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第20話 罠で追いやり、そして4人目の奴隷!!

仮キャンプに戻ってきた。

 他の奴隷テイマーはおらず、俺たちが1番に帰還したらしい。


 応援で来ていた買取り班の人たちに、早速テイムした3人の査定を頼む。



「流石はリュートさんですね。3人とも傷一つない、完璧なテイムです。そこそこやり手な魔術師のようですし、3人セットなら金貨90枚で買い取りますよ」


 

 お~!

 一人頭30枚で売れた。


【転移(トラップ)】に使ったスクロール代のことを考えても、完全に黒字である。


 これで心置きなく“怪盗ヴァニラ”の方へと集中できるな。



「――ただいま戻りました。……おや、先輩もお戻りでしたか」



 換金手続をしていると、ステラも無事に帰ってきた。


 長く綺麗な金髪をかき上げながら、何かに乗っている。

 四つん這いになり、ハイハイして進むあれは……人だ。

    

 

「どうかしましたか、先輩? ……あぁ~この“ブタ”ですか? 言ってたじゃないですか、【赤6】ですよ。何ら問題なくテイムできました」


 

 ステラが“豚”と称した、赤いシャツに身を包む男。

 その手首には奴隷紋と金のリングがあった。

 リングには鮮やかな赤い色で『6』と書いてある。

 


 ……本当に幹部の一人をテイムしてきたらしい。

 そしてステラには、傷一つ負っている様子はなかった。


 ドレス姿で優雅に脚を組む姿は余裕に満ちている。

 中の下着が見えてしまいそうでドキッとするくらいだ。


 そしてステラは、わざと俺に見せつけるように脚を組みかえる。

 とても魅惑的な光景だが、努めて意識しないようにした。 



「……そうか。それはおめでとさん」 

   

「フフッ、ありがとうございます。ただこの“豚”が中々情報を吐かないので、そっちの方が苦労しましたね。全く……んしょっ!」



 ステラは、あからさまにわざとらしくお尻を持ち上げる。

 そして座り位置を調整するようにして、勢いよく男の背中に腰を落とした。


 幹部の男の手と膝が、強く地面に擦れる。


 

「ぶひぃィっ!?」


 

 男が悲鳴のような声を上げた。

 ……豚の鳴き声を命令してんのかよ。



「フフッ。“豚”に、人間の言葉は必要ありませんからね」


 

 俺の考えを見透かしたように。

 ステラは異性がうっとりするような、とても魅力的な笑みを浮かべていた。


 ……いやいや、怖いって。

 

 そして幹部の男から飛び降りると、瞬く間に距離を詰められる。 

 ハイヒールでよくそんな機敏に動けるなと感心させられるほどだ。


 ステラはまた俺の耳元にそっと口を近づけると、異性の劣情を強く誘うようなとろける声でささやいてくる。

 

 

「……私を先輩の奴隷にしてくだされば、先輩のために幾らでもメスの声でいやらしく鳴きますよ? 先輩に支配されて、背中に座られて、家畜同然に乱暴な扱いをされてみたいです」


 

 この子は何でいつも他にはドSなのに、俺にだけドMみたいなこと言ってくるの……。   

 俺のこと何だと思ってんだ。



「あのな、ステラ――っ!?」



 だが、そこから先の言葉は中断される。

 


 ――仕掛けた【転移(トラップ)】の一つに、反応があったのだ。



◇ ◇ ◇ ◇



「悪いっ、ステラ。急用ができた」


「……そのようですね。頑張ってください、先輩」

   


 ステラもすぐに状況を察してくれた。

 優しく笑みを浮かべ、見守るように一歩後ずさる。



『…………』



【転移(トラップ)】近辺に設置していた【ダークアイ】。

“催眠機能”はない、“映像情報”を収集して俺に伝えてくれるVer.2の方だ。

 

 それが、現在進行形で【転移(トラップ)】の発動している状況を伝えてくれる。


 転移の魔法陣は確かに光っていた。

 ……だが【奴隷スレイヴ次元ディメンション】には、未だ誰も入っていない。


 起動した地点から少し離れた地面で、また【転移(トラップ)】が作動する。



『――クッ、またトラップ!?』  

       

 

 声がした!


