第18話 作戦を練ろう!!
「お邪魔します。へぇ~ここが先輩のお家なんですね! 素敵です」
ようやく家へと戻ってくる。
ついてきたステラが、物珍しそうにキョロキョロしていた。
「……あ~先輩の良い香りがします。すんすん、はぁ~先輩に包まれてる気がして、落ち着く」
やめろ、クンクンすんな。
可憐な乙女のやる仕草じゃねえから。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
ルミアがすぐに出迎えてくれた。
後ろのステラやフウリさんに気づき、視線で『お客様ですか?』と問うてくる。
「冒険者時代の後輩で、今は奴隷テイマーのステラだ。こっちは従者のフウリさん。3日後の“ハント”で一緒になるから、作戦会議の続きをすることになった」
「そうでしたか。――ご主人様の奴隷で、ルミアと申します」
丁寧で淀みないお辞儀。
元貴族令嬢のステラも、感心するような所作だったらしい。
ルミアはまた一礼し、飲み物を準備すべく台所へと向かった。
フウリさんもついていく。
「……フフッ。とても可愛らしい女の子でしたね。あまりに可愛すぎて嫉妬しちゃいます。……私も奴隷になれば、先輩に可愛がってもらえるのかしら?」
冗談とも本気ともつかない、こちらをからかうようなステラの態度。
反応するとステラを楽しませるだけと、無視を決め込む。
「……応接間でいいな? すぐそこだから、ついてきてくれ」
「あら、つれない。……でもそんな先輩も素敵。今から先輩の奴隷になった時のこと想像しちゃいます。――縛られて、目隠しされて、口枷もはめられちゃって。先輩におあずけされるのもゾクゾクしちゃいます」
あ~無視無視。
……でも無視も喜ばせちゃうんだよね。
コイツ、かねがね天才とは思ってたが、天才じゃなくて天災だったか。
「ふ~む……」
応接間に入って、対面に座る。
ステラも流石に真面目モードになった。
「――【黄2】は、今回は諦めた方がいいだろうな」
リーダーに貰った追加資料を検討すると、すぐにその結論に至った。
「ですね。正規の騎士や衛兵が何十人と返り討ちに遭っているんです。3日で対策を練ろうとするのは流石にリスクが高すぎるでしょう」
ステラと同意見に達してホッとする。
こういう場合、ステラは変に俺の顔色を窺ったりしない。
客観的な視点で物事を見れる子だ。
あっという間にAランク冒険者へ駆け上がった実力者の意見は、とても貴重である。
「――失礼します。お二人とも、お飲み物と軽い食事をお持ちしました」
ルミアとフウリさんが戻ってきた。
軽食も作ってくれたようで、果実水とサンドイッチがテーブルに置かれる。
「ありがとう、フウリ。ルミアさんも助かるわ。……あらっ。凄く飲みやすくて美味しい」
今のステラのリアクションは、お世辞でなく本当に美味いと感じたときのものだ。
流石はうちのシェフである。
褒めると、ルミアは嬉しそうに照れていた。
可愛い。
……何、ステラさん?
いじけた顔しても、君には何もないからね?
