、ご主人様」
ルミアも手綱を操り、馬のスピードを調節した。
舗装された道から逸れ、邪魔にならない場所で止まる。
「よいしょっ――」
【闇次元】に貯蓄しておいた飲食料を、次々と取り出していく。
一緒に歩いてくれていたベル、そしてヴァニラに。
荷台の方へと運ぶよう頼んだ。
「はいはい、任せてください~!」
「ん、わかったよご主人」
二人が甲斐甲斐しく、サンドイッチや水袋を持ち運んでいく。
中からすぐに、ガツガツと食べ始める音が聞こえて来た。
「ふふっ。3人とも、よっぽどお腹が空いてたみたいです」
「美味しそうに食べてるよ」
ベルとヴァニラが、頬を緩めて報告してくれる。
やはり食は大事だ。
「おかわりが欲しかったら、遠慮なく言うように伝えてくれ。……それが終わったら、二人も食べちゃっていいから」
二人を見送り、【闇次元】から桶を出す。
その一つに水をトクトクと注ぎ入れた。
「ほれっ、お疲れ。お前さんも休憩しな」
「ヒヒィン!」
荷台を引っ張り続けてくれた馬を、撫でて労わる。
美味しそうに桶に張った水を飲んでいた。
その間に草や野菜も準備して、横に置いておく。
後は自分で食べてくれるだろう。
そこから二人分の食事を持って、御者席へと向かった。
「お疲れさん。ルミア、ほい、これ。昼食だ」
「あっ、ありがとうございます! ご主人様も、お疲れ様です。どうぞ、お座りください」
ルミアは慌てたように受け取ると、奥へと席を詰めた。
ありがたく隣に座らせてもらう。
元々そこまでスペースがあったわけではないので、並んで座ると結構ギリギリだった。
肩、腕辺りが触れ合ってしまう。
「あっ……っ~!」
ルミアもそれには気づいているようだ。
だが特に言及することはなく、無言でパンを口に運んでいる。
……そしてチラチラと上目遣いで、こちらの様子を窺ってくるルミアさん可愛い。
「悪いな、御者役を任せて」
「いえ。穏やかな馬ですので、苦労はありません。後は基本座ってるだけですからね」
それは確かにそうだ。
俺が御者をやっていても、キチンと言うことを聞いてくれる。
ただ今のところ、俺かルミアしか御者ができない。
そういう負担的な面で労ったのだが、ルミア的には何でもないことのようだ。
「そっか。……馬もそろそろ増やしてあげた方がいいな」
ルミアの反応を見ながら、ちょっとずつ話題を移していく。
ルミアもこうしたあまり重すぎない、他愛ない感じの会話を好んでくれる傾向にあった。
「ええ、そうですね。……今後も5人以上になるのでしたら、1頭だけでは負担も大きいでしょうし」
ルミアが俺の意図を察したというように、荷車の方へチラッと視線を向けた。
テイムした3人ももちろん、何事もなければ仲間にするつもりである。
だが人数が増えれば、今後の移動手段については改めて考えなければならない。
荷物の大半は【闇次元】に収納できるとしても。
俺含め8人となると、流石に大人数だ。
馬の数も増やしてやった方がいいだろう。
「……あっ、そうだ。3人の食費とか、馬の購入代金とか、その他諸々の費用も心配しなくていいからな? 貯金してる分だけでも金貨300枚はある」
ルミアが事実上、奴隷全体を仕切ってくれている。
なので懐事情も共有して、心配事や懸念を取り払っておくことに。
「はい。ご主人様のおかげで、生活に関する不安は一切ございません。――ご主人様がなさりたいことを、なさってください。微力ながらも、全力でお支えします」
ルミアは頬赤くはにかみながらも。
際限ない信頼を寄せてくれていると、そう感じさせるような表情だった。
とても魅力的な笑顔で、胸の底から愛おしさが湧いてくる。
今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られるが、それをグッと我慢した。
「……ああ。ありがとう。ルミアがいてくれたら本当に助かるよ」
嘘偽りない、本心からの言葉だった。
照れずにしっかり言えたと、ホッとする。
ルミアにも、ちゃんとそれが伝わったようだ。
「はいッ!」
今度は凄く嬉しそうに、満面の笑みで返事してくれたのだった。
……あぁ~可愛い。
◇ ◇ ◇ ◇
「この度は、食料を提供していただき、本当にありがとうございました!!」
赤髪のボーイッシュな少女が、地に額をこすりつけていた。
シルヴィーとヴァニラがテイムした、戦士の少女である。
少女は幼馴染グループのリーダーをやっているらしい。
“アキ”と名乗った。
「主様。この子たち、4日間、何も食べてなかったそうですよ?」
荷台で3人の面倒を見ていたシルヴィーが、こそっと耳打ちしてくれる。
なるほど、どうりで3人分では足りなかったわけだ。
「本当に、生き返りました。このご恩は一生忘れません!」