ダークアイ】の映像では、人の姿はまったく見えない。 

 だが確かに、少女のような声が聞こえた。

 


『こっちにまで罠が!?』



 相変わらず声だけは聞こえる【ダークアイ】の映像情報。

 しかし【転移(トラップ)】は確実に発動を続けていた。

 ルミア達の方ではなく、俺が仕掛けた方にいるらしい。

 


 かなり意地悪く【転移(トラップ)】は配置してある。


 地面から跳躍すると、その逃げ場の空中にまた罠が仕掛けてあったり。

 あるいは直線上に5枚連続で設置していたりと。


 予想や経験で回避できないよう、パターン化は避けている。



『こん、なにっ! 罠が連続して発動する、なんて!? ……もしかして狙いは、わたしなの!?』 


 そしてその思惑は、見事に的中していた。

【転移(トラップ)】が立て続けに起動して、“怪盗ヴァニラ”は息つく暇もない様子。

 

 あちこちで光る魔法陣と、聞こえてくる声しか情報はない。

 だが少女の声に焦りが混じり始める。


 確実に追い詰めている実感があった。 

  

“怪盗ヴァニラ”無敗の秘訣ひけつが。

 俺も今正に体験しているように“視認できないこと”だとしたら――



「……勝てる」



 その確信がフツフツと湧いてくる。

   

  

『っ!? マズいっ――』  

   


 ――そして遂に回避が、【転移(トラップ)】の光に追いつかなかったようだ。



 魔法陣が完全に光り輝いた時。

 その中に一人、兎耳をした少女のシルエットが浮かび上がっていた。

  


◇ ◇ ◇ ◇



「っし! かかったぞ!」


 

 拳を握りしめ、思わず声を出していた。

 ルミア達から歓声が上がる。 



「本当ですかご主人様っ!?」


「やりましたねマスターさん!!」


「凄いです!」

  

 

 ベルとシルヴィーに至っては感情を表すように、その場で飛び跳ねて喜んでくれる。

 ……シルヴィーの胸も、上下に凄く弾んでいました。 


  

 

『――わたし、転移させられたんだね。……ここは、どこ? ダンジョンの中なのかな?』 

     


ダークアイ】からの映像が入る。

 しかもこれは【奴隷スレイヴ次元ディメンション】に設置されているものからだ。


 俺が生成した、限られた者しか入れない特別なダンジョン。

 そこには“一人の美少女”が映っていた。


 警戒心はそのままに。

 目元の仮面を外して、周囲の様子を注意深く窺っていた。  

 雪のように真っ白な髪も、首の振りに連動するようにサラサラと揺れている。


 頭頂部についた長い兎耳が、何かを探るようにピクピクと動いた。

 兎人族である。 


 

『……凄く嫌な感じがする。ここにずっといたら、多分マズい。早く脱出しないと』


 

 第六感でも働いているのか、【奴隷スレイヴ次元ディメンション】のヤバさをすぐに感じ取ったようだ。

 若干幼さの残る美しい顔が、途端に曇る。

 

 スラッとして背は高く、だが突き出た胸はシルヴィーにも劣らないほどの大きさだ。

 深くカットされたハイレグから伸びる脚も、凄く肉付きが良い。

 怪盗衣装も相まって、とても上品なセクシーさを感じる。

  


 そんな美少女は息継ぎを終えたというように、再び仮面を装着。

 スイッチが入ったみたいに、また雰囲気が“怪盗ヴァニラ”のそれになった。


 ――そして姿がすっと消えていく。



「……まっ、関係ないけどな」



 消えようが視認できなかろうが、もうどうでもいい。

奴隷スレイヴ次元ディメンション】に入れてしまえば、こっちのものである。


 小手調べにと、早速【テイムリング】を2個向かわせた。

 

  

『っ!! ……何か、来るっ!』

 

   

 すぐに【テイムリング】の襲来を感じ取ったらしい。

 物音を少しでも消そうとするように、“ヴァニラ”の声が聞こえなくなる。

 ……だが、それは無意味だ。



 目撃地点に、2個の【テイムリング】が到着する。

 そして何もない“ように見える”壁へ向かって、【テイムリング】が飛びついた。



『っ!? なっ、何で――』



 壁の背景が一瞬揺れ動き、ヴァニラが姿を現す。

 消えた場所でそのまま息を殺し、嵐が過ぎ去るのを待つように隠れ潜んでいたようだ。


 ベルに勝るとも劣らない動きで、【テイムリング】を上手く回避する。  

 そのままもう一度姿を消して逃走した。


 だが【テイムリング】は構わず追尾し続ける。



『どうして!? わたし、見えないはず――』



 また声が聞こえた。


 彼女の言う通り。

【テイムリング】たちはもちろん、ヴァニラの姿を視認は出来ていない。

だが【テイムリング】は、ヴァニラの“魔力”を追っているのである。  

   

