第19話 末端構成員を片付けよう!
準備のための時間はあっという間に過ぎ去った。
何とか【奴隷次元】の同期も済んでいる。
また、転移罠も完成したため、設置すべく現地に先入りした。
今回は町から比較的近い、廃鉱山の周辺が会合場所らしい。
だがもちろん。
ターゲットが集まる場所よりも離れた、予想される逃走経路へと罠を仕掛けていく。
「いいか? こうしてスクロール紙を開いて……」
ルミア達へと、設置の仕方を実演することに。
“起動罠”と“転移”の効果が記載された、魔法の紙を開封する。
魔法陣が書かれた方を下に向け、地面へ張り付けるようにして伏せた。
数秒後、設置場所に馴染んだことを確認し、そっとスクロール紙を外す。
地面に“転移”の魔法陣が一瞬浮かんだかと思うと、すぐに消えていった。
「……よしっ。今のが、罠の設置が完了した合図だ。これを約300個、外周上にグルっと全部仕掛けたい」
3人に1人50枚ずつ、スクロール紙を渡す。
周辺図を指さしながら行動を指示した。
「現在地が大体ここだ。俺が150枚分、ここからグルっと右回りに東、南へと設置していく。3人は左回りに西、そして南に向かうようにして仕掛けくれ」
「わかりました、お任せください」
リーダー役のルミアがしっかりと頷く。
それを見て、安心して送り出した。
「……さて。俺も行かないと」
一人で150枚設置しないといけないので、うかうか休んでいられない。
急いで出発する。
地面はもちろんのこと。
木の枝上や、空中などにも次々と【転移罠】を仕掛けていった。
この罠は“怪盗ヴァニラ”以外には起動しないという、特別機能付きの仕様である。
【奴隷次元】を同期する過程で、“怪盗ヴァニラだけ”が入れるようにしたことの副産物だ。
なので他の末端構成員や別の幹部が、設置場所に触れたとしても起動はしない。
誤消費の心配がないので、安心して大量に仕掛けられる。
狙うは“怪盗ヴァニラ”一本釣りだ。
そのためなら、スクロール約300枚など安いものである。
そうして何時間とかけて、ルミア達とともに下準備を終えたころ。
続々と他の奴隷テイマーたちがやってきたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「いいか? これは戦いだ! 生半可な気持ちで来てるやつは死ぬから、今すぐ帰れ!!」
リーダーの熱い演説が、奴隷テイマーたちの士気を高めいく。
もちろん、これで帰る奴などいない。
仮に帰ったら『何で帰るんだよ? バカ野郎が!!』って後で理不尽に怒られる奴だからだ。
ガノーは熱心に聞き入り、ステラはニコニコしながら俺に手を振ってくる。
あの二人の態度を、足して2で割ったらちょうど良さそうだなと思った。
「一人でも多くの犯罪者どもを奴隷化して来い。 ――行けっ!!」
リーダーの言葉で、奴隷テイマーたちが一斉に散っていく。
ここからは早い者勝ち。
ベテランも新人もない、競争の世界である。
「では先輩、私も失礼しますね。……行きましょうフウリ」
「はい、お嬢様」
ステラも腹心のフウリさんを従え、優雅に仮キャンプを離れていく。
肩なしの大胆なドレスにハイヒールを履いた姿は、とても今から戦いへと赴く姿には見えない。
だがそれがかえって戦場に咲く一輪の花のように映り、多くの奴隷テイマーの視線を集めていたのだった。
「俺たちも行くか」
「は、はい、ご主人様……」
ルミア達は無言で付いて来ながらも、どこかソワソワした様子だった。
ベルもシルヴィーも何かを気にするように、時折服の中をチラッと覗いている。
……中に着ている【奴隷装帯】が気になるのだろうか?
