第22話 調教《トレーニング》してみよう!!
「――ご主人様! 私たち、もっと強くなりたいんです!」
とある日の朝食後。
いつになくルミアが、前のめりになって主張してきた。
「え~っと?」
困惑しつつ先を促すと、ルミアが詳細を語ってくれる。
「ヴァニラが仲間になって、感じたんです。私たち、まだまだだなって」
「ですです! ……ヴァニラさんをテイムするときだって、殆どマスターさんが前準備を整えてくれましたから」
「このままでは、主様におんぶにだっこ。それはいけません! なのでワタシたち、パワーアップしたいんです!」
なるほど。
要は、ヴァニラの加入が良い影響を及ぼしているらしい。
実力者であるヴァニラと戦って、その彼女が仲間になって。
より自分たちの現在地がわかったんだろう。
ルミア達からトレーニングを申し出てくれるのは、とても良い傾向に思えた。
「わたしは皆、凄く強かったと思うけど?」
話題に上がったヴァニラ本人は、ルミア達を立てるように言った。
特に嘘を言っている様子もなく、ヴァニラ的にはそう感じてくれたらしい。
「ただ本人たちが望むなら、成長の機会をあえて取り上げる必要もないだろう」
「そっか。それもそうだね」
間を持つように言うと、ヴァニラも納得気な表情だった。
各自、準備を整え、庭に場所を移す。
「じゃあ、調教用の空間を作るから――」
庭に、新たな転移ゲートを作成する。
【奴隷次元】とは似て非なる、別の空間だ。
「……やっぱりご主人って、凄い人なんだね。こんな簡単に転移ゲートを生成しちゃうんだもん」
ヴァニラが驚きと尊敬の混じったような顔をしていた。
ふふん。
美少女に敬われるのは悪い気分ではない。
だがもちろん、それを表情に出すことはせず。
「転移ゲートなんて、そこまで大したことじゃないだろ――行くぞ」
本音混じりに対応しつつ、先導するようにゲートの中へと入っていった。
すぐに4人も後ろからついてくる。
異空間内は、一つの大きな訓練場のようになっていた。
走り回ることもできるし、大きな音を立てても問題ない。
模擬戦やテイム用に使う【奴隷次元】とは違って、トレーニング用だ。
ダンジョン規模の広さはいらないだろう。
……仮に欲しいと言われても、すぐには無理だ。
そこまでの大きさの異空間となると、時間と魔力がいるんです。
それこそ【奴隷次元】の同期作業みたく、はい。
「わぁ~!」
初めて訪れた土地に感動するように、ルミアは目をキラキラとさせていた。
そういうピュアな反応をしてもらえると、作ってあげた甲斐がある。
……まだトレーニングルームしかできてないけどね。
調教用の空間だから、【調教次元】。
わかりやすい名前だ。
「凄いです、マスターさん! ここを、自由に使っていいんですか!?」
「ああ。で、調教用の魔道具も準備するから、ちょっと待ってくれ」
普段頑張ってくれているので、これくらいはサービスしよう。
それに、道具があった方がトレーニングのモチベーションも上がりやすいだろうし。
そうして魔道具を生成し始めると、ベルが嬉しそうに近寄ってきた。
尻尾を可愛くフリフリ、耳はピクピクと、忙しなく動いている。
「ワクワク!」
……良いリアクションしてくれるぜ。
ベルの期待に応えようと、調教器具の生成へさらに力を入れたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「――よしっ、できた!」
会心の出来、とまではいかないが。
まずまずの魔道具を生成できたと思う。
「使い方教えるから。それぞれ誰か、見本役やってくれるか?」
【テイム輪】に似た器具を持ち、希望者の挙手を待つ。
「それでは、ワタシから」
最初に手を上げたのは、意外にもシルヴィーだった。
特徴的な胸の前で拳にギュッと力を入れ、やる気満々な表情である。
シルヴィーからも、もっと成長したいという強い気持ちが伝わってきた。
「これは【調教輪】だ。手や脚につけて、負荷を強める道具だな」
金色の装具で、見た目は【テイム輪】にそっくりだ。
でも自律して動かないし、テイム効果も無くしてある。
一番わかりやすいだろうと、最初に紹介することにした。