 

奴隷スレイヴ次元ディメンション】へと同期シンクロするため、ヴァニラの“魔力”はたっぷり解析させてもらった。


【テイムリング】たちは余程の距離ができない限り、ずっとヴァニラの“魔力”を感知して追い続けるだろう。



『くっ、それっ、なら!!』



 ヴァニラが焦れたように、また姿を現す。

 そして刀身の細長い剣を抜き、目にも止まらぬ速さで切りつけた。


 鋭く、全く無駄のない動き。


 純粋な戦闘能力も、幹部という地位にふさわしいものだった。

【テイムリング】は急所を突かれたように、一撃で2個とも沈む。

 これは敵ながら流石だと言わざるを得ない。 



『よしっ、これで――』



 ――だが、甘い。



奴隷スレイヴ次元ディメンション】は、俺の庭だ。

【テイムリング】が、模擬戦での実験レベルと同じ質にとどまっているわけがない。



『えっ――』 


 

 真っ二つにされた2個の【テイムリング】が、ドロっと溶けた。

 まるで固体だった闇が、液体へと状態を変化させたように。

                  

 そして2個分の闇が混ざり合い、自らを害した“ヴァニラ”の腕へビチャっと飛びかかった。



『何ッ、これ!?』


 

 まるで闇の絵の具にベットリとひたしたように。

 ヴァニラの右腕は、真っ黒な闇に覆われていたのだった。


 ベルの【シャドウウルフ】を参考にしている。

奴隷スレイヴ次元ディメンション】内でだけ付加される、特別な効果だ。

 自らを倒した敵に、闇の魔力として絡みつく。  

 

 

『あっ、きゃっ――』



 ――そして2個分の闇は一定のダメージ蓄積となり、【奴隷スレイヴウェア】へと変化する。


 

 元々、ヴァニラの右腕には黒い長手袋が装備されていた。

 だが今右腕にあるのは、“怪盗”というモチーフで統一された上品なロンググローブなどではない。


 ただただ怪しくテカテカと光る【奴隷スレイヴウェア】だった。

 


◇ ◇ ◇ ◇



『んっ、んんっ~!! ……ダメ、これっ、全然外れないよ』


 

 未だ無事な左手で必死にはがそうとする。

 爪を立てて引っかくようにしてみたり、力任せに手首辺りから引っ張ってみたり。

 だがもちろん、【奴隷スレイヴウェア】はビクともしない。

 

   

「四肢・胴体のうち一つでも【奴隷スレイヴウェア】を着たら、もう後は時間の問題だ」


 

 それでも。

 念には念を入れて手は抜かない。

 

 すぐに特殊な転移ゲートを作成して、ルミア達を見た。



「これから【奴隷スレイヴ次元ディメンション】に向かってもらう。もう“怪盗ヴァニラ”の消えるトリックは無効化できたから、いつも通りに頼むな」 


「はい、お任せくださいご主人様!」



 ルミアに指揮を任せ、3人を【奴隷スレイヴ次元ディメンション】へと送り込む。


奴隷スレイヴ次元ディメンション】は本来、俺と奴隷たちしか入れない空間だ。

 今回は模擬戦とは違い、ルミア達が普通に“捕まえる側”へと加わるのである。


 

『――マスターさん、無事に到着しました。今から向かいます』



ダークアイ】を通して、ベルがこちらにメッセージをくれる。

 追加の【テイムリング】3個の内、1個をベルたちの先導役に回した。



『ついて行け、ってことですね! 了解です』



 正しく意図を読み取ってくれたらしい。

 視点をヴァニラの方へと切り替える。

  


『――またっ!? もうっ!!』


 

 新たな2個の【テイムリング】が、ヴァニラを見つける。

 ヴァニラがいつもやっているのか、反射的に透明化していた。



『あっ!? 嘘ッ、右腕が!』



 ――だが【奴隷スレイヴウェア】を装備した右腕だけが、透明になっていない。



 なので長手袋だけが宙に浮いているような、奇妙な光景が映っているのである。


 そして右腕が透明化できないならば、もうそれは実質“姿を消す”能力は無効化されたも同然だった。

 


『っ――』



 ヴァニラは仕方なしに透明化を解除。

 悔し気な顔をしながら走り出した。


 一度経験したため、【テイムリング】を攻撃するのはダメだとの判断らしい。


  

 この場面では、確かにそれが正しいのかもしれない。

 