本心からそう思っているらしい。
頭を上げたアキは、涙で顔をグチャグチャにしていた。
整った顔が台無しになっている。
逃避行中に、余程、空腹で死を実感したようだ。
……あと、口の端に食べカス残ってるよ。
「――ほらっ。“フユ”と“ハル”も」
アキが、後ろで正座する二人に促した。
白髪、小柄な盗賊の子が“フユ”で。
ピンク色の長髪をした、魔術師の女の子は“ハル”というようだ。
「……ごちそうさまでした」
「……ごはん、本当にありがとうございました」
素直に感謝できることは良いことだ。
テイムで自分を奴隷にした相手、その主人である。
恨み言の一つや二つ、あってもいいはずだ。
なのに、ちゃんと礼を言う。
やはり空腹に相当苦しんでいたらしい。
……あと、君たちも食べカスちゃんと取ってね。
◇ ◇ ◇ ◇
「礼は受け取った。――で、だ。腹も膨れただろうから、今後の話をしよう」
これ以上は、先延ばしにしても意味がない。
そういう意図で、早めにこの話を終わらせておくことに。
アキを筆頭に、他二人の身体も硬くなる。
まるで刑の宣告でも待つ囚人のような反応だ。
「――3人には、俺の仕事を手伝ってもらう。【奴隷テイマー】の仕事だ」
「えっ?」
アキが、ポカンとしたような表情になる。
後ろの二人も、似たような顔をしていた。
「そのために住む場所と食事、あとお金もちゃんと提供する。……奴隷商に売り飛ばしもしないし、憲兵に突き出しもしない」
「…………」
まるで何を言われているか分かっていないような、ボーっとした顔だった。
「……食べ物と、寝る場所、貰えるの?」
魔術師のハルが、短くそれだけ尋ねて来た。
まるでそれ以外は些事、些細なことであるとでもいうように。
「――ええ。私も、あなたたちと同じ。ご主人様にテイムされた奴隷です」
ルミアが、ハルにそっと近づく。
そして目線を合わせるようにしゃがんで、優しく微笑みかけた。
「ですが、毎日沢山のごはんを食べさせてもらっています。私個人の部屋までもらいました。お風呂だって毎晩入れますよ」
その表情、その言葉には。
嘘と感じる要素が欠片もなかった。
また極めて健康的で、かつ女性として魅力的な身体をしているルミア自身が。
自分の言葉の真実性を、これでもかと物語っている。
「ほ、本当、ですか!?」
アキが、ほぼ反射的に聞き返していた。
だがルミアに念押ししたかったというよりも。
本当に信じられないことを聞いたというような、素のリアクションに見える。
そして自分でまた意識せず、ルミア以外のメンバーを視界に入れていた。
ベル、シルヴィー、そしてヴァニラを順番に見ていく。
皆痩せ細っていない、自然な体型をしていた。
……特にシルヴィーとヴァニラは、説得力ある柔らかな塊を2つ抱えている。
「…………」
アキ達は無言になった。
だがこちらが伝えたかったことは、十分伝わったようである。
悲観的な表情はそこにはなく。
今後について希望的な見方が出来たというように、生気が宿っていた。
腹が満たされれば、意識も上向く。
やはり先に食事をしたことは正解だったみたいだ。
「――私もフユも、ハルも。田舎から出てきて何もわからない若輩者ですが、一生懸命に働きます!」
「……よろしく、お願いします」
「私も、頑張ります」
3人はそれぞれ、三者三葉に決意の言葉を述べてくれる。
俺たちの仲間になって、働いてくれる覚悟ができたようだった。
「ああ、よろしく」
「……まあ帰ったら、まずは三人ともお風呂だね」
ヴァニラが、からかうように苦笑して告げる。
同じ組織にいてもあまり関係性が無かったためか、3人へと積極的に絡もうとする意思が窺えた。
「うっ」
「フユたち、臭う?」
「……多分」
3人は自分たちの袖や腋の下を、仲良くクンクンと嗅ぎ合っている。
だが全員同じ臭いで鼻が慣れてしまい、体臭を感じとれないらしい。
濡らした布で身体を拭くくらいはさせたはずだが、それだけでは根本的な解決にはならなかったようだ。
「……マスターさん。私はまた徒歩で良いですからね」
一番鼻の利くベルが、暗に“帰るまでは3人と距離を取る”宣言をしていた。
だが直接言葉にして傷つけないように、という配慮は感じる。
「ああ、ご苦労さん。俺も歩き、付き合うよ」
ベルだけに歩かせるのも悪いと、荷台には乗らずそのまま再出発した。
「で、でもお風呂にも入れるって、凄くない!?」
「……しかも特別な日限定、とかじゃないらしい」
「こんなの、故郷の村にいたままじゃ絶対に体験できなかったよ!」
行きよりも帰りの方が賑やかになっている。
ギルドの依頼とはいえ。
奴隷たちとする旅の良さや醍醐味を、しっかりと味わうのだった。