初めから服の中に装備させていれば、羞恥心も緩和するかという配慮である。
「うぅ~これ、肌に直に触れてて、変に意識しちゃいますね」
「はい。ワタシ、周りの人に見えてしまわないかって、ドキドキでした」
やはりそれが気になっているようで、コソコソと恥ずかしそうに確認しあっていた。
だが確かに。
今もルミア達が。
服の中に恥ずかしい装具を身に纏っていると想像するのは、凄く変な気分になる。
そう思うと、他の奴隷テイマーたちに気づかれなかったのはとても幸いだった。
特にステラに気づかれていたら、何を言われたか分かったもんじゃないからね……。
「さて……どうするかな」
既に下準備を終えている身としては、周りほど気は急いてない。
一方で“怪盗ヴァニラ”に狙いを定めてはいるものの、他の獲物が手に入るのであればそれに越したことはなかった。
そうした普段とあまり変わらない心持ちでいると、ベルが早速何かを感じ取る。
「――マスターさん。こっちに3人、かなり速いペースで駆けてきます。……これは逃げてきてますね」
頭頂部の狼耳をピクピクと反応させている。
鼻もすんすんと鳴らし、補充的にでも情報を得ようとしていた。
ベルの言葉で十中八九、今回の獲物たちだろうと判断。
すぐに戦闘できる態勢を整える。
ここら辺にも【転移罠】は設置しているが、起動した様子はない。
本命の“怪盗ヴァニラ”ではないだろうと直ぐあたりをつける。
そしてそれは、正しかった。
「――なっ!? ここにも奴隷テイマーがいやがったか!」
水色のローブを着た3人組が、息を切らして駆けて来た。
間違いなく【四色】の構成員である。
そして作戦会議で説明された情報によると、おそらく【青】のメンバーだろう。
「チッ、くそっ、【黄】のクソ野郎どもに嵌められたんだ!!」
「俺もおかしいと思ったんだよ、定期連絡会にナンバー2がわざわざ顔見せるなんて変だなって!!」
何やら盛大に愚痴を言い合っている。
内紛があるらしく、【四色】も一枚岩ではないらしい。
……まあ俺たちには関係ないけど。
「バカッ! そんなこと言ってる場合かっ、来るぞっ!」
先頭の長身男が二人をたしなめた。
中くらいの奴と低い男も、それに従うように愚痴を止める。
「そうだっ! これは逆にチャンスだぜ」
「ああ! こんな大ピンチで功績を上げたとなりゃ【色数字】への道も近づくってもんよ!!」
すぐ迎撃姿勢に移る素早さは、流石に普段から集団での戦い・荒事慣れしているだけはある。
……だが、それでもやはり脅威には感じなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「――【影狼】!!」
影でできた狼が生成される。
ベルの服の内にある【奴隷装帯】が怪しく光って、影の大きさが一回り増した。
ベルと共に、木々の間を疾走する。
「っ!?」
その速さに、構成員たちが驚いた顔をした。
慌てたように魔法を唱える。
「まっ、【魔法針】!!」
魔力の針が10本出現し、ベルへと飛来した。
だがベルはそのすべてを、余裕をもって回避する。
中くらいのと、背の低い男も続くようにして魔法を展開。
だがその悉くを、ベルは自慢の身体能力だけで避け切っていった。
『GRRRR!!』
「ぐぁっ――」
影の狼が唸り声をあげ、その鋭い爪で切り裂く。
長身の男が思わず声を上げた。
だがもちろん、ケガや外傷はない。
【テイム補助】の影響で。
ベルが使う【影狼】の攻撃も、精神的・疲労ダメージへと変換されていた。
……そして、それだけにとどまらず。
「なっ、身体が!?」
攻撃に成功した【影狼】の身体から、その影が一部分離し。
まるで縫い付けるように、長身構成員の影に突き刺さった。
すると精神的・疲労ダメージが極地に達していたというわけでもないのに。
長身の男は、まるで何かに縛られたように一瞬、身体が動かなくなっていたのだ。
すぐに影の縛りは解ける。
だがその僅かな時間で出来た隙は、あまりにも大きい。
「やあぁぁぁ!!」
ベルの拳が、長身構成員の腹を捉える。
「ぐぉっ――」