「こう、ですか? んっ――」
シルヴィーが箱の中に納まった【調教輪】を手に取り、それぞれ手首や足首に装着していく。
4つ身に着けた姿は、まるで手枷・足枷をはめられた後のようだ。
「……確かに。腕も脚も、凄くずっしりと重くなりましたね」
シルヴィーは早くも【調教輪】の効果を実感しているようだった。
「【調教輪】の場合は、それをつけて走るのが基本のトレーニングになる」
“力”・“技”・“魔”・“調教”。
4つの経験点が満遍なく、全体的に上がってくれる種目である。
「では、行きますね――」
シルヴィーは【調教輪】をつけたまま走り始めた。
運動が元々あまり得意でないシルヴィーは、すぐに腕の振りが小さくなっていく。
脚も重そうで、太ももがあまり上がっていない。
……胸の弾みだけは変わらず、上下に凄いことになっているが。
「中々キツそうですね――シルヴィー、ファイト!」
「ですがそれは良いトレーニングになっている証拠です。――シルヴィーさん、頑張ってください!」
「シルヴィー、頑張って! あと4周、やり切ろう!」
見学の3人が、それぞれシルヴィーのことを応援する。
「は、はぁぃ~。が、がんばり、ますぅ~!」
ヘトヘトになりながらも。
励ましに力をもらって、シルヴィーは何とか完走したのだった。
「お疲れさん。ほらっ、水飲んで、休んでな」
「あ、ありがとう、ございます、主様……」
水を飲む気力もすぐには湧かないほど、シルヴィーは疲れ果てた様子だった。
四肢に拘束具のような【調教輪】をはめ。
汗をかきながら息を乱し、胸を上下させる姿は、とても艶やかで色っぽかった。
「……負荷を増やしたい場合は【調教輪】の数を増やせばいいから」
箱の中に残っている【調教輪】は、他にもまだ12個あった。
四肢に4つずつ、計16個が今のところ最大数だ。
「じゃあ次の説明に移ろう」
そうして次に【奴隷装帯】そっくりな、別の魔道具を手に取ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「あっ、じゃあ次は私が行きましょう」
2番目はベルだった。
見た目が【奴隷装帯】とほぼ変わりなく、同じように装着して使用するものだと伝えた。
「わかりました。……んしょっと」
【奴隷装帯】の時は俺が【奴隷魔法】を使って、勝手に装着させている。
なので自分から恥ずかしい見た目の装具を身に着けていく様子は、とても魅力的な光景に映ったのだった。
帯が作る輪に足を通し、腕を入れていく。
「……それは【調教装帯】だ。装着して1分ほどすると始まるが――」
ちょうどその時間が到来したようだ。
ベルの装備する【調教装帯】が、怪しく光り出す。
「えっ――わわっ!?」
すると、ベルがいきなり慌てだした。
まるで身体の自由が突如として利かなくなったというように、ぎこちなく動き始める。
ベル自身は抵抗しているが、それでも【調教装帯】の強制に中々抗えないらしい。
そして最後には。
しゃがんで爪先立ちし、大きく膝を広げる、とてもセクシーなポーズで止まったのだった。
「わっ、あっ、いや、違うんですっ!? これ、私がこんなポーズしようとして、やってるんじゃなくて!」
ベルは羞恥心で顔を真っ赤にしながら弁明する。
さらに少しでも恥ずかしくない格好になろうとしてか、必死になって膝を閉じようとしていた
だが強い力に引っ張られているように、中々身体が思うように動かないらしい。
少し膝が内に動いたと思ったら、すぐにまた強制されるように開いてしまう。
「うぅぅ~これ、このポーズ以外になろうとすると、凄くキツいんです!」
ベルはなおもセクシーポーズからの脱出を試みている。
一定時間の経過で解けるので、しばらくは頑張ってもらうしかない。
“力”の経験点が最も多く貯まるトレーニング内容で、ベルにはピッタリだと思うのだが……。
◇ ◇ ◇ ◇
時間が経過して、ベルの強制ポーズが解かれる。
【調教装帯】の説明を終え、次へと移った。
「じゃあ次は2つ連続で行きたい。ルミアか、ヴァニラか……」
「なら、私が2つやります」
ルミアがすぐに名乗り出てくれた。
新人に負担は掛けられないという配慮だろう。
「わかった。じゃあまずは“技”の方からだな――」
