第16話 森の狼たちを退治しよう!!
【能力解放】も済み、準備万端で森へと進み入る。
戦闘を間近に控え、ここで【被調教○】を獲得した恩恵を与えておくことにした。
「――【奴隷装帯】!!」
【奴隷魔法】の一つを発動する。
【被調教○】を有している奴隷に対してのみ、使用可能な能力だ。
「あっ――」
ルミア達3人の全身に。
【奴隷着】のようなテカテカとした、黒く光る帯が装着される。
帯は胸の谷間・上下はもちろん、股下にも通っていた。
恥ずかしいデザインの装具に、3人は羞恥心を隠し切れない。
――だが同時に、ルミア達は身体に起こった異変をも感じたようだ。
「わっ、ご主人様! これ、凄いです! 力が溢れてきます!」
「ですです! おぉ~流石マスターさんの能力、パワーアップしているのがちゃんとわかりますよ!」
良かった、ちゃんと効果を実感してもらえているようである。
【奴隷装帯】は一定時間、奴隷の能力値を1.5倍に引き上げる向上スキルだ。
【奴隷着】と同じく“恥ずかしい見た目”ってのは、単なる副次的な機能の話。
メインはちゃんと能力強化なのである!
……【被調教○】を持ってない相手に使おうとすると、ただセクシーなボディーハーネスを着せるだけになるからね。
「んっ。ただ、ちょっと、んぁ、締め付けが、気になります、ね」
ルミアが恥じらい、時に甘い声を出しながら言う。
モゾモゾと身体を動かし、帯の位置をしきりに気にしていた。
ベルもシルヴィーも言葉にはしないが、同じように感じているのだろう。
……それは、まあ、我慢してください。
「――主様! フォレストウルフです!!」
シルヴィーがハッとして股下の帯から手を離し、木々の間を指さす。
そこには、討伐対象のフォレストウルフがいた。
森の中の自然に溶け込むように、茶色と黄緑色のグラデーションをした豊かな毛並み。
牛ほどもある大きな身体は、しなやかで無駄のない脚に支えられている。
だらりと開けた口からは、鋭い歯が覗いていた。
人や家畜を嚙み殺すには十分な凶悪さを感じさせる。
「GRRRRRR……」
その個体が、こちらを威嚇するように低い唸り声を上げる。
それを受け、俺たちがどう反応するか。
どう対処してくるか。
そういったことを見極めようとするためのアクションに見えた。
……偵察、かな?
「――なら早速だけど、お仲間を呼んでくれないかな? その方が手っ取り早いからさ」
「GRAAAAA!!」
全く動じないどころか、挑発してきた俺にキレたみたいに。
フォレストウルフが強く吠えた。
目も怒り狂ったように、俺を強く睨みつけてくる。
お~怖い怖い。
……でもいいの?
そんなに俺ばっかり見てたら、周り見えなくなるよ?
「――【水弾】!!」
ルミアが隙を狙うように【水魔法】を発動した。
それに呼応するように、ルミアの【奴隷装帯】が怪しく光る。
出現した水の弾丸を、黒い魔力が覆った。
するとすぐさま、その直径が一回りほど大きくなる。
「GYAOOON!?」
【水弾】の幾つかが、見事にフォレストウルフへ命中する。
水の塊が勢いよく弾け、モンスターの右目が潰れた。
それだけにとどまらず、頭から大量の水をかぶったようにずぶ濡れになる。
「GARRU――」
堪らず、フォレストウルフが逃げ出した。
細くしなやかな脚で地を蹴る力はとても強く、みるみる内に遠ざかっていく。
純粋に速いと感じた。
「申し訳ございません、ご主人様。仕留め損ないました」
ルミアの謝罪に、手を振って応じる。
「いや、むしろナイス判断だった。【水魔法】の選択も流石だ」
フォレストウルフが去っていった方向へと歩き始める。
その先には、水で湿った落ち葉や地面が点々と続いていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「流石に途中で気づいたか」
痕跡を追って5分とせず、地面の水気が途切れてしまう。
そこで身ぶるいでもしたのか、周辺に飛び散った水跡だけが残っていた。
「ご主人様、どうしましょう?」
ルミアが尋ねてくるが、少し返答を待った。
無言で耳を澄まし続けていると、集団が近づいてくる音がする。
微かだった足音が、次第にどんどん大きくなってきた。
「……どうやら、あちらさんから来てくれたみたいだ」
ほどなく、フォレストウルフの集団が姿を現した。
俺たちを取り囲むように布陣している。
20以上はいるだろうか。
「GRRRRR……」
その群れの後ろに控えるようにして。
あの逃がした個体の姿も見えた。
群れの威を借るようにして、こちらへ唸り声をあげている。