クリティカルな一撃は、長身の戦意を削り取るだけの精神的・疲労ダメージを与えたようだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「クッ、よくも――【魔法槍】!!」
仲間を戦闘不能にされ、残った二人が憤るように魔法を発動する。
魔力で形成された槍が地面から突き出し、【影狼】を串刺しにした。
流石の高威力を、しかも二人分浴びたとあって。
影の狼は耐えられず、形を保っていられなくなる。
……だが、ここからこそが【影狼】の本領発揮と言えた。
姿を失った流体の影が最後の一矢を報いるように、とどめを刺したチビな男へと向かっていく。
そしてその短い影へと突き刺さり、身体の動きを強く縛り上げた。
死してもなお敵を縛り付ける、とても厄介なカウンター型能力である。
「――【炎槍】!!」
そんな絶好の空白を、ルミアは見逃さない。
最も威力の高いLv.2の【火魔法】を、意趣返しのように発動する。
さらに服の内側の【奴隷装帯】が怪しく光って、赤い魔力が膨れ上がった。
燃え盛る炎の槍が、チビ構成員の身体を貫く。
火は全身へと移り、すべてを焼き尽くさんばかりに燃え盛った。
「あぁぁぁ!?」
……だがこれも【テイム補助】のおかげで、火傷などは一切ない。
代わりにその分だけとても大きな精神的・疲労ダメージが襲っていた。
まるで戦う意思すべてが焼かれてしまったかのような絶叫。
背の低い男も、戦闘不能となっていた。
「クソッ。悪く思うなよ二人とも――【小転移】!!」
残った中間の男が、形勢の圧倒的不利を悟ったように逃げる。
移動魔法を繰り返し使用し、5mほどの小規模な転移を連続して逃走した。
「逃がしませんよ――【光矢】!」
シルヴィーの服の内が、帯状に怪しく光る。
出現した光の矢が、一際大きくなった。
無数の矢が、今も逃げる男へ向けて飛んでいく。
「なっ!?」
光の矢は圧倒的な速さでその距離を縮め、次々と男の背へ突き刺さった。
【テイム補助】の力で、男はローブに傷一つさえついていない。
しかし眩く弾け、チクチクとした精神的・疲労ダメージを連続して受けていた。
「ナイスだシルヴィー――【テイム鎖】!!」
ダメージで【小転移】が使えない隙に、追いついてテイムを試みた。
鎖がローブの上からグルグルと巻き付いていく。
「ぐあっ! ――くっ!!」
拘束された男は、魔力を全身に行き渡らせて【テイム鎖】の破壊を試みる。
【光矢】自体は高威力の魔法というほどでもないので、抵抗されることに驚きはない。
何度目かの収縮で。
ミシっと、鎖にヒビが入る音がした。
流石は比較的に魔力が高く、魔法を主な戦闘手段とする【青】の構成員である。
破壊されても、何度でも【テイム鎖】を生成できる余力はあった。
だが“怪盗ヴァニラ”を前に、あまり消耗する戦いはしたくない。
「――ルミアっ!!」
事前に作り、渡しておいたテイム道具がいくつかあった。
そのうち、この場面に適する物を、ルミアに使用するよう頼む。
ルミアはただ名を呼んだだけで、すぐにそれを察してくれた。
黒い魔力の液体が入ったポーション瓶を取り出す。
そしてそれを、今にも破壊されそうな【テイム鎖】へと投げつけた。
【奴隷魔法】を使えない一般人でも使用できる、特殊なテイム道具である。
「はいっ! ――【テイムポーション】!」
ポーション瓶が割れ、黒い液体が魔力の鎖へとかかる。
するとひび割れが一時的に止まり、鎖はテイムの力を取り戻したかのようだった。
そして普段よりも、収縮のペースが若干早まる。
「なっ、ググッ――」
再び拘束力を取り戻した鎖に、男は歯を食いしばる。
もう一度破壊を試みるが、一時的に強化された鎖を壊すだけの力はもう残っていなかったらしい。
「クソッ、クソッ、クソッ!! 俺は、こんなところで、終わって、良い人間じゃねえんだ、クソがっ!!」
迫りくる敗北がチラついて仕方がないというように、男は悔し気な声を上げ始める。
やがて収縮は終わり。
その手首には、奴隷紋が浮かび上がっていたのだった。