……それはそれで嬉しそうにするのもやめて欲しいんですけど。
◇ ◇ ◇ ◇
軽い空腹と喉の渇きを癒し、話し合いに没頭する。
「4人の中で一番格下のようですし、与しやすそうかしら? ――先輩、私は【赤6】をいただきますね」
「ああ、好きにしたらいい」
とは言いつつも、内心はちょっとホッとしていた。
獲物が被ると、当然早い者勝ちになる。
ルーキーとはいえ、ステラは確実にその枠にとどまらない実力を持っているはずだ。
競合にならなくて済むなら、それに越したことはない。
「俺は【白3】を狙おうと思ってるんだが」
ステラが教えてくれたため、こちらも一応ターゲットを伝えておく。
「【白3】? ……あ~“怪盗ヴァニラ”、ですね」
ステラは、該当の資料ページを素早くめくった。
まるで、もうどこに何の情報があるかを暗記しているようで、軽く驚かされる。
[【四色】 幹部資料]
●白3――怪盗ヴァニラについて
単独行動を好む、凄腕の盗賊。
貴族の屋敷や商人の家へと忍び込み、金品財宝を盗み出す。
盗んだものを換金しては貧しい者へと配る、義賊を自称。
必ず魔力で書いた自筆の犯行予告状を出すが、一度も捕まったことはない。
― ― ― ― ―
「その“予告状”の証拠品も幾つか添付されてるんですよね」
分厚めなページがあるので、それはすぐに分かった。
遺留品をまとめたページへと飛ぶと、確かに俺の資料にもいくつか“予告状”がある。
[予告状]
○○子爵が不正で得た、金銀財宝の山々。
わたしが一つ残らずいただきに参ります。
怪盗ヴァニラ
― ― ― ― ―
「そして予告はすべて実現された、と」
俺とステラの資料に添付されているだけでも、7つは予告状がある。
それらすべてを予告通り成し遂げたというのは、素直に凄い。
ステラも資料を読み込み、感心したように頷いている。
犯行を重ねるごとに警戒もより強まり、難易度は上がるはずなのに。
その種・仕掛けは、今もヒントすらわかっていないらしい。
純粋な強さという意味で手を引いた【黄2】とはまた別の意味で、手強そうだと感じる。
「……魔力の残滓・残りカスみたいなものは感じますね」
「怪盗ヴァニラが、自分の魔力で自筆しているらしいからな」
ただ当然だが、時間の経過とともに魔力は散逸してしまう。
今、予告状に残っているのはほんのわずかだ。
ここから何かきっかけを得るのは難しい。
――普通ならば。
「……先輩、とても素敵なお顔をされてますね。何か考えがおありで?」
ステラも、何かに見惚れるようなうっとりとした笑顔だった。
「ああ。――ステラの貰った分の“予告状”、俺にくれないか?」
◇ ◇ ◇ ◇
今度“ステラが欲しい服”をあげるという交換条件で、何とか“予告状”を手に入れた。
今、俺の手元には合計7つの紙きれがある。
その犯行文から何かを読み解くのは時間の無駄だ。
ステラが帰って、ルミア達が集まってくる。
「マスターさん、何してるんですか?」
ベルが尻尾をブンブン振って、興味津々に尋ねてくる。
……本当、身内しかいないとベルは元気だよね。
「これか? この紙きれから、わずかな魔力を抽出、取り出してるんだ」
予告状の文字に手を重ね、【闇魔法】を発動する。
【闇次元】の応用だ。
すべてを飲み込む闇が、紙に残った微かな魔力を吸引していく。
もう一滴も絞り出せないとなるまで、とことん“怪盗ヴァニラ”の魔力を吸い取った。
それを予告状7つ分、すべて行う。
「……うん。全部、同じ人間の魔力をしている」
どの魔力も、同一人物の感覚がした。
疑ってはなかったが、やはりすべて“怪盗ヴァニラ”が自分の魔力で書いているらしい。
「――今回のターゲット“怪盗ヴァニラ”は、【奴隷次元】へ誘い込む」
3人に、今回の作戦を伝える。
「【奴隷次元】――あの、ワタシたちが模擬戦で使っている簡易ダンジョン、ですよね」
シルヴィーの確認に頷く。
【テイム輪】の実験もかねて模擬戦を行った、生成ダンジョンである。
あれはいわば“俺の庭”だ。
シルヴィー曰く【固有魔法】・【固有結界】の類と呼べる空間らしい。
あの中へと転移させることができれば、ほぼ確実にテイムできる自信があった。
そうした『入ったら、奴隷になるまで出られない』という意味合いもあって【奴隷次元】という名になっている。
「でも、あそこってマスターさんと私たち――奴隷しか入れないんですよね? もうアップデート出来たんですか?」