……それ、本格的に弱者の立ち居振る舞いだから。
他のフォレストウルフたちの品位を落としてやるなよ……。
「…………」
1体、一際風格を感じさせる個体が、ゆっくりと前へ進み出てくる。
こちらを品定めするように睨みつけてきた。
……コイツが村長の言っていた“フォレストウルフの長”だろう。
戦闘部隊を引き連れて、迎え撃ちに来たってわけか。
「熱い歓迎をありがとう、嬉しいぜ。……わかってると思うが、お前たちを討伐に来た」
俺も一歩前に進み、来訪の意図を告げる。
言葉が通じるとは全く思ってないが、戦闘前の儀礼的な行為としてやっておいた。
「GRAAA!!」
「GRRR,GRAAA!!」
他のフォレストウルフたちが、反発するように吠えてくる。
大きな身体で、何体ものモンスターが合わせるように吠える光景は、中々に威圧的だ。
だが当然無視して、リーダーの個体だけを見続ける。
「お前たちはやりすぎた。被害を出し過ぎたんだよ。だから俺たちが来た。……まあ言ってもわからんだろうが、そういうわけだ」
「GRRRR……」
リーダー個体が、低く唸る。
まるで戦闘が避けられないことを悟ったみたいに。
特に俺を見て、強く何かを感じたみたいに見える。
それは逆に言えば“俺たちとは戦いたくなかった”と嘆いているみたいにも映った。
……“群れの長”という立場上、劣勢を感じていても戦わないといけないってわけか。
他の個体と異なり吠えて威嚇することもせず、冷静に状況を判断できている。
だが“長”足り得る能力を備えていて、なおモンスターとしての性には抗えないらしい。
……悲しいねぇ。
「せめてもの情けだ。全力で捻りつぶしてやる――【闇壁】」
◇ ◇ ◇ ◇
半円状の闇が一瞬にして広がった。
この場にいるすべての者を閉じ込める、闇の壁が出来上がる。
ここから、一匹たりとも逃がしてやらない。
「GRRRR!? GRY――」
フォレストウルフの1体が、本能的な危険を感じたというように。
闇の中から外へ出ようとして、【闇壁】へと突撃。
「GRRR――」
だが当たったそばから、障壁に弾かれたみたいに跳ね返ってしまう。
そして闇に触れた部分が、黒い炎に包まれたようにどんどん消し炭へと変わっていった。
一部始終を見ていた他のフォレストウルフは。
恐れを抱いたというように【闇壁】からジリジリと距離を取る。
「あ~あ。若い命を無駄に散らして」
そしてその壁を出現させた俺からも、モンスターたちは離れたくなったらしい。
そんな反応されるとショック~。
辛くて涙出てくるわー。
ルミア達が真似したらどうするの、えぇ?
だが唯一“長”だけは、群れを守るように動かなかった。
一挙手一投足を見逃すまいと、瞬き一つせず俺だけを睨みつけてくる。
俺をその場へ釘付けにできれば、何とか勝機が出てくるのではと願うかのようにも映った。
……それは俺を過大評価しすぎ。
――同時に“ルミア達”を舐めすぎ。
「――【影狼】!!」
ベルの凛とした声が聞こえた。
同時にベルの【奴隷装帯】が怪しく光る。
ベルの影から、1体の狼が生成された。
影でできたウルフは全身真っ黒で、顔を持たない。
そのフォレストウルフよりも一回り小さかった【影狼】に、黒い魔力が上乗せされる。
するとフォレストウルフと同程度の大きさまで巨大化し、さらに強度も硬度も増したように見えた。
「行きますっ――」
『GRRR!!』
ベルが駆けだすと同時に、【影狼】も唸り声をあげて疾走を始める。
「GRAAAA!!」
フォレストウルフが2体、ベルの迎撃に出た。
『GRAAA!!』
挟み撃ちするように飛び出た左右の内、右の個体を【影狼】が体で止める。
【影狼】はまるでベルと意思が通じ合っているかのように、ベルの動きに連動していた。
ベルが動きやすいよう一定の距離を保ったり、あるいは死角からの攻撃を防いだり。
ベルの戦闘を大きくサポートするよう動いていたのだ。
「GR,GRAAAA!!」
だが3体目が加勢に来てしまう。
途中から1対2となり、【影狼】はやがて劣勢を強いられる。
そして遂にはその身体に、フォレストウルフの強靭な歯が届いてしまった。
液体がその姿を保てなくなったみたいに、魔力がグシュッと潰れて飛び出る。
――その影だったものが、自らを倒したフォレストウルフの影へと移った。
そしてまるで影がその場へと縫い付けられたかのように。
一瞬の間、動きが止まったのだ。
「――せあっ!!」
その隙を、ベルはもちろん見逃さない。
戦っていた別の個体を一時無視して反転。