 ……だが、もう。

 そんな極々小さな局面での一判断など、大局には影響しない段階にまで来ていると思えた。


 あとは“奴隷化”するのが早いか遅いかの違いだけである。



『見つけましたよ! ――【シャドウウルフ】!!』



 ベルたちが、ヴァニラの姿を視界に捉えた。

 すかさず影の狼を出現させて、ヴァニラへと襲い掛かる。


 

『別の追手が!? くっ、このダンジョンに転移させた人の配下か何かなの!?』



 ヴァニラは一瞬、【シャドウウルフ】の迎撃に躊躇ちゅうちょした。

【テイムリング】によるカウンターの件が頭を過ったのだろう。

 

 背が高い割にはとても身軽な動きで、狼の攻撃をヒラリとかわす。



『せぁぁっ!!』

   

『【アクアバレット】!!』


 

 だがベルとルミアが、休む暇を与えない。

 近接での攻撃に加え、遠距離から水の弾丸が次々と飛来する。

       

    

『くっ、はっ!!』



 しかしヴァニラは驚くべき身体能力を見せ、そのことごとくを回避してみせた。

 流石は幹部、しかもナンバー3なだけはある。


 

『――【ホーリーアロー】』!!


 

 だが三弾目は、そうもいかなかったようだ。

 怒涛どとうの攻撃で余裕を失っており、さらに3人の中で最速を誇るシルヴィーの魔法である。


 

『クッ!!』 


 

 すべてを避けきることはかなわない。

 光の矢の幾つかを、ヴァニラはその身体に受ける。


 速さを伸ばし威力を削った魔法とはいえ。

【テイム補助サポート】の効果で、確実に精神的・疲労ダメージを負っていた。



『あっ!? しまった――』



 さらに今までの3人の攻撃自体も、すべて目くらまし・囮だったかのように。

 2個の【テイムリング】が、回避する余裕のないヴァニラへと飛びついた。



 カチャカチャと音をさせ、左腕へ強制的に装着する。


 手首、そして二の腕周りに。

 怪しく光る金のリングが装備されていた。

 

 そして【テイムリング】を装備した者には、能力低下のデバフがかかる。

 

  

 ――さらに2個のデバフが重なると、それは一定のダメージ蓄積に達したとみなされてしまう。



 

『っ!! 左腕まで――』



 ヴァニラの左腕も【奴隷スレイヴウェア】へと強制着替えさせられたのだった。



◇ ◇ ◇ ◇


 両腕の【奴隷スレイヴウェア】化を確認し、さらに仕掛けることに。



「――【テイムロープ】!!」



 模擬戦時から、【奴隷スレイヴ次元ディメンション】はさらに発展をしてそのスペックを上げている。


奴隷スレイヴ次元ディメンション】内では。

奴隷スレイヴウェア】は、【テイムチェーン】だけでなく。

【テイムロープ】のマーキングポイントともなるのである。



 俺がどこにいても――たとえ、次元を別にしていても。

奴隷スレイヴウェア】を着てしまえば、もうそこは俺の絶好の的になるのだ。 



『なっ!? 腕から――』



 ヴァニラの両腕全部を埋め尽くすように。

 無数の魔法陣が発動する。

 

 そこから、魔力によってできた縄が勢いよく飛び出した。



『んっ、あっ――』



 そしてみるみる内に、ヴァニラの両腕を後ろ手に縛りあげた。

 ヴァニラから、甘く色っぽい声が漏れ出る。

         

 

『くっ、んんっ、んぁ、ほどけ、ない!?』



 肩や肘を動かして必死に縄の拘束から逃れようとする。

 だが魔力を封じられた両腕では、魔力の縄を千切ることはできなかったようだ。

 


「もっとも、その分テイム化も遅いけどな」  



 それが【テイムロープ】の良い所でもあり、悪い所でもある。

 対象を拘束する能力は高いのだが、奴隷化するための収縮が【テイムチェーン】に比べてかなり遅い。


 なので使い方が難しく玄人向けとされているのだ。


 

 ヴァニラはなおも【テイムロープ】の破壊を試みている。

 だが単に肩や肘などに連動して、大きな胸がダイナミックに動くだけだ。

 


『クッ――』



 そして諦めたかのように、ヴァニラはその場から撤退を始める。


 ただ逃げ足はとても速く、ベルたちからグングン距離が開いていく。

 流石は“怪盗”を自称するだけはあった。



「……だが、ただの悪あがきだな」 



 追加の【テイムリング】を3個投入。

 ヴァニラの逃げ道に先回りさせた。


 