ベルが痛いところを突いてきた。
確かに【奴隷次元】は俺と、奴隷しか今のところは入れない。
限定された条件でしか使えないからこそ、発動した場合には極めて高い力を発揮できるのだ。
なのでその枠を“たった一人分”拡大するだけでも、かなり大変な作業になる。
「“怪盗ヴァニラ”も入れるように同期する作業が、正にこれだ」
【奴隷次元】を発動し、転移のためのゲートを生成する。
ここに入れば、あの模擬戦をしたダンジョンへと移動できる。
紙きれから抽出した、“怪盗ヴァニラ”の魔力。
その集まりを、目の前にある転移ゲートへと流し込んでいく。
一滴一滴、気が長くなるほどのスローペースでだ。
【奴隷次元】が。
ダンジョンが。
魔力の水滴を堪能するように、とてもゆっくりと飲み込んでいるのが伝わってくる。
【奴隷次元】もダンジョンも生き物だ。
その体内に入れて良い人物の取捨選択をする。
“魔力”を少しずつでも口から与えていくことで、生き物が“これは無害だ”と本能的に覚えるように。
【奴隷次元】も、体内に入れていい人物の範囲を広げてくれるのである。
だが献上できる絶対量がそもそも少ないので、分析・同期する過程は物凄く遅かった。
ステラから追加の予告状を貰ってこうなのだから、これが今できる精一杯だと言える。
「……長丁場になりそうだから、3人とも先に休んでて良いぞ」
「ですが……」
「マスターさんが頑張ってるのに、私たちだけ休むってのも……」
「はい。何かワタシたちに、お手伝いできることはありませんか?」
だが誰も、部屋を出て行こうとしない。
俺を気遣ってということは明らかだった。
「……はぁ~。――じゃあ3人で罠作り、してくれるか?」
仕事を与えられ、一瞬で3人の顔が綻ぶ。
「ご主人様、どのような“罠”をお考えですか?」
「転移罠を作る。踏んだら【奴隷次元】に転移しちゃう奴」
それだけ言うと、すぐにルミアが察したらしい。
「わかりました。“踏むと発動する”魔法陣だけ、スクロール紙に描けばいいですね?」
「ああ。“転移の効果”を写すのは“同期”の過程が終わらないとできないから。……作業部屋に、スクロール紙は大量にあるはずだ。全部使っていい」
“全部”という発言に、ベルがとても驚いていた。
同時に興奮したように確認してくる。
「えっ、全部!? ま、マスターさん、本当にいいんですか!? 確か何百枚とあったはずですけど」
「ああ。全部使う。今度のターゲットは準備し尽くしてちょうどいいくらいだ」
許可すると、ベルは飛び出すように部屋を出て行った。
遊び道具を渡されたみたいな反応に、思わず苦笑する。
ルミアが、そんなベルを優しく見守るように追いかけていった。
「……シルヴィー。ああは言ったけど、俺も休み休みするつもりだから。3人も、適度に休んでくれよ? 結局3日後に動けなかったら意味ないからな」
「わかりました。ワタシとルミアちゃんでベルちゃんのこと、しっかり見ておきますね」
シルヴィーは心得たというように頷いて、2人の後を追う。
よし、俺も頑張ろう。
“怪盗ヴァニラ”……せいぜい今ある自由を楽しんでおくんだな。
◇ ◇ Another view ◇ ◇
とある隠れ家。
一人の美少女が、窓に腰掛け夜空を眺めていた。
「…………」
目元を覆う黒い仮面は、その美しい素顔を隠している。
黒いハイレグ衣装に身を包み、同色の燕尾マントが風で揺れた。
服は胸元にぽっかり穴が開いたような、とても大胆なデザインをしている。
そこから豊満な胸が突き出していた。
まるで人の、特に異性の視線を集めるためのような格好である。
太ももまで覆う漆黒のブーツは金のライン入りで、派手さの中にも品を感じる。
頭にかぶったオシャレなシルクハットからは、特徴的な二つの長耳が突き出していた。
一つのテーマをもとにした衣装だということが、一目でわかる出で立ちである。
「……今度の定期連絡会、何だか嫌な感じがする」
少女はそっと窓から離れる。
言葉にできない不安・不快感を振り払うように、グッと伸びをした。
その右手首にある金リングが、キラリと光る。
中央部に真っ白な字で『3』と書かれていた。
「でも大丈夫。……わたしは誰にも捕まらない。――“誰にも見えない”のだから」
――そして背景に溶け込むように、スッとその姿を消したのだった。
◇ ◇ Another view end ◇ ◇