トレーニングの種類を先に言ってから、特別な縄を手に持った。
虹を思わせる、鮮やかな七色の見た目をしている。
「【調教縄】だ。これで、簡単にどこかを縛ればスタートする」
そう告げると、ルミアが察したように両手首をくっつける。
そして縛ってくれと言わんばかりに前へと差し出してきた。
「……よしっ」
淡々とルミアの手首へ【調教縄】を回していく。
あまりキツくせず、簡単に縛った。
「あの、ご主人様?」
一瞬、ルミアが困惑したような顔を向けてくる。
『これではすぐに外れてしまいます、もう少しギュッと縛らなくてもいいのですか?』と問うように。
……だが、その答えは【調教縄】がすぐに教えてくれた。
「あっ――」
七色の縄が、突如色を変えた。
全長が“黄色”になると、虚空のあちこちから同色の縄が出現する。
そして数で物を言わせるように、ルミアの胴部分を縛り上げたのだ。
「んぁっ!?」
なにが起こったか、ルミアはすぐには判断できなかったらしい。
縛られるままに困惑していると、やがてまた新たな変化が起こる。
黄色だった【調教縄】が、また色を変えたのだ。
若干の黄色を残したまま、他の9割を“青色”へと変化させる。
今度はルミアの二の腕部分へ、虚空から出現した青縄が絡みついた。
「それは一定時間で変色する。縄の色に対応した拘束が来るから、その“色の魔力”を【調教縄】に流すんだ」
「わかり、ました」
ルミアは指示通り早速、魔力を体外へと放出させる。
無色だった魔力を黄色へ、何とか変色させた。
その黄色い魔力が、【調教縄】に触れる。
すると1割だった黄色い部分が消滅し、残りすべてが青色となった。
「あっ――」
さらに胴部分を縛り付けていた黄色い縄も、同時に消える。
「なるほど……」
仕組みを理解したルミアは、すぐに次の行動に移ろうとした。
だが先に一定時間が経過してしまったため、【調教縄】がまた変色する。
1割の青を残し、今度は“赤色”になった。
「ひゃんっ――」
すると、ルミアが突然甘い悲鳴を上げる。
ほぼ同時に、ルミアの身体に赤い縄が走っていたのだ。
それはまるで【奴隷装帯】か、先ほどベルがつけていた【調教装帯】のよう。
赤い網状・ひし形状になり、とても恥ずかしいデザインを形成していた。
そして二の腕の青い拘束はなおも残ったままだ。
「変色するより先に消していかないと、拘束はどんどん積み重なっていくからな!」
「は、はい! んっ――」
補足説明すると、ルミアはハッとして我に返った。
魔力を変色させるコツも、すぐにつかんだらしい。
変色が起こる前に青色、赤と連続で消去させていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ふぅ……」
若干息は乱しながらも、まだ余裕がありそうだった。
流石はルミアである。
「休憩はどうする? ゆっくりでも大丈夫だぞ」
「いえ。すぐ次に行きたいです。お願いします」
そう言われては仕方ない。
無理をしている様子もなさそうなので、次のメニューを説明することにした。
「今度はさっきの【調教縄】よりも簡単、単純明快だ」
そう言って、黒い眼帯を拾い上げる。
「【調教催眠】だ。これで目隠ししてくれ」
「わかりました。……んしょっ」
ルミアは受け取ると、すぐに黒い帯で目元周りを覆った。
するとダボっとした長さだったのが、ルミアの大きさに合わせるようにしてキュッと縮まる。
そしてルミアの目元に張り付くように、ピタリと密着したのだった。
「ルミア。すぐに【調教催眠】が催眠をかけてくる。魔力でそれに抗ってくれ」
とても分かりやすい、魔力勝負のトレーニングだ。
その分“魔”の経験点が一番稼げる種目である。
「わ、わかりました! ……あっ――」
元気の良い返事をした直後だった。
【調教催眠】の中央に、怪しい光が浮かび上がる。
薄いピンク色に光る紋様は、あたかも“ただいま催眠中です”と言っているかのようだ。
その証拠に、ルミアの様子がすぐに変わる。
「あっ、あっ、あっ……」
まるで理性が徐々に溶けているかのように、ルミアが小さく喘ぎだした。
その声は、普段の清楚で穢れないルミアからは遠く離れたものである。