『なっ!? くっ――』


 

 正面から迫りくる【テイムリング】を見て、ヴァニラはその美しい顔をさらにゆがませる。

 急いで反転し、元来た道を戻り始めた。



『はぁっ、はぁっ……』



 その表情には、明らかに強い焦燥感が浮かび上がっていた。

 両腕にはただただ恥ずかしいデザインの長手袋を装着され。

 さらにその上から縄で縛りあげられ、現在進行形でテイムが試行され続けている。

 

 強い不安と焦り、絶望感を覚えるには十分すぎる条件がそろっていた。



 ――そして【テイムリング】に先導されていたベルたちが追い付く。


  

『【ホーリーアロー】!!』 



 シルヴィーの【光魔法】はチクチクと、だが確実にダメージを与え続けていた。

 しかも脚を上手く狙っていたようで、ヴァニラは徐々にその逃げ足が重そうになっていく。


 

『挟み撃ち、なら――』



 ヴァニラは決死の覚悟でベルたちの方へと飛び込んだ。

 ベルの【シャドウウルフ】と相対する。

 

 

『せぁっ!!』



 ヴァニラは、何と。

 両腕を封じられながらも、脚だけで華麗な体術を披露してみせたのだ。

         

 影の狼を蹴り上げ、回し蹴り、踵を落とし、そして地面へと叩きつける。

 一発一発が正確で素早く、連撃への繋ぎも淀みない。


シャドウウルフ】を見事に倒してしまう。

 これは相手を褒めるしかない、素直に称賛できる一連の流れであった。



「――だが、まだ終わりじゃない」



シャドウウルフ】は死してなお、主人ベルのためにと動き出す。


 流体の影となった【シャドウウルフ】は、自らを蹴り殺したヴァニラの影へと狙いを定めた。

 そして鋭い槍状に変化して、その場へと縫い付けるように突き刺さる。



『んぁっ!? 嘘ッ、身体が――』 



 ヴァニラが、その場で硬直した。

 その隙を、【テイムリング】たちが見逃さない。


 ベルたちを先導していた1個も合流し、4個で一斉にヴァニラへと襲い掛かる。



 カチャカチャ。

 右の足首、太ももに1個ずつ。


 カチャカチャ。

 左の足首、太ももにも1個ずつ。


 

 両脚に【テイムリング】が2個、強制的に装着された。



 ――そして【奴隷スレイヴウェア】へとその姿を変える。


 

 ピチっと脚に貼り付くような、怪しい光沢を放つ黒のニーハイブーツだ。

 

       

「――【テイムロープ】!!」



 両脚を狙って再度、次元を隔てての【奴隷魔法】を発動。

 瞬く間に、ヴァニラの両脚は魔力縄で拘束されてしまう。



『んんっ、あっ、やっ、マズい、だめっ』



シャドウウルフ】の影縫い硬直からは回復したものの。

 ヴァニラはもう物理的に、身動きができない状態となっていた。



 その間に、さらに追加で送り出していた【テイムリング】3個も到着する。



『やっ、ダメっ、来ないでっ!』



 何とか逃げられないかと、ヴァニラは必死に身をよじる。

 だがその場から全く動いておらず、ただただ身体をくねらせただけに終わってしまった。        


【テイムリング】は無慈悲にも、その胴へと装着していく。 

 無抵抗で無防備なヴァニラは、あっさりと2つの【テイムリング】を装備されてしまった。


 

『あっ、やっ――』



 そして最後の砦までも【奴隷スレイヴウェア】化してしまう。

 もうそこに“怪盗”の姿をした、華麗で気品を感じる美少女はいない。

 

 ただただ恥ずかしいデザインの【奴隷スレイヴウェア】で全身を包んだ、無抵抗の“女”が寝転がされているだけである。



「――【テイムチェーン】!!」



 ヴァニラの全身から、魔力の鎖が飛び出してくる。

 縄で拘束された上から、さらに鎖がグルグルと縛り上げて行った。



『やっ、んぁっ、はぁっ、だめっ、んっ――』



 鎖の緊縛で、ヴァニラが色気ある吐息を漏らす。

 モゾモゾと最後の抵抗を試みるが、鎖はもちろん、縄も一切緩まない。



 やがて、鎖の収縮が終わった。



『んんっ、うぅ……』 



 ヴァニラが全てを悟ったように、全身から脱力する。


 

奴隷スレイヴウェア】から透かし通して見えるように。

 ヴァニラの手の甲には、奴隷紋が浮かび上がっていたのだった。


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