【影狼】だった影に縛られた個体を、威力ある拳で貫いたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「――【光矢】!!」
シルヴィーの力強い声も届いてくる。
同時に、シルヴィーの【奴隷装帯】が怪しく光った。
光の魔力が、無数の矢を形成する。
シルヴィーは“魔力値”が決して高くない。
そんなシルヴィーが作る【光矢】は、通常の矢よりも一回りほど小さかった。
だが黒い魔力が上乗せされると、光の矢が一段階大きくなる。
そうして普通の矢と遜色ない大きさをした、【光矢】が無数に出来上がったのだ。
「行きなさい!!」
シルヴィーの声に応えたように。
無数の光が放たれた。
光は目に留まらぬ速さで、音もなく飛んでいく。
“速い”と感じたフォレストウルフが、全く避けられない。
ほぼほぼ必中の魔法となっていた。
次々とその身体に光の矢を受けて、バタバタと数を減らしていく。
大きさを増した矢は、威力も十分らしかった。
「――GRAAA!!」
そしてそれを見て、シルヴィーを脅威と判断した個体が動く。
敵の視界から逃れるように大回りして、シルヴィーへと襲い掛かった。
「――【土壁】!!」
だがそれを、ルミアが見逃さない。
【土魔法】でできた壁が、黒い魔力ですぐさま高く、分厚くなる。
フォレストウルフは避けられず衝突して、自身に大きなダメージを負っていた。
「やぁぁっ!!」
そしてそれを、手の空いたベルが追い打ちする。
逃すことなく確実に仕留めていた。
「……残るはお前だけになったな」
最後に残ってしまった“長”の個体へ、語り掛ける。
フォレストウルフはここに至って、感情を全く表さない。
俺たちへの恨みや、怒りさえも感じさせない。
「GRRRR――」
だがそれでも。
何かを覚悟したようにゆっくりと動き出した。
その姿、生き様はいっそ清々しさ、カッコよさすら感じさせる。
「――GRAAAAAAA!!」
フォレストウルフが駆けだした。
何かを誘発しようとするかのように、フォレストウルフは俺ではなくルミア達を狙う。
……コイツ、絶対に知能あるだろ。
「あばよ――【闇穴】」
フォレストウルフの足元に。
底なしの闇が、突如として口を開けた。
フォレストウルフは抗うことなく、そこへと落ちていく。
闇に飲まれ、すぐにその姿は見えなくなったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「いや、本当、大助かりでしたわ! これ、報酬とは別に受け取ってください。ほんの気持ちみたいなもんです」
村へ報告に戻ると、村長が大層喜んでくれた。
フォレストウルフに相当頭を悩まされていたらしい。
ありがたく硬貨数枚を受け取り、村を立つ支度を進めた。
「ほいっ。村長からお礼の一部だってさ」
貰ったお金を、ルミア達に手渡す。
3人とも頑張ったので、臨時のお小遣いだ。
「わぁっ、ありがとうございます、ご主人様!!」
「おぉ~! やりましたね、シルヴィーさん!」
「はいっ!」
皆、お小遣いを喜んでくれていた。
癒される光景を見て、一人目元を緩める。
帰り際。
Eランクパーティーの若者たちから“一緒に町へと戻りませんか?”と誘われる。
……もちろん適当言って、先に帰りましたけど何か?
“ルミア達と、少しでも一緒の時間を過ごしたい”という下心が丸見え過ぎる。
もうちょっと紳士・謙虚になっててくれたら考えたのに。
「私ですか? そうですね……ちょっと、大胆なお洋服でも買ってみたいな、と」
「へぇ~ルミアさんにしては思い切りますね。……私はもちろん、屋台で買い食いに使います!!」
お小遣いの使い道を、楽し気に話し合っている。
口を挟まず、そんな3人を優しく見守っていた。
「ワタシは……ワタシも。シスター服以外で、普段着る服を見てみたいですね」
「えぇ~! そ、そんな。それじゃ私が、何だか仲間外れみたいじゃないですか! ……し、仕方ないですね。マスターさんのためとかじゃないですけど、私も、少しは服代に残しておきますかね」
巷で聞く“クーデレ”みたいなノリのベルを、ルミアとシルヴィーがクスクス笑う。
何でもないありふれた、でも大事な光景だ。
……フォレストウルフの“長”をふと思う。
アイツもアイツで、自分なりの“日常”を守ろうとしていたのだろうか。
俺も、一歩間違えれば同じ目に遭うかもしれない。
その場合、物を言うのはやはり“力”だ。
「? どうかしましたか、ご主人様?」
自分たちを見る俺に気づき、ルミアが可愛らしく小首を傾げていた。
「いや……何でもない」
この大事な日常を守るため。
改めてもっと強くならないとと、自分に誓ったのだった。