「ルミア。魔力だ、魔力で抵抗だ」
一応、初回ということもあってフォローしておく。
声で呼びかけると、薄っすらとだが反応があった。
「……あっ、は、はい。魔力、魔力……」
まるで必死に記憶しようとするように、何度も声に出して言い直す。
そうしてやっと意識に上ってくれたというように、2テンポほど遅れて魔力が出ていた。
その瞬間だけは若干抵抗できたようだったが、やはりちょっと遅かったらしい。
また【調教縄】での疲れも少しは影響したようだった。
「――あっ、やっ、だめっ、これっ、頭、真っ白になっちゃうっ」
意思が乗っていないような、フワフワしたルミアの声。
頭の中が蕩けて思考がまとまらないというようだった。
口元にも意識や力が行かないというようにだらりと開いている。
涎が透明な糸を引いている様子も丸見えだった。
ルミアはこのまま立っていられないと、急いでその場にしゃがみ込む。
すると身体が求める楽な姿勢を取ろうとするように、膝を大きく開いたのだった。
まるでベルの時の焼き直しのように、とてもセクシーなポーズをとっている。
「あっ、あっ、あっ……私、今、どんな状態、ですか? あっ、だめ、頭、真っ白で、全然、考えられないっ」
ルミアは。
今の自分がとても恥ずかしい状態でいるということも、認識できていないらしい。
「……まあ今日は説明・体験会みたいなもんだから。これくらいにしよう」
【調教催眠】の効果時間が切れる前に。
ルミアの目を覆う黒帯をそっと解除したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「――あの、えっと。それで、ご主人? わたしは何を?」
ヴァニラが、恐る恐る尋ねてくる。
解放されたルミアは未だ目の焦点が定まらず、トロンとした表情だ。
それを見て、ヴァニラはゴクっと生唾を飲む。
「別に無理してやらなくても良いけど。……残すは“調教”が上がりやすい種目だけだ」
逆に、最後の調教は“力”・“技”・“魔”の経験点が殆ど上がらない。
“調教”に極振りしたものとなっている。
「【調教着】を着て、一定時間過ごす。それだけ」
「【調教着】? それって――」
ヴァニラが何かを問おうとする前に。
その魔装具を取り上げた。
それは、【奴隷着】と殆ど同じデザインの衣服。
黒くテカテカとした、怪しい光沢を放つ。
身体にピタリと貼り付くような、特殊素材でできていた。
とても恥ずかしい見た目の長手袋、ニーハイブーツ、そしてハイレグである。
「あっ、うぅぅ……」
何かを察したというように可愛い声を上げ、ヴァニラは顔を赤くした。
羞恥心で一杯になり、思わず俺の手元から顔を背ける。
「……でも、ルミア達は皆、何かの調教、受けてるもんね。わたしだけ恥ずかしいって、逃げるのは格好悪い、よね」
俺に言うというよりも。
自分に何か、言い訳するかのように。
ヴァニラは口をモゴモゴさせながら。
【調教着】をそっと受け取る。
「……あの、ご主人。出来れば、着替えるところは見ないで、欲しいかな」
恥じらいをMAXににじませた、消え入るような声で。
ヴァニラは俺にお願いしたのだった。
「ああ」
後ろを向くと、衣擦れの音が聞こえてくる。
「うぅ~これ、凄くピチっとしてるね。それに凄く着づらい。んんっ~……」
ヴァニラほどの魅力的な美少女が間近で、同じ空間内で、一時的にせよ。
一糸まとわぬ姿になっていると想像すると、それだけで変な気分になってくる。
それを何とか耐え、しばらく待った。
「……これで、一定時間、耐えればいいんだよね?」
やがて、着替えが済んだらしい。
振り返ると、【調教着】に身を包んだヴァニラの姿があった。
【奴隷着】へ、強制的に着替えさせられた時のように。
大きな胸の形が丸見えで、ボディーラインまでハッキリわかってしまう。
キュッと引き締まった腰の割に、肉付きの良いお尻や太ももをしていることも。
すべてが視認できてしまう、とても恥ずかしい格好となっていた。
「……そうだな」
何とかヴァニラの問いに返答し、後はお互い沈黙する。
そうして何とも言えない空気を感じながらも、調教時間が過ぎるのを二人で待つのだった。




